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十一話「哀れな自分」

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 今日はほんとうにいい風が吹く。まるでなにかで塗り固めたオレのなにかを剥がすような風だ。
「……うん、好きだったよ」オレは地平線を眺めながら、正直に言った。
「ほんと、正直なんですね、先輩」
 なんだろ、この敗北感。
「でも、今はどうか分からない」
「なんでですか?」
「うーん、夏休み前にオレがパンチラで痛い目にあったのは知ってるよね?」
 オレの顔を見てミカちゃんは「はい」と小さく呟いた。
「そんでね、その原因を作った奴らには仕返しできたんだけど……でも、その仕返しはオレがやったというか、周りの奴らがやったというか……そのなんて言うんだろ」
 この子に嘘は通じない。そんな気がしたので、オレは正直に話すことにした。でも、感情では表せるのに、どうして言葉では表せないんだろう。
「うーんと、なんか、周りに振り回されたのかいやになったと言うか……」
「情けなかったんですか、自分が?」
 そうだ、情けないだ。情けなかったんだ、自分が。
「そうだね、情けなかったんだな……」
 自分の復讐すら自分できなかったオレ。
 一人孤独は平気だと思っていたけど、実際は孤独に殺されそうになったオレ。
 パンツを見るくらい。だかがそのくらい。それだけで、こんなことになると予想出来なかったオレ。
 全てが情けない。
「……先輩」オレの顔を見たままミカちゃんは。「今日一日デートして、先輩のこといろいろと分かった気がします」
 えっ? どうしたのこの子。
「先輩、わたしね。先輩に助けてもらったことがあるんです」
 おう、そうだったか! ところでどこでオレは君を助けたんだい!? って聞きたい。超聞きたい。
「……うん?」
「先輩、もしかして忘れてます?」
「えっと、そ、そんなことあるんですけど……」
 苦笑いするオレを背に、ミカちゃんは少し怒ったようなに。
「先輩、忘れちゃったんですか?」
「えっと……その……はい」
 ユカリだったら、この流れで殴られていたんだろうけど、今、オレの目の前にいるのはユカリじゃなく、ミカちゃんだ。
 殴られることはなかった。でも、いじけられた。そんなに下を向いても海は見れないぜ、ミカちゃん!
「……ごめんね? 本当にごめん!」
 なんで誤ってるんだろう、オレ。
「先輩……許して欲しいですか?」
 いいんや、別にと言いたいが、こんな可愛い後輩が出来るなら背に腹は代えられないわけで! 
「う、うん」
「なら、先輩が思い出すまで、わたし……」ミカちゃんは再びオレの顔を見て。「先輩につきまとっていいですか?」
 なにいってんだこいつ。
「いや、それは辞めたほうがいいと思うよ。オレみたいなのとつるんでると良い事なんて一つもないと思う」
 むしろ、虐められると思うよ。
「それでも、わたしはいいんです! 先輩、だから! お願いします」
 世の中には変わった子が沢山いるっていうけど、本当に変わった子だな、この子は。まあ、別に本人がそうしたいって言うなら、オレには拒絶する意味なんて無いわけで。
「いいけど……でも、残酷なことを言うけど、オレは君がクラスメイトとかに虐められることになっても責任は取れないよ」
「……はい。それでも、わたしはいいんです」
 そんな涙目でオレの裾をつかまいでくれよ、惚れちまうだろ?
「でもな、虐められたらオレに相談してくれ。力にはなれるかもしれないから……」
 あっちゃーッ!! できもしないこと言っちゃったよ、オレ。しかもかなり恥ずかしいこと言ってるよ、オレ!
「はいっ!」
 その笑顔がオレには眩しすぎるぜ、ミカちゃん!



 それからというもの、ミカちゃんはオレにすんごい張り付くようになった。
 具体的にどう張り付くようなったかって言うと、登校して朝のホームルームまではオレの教室に居座ってオレに喋りかけてきたり、休み時間なるたびにオレに会いに来たり、放課後、帰るときは必ずついてきたり。
 もうね、ストーカーですよ、ここまで来ると。
 午前中授業中は、かならず昼食を一緒に食べに行ったしね! もうね、どうすんのこれ! オレの財布から閑古鳥の声が聞こえてきますよ! いや、聞こえてきてるんだけどさ!

