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採用面接?

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「メイドさんの派遣業務…」
街角の無料求人情報誌を手に取った女性は、その記事をしげしげと眺めていた。
「月収17万以上、社保制度完備、賞与制度・年次休暇制度有、週休二日以上保障…
好条件は好条件だけど、これ本当にそんな条件で雇ってくれるのかしら…」
女性は仕事を探していた。
以前は某都市銀行に勤めていたのだが、諸々の事情により退職し、現在は無職だった。
「色々問いただしてみるべき点は多いけど、面白そうな仕事よね。それも「学歴不問、
ただし経験・実績その他諸々により優遇」というくだりが一番謎だけど…」
女性は電話を取り、情報誌に記載された番号に電話をかけてみることにした。

トゥルルル…トゥルルル…ガチャ
「はい、こちら総合家事派遣サービスでございます」
落ち着いた女性の声が聞こえてきた。
「あ、失礼いたします。私、求人雑誌○○を見てお電話いたしました初芝と申します。
メイドさんの派遣業務の求人を拝見し、応募させて頂きたいと思いお電話をいたしました」
「求人応募の方ですね。承知いたしました。それでしたら担当の者と替わりますので
少々お待ちください」
そういうと女性は電話を保留したらしく、音楽が流れてきた。
そして、少しあって電話が再び繋がった。

「あ、お電話替わりました~。私~人事担当の小島と申します。応募者の方ですね、
お名前は初芝様ですね~」
今度は間延びした、いかにも幼そうな女性の声が聞こえてきた。
「あ、はい。私、初芝と申します」
「わかりました~。一応いくつかお聞きしておきたいことがあるんですが、よろしいですか~?」
「はい」
「それでは最初にお聞きしたいのですが、初芝様は…もちろん女性の方ですよね?」
「は…はい。確かに女性ですが…」
「分かりました~。将来的には別ですが、一応今は女性の方しか求人していないので~」
「はぁ…まぁそれは安心していただいて大丈夫ですが…」
「それでは次にお聞きしますが、お歳はおいくつなんでしょうか?」
「あの…26ですが…」
「26歳ですか~…ん~、うん分かりました。じゃあ、あともう一つだけ、良いでしょうか~?」
「はい、大丈夫ですが…」
「一応私どもの仕事は、お客様のお宅までお伺いして、お掃除だったり、お料理だったりを
させていただくわけです。時には、子供さんのお世話とかもしていただくこともあるわけです。
初芝様は~その~、そういう、他人の方のお宅にお伺いしたりすることに~抵抗とかって
ありませんね?」
「まぁ、別にそういうことは気にしませんけれど…神経は図太いほうだと思いますので…」
「分かりました~。それでは、面接と筆記試験をさせて頂きたいと考えておりますので、
例えば明日とか、大丈夫でしょうか~?」
「分かりました。明日お伺いいたします」
その後彼女は面接場所と当日の持参物を聞き、明日の10時に行くことを確約し、電話を置いた。



「ここか…」
昨日人事の人に教えてもらった通りの道筋を行くと、目の前に比較的新しいビルがあった。
そこのテナント名を見渡すと確かに「4F:総合家事派遣サービス本部」とあった。
「大丈夫かな…」
初芝はエレベーターを使って4階に行き、その一角にある事務所の戸の前に立った。
コンコンと戸を叩く。
「すいません、私、今日の面接を受けに来た初芝と申します」
「初芝様ですね。ようこそお越しくださいました」
ギィとドアが開くと、美しい女性が立っていた。
歳のころは25、6歳ぐらいだろうか。目鼻立ちが整っていて、長い黒髪を後ろで一本に束ねていた。
茶色のブラウスに白いネックリボンを締め、茶色のスカートに黒のストッキングを履いていた。
「どうも本日はお世話になります。すぐに人事の者を呼んでまいりますのでしばらくお待ちください」
女性は丁寧にお辞儀をすると、すっと奥へと消えていった。


