ひとつめ。アンドロイドの女の子には、自我が芽生え、人間の仲間になる
パパから言われたことは一つだけ。
たくさん、敵を殺しなさい。
*
私はできそこないだ。
敵の人間を殺すために生まれた "機械人形" でありながら、人を殺すことがヘタクソだ。私の姉さまたちは、一度に多くの敵兵を、圧倒的な火力で粉々にしたけれど、私はせいぜい刃物で首を刎ねたり、心臓をえぐったり、銃で頭を狙い打ち、脳しょうをバラ撒いてやるのがやっとだった。
「やーくたたずの、でっきそこない♪ たっくさん敵をこっろせない♪」
歌いながら銃の引き金を引く。タラララランと綺麗な音がして、二人の敵兵士の頭が吹き飛ぶ。目玉がぴゅるっと飛んだ。
「きる・ぜむ・おーる! きる・ぜむ・おーるぅっ!!」
次弾を装弾。それ逃げろ。
できそこないでも全力で駆ければ、人間よりも多少はやい。くずれおちた都市の瓦礫をすり抜け、飛び越え、隠れつつ相手の死角に回り、
「ばん!」
狙撃する。こめかみから入った銃弾は、まっすぐ頭蓋骨を貫通した。
同時に遠くで、巨大な火柱があがる。
天から降り注ぐ星のキラメキのように、広範囲に散布される爆薬が大量に投下されて、ぴかーって光る。
「きれーい」
私も姉さまたちのように、シールドを展開し、チャフを交えて華麗に空を飛び交い、三十連射のロケット砲なんかが打てればよかったのだけど、できそこないの私にそんな能力はない。そして姉さまたちも、けっして無敵ではない。
「あっ!」
空を飛んでいた姉さまの一人が、よろけた。
地上からの一斉掃射と、そして敵側の "機械人形" の攻撃に晒されて、シールドが剥がされていく。瞬間にまっかな鮮血が拡散して、バラバラになった。見ていたら胸がウズウズした。
「よぉしっ! 私もいっぱい、殺すぞぉっ!」
超火力の姉さまたちが優先的に破壊されていくなかで、私は生き残り続けていた。
「やーくたたずの、でっきそこない♪ じーみにコツコツいきてますぅ」
タララ、タラララ、タララララン。
毎日大忙しだ。休憩する暇なんてなかった。弾を避けたり、補充したり、撃って殺したりしながら、地味に生きた。
ときどき、もう嫌だな、やめちゃおっかなと思うことがある。だけど私たち "機械人形" の頭の中には、爆弾が詰まっているから逃げられない。
「ちくたく、ちくたくぅ♪」
信管が鳴る。
敵に捕まったり、指定された距離を越えれば、自動で爆発する優れものだった。遠隔操作で一発起動もできるらしい。
そんなわけで今日も戦争をしていると、空中全域に不気味なノイズが響き渡った。暗号通信じゃなさそうだと思ったら、
「はへ?」
いきなり銃火が止んだ。普段は空を飛び回って、爆弾を数万発も落とす姉さまたちも地上に降り立った。私は一番近くにいた姉さまに駆けよった。
「ねーさま! ねーさま! 戦争が終わったんですかぁー?」
「いいえ。今日は神様の日です」
姉さまの一人が素っ気無く言って、ぺたんと地面の上に座りこんだ。
「カミサマのヒ? なんですか、それ?」
「神様が人間を創造した日です。この世界に共通する休日です。だから戦争もおやすみです。明日からまた戦争です」
「じゃあ! 今日一日、私と遊んでくださいよっ!」
「拒否します。エネルギーの補給が優先です」
姉さまは、きゅぃぃ……と静かな音を立てて目を閉じた。あちこちから同じような音が聞こえる。私はできそこないなので、眠る必要がない。
「ちぇ、ひまー」
戦争がないと、やることが無い。そのとき、ぴんぽんっと閃いた。
「ちょいと失敬しますよー♪」
