「オレは君のパンツを……」ふわりと心地の悪い風が屋上を通った。「パンツを――」
オレは正直に言いました。嘘をついてもバレるだろうし、なによりも今頃って感じだったし。もう、なるようになればいいと思うよ!
「本当ですか? 嘘ついてませんか?」
あれ、思ったよりも冷静な反応。
「うん、本当。嘘ついてない」
着実にクールキャラになり始めてる。凄い、凄いよオレ!
「……なら、それを証明するために、明日、わたしとデートしてください!」
んー……と、話が全く見えないなあ。
そもそもオレ、この子とどっかで合ったことあるっけ? うーん、なーんかどっかで合った気はするんだけどなあ……。いや、この子の情報は勿論知ってるよ? 一年生の情報は既に一学期前半で集まってたし。
「えっと、えっと?」
「わたしと明日の放課後にデートしてください!」
「えっと、話がみえないんだけど? それよりもこれ、ドッキとかそういうのじゃないの?」
「ドッキリじゃありません! 明日、先輩がわたしとデートして、先輩がスカートの中を見れないでいられるかテストするんです! それで……その」
なるほどな。オレを試すって言うんだね。いい度胸してるじゃないか。
わ、わかりましたね! と言い残し、彼女は学校内に通じる階段へと走っていった。
分からない。全然分からないよ、ミカちゃん。オレには、明日、どこで集合するのかすら分からいんよ……。
◇
安休みが終わって最初の一週間は午前中授業で、比較的午後は暇だ。
夏休み前、午前中授業の時なら、パンチラ同好会の行く末をあの二人と共に語り合っていたんだが……まあ……うん。
昨日までは授業と言っても集会だの掃除だので、比較的楽だったのだが、今日からは本格的な授業が始まる。
面倒くさい気持ちを押し殺し、居場所の無いクラスで授業を受ける。夏休み前は教科書がなくなったりしてたけど、今期はどうなることやら。
「はいー。じゃあ、これで帰りのホームルームを終わりにしまーす。委員長挨拶ー」
午前中授業も無事に終わった。残るは放課後のデートなんだが、一体……どうすればいいんだ。
雰囲気的にばっくれるのもあれだし、そもそも、一年生……こ、後輩とどんなカタチであっても、で、で、デートが出来るなんて……うひょおおおお!! おっと、危ない。まだ罠って可能性も残ってる。落ち着けオレ。
とりあえずどうしようかなーっと、教室で一人悩んでいると、「……先輩ッ」とうしろから声が聞こえてきたので、振り返ると昨日、オレに手紙を暮れたミカという一年生がそこに立っていた。
「昨日、慌てて……そのどこで待ち合わせとか言うの忘れてて、その、先輩が待ち合わせ場所にこないからまさかと思ってたんですけど……その先輩って以外と」
単純なんですね! って言いたいんだろ。ふっ、単純じゃなく、クールですね! といって欲しいな。
「あ、うん、んで、どこ行くの?」
彼女は「えっと……その……」と慌ててカバンから手帳を取り出し、なにかを調べている。そんな光景をぼんやりとやがめていると、どこからとも無く腹の虫が聞こえてきた。
「あ……」オレの目の前で赤面している女生徒は慌てながら。「とりあえず、ご飯を食べに行きましょう!」
ファミレスならまだ嬉しかったかもしれない、いや、そんな贅沢は言わない。今日は百円マックの気分だったんだ。でも、なんだよこれ。ここです! と言われたので、ついていった結果がこれなら、オレはとんでもない罠に引っかかってしまったのかもしれない。
「ここって、有名な、そのレストランじゃん。しかも、値段もそれなりって噂だし……大丈夫なの?」
二人掛けのテーブルに座り、対面するような形になったオレと後輩ちゃん。なんだ? 彼女って呼ぶよりも、後輩ちゃんって読んだほうがなんか心にグッと来るものがあるぞ……いやいや、そのグッと来るものは金銭的な心配から来るものだろ! とりあえずだ、水だけ飲んですました顔してよう!
「なにがですか?」向かい側に座る後輩ちゃんはケロっとした顔で言った。
大人の隠れ家的レストランに制服を着たカップル。すごく場違いな気がする。周りのお客さんなんて、ほとんどがマダムって感じだし。
「あー、今日は風が強いですね……来る途中で髪がぐしゃぐしゃになっちゃいました」
「そ、そっか……」
あー……帰りてええええええ。スキあらば逃げ出したいけど、逃げ出せる雰囲気じゃねーし。おいおい、今日は財布の中のゆきちの命日になっちまうのか?