ややあって、そして入れ替わりに、別の女性が現れた。
「あ~初芝様ですね~、本日はお世話になります~。私、人事担当の小島と申します~」
こちらは見たところ、まだ二十歳になっていないかもしれないという幼い顔立ちの女性だった。
その姿は黒いブラウスに白のエプロンドレス姿。メイド喫茶などで見るような華美なものではなかったが、文字通りのメイド服姿だった。
「あ、こちらこそどうもお世話になります」
「はい~それでは早速ですが面接をさせて頂きたいと思いますので~こちらにお入り
くださいませ~」
小島さんは初芝を事務所の奥に案内した。
事務所には受付とおぼしきカウンターがあり、中では2名の事務職員と思しき女性がパソコンに向かって仕事をしていた。
「さあ~こちらのお部屋へどうぞ~」
初芝は、勧められるままに部屋に入り、ソファに座った。
そして履歴書を取り出し、机に置いた。



「失礼いたします」
ノックの音が聞こえ、扉が開くと先ほどの二人…小島さんと最初に応対をした女性が入ってきた。
「初芝様ですね、お待たせいたしました。私は常務取締役の村本と申します。こちらは人事部長の小島です」
「人事部長の小島です~。でも人事部は私しかいませんので、面接に関するお世話は私がさせて頂きます~。それでは、履歴書を村本のほうにご提出の上、しばらくお待ちくださいませ~」
そういうと小島さんは席を立ち、そっと部屋を出て行った。


「さて…初芝様、それでは履歴書を拝見いたします…」
「はい」
初芝が履歴書を提出すると、村本さんはそれを手に取り、じっと見つめた。
「あの初芝様…」
「はい」
「いかがでしょう…メイドという仕事は、どのようにお考えでしょうか?」
女性は静かに言った。
「あ…はい、何か漫画とかゲームとかでは、ご主人様に尽くして色々な家庭のお仕事をする…そんな仕事かなと思うんですけれど…」
初芝は自信なさげにそう言った。
「そうですね…確かにおっしゃるとおりで、家の掃除もすれば洗濯もします。料理も作れば買い物もしますし、給仕のお仕事もいたします。時にはお客様の子弟に学問や教養をお教えすることもあります」
「なるほど」
「ただ、それらの仕事については何も雇われたから無制限に行うという類のものではありません。当然一人のメイドさんが全ての仕事をできるわけではないのですから、そういった一つ一つのお仕事については、それぞれお客様との契約に基づいて行うものと弊社では考えております。ですので、まぁ実際にはお客様との契約に基づいて決められたお時間だけお客様のお宅にお伺いして、決められた仕事をするのがお仕事ということになります」
「そうなんですか…」
無制限に仕事をさせられる訳ではないと聞いて、初芝は多少ホッとした。
「まぁ、そんなに堅苦しくお考えになられなくとも大丈夫です。そんな特殊な能力を求めているわけではなく、基本的には炊事、洗濯、掃除、給仕、買い物のお手伝い…家事手伝いとして求められる基本的なお仕事ができれば大丈夫です。もちろん、そこに個々のメイドさんの才能に合った能力があれば、それは重用をいたします」
「そうですか…」
コンコンと戸を叩く音がした。
「失礼いたします」
ガチャリと戸が開くと、小島さんがプレートにティーカップとポットを載せて現れた。
「初芝様、前を失礼いたします」
手際よくティーカップとスプーン、角砂糖が並べられ、湯気の立った香りの良いお茶がカップになみなみと注がれた。
「ご遠慮なくお召し上がりください~。わが社自慢のセイロンティーでございます~」
そういうと小島さんは美しく輝く銀色のお盆を机の端に避け、村本さんの隣のソファに座った。
「あ、どうも…」
勧められるままにお茶を口に含む。とても香りがよく、美味しかった。