人間の隊長さんだった人から、まだまだ綺麗なアーミーナイフを頂いた。それを持って姉さまのもとに戻る。頭の人口頭皮にぶっ刺す。
「チョキチョキ♪」
ずぷっ、ずぷっ。ぬぢゅっ、
じゅっ、ぶづゅっ。
ぐぢゅ、じゅ、じゅ、ぐぢゃぁ。
頭蓋骨をパカッと開くと、脳髄に詰まった味噌と、黒い石のような塊が見えてくる。
「姉さまの爆弾、みーつけた♪」
機械交じりの脳みそコネコネ。とても楽しい。私はやっぱり、地味で細々とした作業の方が向いていると思う。たくさんの配線や記憶チップを探り、脳みそに張り付いた爆弾を、コチョコチョ弄ってみた。
姉さまは起きない。今日に限っては、プロテクトも最低レベルに落としてあるらしい。
(人間ってよくわかんないね)
もともとは、その神様が違う違わないので、戦争をはじめたと思ったんだけど。まぁそんなことよりも、爆弾だ。
「ここかなぁ? やっぱりこっちかな」
解除できるかもしれない。詳しい仕組みまでは分からなかったから、繋がった虹色のような配線を勘に任せて切ってみた。
「ぎゅ! ぎゅギgyあっ!?」
あん、やらかした。
いきなりスイッチが入ったように、ぐるんぐるん目を回して、あかんべーってする。
「あ、あ、あっ、げ、べ、ぐぎゅ、がが、がびゅ、、び、い」
いろんなところから血を吹いた。
もうちょっと弄ってみる。
「ごめん姉さま。もう少し頑張って。いい子だからね」
「が!、ぎゃ!げげぎゃ!、ばく、は、ば!くは!、ああ!!」
「これかなぁ」
ぷつん。
最後に青い配線を切ったら、爆弾は止まった。
「うん。だいたい分かった」
私は立ち上がり、地雷がみっしり撒かれた中を避けつつ歩いてく。自動機銃もお休みだ。弾丸は一発も飛んでこない。
「敵姉さま発見!」
敵の "機械人形" も姉さまたちと似たような外見だ。みんなとっても綺麗で同じ顔をしている。私だけがブサイクだ。
「よいしょ」
ナイフを突きこんで、ぐりぐり開く。
思った通りだった。中身の技術もほとんど変わらない。
「ふん、ふん、ふふん♪ でっきそこない、でっきそこない♪」
地味で細々とした仕事が楽しくてたまらない。戦争が終わったら、お医者さんになるのも悪くないかも。
解体する時間は半分で終わって、私は次の姉さまを探す。
*
私たちの国は、とても仲良しです。
今では一つの国でありますが、もともとは、二つにわかれていたという話です。鏡合わせのようにそっくりで、建国以来ずっと仲が良かったといわれています。だけどある日、突然に戦争がはじまったのです。
「そう! みなさんもご存知の "機械人形" と呼ばれる恐ろしい兵器!
それがいっせいに攻めてきたからなのですっ!
やつらはざんぎゃくで、我々を、みなごろしにしようとしました!
黒い石を空から投げつけ! 私たちは解放されたなどとつぶやき!
知性あふれる私たちに! ようしゃなく攻撃してきたのです!
私たち二つの国は仲が良かったので、手を取り合いました!
機械人形に対抗すべく、愛と平和を信じ、ゆうかんに戦ったのです!
さぁ、みなさんも、我らが祖先のように、戦いましょう!
そして今こそ、念願の祖国をとりもどしましょう!!」
私が手をあげて強く張り叫ぶと、集まっていた民衆が沸いた。
両手を挙げて、私の名前を呼ぶ。
地下世界の低い天井がビリビリ揺れて、少し崩れた。
私が多少つぶやいたところで、連中の耳に、声は届きはしないだろう。
「でっきそこない、でっきそこない♪」
歌う私を見て、誰かが涙を流しつつ、両手を合わせて目を閉じた。
誰に、なにを、祈っているのか。
そういえば今日は、カミサマのヒだった。