春は欲情
冬の間に
一人でどうにか作り上げた
針の山みたいな孤独の城を
春は平然と蹴散らして殺す。
一番冷たかったはずのものを
とてもやすやすと
そんなものなかったみたいに塗り替えていく
生まれ変わるという残酷を
当然の顔でやってのけて
あたたかいようにしているので
胸が躍れば躍るほど
春先は寒い。
逃げ込む城もなくて
ときめきをこらえきれなくて
むしろ喜び持って冬を殺す
私という傲慢な存在を
はっきり知るのはちょうどこの時期、
私は何もかもを殺して生き延びることに
高揚を覚える生き物なのだと。
*
美しく混乱した三月が終わって
予感を湛えた四月が走ってくる。
きらめきを
恐れたくなくて
美しいもので心をいっぱいにする遊戯に
成功しつづけていたくって
脳味噌の隙間に花の茎をたくさん差しては
君のたましいに吹く風の音を聴きたくて
春、春、春、
情欲に溢れかえりすぎていて
困る、困る、困る。
*
未来が踊る、
ステップ踏んでる
足音立てて
地響き起こして
ろくでもなくリズムも崩れて
少しも洗練されてなくて
みんなが笑うような
まるで構成もなくて
音楽さえ鳴らなくて
汗はかくしよだれは出るし
きれいな衣装も持ち合わせてないし
みっともないまま
それでも私が意識手放したなら
いつの間にか空気と溶け込んでいる
きれいきれい、
海はやわらかく青く空は和んでいて
花たちはあまりにやさしく無防備で
小さな生き物たちが呼吸と代謝をやめず繰り返し
細胞は弾けて死に吹き飛んでいく
そういう祈りの全部を
春の風は内側に含ませて
季節をやすやすと塗り替えていく
ふと目を向けると
あらゆるものが祝福していた
優しさを真に受けて
進まずには居られない私たちのことを。