「さて…初芝様。一応履歴書を元に、初芝様の経歴についてお伺いしておきたいのですが…」
「はい」
「履歴書によりますと、初芝様は平成○○年に東京大学の言語文化学科を卒業なさっておられるようですが、これは何をご専攻だったのでしょうか?」
「はい。英文学専攻で、特にヴィクトリア朝における代表的文学に登場する女性の扱い方を研究し、当時の世相がそこにいかなる表現で反映されているかを研究しました」
「なるほど。ヴィクトリア朝時代がご専門だったということは、メイドについても少なからぬ造詣をお持ちの方と拝察いたしますが、いかがでしょうか…?」
「はい。その頃から女性が社会において認められた数少ない仕事としてのメイドのあり方については色々勉強をさせていただいておりました」
「そうですか…」
そのあと村本さんはヴィクトリア朝時代のメイドのありかたについて二、三の質問をして、初芝はそれに答えた。
「では次…大学卒業の後、帝都四葉銀行にご就職なされ、そこで1年6ヶ月お勤めになられたわけですね。何故また都市銀行に就職なされて、それも1年半でお辞めになられたのでしょうか?」
「まぁ卒業時には…」
初芝は適当なことを言って逃れることにした。実際は入社したのはいいが、やる気もなく社内の感じにも慣れなかっただけだったのだが。
「まぁ、言いたくないことなんて人間山ほどありますからね~気にしないことです」
小島さんは、笑顔でさらりと言った。
「はぁ…そうおっしゃっていただけるとうれしいのですが」
「じゃ、初芝さんが面接で嘘ついてるから落とします、とか言われたらどうしますか~?」
「!」
初芝は一瞬ギクリとした。
だが、すぐに正気を取りもどし、グッ、と小島を見た。
「私の適正や才能を十分考慮せず、そのようなことをおっしゃられる会社でしたら構いません。これで失礼をさせて頂きます」
初芝がそういうと、小島さんはクスクス笑い始めた。
「いやいや、失礼しました。別に嘘ついてるなんて思ってませんから~」
「ご心配はご無用です。ヴィクトリア朝時代のメイドさんにも、やはり言うに憚るような過去をお持ちの方は数多くおられました。ただ、我々といたしましては報酬を頂いて仕事をするためにメイドさんを派遣するのが仕事ですから、雇用した方が真面目に働いていただけるかどうかだけが心配なのです。その確約をして頂き、それが守れる方だとこちらで判断をいたしましたら、過去の経歴は問いません」
村本は優しいまなざしで初芝を見つめ、そして言った。
「そうですか…ありがとうございます」
初芝はぺこりと頭を下げた。
「それでは続けましょう。後は資格の欄を拝見しておりましたところ、英検一級並びに秘書検定一級をお持ちで、TOEIC890点とのこと。大変な資格をお持ちですが、どうしてお取りになられたのですか?」
「あー…はっきりと言うと、就職のためです。一応、秘書になりたいなとか思っておりましたので…」
「いえいえ、そういう正直なご意見こそ大切だと思います。でも、こういった資格をお持ちということなら、私どももそれなりの対応はさせて頂きたいと思っています」
「それなりの対応…?」
村本さんの意味深な答えに、初芝は頭をひねった。
「初芝さん、初芝さんは数学とか、理科とか…あと音楽や絵とかって、得意ですか?」
「う~ん、まぁ大学のときは高校生の家庭教師とかもやってましたし数学や理科は高校程度なら問題なく。音楽はあれですが、絵は多少自身があります」
「家庭教師の経験をお持ちなのですね。それならばお話は早いです」
村本さんはニコリと笑った。
「まぁ具体的には、初芝さんには通常のハウスキーパー的な仕事や給仕の仕事だけでなく、ガヴァネス…つまりお客様のご子弟の家庭教師のお仕事をしていただくことも考えております」
「私に、家庭教師も…ということですか?」
初芝がそういうと、小島さんが横から口を挟んだ。
「まぁ勉強を教えるのも仕事なんですけどね~、それだけじゃなくて、その子供さんに社会人としてのマナーや様々な教養なども教えて欲しいわけですよ~」
「へぇ…」
初芝は予想外の話に少し戸惑った。
「無論、そういった子供さんへの教育もとなりますと、それはお客様との教育方針の確認やすり合わせもしながらという高度な仕事となります。ただ、初芝さんのような教養のある方なら我々としても大いに期待をしたいなと思っております。もしガヴァネスも候補として考えてくださるなら、筆記試験はガヴァネスの適正を測るものもご用意をさせて頂きますが…」
「いろんな仕事が出来るメイドさんは、給料が高くなりますからね~。是非是非おすすめしますよ~」
初芝には迷いはなかった。
「分かりました。ガヴァネスの試験も受けましょう」
「ありがとうございます。本当のことを言うと、ガヴァネスは高度な知識や教養が必要なので、需要に我々の供給が追いついていないのです。もし初芝様に適正があると判断できましたら、その点は待遇に最大限反映をさせて頂きます」
「承知いたしました」
初芝は、力強く返事をした。
「それではしばらくお待ちください。ご準備をいたしますので…」
そういうと、村本さんは席を立って部屋の外に出た。


