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2『The Dark Side Of The Moon』

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 結論から言うと、私に才能は無かった。賞賛もされず、叩かれもされず、私の書いた小説はただそこにあるだけだった。渇いた無視と無関心。私が新都社から与えられたのはそれだけだった。

 私は新都社に小説を投稿した。

 今まで誰かに読ませようとは一度も考えなかったし、考え付きもしなかった。そもそも書いているという事実さえ胸の奧深くに封印していた私だ。確かに一度は気の迷いもあった。だが一度だけだ。

 ならば、なぜ? それは、……あは! 要するに私は怖くなったのだ。暗い部屋に充満する淀んだ空気が、日中ふいに目覚めると聞こえる子供達の笑い声が、怖くなったのだ。このままでは、世界になにひとつ傷跡を残すことなく朽ちていくのではないか。死について考えると気が狂いそうだった。忘れ去られて消えていくこと。それが怖くなったのだ。

 新都社との邂逅、記念すべきファースト・コンタクトを果たしたのは、そんな時期のことだった。『週刊少年VIP』も『月刊コミックニート』も目に入らなかった。
 そうだな、『ニートノベル』にしようか。
 なによりもまず真っ先にそう思った。勇み、書きためていた長編の一部、原稿用紙にして約十枚分をアップロードした。

 結果は先程に記した通りである。

 なにがいけなかったのか、それは知らない。ただ駄目だった。

 私は他の小説群を読みあさった。どれも駄作だ。そう断じた。だが現実を見ろ。私の小説、私そのものの結晶が、その駄作に負けている……?

 ――価値とは何でしょう。生きる意味はあるのでしょうか。

 自問自答は迷宮であり、ラビリンスの奥地には怪物が住まう。

 ――曰く「皆無」なり、と。

 死にたくはなかった。生きていたかった。だが、「死んでいないこと」と「生きていること」、この二つには大きな違い、断絶があった。それが私を蝕んだ。

 見えない狂気の色が濃くなっていく。その病んだ感触だけがあった。他にはなにもなかった。薄いピンクだったそれは、茶色になり、オレンジになり、ついに。

 視界の端に赤い髪がひらめいた。
 それを私は見た。見たのだ。
5

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