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ちょっと静かにプリーズ。撃ち殺してやるからフリーズ

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あなたにとってギターとは?と訊かれて
「死んだ木」
と残したのはニルバーナのカート・コベイン。

ロックスターとしては名言だが僕はやはり木は生きた素材だと思う。
別に魂が宿るなんて言うつもりはないが。
楽器にとって木は大事な要因の一つなのは確かだよ。


「御茶ノ水に行こう」

「…練習しようよ」


ふれくされながらもちゃんとついてきてくれる君のことは好きだよ。


・・・・・・・・・・・・・


地下鉄丸の内線御茶ノ水駅、
もしくはJR御茶ノ水駅を降りるとそこは世界屈指の楽器街。
多くの音楽ファンと学生たちで連日賑わっている。
人ごみで歩きにくいのが難点だがね。

神保町方面へ歩いていく。やがてすぐ中古楽器屋の前で足を止めるだろう。
店の外に一万円くらいの数々の楽器が飾られ一目で楽器屋と分かる。
…コンディションが気になるところだ。


「この店は燃えるゴミ同然の安い楽器から高級楽器まで揃ってる。中古エフェクターも掘り出し物があったりして僕は毎回立ち寄るよ。楽器や機材は見てるだけで楽しめるからね」

「(あ、ミュージックマンのベース…欲しい…)」


別にバンドマンは必ずしも高い楽器を買う必要なんてない。
バンドを組まずに一人でやりたいならフォトジェニックやプレイテックだっていい。携帯代程度で買えるし飽きたらインテリアにもなる。
初心者なら3万円も出せばそれなりの音は出せる。既にバンドを組んでいる人は中古で5万以上、新品なら10万以上出してフェンダージャパンやエピフォンやヒストリーあたりに手を出したくなるかもしれない。ライブを重ねてくうちに音の違いを実感してローンで20万円レベルの楽器を買う人もいるだろう。


何にせよ。
楽器選びなんて自分の欲しいデザインと財布との相談でいい。
音なんてある程度自分で作れるから。
その音が上等かそうでないかの違いはあるが、逆に言えばそれくらいの差しかない。


「君はどのギターの音が好きだい?」

中古ベースに魅入ってる彼女に僕は聞いた。

「そうね。音だけならやはりギブソンのレスポールカスタムかしら。パワーが強すぎて音が歪んでるやつじゃなくて、ピックアップをセイモアダンカンのセスラバーにしたのなんてのが好き。枯れた音がとってもクールよ」

「なるほど」

「重量約5kgは重いし、ネックが折れ易いのが難点だけどね」

「なるほど」


ふと、壁にかかっているギターに僕は目を向けた。


「僕はこいつが好きだな。フェンダー・ジャガー」

「デザインは好きよ。素敵なフォルムだと思うわ」

「ニルバーナの影響もあると言えばあるが、やはりこのデザインはライブでも映えるよな」

「音は万能型ではないけどね。高音が特徴的で好きよ」


アイバニーズにシェクター。
音と弾き心地は最高のファック。
だがロック式は僕には少々面倒だ。


「やっぱこれかな」


手に取ったのはスダンドに置かれていた
フェンダージャパン・テレキャスター…の一番安い奴、中古で約5万。


「テレキャスね」

「そう…世界で初めて販売されたエレキ・ソリッドボディギターさ」

「初めては『ブロードキャスター』って言ってなかったっけ?」

「確かにフェンダーが最初に販売したのはブロードキャスター(Broadcaster)だ。だけど既にグレッチ社がBroadkasterというスネアドラムを商標登録していたから、ブロードキャスターは『ノーキャスター』に名前を変えることになったんだ」

「名前が無いからノーなんて洒落がきいてるわね」

「その後すぐに今の『テレキャスター』を名前を変えた。つまり、テレキャスターこそが最初のエレキ・ソリッドボディーギターってことさ」

「なーるほど」


いつも呆れ顔しかしない彼女が珍しく感心してる。
彼女も楽器に囲まれて内心テンションが上がっているのかもしれない。


「すいません、ちょっとこれ試奏したんですが…」


店員を呼ぶ。
気になったら気楽に呼べばいい。
彼らは喜んでチューニングを始めてくれる。
…商談が始まると少々めんどくさくはあるれけど。


「これ、弾いてみてくれ」

「私?」

「…ギター、弾けないんだ。人目につくなか素人の腕を披露するなんてロックすぎて他の客が失神しちまうからな」

「ふ・・・」


初心者がギターを買うときは経験者を連れてくるといい。
だが決してどれを選ぶかなんて聞かなくていい。
欲しいものは自分で決める。
それを弾いてもらってコンディションがどうかだけを聞け。
そんでこれだ!というものが見つかったら帰って寝る。
起きて、学校に行って、3日経って。
それでも欲しかったら購入だ。
その間に売り切れてたらそれはそれで運命。


彼女の弦が月のように揺れる。
聞いたことのないメロディーが響く。
アドリブというもので、これが出来ると楽器屋でカッコいいと思ってしまう。


2分ほどだろうか、彼女が白い指を止める。


「・・・どうだい?」

「…値段の割に悪くはないわ。フレットも残ってるしネックも曲がってないわ」

「なるほど。…よし、今日はもう帰ろう」

「いいの?」

「うん」


僕らは楽器店を後にした。


「また今度見に来る気?売れちゃうかもよ」

「いや、そんなことしないよ」

「・・・?」

「どちみち、財布には1000円しかないからね」

「・・・・・」


こんなことは日常茶飯事。

だって僕らはアナルファックピストルズ。
最低にグランジなロックバンド。

oh yeah アナルファックピストルズ。


凛と咲いて。
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