二人だけになると、小島さんが口を開いた。
「ぶっちゃけた話、例えばテレビゲームがすごく上手いとか、コンピュータに強いとか、そういう一つ一つの技術でも、そういうのを求めてるお客さんもいるんですよ~。だから、いい技術や知識があれば、洗いざらいしゃべっちゃったほうがいいですよ~」
「あ、そうなんですか…」
「ただね、残念ながら膝枕して耳掻きしてあげるとか、そういうオプションはないんですよ~。一応ウチは風営法の許可は取って営業してるんですけど、メイドさんとお客さんが直接触れ合うようなのはNGなんです。無論本番とかいかがわしいことは絶対ダメですし、お客さんにもそんなことをしたら警察に突き出すってはっきり言ってますからね。ウチは契約は絶対守らせますし、顧問弁護士の契約もちゃんとしてますからね~」
「そ、そうなんですか…」
「だから安心してくださいね~。ウチの大事なメイドさんにイタズラされたり、最悪傷物にされたら大変ですから、お客さんの家に行く時は発信機をつけて行くことを契約条項に入れているんです~。無論会社との連絡を取るための携帯電話の持参も認めさせていますよ~」
「はぁ…」
「まぁそういうことですんで、そんないかがわしいことは絶対させないというのがウチのモットーです。あくまで契約にしたがって、清楚、誠実、真剣の3Sを守ってお客様の快適な生活をフォローする。これがわが社、総合家事派遣サービスの経営方針なんですよ~」
そういうと、小島さんは傍にあった箱を開けた。
中には一つ一つ包装されたクッキーとマドレーヌが入っていた。
「試験は結構長丁場ですからね~。お茶が冷めないうちに、こちらをお茶請けに一つお召し上がりくださいね~」
「あ、ありがとうございます…」
初芝はマドレーヌを一つ手に取り、封を切って口に含んだ。



そして、初芝は筆記試験に向かった。
試験の問題は200問にも及んだ。

試験問題は現代文、英語、歴史、地理、数学、物理化学、生物などの一般的な教養試験が100問と、その他に様々な社会の文化や時事などに関する問題が100問あった。
教養問題100問は全く楽勝だったが、残りの100問は手を焼かされた。


「なになに…」

問102
ニッコロ・マキャヴェリが「君主論」において提唱した国家統治に関する考え方と
して正しいものを下のうちから一つ選べ
1 彼はイギリスの名誉革命に影響を受け、祖国フランスの絶対王政を批判して
  権力を行政・司法・立法の三つに分割することで互いに牽制しあうことで
  政治的均衡と自由を担保しようと考えた。
2 彼は過去の聖人に倣って礼節を以って国を治める思想を「未開な時代の政治で
  あり、現代の高度な政治システムにはそぐわない」と批判し、政治の基準を法
  によって明らかにする法治主義の徹底を説いた。
3 彼は政治を宗教や思想から切り離し、幸運は与えられるものでなく、好ましい
  情勢を即座につかみとる力を有する指導者が勝ち取るものであるという現実的
  な思想を明らかにした。
4 彼は政治体系を「競争」と「参加」という二つの軸を使って四つに分類した。
  この中で「競争」「参加」の二つともが高い体制を、ポリアーキーとして理想
  の政治体系であると説いた。

問109
 メイドさんとご主人様が毎週5日間で一日4時間の雇用契約を1ヶ月間結び、特に
異議が無ければ雇用契約を毎月更新するという労働契約を結んだ。しかしながら
ある日、メイドさんは職務上の過失により高価なカーペットにワインのシミをつけて
しまった。この場合、雇い主として許されると思われる措置を下のうちから一つ選べ

