『ただ真っ白な空間。そこには、あなたとゲストが数人。そしてお互いの身体には爆弾
がついています。さて、あなたがもっとも気になっているであろう脱出の方法ですが、
今回は一つだけです。
私が持っているこの二つの起爆スイッチ。これを押したら終了します。
ええ、勿論一つはあなたを爆発するスイッチで、もう一つはゲスト達を爆発させる
スイッチです。
ここで、あなたへの質問です』
『あなたは彼等を殺して助かりたいですか? それとも自ら死を選んで彼等を助けますか?』
目が覚めるなり、バカげたことを言い放ったクソ野郎。
自分を殺すか相手を殺すかだと!? そんなこと選べるはずがない。
死ぬ程の痛み。それを感じるのも嫌だし、彼等を殺すのも嫌だ。
『ほんとあなたは我儘ですね』
「うるせぇよ。お前には関係ないだろ!」
勝手にこんな状況を作りやがって、お前だけには我儘とか言われたくねぇよ。
『前回も言ったような気がしますが……彼等はあなたにとって何の関係も無い人間ですよ。
そんな人間を助ける必要がどこにありますか? いいじゃないですか。この先、彼等に会う
事は二度とないのですから』
「だけど、それでも――」
見知らぬ、二度と会う事のない人達でも……殺すなんて事はしたくはない。
『だけど。それでも……ですか。そんな言葉が通じるのは子供のうちだけですよ』
「ぐ……っ」
『ですが、あなたのその迷いは実に正しい反応ですよ』
「何なんだよお前は! さっきから言ってる事がメチャクチャなんだよ!」
『ふふ……そうでしょうね。私はただ単に、あなたを迷わせたい。それだけなんですから』
「悪趣味な奴だ」
『褒め言葉として受け取っておきましょう』
――チッ! それにしてもこの状況。どうすればいいんだ?
俺に与えられた情報は二つ。
一つは二つの爆弾とスイッチ。もう一つは、それのどちらかを押せば終わるという事。
しかし、それは俺か彼等。どちらかを殺すということだ。
彼等を殺す……俺にそんな事が出来るのか?
ただスイッチを押すだけ。それだけとはいえ、俺のせいで人が死んでしまう。そんな事に
耐えられるだろうか? 目の前で弾け飛ぶ彼等の姿を見る事は出来るだろうか?
……いや、出来ない。
俺にそんな非情な事なんて出来ない。俺に人を殺す事なんて――
『ふふ。あなたの今の考えを当ててあげましょうか?』
「あ?」
『人を殺すのはよくない。人殺しは罪だ。そう考えているのでしょう?』
「当たり前だろ! 大体、普通の人間に殺しを要求すること自体が間違っている!」
『なるほど。ですが、この世界はあなたの知っている世界ではありません。簡単に言って
しまえば、夢の中の住人みたいなものです。そんな存在のあやふやな彼等を殺した所で
罪になるのでしょうかね? 殺してもあなたは自分の世界に戻るだけ、誰もあなたが人を
殺したなんて知りもしないし、知られる事もない。でしたら、別に彼等を殺しても問題
はないのでは?』
「…………」
夢の中の住人。本来の世界には存在していない人達。
確かにそれなら殺してもいい……のか?
『まぁ、とは言っても彼等の世界で言えば、あなたは人殺しという扱いになるんですけどね』
「な――っ!?」
『あなたと関係ない世界の住人とはいえ、彼等にだって生活があります。生きて存在している
のです。ですから、この世界では人殺しという事になるのですよ』
こ、コイツ……さっきから色々言いやがって。
ほんとに俺の反応を見て楽しんでいるだけかよ。
『さぁ、選びましょう。彼等を殺すのか、それともあなた自身を殺すのか』
「お、俺は――」