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押さザル

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 アルファ氏は久しぶりに、友人の博士を訪ねた。どうやら新しい発明品が完成したらしい。
 研究所に行くと、そこには大きな鉄の扉があった。人を感知して開く仕組みだ。扉の前に立つと、開いていく扉の間から、博士と小さなサルのようなものが見えた。
「やあ、これはこれはアルファ君。久しぶりだね。ざっと3年ぶりじゃあないかね」
「そういえば、そうかもしれませんね。ところで、発明品とはなんです。そのサルですか」
「そうだ。コイツは精巧に作られたロボットでね。名前は押さザルというんだ。例えば私がこの警報スイッチを押そうとするだろう。すると…」
 博士がそう言いながらスイッチに近づくと、そのサルは必死で博士の腕にしがみ付き、オスナ、オスナと喋った。そして、離そうとしない。
「どうだい、凄いだろう。このサルはスイッチを押すのをとどめ、離れない。材質はプラスチックを使っているから、しがみ付かれても痛くはないが…」
「力は相当かかると」
「うむ。力づくで離すのは、無理だろう」
「じゃあ離すのはどうするんです」
「この鼻がスイッチになっていて、これを押すと離れていくのさ。ほら、離れた」
 アルファ氏は最初は感心した様子だった。でもしばらくすると、気付いたように言った。
「何に使うのです。これでは何につけてもしがみ付いてきて、うっとうしいだけではないですか」
 確かにそうなのだ。これではテレビのリモコンすら、押せないだろう。
「そうだな、例えば金庫の前に置いておくだろう。そうすれば空き巣が入っても、電子番号の入力ボタンを押せない。先日これで、一人捕まえてやった」

 研究所から帰ってきたアルファ氏の腕には、三体の押さザルがかかえられていた。
「こいつを金庫室に置いとけばいいんだな。最近は給料袋が厚くなったから金庫の扉も三重にしたが、どうも心配だったのだ」
 アルファ氏は喜んで、それを三つの金庫扉の前に座らせておいた。妻も安心ね、と微笑んだ。
 そしてその夜、家族が食事を楽しんでいる頃、オスナ、オスナという声が聞こえ、アルファ氏は走った。獲物がかかったらしい。
 どうやら金庫室の二つの扉は穴を開けられ、サルは起動しなかったようだった。しかし最後の扉で、どろぼうがボタンを押そうとしたらしい。
 アルファ氏にはサルを腕につけながら走る男が見えた。そしてすぐさま警報ボタンを押そうとしたが、残ったサルにオスナ、オスナとしがみ付かれ、何も出来ない。
 アルファ氏がサルの鼻を押したとき、もうどろぼうは大きな袋を抱えて逃げてしまっていた。
 そして妻が、あきれた様にささやいた。
「これだったら、普通の猿の方がまだよかったんじゃ…」
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