1 このメイドさんが非常に不注意で、以前より度々ドジの多いメイドさんであった
  ため、ご主人様はその事実を証明した上でメイドさんに文書で解雇を通告し、当
  月給与のほかに翌月分一か月分給与に相当する打ち切り手当てを支払った上、別
  にクリーニング代を損害賠償として請求した。
2 カーペットのクリーニング代がメイドさんの当月給与を上回る場合において、当
  月分の給与とクリーニング代を相殺することでクリーニング代の残余を棒引きに
  する約束で、当月の給与を支払わなかった。
3 カーペットのクリーニング代をメイドさんに請求し、その月毎の賠償金額をメイド
  さんの生活の支障無き範囲内でご主人様が決めて、メイドさんの承諾なく当月の
  給与から天引きした。
4 1年以上雇用していたこのメイドさんが度々不注意であることを理由に前々から
  解雇しようと考えていたため、損害賠償請求を行わないという約束で本人の同意
  なく即日解雇した。

問118
ある国において、国民の総消費をC、民間投資をI、税収T、政府支出をGとした時、
国民の総所得Yが
   Y=C+I+G
で表される国家があるとする。このとき、民間投資が30兆円、総所得C=120+0.6(Y-T)
(単位兆円)であるとすると、国民総所得が400兆円の時、政府収入と支出が均衡する
政府支出Gは何兆円であるか。下のうちから選べ
1 10兆円
2 15兆円
3 20兆円
4 25兆円

問123
孫子は兵を用いるにあたっては軽地で戦ってはならず、必ず敵地深く入った上で戦う
べしと説いた。それはなぜか。孫子の考えに従って最も正しいと思われるものを下の
うちから一つ選べ
1 自国の近くで戦うと、兵士が真面目に戦わず逃げ出すから。
2 自国の近くで戦うと、田畑が荒れて兵站に影響が出るから。
3 自国の近くで戦うと、敵に足元を見られて和平交渉が困難になるから。
4 自国の近くで戦うと、敵に自国の内情を知られやすくなるから。

問134
次のTVゲームのうち、開発メーカーが誤っているものを一つあげよ
1 ときめきメモリアル=コナミ
2 ゼビウス=ナムコ
3 東海道五十三次=ジャレコ
4 ストリートファイター=カプコン

問150
次のうち、牛肉のヒレ肉であるものを下のうちから一つ選べ
1 テンダーロイン
2 サーロイン
3 ランプ
4 カルビ

問162
次のお茶のうち、最も発酵度合いの進んだ茶葉を使用したものを挙げよ
1 緑茶
2 ウーロン茶
3 紅茶
4 ジャスミン茶

問180
次のエプソム・ダービーの優勝馬のうち、父もエプソム・ダービーの優勝馬であるもの
を下のうちから一つ選べ
1 ニジンスキー
2 ナシュワン
3 シャーラスタニ
4 ジェネラス

問197
次のうち、神の名と神話の組み合わせが誤っているものを下のうちから一つ選べ
1 ブリュンヒルド=北欧神話
2 アリアンロッド=クトゥルー神話
3 イシュタル=メソポタミア神話
4 イシス=エジプト神話

「…な、なにこれ…」
初芝にはおおよそ意味の不明な問題も数多く並んでいた。
悪戦苦闘をしながらも、どうにかこうにか問題を解いていく。

「はい、そこまで」
合図と共に、初芝はため息を吐いてぐったりとその場に突っ伏した
村本さんが答案を回収すると、今度は小島さんの手でマークシートが運ばれてきた。
「えっと~、続きましては一般的なSPI試験ですね~。ま、形だけのものなのでそんな肩肘張らずに気楽な気持ちでやってくださいね~」
「まだあるんですか…」
うんざりした気持ちに支配されながら、初芝は残るSPI試験を受けた。
以前都市銀行に就職した時も受験したものなので、特にどうということはなかった。


試験問題は回収され、席には初芝ひとりが残された。
「ふあぁ…」
先ほどから問題という問題を解かされまくって、完全に頭が疲れ果てていた。
眠くなってきて、ついうとうとしてしまう。

コンコン
戸を叩く音がした。
「失礼いたします」
村本さんと小島さんが入室し、席に着いた。

「これにて採用面接は終了いたします」
「お疲れ様でした~」
二人の言葉を聞き、安堵の表情を浮かべる。
「それで、結果なんですが…」
「まぁ、はっきり言ってしまいますと…」
二人は神妙な顔で互いを見つめあう。
初芝の顔がこわばった。
そして、二人は再び初芝の顔を見た。