「先輩、今日で午前中授業最後ですね」
「あー、そういえばもう金曜かー」
 普通に接してるオレが怖い! でも、こんな可愛い子と下校出来るなんて、うひゃーっ! 春が来てるー!
「で、ですね、今日はフラ――」
「ちょっと待ってくれ」
 ミカちゃんにおごってもらったのは、最初のデートの時だけで、あれから男であるオレがお金を払って昼食を取っていたんだけど、もう無理、限界!
「あのな、ミカちゃん。今日はファーストフードを食べに行こう!」
「えっ、ええええええ!?」
 そんな世界が終わりそうな顔をしなくても……。
「先輩!」
「はい、なんでしょう!」
「ダメですよ、ファーストフードなんて! 変な添加物が入った食べ物を出されるかもしれないんですよ! 危ないじゃないですか! それなら少しお金がかかっても美味しくて安全な物を食べたほうが全然いいです! お金ならわたしが出すので大丈夫です! 心配しないでください!」
 おっけー! ならミカちゃんの驕りで、食べに行こうぜー!! なんて言えねーから!
「ミカちゃん」オレはみかちゃんの肩に手をかけ。「いろんな人生経験を積むのもいいことだよ。それにね。もしかしたらミカちゃんとファーストフードを食べることによって、オレがミカちゃんを救ったってあれを思い出すかもしれないじゃないか!」
 いやまあ、思い出すわけないって分かってるんだけどね。でも、本当になんだったけ。どこで助けたんだオレ? ミカちゃんはどこかで会ったことがあるきがするんだけど……。
「……なら行きます」
 そんな嫌な顔しないでよ……。



 ミカちゃんと居るとなんだか知らないけど、気分が柔らかくなる。
 なんだろ、オレの天使「ミカ」って言ってもいいかもしれない。でも、人を信用しすぎるのも良くない。ましてや、写真部残党なんてことだったら最悪だ。
 土日にデートしましょう! とミカちゃんに言われていたが、バイトがあったので華麗にデートを回避し、月曜日がやってきた。

「おはようございます。今週から午前中授業も終わり、本格的に授業が始まります」
 月曜日は生徒会長の一言で始まると言ってもいい。
 毎週月曜日に必ずある全校朝会は生徒会主体でおこなわれている。生徒が生徒のための生徒による全校朝会。――と言っても、校長の演説はあるんだけど……。
「今日は皆さんにお知らせがあります」
 そういえば先週の始業式で校長がなんか言ってたなぁ。
「本日より、スカートを上げる行為や、ズボンを腰まで下げる行為を全面禁止します」
 静かだった体育館の中がいっきにざわついた。
 それもそうだ、オレも理解ができない。何故、こんな急に?
「皆さんの仰りたいことは分かりますが、が、この学校のためでもあるんです。そしてこの禁止令を破った者には処罰を与えることとなりました」
 どういうことだ? ありえないだろ。スカートを追って短くしたり、スボンを下げるだけで処罰されるなんて。
「先生たちも了承してもらっています。生徒たちの意見を無視していると言われてしまえばそうなのですが、夏休み前にあった二つの事件を覚えていますか? どちらも風紀絡みの話です。このまま生徒たちの自主性をもたせるのも良かったかもしれませんが、このようなことが立て続けに起きた今、処置が必要だと思った次第であります」
 壇上に立つ生徒会長は、ライトのせいか、輝いて見えた。
 成績優秀、運動神経もよく、リーダーシップもある。そしてなによりイケメン。あのショウゴですら霞んで見えるくらいのイケメン……。羨ましい。ああ、妬ましい! じゃなくて!
「急に禁止令を指向してしまうと、学校内が混乱してしまう可能性があるので、今月中は『仮施行』ということにします。なにか質問がある方は、担任の先生、または生徒会までお願いします」
 生徒会長はそう言い残し、壇上から降りた。
 その後、校長の話があったと思うけど、生徒がざわついていたため、ほとんど聞こえなかった。

「あいつのせいじゃね?」
「ああ、あいつのせいだよなー」
「つーかあいつなんで学校辞めてないの?」
 教室に戻り、ホームルームが始まるまでの間、ワザとオレに聞こえるようにクラスメイトが話をしていた。
 ああ、やっぱりな。そう思いたくなかったけど、オレのせいだよな。しかもその二つの事件、二つともオレのせいだしな。
 そういえば、ミカちゃん、今日はオレに会いにこないのかな? 開いた時間があれば直ぐにオレのとこ来てたのに。
 机に伏せながら、周りを見ないで居ると、ポケットが振動した。
 どうせ、メルマガだろ? と思い携帯を開かないで居るつもりだったが、なんだか変に気になったので、確認することに。

  送信者「ショウゴ」
  タイトル:無題
   話がある。
   放課後、二つ先の駅の「喫茶店さーびす」で待ってる。

 さーびすって駅から結構離れてるはず。しかも、ショウゴの家とは反対方向だったはず。
 まあいいか。それよりも行かないと行けない気がするし。
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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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