01.ゴミクズふたたび
水橋が教室を出て行った。椅子と机と女子で作られた環から、物欲しげな視線がその背中を追っていくのを、俺は窓際の席から眺めていた。獲物が廊下に消えると、女子どもは何事もなかったかのようにポッキー片手にゆうべのドラマの感想会を続けている。水橋に幼馴染あがりの彼女がいるというのは有名な話だというのに、あきらめの悪いやつらだ。ひょっとするとにっくき彼女というものが、生まれつき病弱でいまも入院しているので、棚から牡丹餅を狙っているのかもしれない。悪気はないのだろう。しかしやっていることも考えていることもハイエナと同じだ。俺はストレスで凝り固まった首をぐりぐりと回した。せっかくの昼休みが女どものせいで台無しである。
「牧くん、ねむそだね?」
俺の対面に座った真藤が言う。
「一日十二時間は眠らなきゃ具合悪いってわかってるなら、早く寝ればいいのに……」
「うるせえなあ。おまえは俺の母親かよ」
真藤は目をぱちくりさせて、
「え、違うけど……」とズレた返しをよこした。思わずため息が出る。そんなだからクラスの環からハブかれて、流れに流れ俺のところなんぞに打ち上げられる羽目になるんだ。
いつもそうなんだ。どういうわけか、子どもの頃から俺の周りには孤立しているやつらが集まってくる。俺がいいやつだったなら、それをあてにしてやってくるのだろうと思うところだが、残念ながら俺はなかなかのクズだ。誰かがいじめられたり、傷つけられたりしていても、なにも感じない。それが自分に関わることならば徹底抗戦する構えだが、そうでなければどうでもいい。
だから、真藤にしろ、いままでも連中にしろ、俺を頼ってくるのはおかしなことなのだ。いや、もしかするとそこのあたりの審美眼が狂ってるから他人と同調するのがへたくそなのかもしれない。
「おい真藤、おまえちょっと眼科いってこい」
「また急に突然だねえ」
真藤は猫みたいに微笑んだ。
「でもだいじょぶだよ、視力はどっちも2.0だから。あ、それともあれかな。流行のおしゃれ眼鏡かな?」
「馬鹿が」
眼鏡なんぞかけてもかけなくても変わらん。
指で丸を作ってそれを目に当て教室を見回し始めた馬鹿をスルーし、俺は三階の窓から校庭を見下ろした。入学したての一年生どもがバスケットボールに興じている。それを見ているだけで胃の少し上あたりがむかむかしてくる。俺は生まれつき身体が弱く、少し動くだけで息切れしてしまう。だから健康な身体を見ると嫉妬で殺してやりたくなるんだ。いつもなら捻挫でもすればいいと思う程度で許してやっているが、今日は容赦しない。どいつもこいつも切れ痔になりやがれ。
そんな邪念を飛ばしていると、犬走りを水橋が歩いてきた。花壇に水を撒いている用務員のおっさんと一言二言話してなにやら二人ともへらへら笑っている。連中の声は聞こえないが内容はわかる。今日が晴れているって話だ。それだけ。
なぜ俺がそれを察知できるかというと、俺と水橋が幼馴染だからだ。もう十年来の付き合いになる。幼稚園で俺があいつを泣かせたことが縁になって、不思議と切れそうで切れない関係が今も続いている。
俺の幼馴染は、他人と天気の話だけで仲良くなれる。
俺はそれが、気に喰わない。
水橋はその後もすれ違うたびに生徒や教師と立ち話をしていった。昼休みがそんなくだらんことで終わっても水橋は気にしない。なぜならやつは早退するからだ。中身がなさすぎてデコボコになった紺色のスクール鞄を左肩から下げて、茶髪頭が俺の眼下を正門へ向かって動いていく。堂々と早退しているのに教師は誰も止めようとはしない。なぜか。