「合格です」
「はい。私どもは、もし弊社との契約条件に同意していただけるのでしたら、初芝様をわが社のメイドとして採用したいと考えております~」
「本当ですか?!」
初芝の問いに、二人はうなづいた。
「はい。条件は以下の通り、提示させて頂きます。ご一読の上、ご納得いただけるのでしたら初芝様のご署名ご捺印をお願いします」
契約書には、次の通りに書かれていた。


1 貴方との職員採用契約日は、○○年9月1日からとする。ただし、最初の3ヶ月間を
  試用期間とし、この期間については特に理由を示して一方的に貴方との雇用契約を
  破棄することができるものと定める。
2 弊社が貴方に行わせる仕事は、お客様の家を訪問し、以下の家事労働を行うことに
  限定する。また以下の仕事のうち何を行うかについてはお客様との事前の契約に
  基づいてあらかじめ設定し、当日訪問後の変更は、特に事情のある場合を除いて原則
  行わないものと定める
  なお契約により貴方に行わせる仕事は、炊事、洗濯、屋内清掃、ベッドメイキング、
  屋内外観葉植物の世話、雇用主の金銭負担による食材・日用品雑貨の買い出し、
  新聞・郵便物・宅配便の回収、風呂の準備・後片付け、湯茶の給仕、チェス・カード
  ゲーム・将棋等金銭授受を伴わないゲームの相手、公共料金の支払、家庭教師業務、
  マナー講習、雇用主の金銭負担による鉄道・航空機・船舶等の乗車券及び特急券契約
  及びタクシー・レンタカーの契約、その他特に契約を行いメイド本人が了承した業務
  である。
  また宝くじや競馬、競輪、競艇等ギャンブルの投票券の購入や入手の困難を伴う
  チケット類等の契約は原則として業務に含めない。
3 勤務日・勤務時間については週40時間を上限として、一日に8時間ないし12時間を限度と
  してお客様の自宅・別邸等での勤務を命じることができるものとする。
  ただし、土曜ないし日曜日のいずれか一日を各週出勤日と定め、土日連続の勤務は一つの
  月のうち最大でも二回以内となるように勤務体系を組むものとする。また出勤日は週4日
  ないし5日となり、連続4日以上の出勤日を原則として組まないものと定める。
4 年次有給休暇は年間20日間とし、20日を上限に翌年に繰り越すことができる。
  また、1の月において10日以上を年次休暇として取得し、計画的に長期休暇を取ることを
  奨励する。この場合は週5日勤務をあらかじめ定め、その上で5日分の年次休暇を定める
  こととする。
5 年末12月28日~翌1月4日までを年末年始休暇として定める。また8月中に連続する3日間を
  夏季保養として与える。なお慶弔関係の休暇については別途表を定める。
6 初任給は月額21万3500円、今年度賞与は給与の1.32か月分を提示する。給与は毎月25日
  に、賞与は12月1日に支払うこととする。
  ただし、翌年度以降は決められた昇級率に従って給与を改定し、賞与については会社業績や
  貴方の実績に応じて給与の2か月分から6か月分を定め、年二回6月1日、12月1日に分割して
  支払うこととする。
7 会社への交通費、お客様宅への出張旅費は最も一般的・経済的な経路を設定の上、全額
  会社負担とする。住居手当については2万5千円を上限として家賃の半額を補助する。
  扶養手当は別途基準を設けてこれを支払う。
8 弊社は法律に定めるところの雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金の全てに貴方を
  加入させ、必要な本人負担保険料の全てを給与より控除することとする。
9 以上の給与・賞与・交通費・出張旅費・住居手当・扶養手当等は全額を口座振込とする。
  なお社会保険料等については全額を控除の上支払うこととする。
10 メイドは、派遣先の雇用主家族ペットその他と直接肌を触れ合い、あるいは必要以上の
  補助をする業務をすることができないものと定める。ここでの「必要以上の補助」とは、
  たとえば要介護者の介護補助、ペットの散歩、背中を流すなどの入浴補助、その他食事を
  食べさせる、膝枕で耳掃除をするなどの業務を指す。
  なおこれらの業務に当ると思われる業務を雇用主から強要された場合は、速やかに会社に
  報告する義務を有し、その解決は弊社が行うこととする。
11 メイドは、業務上において派遣先の人との恋愛関係や性的交渉を持ってはならない。
  万一雇用先の人とプライベートにおいて恋愛関係に至った場合は、その事実を速やかに
  弊社に報告すること。その場合、原則としてその雇用主の家には派遣しないものとする。
  この契約に従わず報告の義務を怠り、あるいは性的交渉を不注意に持った場合は懲戒免職
  の理由となることとする。
12 派遣先で暴行や常識の範囲を超えた侮辱行為を受けた場合、あるいは恋愛関係及び性的
  交渉を強要された場合はその事実を直ちに会社に伝え、判断を仰ぐ義務を有する。
  特に身体や貞操への危険性が高く、やむを得ないと認められる場合は職場・職務の途中
  放棄、非常ベルの使用及び警察・消防への直接連絡を許可する。
13 その他、殺人、窃盗、傷害、詐欺、横領、強姦その他公序良俗に反する行為や度々の無断
  欠勤は、懲戒免職の対象とする。
14 弊社の定年は60歳とする。ただし、業務の性質上一定以上の年齢の者については本人の
  希望及び適正を最大限尊重の上弊社関連企業への出向を行うこと及び結婚予定紹介等の
  奨励等を行う場合がある。
15 以上1~14の契約について、弊社多数労働組合との交渉により個々のメイドさんの意志
  確認なく変更することができるものとする。


