朦朧吐息
やさしい声を出したい気分、
ぞんぶんに味わってるふたり、
甘さを装うけだるい麻痺、
じかんのシロップ漬け、
なんてメルヘンじゃなくて、
ただもう蔦みたいにして効率悪く這ってって
音とか時間とかなくなって心臓切り開いて釘付けされる
あのひかりみちる真空にたどりつきたいだけ
いちばん甘い跳躍が欲しくて
お互いを利用してるの
私がいないときは平気で鋭い目をするんでしょ、
私だって文字の塊の前ではあなたを平気で失くしている
でもそういうの好き。
いちばんつめたい平面であつくなって
予定調和だって予定通り飲み込んで
とりとめのないあざといありふれた会話重ねてつくる
脆い脆いはしごと不安定なカンテラ
共有の秘密、
影含んだきらめきと熱風。
*
さぐるの?
さぐって
痛いとこ、
黒いとこ。
見たいの?
見せたくない
見せたげる、
ちょっとだけ開いて。
怖いの?
焦がれてる、
興奮してる?
集中してる。
引っ張って、そこ、
孤独の芯、
真っ黒でとろとろでずぶずぶって糸引いて
変なにおいと火傷すれすれの灼熱感
私が見たければこじ開けて。
軽蔑しない?って
何度も訊いた
誘うのも拒むのも
曝すのも隠すのも
どちらも私
両方探って、
両方見て、
両方焦がれて、
両方さわって、
私をここに根付かせて。
*
一人で平気、
なんて嘘だ
時々すごく
怖くて寂しい。
取引したい。
駆引きしたい。
仮初めとわかっていながら
「確かなもの」をつくりたい。
平和を嫌って非日常を望んでいたい。
世界の端っこがめくれているのを見つけたらすぐ
目をそらしてしまわないと
私の輪郭が
溶けてしまう、
ほどけてしまう。
せっかくこんなに懸命に
ほころびを補強して
仕組みを検分して構造をあらためて
花や森や空や海や動物達にすこし頼って
気持ちの底をちょっとずつさらって
泥をかき出して
見失っては拾い上げて
諦めては選びなおして
手放しては捕まえて
うんざりしてはそっと撫でて
抱きしめるふりを繰り返して
どうにか
どうにか生きようとしてても
人間が怖い。
隠そうとして、カバーをかけた
きれいに染めて刺繍もして
幾重にも幾重にもくるんでおいた
灯りを消して、音楽のない
誰も見つけない暗がりに置いた
小さな虫さえ溶けて吸われるような
ねっとりとした闇色の空気に
よどませておいた
誰も誰も触らないように。
でも私たちはきっと、
ほどかれたいから隠すのだ。
開かれ続けて、
暴かれ続けて、
吹きすさぶ風でまっさらに流されて、
その先で残っているひと握りの何かを
見つめてみたい、
ちょっとずつ指先でほじくってみたい、
うずうずしてる、
もどかしくて泣きそう、
白くやわらかな幼虫みたいに
あちこちに糸を吐きかけては
夢も見ない瞳で探した
なくなってしまう誰かの影を。