水橋がいま付き合っている彼女は、新木律という。さっきも少し話に出たが、こいつが病弱で、しかも身寄りがいないので、入院費等を水橋が出してやっているのである。水橋は夜勤のバイトを週四で入れ、ほぼ眠らずに毎朝学校に来て、ちゃんと成績も落とさず、しかも時間が空けば所属している軽音部に顔を出すか、律の病室に見舞いにいくかだ。その努力に感動したうちの担任の矢木が「水橋くん自由登下校制」なるものを導入して水橋はいつでも好きなときに帰れるようになった。教育者としてそういう差別はどうかと思う、と俺が教員室に直談判にいくと、矢木はため息をついて、
「あのな牧、自分よりすごいやつにジェラシーを感じるのはおまえぐらいの歳なら誰でもそうなんだ。変なことじゃない。でも、自分だけがそうじゃないってこと、知っておけよ?」
そういって矢木は、きらっと白い歯を見せてぐいっと親指を立てて見せた。
その時の俺はよく野郎を殴らなかったものだと思う。
俺が言いたかったのはそういうことじゃない。ないが、じゃあ嫉妬と何が違うのか、といわれれば、俺に言えるのは「絶対に違う」ということだけだ。残念ながら人間という生き物は小賢しいことに口下手を信用したりはしない。だから俺は矢木に「仕方のない子」として扱われ、通知表にも「人を思いやる気持ちを育てましょう」と書かれる羽目になった。人を思いやってカネになるならそうするがな。
水橋の茶髪が正門から出て行った。それを見て俺は、彼女が病気でも髪を茶色くするヒマはあるんだな、と冷めた思いを抱く。染髪する時間があったら、一分一秒でも彼女のそばにいてやりたいと思うものじゃないのか? もちろんそう言えばあいつはこう答えるだろう。いつも面会時間ってわけじゃないから、と。
それがやっぱり俺には、どうしても、気に喰わない。
俺があいつだったら、きっとそう言われて、言葉を返さないと思う。だってそれは真実だから。そこには絶対、妥協があったはずだから。
だから、天地が入れ替わっても、本当のことに言い返せるわけがないんだ。
それが誇りというものだと俺は思う。が、どうもあたりを見回して、その古臭い代物をまだ持っているやつは、いそうもない。どいつもこいつも外からどう見えるかばかり気にして、中身がハリボテだろうとお構いなしだ。なのにその空白を指摘すると、さもこちらが狂っているかのように振舞う。誤魔化しきれば自分たちが真になると思っていやがる。
俺は教室に詰め込まれている幼い人間たちを見て思う。
てめえら全員、地獄へ落ちろ。
授業が終わってまっすぐ教室から出ると、下駄箱で真藤が追いついてきた。今日も巻くことはできなかった。残念だ。
「そんな嫌そうな顔しないでよ。一緒に帰ろ?」
「いい」
「いいって……あ、ほら外見て。ぽつぽつ降ってきてる。牧くん傘ないでしょ?」
「いい」
「もお」真藤は腰に手を当ててぷうっと頬を膨らませる。「子どもじゃないんだし、いったい何を恥ずかしがってるの?」
俺は痛むこめかみを揉んだ。
「じゃあおまえは、俺と相合傘をして帰るつもりなのか? それが恥ずかしくないっていうのか?」
「うん……」真藤はちらっと不安そうに笑った。
「変、かな? やめといた方がいい?」
「……。好きにしろよ」
俺の言葉に、真藤はぱあっと顔を明るくさせて、「そうする!」と元気よく答えた。いったいそのエネルギーはどこから湧いてくるのだろう。真藤は毎朝自分で弁当を作って持ってきているが、やはりあの色とりどりの野菜に入っているミネラルとビタミンのなせる業なのだろうか。俺の愛する焼きそばパンは化学の前に屈服するしかないのか、そう思うと目頭が熱くなった。美味いが不味いに勝てないなんておかしいよ。