「ま、というわけなんで…なるべく事件が起こらないようにいろいろ配慮しているわけです~。だからお触りなし、介護行為もなし、お箸やスプーンであーんなんてのもダメなわけです。ましてや夜のお世話なんてとんでもない~、というわけです」
茶化してみせながらも、小島さんの目が笑っていない。
「私どもも、他家の教養ある大切なお嬢さんを預かっているゆえ、その身を守る義務がございます。また雇用する職員の将来的な幸せも考える義務もございます。それゆえに、様々な制約を設けております」
村本さんは真剣に、初芝を見た。
初芝もまた真剣に契約書と二人を見比べ、そして言った。
「この14…これって、まずくないんですかね?」
初芝は恐る恐る問いただしてみた。
すると村本さんは顔色一つ変えず、答えた。
「14の件につきましては…本来、メイドさんというのは未婚の方が伴侶を見つけるまでの間、自らの食い扶持を得るために社会的に認められた数少ない仕事であり、また嫁入りの大切な準備期間であったわけです。我々もそのヴィクトリア期の原則に乗っ取り、雇用する淑女達を大切に育てて、社会に巣立たせることもまた仕事の一つであると考えております。よろしくご理解を賜りたくお願い申し上げます」
「うーむ…」
初芝は、しばし契約書を目の前に考え事をした。

「もし…すぐに決められないということでしたら、一度これをお持ち帰りの上、趣旨をご理解の上改めてということでも宜しいのですが…」
「いえ、この契約で結構です。もし私で宜しければ、是非働かせてください」
初芝はぺこりと頭を下げた
「めっ、滅相もない。私どもは初芝様のような素晴らしい教養ある淑女をメイドさんとして迎えることができ、本当にうれしく思います。是非、初芝様のお力を存分に振るわれますようお願いいたします」
村本さんは静かに頭を垂れ、謝意を表した。
「助かったよ~。初芝さんのように本当に教養のある人はそう見つかるものじゃないよ~」
小島さんが笑顔でペンを差し出す。
初芝はそれを受け取り、自分の名前を書いて押印した。

こうして、メイドさんとしての契約が終了した。
あとは小島さんが、年金手帳、雇用保険被保険者証、卒業証明書、成績証明書など雇用に必要な書類を説明し、後日の提出を初芝に求めた。
また、身長、胸囲、腰周りなど体のサイズの採寸を行った。試用期間終了後、この情報を元にメイド服を製作するのだという。
「まぁ、試用期間中は一応備え付けのメイド服を使って頂きます~。初芝さんは割と背の高い方なので、ちょっとキツイかもしれませんがそれは勘弁してくださいね~」
小島さんは初芝の体にメジャーを巻きつけながら、ニヤニヤ怪しい笑みを浮かべていた。
目付きが微妙にいやらしかった。


「お疲れ様でした、初芝様」
採寸が終ると、村本さんと小島さんが並んで初芝の前に並んだ。
「それでは9月1日、その服装で結構ですので朝9時にこの事務所にお越しください」
「じゃまぁ、よろしくお願いします~」
2

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