真藤は俺をいぶかしげに見た。
「どしたの。おなか痛いの? でも牧くんち歩いて十分でしょ。我慢して帰っちゃいなよ」
ぱっと真藤が水玉の傘を広げて、ガラス扉の向こうから俺を手招きしてきた。真藤の傘に落ちた雨粒がぽつぽつとやる気のない音を立てている。このぐらいなら無視して帰れるのに。
「だめだよ、身体弱いんだから。熱出しても知らないからね」
こいつは俺の何様なんだろう。そろそろ一発殴って誰が上なのか教えておいてやらなくちゃいけないかもしれん。俺は「こいつには攻撃されまい」と安心している人間の表情とか態度がこの世で一番嫌いなのだ。俺が常に敵に回ることを想定している人間としか、俺は意見を交わす気になれない。
正門を出たあたりでちょうどよく凹んだアスファルトに水溜りができていた。
「それでね、ぼく思うんだけど、やっぱりエアコンの中にはゴキブリがいると思うんだ。だって絶対――」
この能天気なクラスメイトを、あの灰色の水たまりに突き飛ばしたら、こいつはどんな顔をするだろうか。十七にもなって泣くだろうか。それとも怒るだろうか。怒るならどんな風に怒るんだろう。顔を真っ赤にして怒鳴ってくるか、それとも夢から覚めたように無口になって、それきり二度と俺に話しかけてこなくなるか。後者なら、俺の昼休みが静かにはなる。
「――牧くん」
「あん」
「知ってる?」
何をだよ。
真藤は立ち止まって、住宅地が続く狭い路地を指差した。
「おととい、向こうの坂の上で、お屋敷が全焼したんだって」
その屋敷のことなら知っていた。確か俺が小学校に入る頃、山を切り崩して段差上に作った住宅地のてっぺんにあった洋館のことだろう。周囲から浮きまくっていて、そこだけファンタジーな世界が出現していて笑えた。あんな風に正門があって庭があって窓に黒いカーテンをいつも張ってある家に住めるのは頭のおめでたい金持ちなんだろうと俺は密かに軽蔑していた。
「そうか、燃えちまったか。あっはっは」
「ちょっ、牧くん! 駄目だよ笑ったりしちゃ」
「なんで」
真藤は顔を伏せて、
「――住んでたおばあちゃん、亡くなったんだって。一人暮らしだったみたい」
「へえ」
「へえ、って……だから、笑ったりしちゃ駄目なの。わかるよね」
「なんで」
真藤は顔を伏せて、
「――住んでたおばあちゃん、亡く」
「ちょっと待てそれはわかった」
危ない危ない。あやうくRPGのエンドレス会話に突入するところだった。真藤め、小賢しい真似を覚えやがって。
真藤はムッと顔をしかめて言う。
「じゃあなんでなんでとか言うの? 不謹慎だよ」
「悪かったな。俺は不謹慎な人間なんだ」
「そういう問題じゃないよ。モラルの問題だよ」
したり顔で言っているが、どうせこいつはモラルを和訳してみろと言ってもおたおたするだけだろう。覚えた言葉をすぐ使いたがりやがって、むかつくぜ。
「モラルだかなんだかしらねえが、どこで誰が死のうと俺に関係あるかよ。しかもババァだと? へっ、年金が他の有意義なことに回せていいじゃねえか。あの焼けた屋敷だって建て直して安値で売れば素敵なおうちを探してる幸せな一家が越してくるかもしれねえぜ? もっと未来を見ようぜ、未来を」
「牧くん……それ本気で言ってる? ねえ、本気で言ってるの?」
「本気だよ」
俺は真藤を睨んだ。傘の下で、真藤の茶色い瞳に、俺の恐ろしい顔が映っていた。
「人間なんざてめえのことだけで精一杯な生き物なんだ。死んだら死んだで、それっきりのこと。もう取り返しなんてつかねえんだからさ、前を向いて歩こうって言ったんだよ。俺、なんか間違ってっか?」
真藤は俺の語気に怯んだらしかった。何か言いかえそうと頑張ってはいるのだが、恐怖が喉につかえて声が出てこない。俺は傘を持った真藤の胸を押し、雨足を強めた空の下に出た。
「牧くん……」
「おまえんち、向こうだろ。じゃあな」
俺はさっさと庭先の門を開けて、玄関から家の中に滑り込んだ。逃げるように見えたかもしれない。
実に心外だ。
家に帰ると伯父が死んでいた。キッチンカーペットに横倒しに倒れていたので、冷蔵庫を開けて麦茶を取ろうとしたら踏んでしまった。麦茶をグラスに注いで一気に飲み干してから、一応、脈などを確かめてみた。無駄だった。伯父の胸から包丁が生えていた。これで生きていられても対処に困るというか、たぶんかえって笑っちゃう。生命力ってレベルじゃねえよ。
伯父は俺を残して蒸発した両親の母方の兄貴だ。主に経済面で俺を援助してくれた。牧一門の中では大手企業の重役ということもあって、子どもの一人くらいぽぽんと養えるだろう、と周りに突っつかれて渋々引き取ってくれたらしい。おかげで俺はほとんど一人での暮らしを長い間楽しませてもらった。愛、というものはたぶんもらえなかったが、それまで要求するのは酷だろう。伯父はよく、おまえには資本的価値がない、と言ってきた。その通りだと俺も思う。俺はカネにならない。見返りを渡せない以上、たぶん愛とかいうものももらえなくて当然だ
。
俺はヤンキー座りをして、伯父の死体を検分した。雰囲気を出すためにゴム手袋までつけた。が、死体に触りたくなかったのであまり意味はなかった。
包丁は胸を一突きしていたが、うちのものだった。そして伯父の服には、抵抗の痕跡というか、もみ合ったような形跡があった。ベストはしわくちゃになってボタンが弾け飛んでいるし、服の袖が肘のあたりで破けていた。あたりを見回せば、キッチンテーブルの上に乗せてあったものがいくつか転がり落ちている。箸立てとかトースターとかだ。
どうやら伯父は泥棒に殺されたらしい。このあたりは日中は人気がない。おそらくそこを狙ってやってきた泥棒と運悪く鉢合わせしたのだ。泥棒は、殺人する意思はなかったかもしれない。むしろ伯父の方が逆上して包丁を掴んだ可能性がある。伯父は包丁が入れてある戸棚のそばで倒れていた。そこから包丁を抜き取り、自分をびっくりさせた泥棒に衝動的に挑みかかって返り討ちにされたのだろう。通報されていないのは、悲鳴をあげることも助けを呼ぶこともプライド上できず、叫ぶヒマもなく胸を一突きにされてくたばったのだろう。大人にはよくあること。
一通りの事情がわかると落ち着いた。それまでは、胸の中でなにかざわざわしていたのだが、それが今はさわさわぐらいになっている。俺も案外、伯父の死にショックを感じているのだろうか。
ないか。
ゴム手袋を外して流しに放り投げ、腕時計を見て、通報するまでちょっと散歩にいこうと思った。ウォーキングは俺ができる唯一の運動だ。学校から帰ると、俺はだいたい夕暮れあたりまで町をぶらつく。伯父が死んだからといって、その日課を反故にする理由にはならない。
空は灰色を通り越して鉛色だった。時々ごろごろと不機嫌そうに唸る。そんな空の下で傘を差して歩いていると避雷針になったような気がする。俺がいまここで死ぬと伯父の発見はかなり遅れることになるだろう。腐敗は免れまい。できれば死なずに戻ってやりたいものだが、それは雷様の決めることだ。
それにしても、伯父はなぜ俺の家にやってきたのだろう。伯父は普段、品川の方の高級マンションに住んでいて、俺に貸し与えた木造二階建てのボロ屋なんて犬小屋ぐらいにしか思っておらず、俺の記憶上、二年に一回正月に様子を見に来るだけのはずだった。いまは五月の半ば。しかも今年の正月も伯父は顔を見せていたから、次に会うのは二年後のはずだったのだが、意外な再会になったものだ。ひょっとすると、今年の正月に部屋を覗かれたとき、壁に穴を開けているのがバレてしこたま怒られたのだが、それを口実に俺をどこかに移そうとしていたのかもしれない。もっと金のかからない安アパートとか。電話でも一本入れてくれればウンと言って引っ越してやったのに、伯父も間の悪いときにやってきたものだ。まァ五十くんだりまで大手企業の重要ポストについて人を顎でこき使い、ブラック・マージンで豪遊しまくって過ごしてこれたのだから、殺されたとはいえ大往生といってもよかろう。
伯父の死について考えていたからか、それとも死と死は呼び合う性質でもあるのか、俺がうつむけていた顔をあげてみると、そこはくだんの焼けた洋館だった。黄色いテープが張られ、いまは誰もいないようだ。ここ最近は突発的な雨が多いので、本格的に低気圧が去ってから瓦礫等の撤去作業に入るのかもしれない。死人の後始末で死人を出しているのでは世話ない。
立ち止まって、傘を少し持ち上げて、くんくんとあたりのにおいを嗅いでみる。若干焦げ臭い気もするが、ほとんどわからない。人の肉の焼けたにおいでもするかと思ったが、そんなものはとっくのとうに雨が流し終えたらしい。別に嗅ぎたかったわけでもないので気にしない。
あたりを伺ってみる。晴れていれば野次馬もいたのかもしれないが、すでに近くで大雨洪水警報が出されいつ本格的な嵐になるかわからないところにやってくる物好きもいないようだった。俺は黒い炭の塊が転がった焼け跡を見渡す。
入ってみるか。
別に何かを期待していたわけではない。死体はすでに搬送されたはずだし、金目のものを見つけてもさばき方に困るだけ。ただ、俺は、やってはいけないことに惹かれるというちょっとアブない悪癖があって、そのときもこう思ったのだ。
水橋ならここに入っていったりはしないんだろうな、と。
矢木の言うことも少しは的を射ていたのかもしれない。俺はあいつに対抗意識をまったく持っていないとは、言い切れなかった。
ローファーで瓦礫を蹴飛ばしながら、えっちらおっちら廃墟を進む。なんだか雪山を行軍しているような気分である。うっかり木片など踏もうものなら割れて足を取られて歩きづらいことこの上ない。驚くべきか、火事があったにも関わらずゴキブリは元気にかさそこと瓦礫を這いずり回っていた。宇宙でも生きるというからその生命力には頭が下がる。
おおよそ敷地を一周して、特になにもないことがわかった。まァ強盗殺人がひっそりと行われた町なので、なにか残っていたとしても火事場泥棒があらかた全部持っていってしまったのかもしれない。
雨足も強くなってきた。そろそろ帰るか。伯父の死を国家機関に通達するという市民の義務も残っているし。
そうしてローファーの踵を返すと、そこだけ瓦礫が不自然に積み重なったところに、黒いなにかがいた。そいつはじっと金色の瞳で俺のことを見ていた。
猫だ。
墨を塗られたように真っ黒な猫が、前足をちょこんと揃えて、じっとしていた。
動物は好きじゃない。無視して通り過ぎようとした。
「待てい」
振り返る。
猫と目が合う。気のせいか。
踵を返す。
「待ていと言うとろうに」
振り返る。
猫しかいない。しかし声はしわがれた老人のものだ。
そういえば死んだのはババァだとか真藤がほざいていた。幽霊か幻聴か。どちらにせよ敵なら潰す。
俺は猫を睨んだ。猫も俺を睨んだ。
「おぬし、ちょうどよいところにいるな。少し仕事を頼まれてくれんか?」
――と、猫が言った。