「で、先輩」横にあったメニューを取り出して。「なに食べます? わたしのオススメは……」
おいおい、YOUのオススメ、どれもそれなりのお値段するじゃないですか。おいおい、ど、ど、どうするよ! ってもどうしようもないんだけど……。
「えっと……オレ、そういうのよく分からないから……君と」
「先輩!」
「はひ!」
「今日はデートなんですから、君じゃなくて、ミカって呼んでください!」
「えっと……そのー……」
テーブルから身を乗り出し、迫り来る後輩ちゃんの顔面。整った顔だなー……って呆けてる場合じゃないからね、オレ!
やばい。マダムがオレたちのことをヒソヒソ話で話してるのが聞こえてくる。やばい、なんか、これ以上、注目されるのはヤバイ。どうにかして、この子をちゃんと席に座らせないと……。
「えっと……ミカちゃん?」
「はい!」と笑顔いっぱいのミカちゃん。イイネっ! 久々にイイネつけちゃう!
「で、先輩……メニューなんですけど」
これ、なんてデジャビュ?
「ごちそうさま!」
お腹がいっぱいになったのか、笑顔満点のミカちゃん。その笑顔の裏に隠された真実とは!? 次週「天使の笑顔の下の悪魔」見てくれよな! じゃねーよ。
確かにランチはうまかったけどさ、値段的には諭吉が抹殺される感じだし? 正直、不安とか店内の慣れない雰囲気のせいとかで、料理の味がよくわかんなかったし?
「えっと、このあとは、どうするのミカちゃん」
普通にミカちゃんって呼んでるオレが憎らしい。嗚呼、憎らしい。
「えっと……そうですね。海にでも行きましょう」
今から海水浴!? そろそろクラゲの季節だよ! その白い太ももが刺されたら大変なことになっちゃうよ!
慌てふためくオレをせに、ミカは言った。
「今日は風が強いじゃないですか、先輩」
おおっとー、なるほどねー。
そのあと、なんやらかんやらでミカちゃんにおごってもらうことになり、ミカちゃんは会計の時見たこともない高級ぽそうな財布から諭吉を二枚だし「お釣りはいりません」なんて、高校生ではありえないような台詞を言って、レストランを後にした。
お嬢様ってことは知っていたけど、まさかリアルにこんな人が居るとは、オレ、マジでビックリだよ。そもそもなんでこんな、真ん中くらいの高校に来てるんだろう、この子。確か頭も結構良かったはず。
海に行く途中、ミカちゃんとは特に喋ることもなく、オレは相棒の自転車を引きずった。
さっきから何度か、この子の横顔を拝借しているけど、やっぱりどっかで見たことがあるような気がする。うーん、うーん。
「つきましたね、先輩」
学校からさほど離れていない海浜公園にオレはほぼ初対面のはずのこのミカと言う女の子と二人で来た。
この海浜公園はデートスポットとして有名で、ここで愛の告白をして成就したカップルは末永く幸せでいられる……なんていう都市伝説もあるんだが、んまあ、オレには関係ない。
「んで、ここでなにすんの?」
潮の匂い。海の匂い。べたつく風。オレは海が好きだ。とくに前三つの要素が。
「先輩……昨日、わたし言いましたよ、ちゃんと」
「って、あれマジだったの?」
「はい」
あのオレの言葉を証明するためのテストか。
「うーん」オレは水平線を見つめて。「それよりさ、あんまオレに関わらないほうがいいよ」
「えっ?」
「いやー、ほら、き……ミカちゃんも知ってると思うけど、オレって」
「だから、そのテストをしようと!」
「まあ、ミカちゃんのパンツを覗いたかどうかの前に、あの紙に写ってたは確かにオレだし、こんなオレと関わってると友達いなくなっちゃうよ?」
「今はそんなこと、どーでもいいんです!」
良くないぜー。もとから友達いないけど、クラスの中で浮く辛さはよーく知ってるからな、オレ。そういう意味じゃ最強の先輩かもしれない……クールに生きようぜ、オレ。
「どーでもよく――」
その時、波の上をすり抜け、強い風が吹いた。
それは凄まじかった。まるで台風のような、マリリンモンローもびっくりするような風だった。
うむ、ストライプとは、なかなか良い物をはいて――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!! 見てもうた、オレ、みてもうたああああああああああああああああ!!
「……先輩」
下を向きながらプルプルするミカちゃん。なんだろ、やっぱりグーパンかな。体中の筋肉に衝撃警報を出さないと。
「……先輩ッ!!」
「はい……」
「見ました?」
「……はい」
なんて哀れなのかしら。
偶然というなの膝前に見せられた久々のパンチラは官能的ではなかったけど、パンチラと言うべきモノを逸脱してパンモロになってたけど、久々に見たそれはオレにとって、目の肥やしとかそんなレベルじゃなくてって、オレはなにを考えてるんだ!
「その先輩」
「……はい」
クールキャラを気取ってるわけじゃないんですよ。「はい」しか言えないんです。立場的に。
「やっぱり、先輩ってパンチラ好きなんですか?」
「……それは」
ミカちゃんは、オレにとってある意味で一番残酷な質問をオレにぶつけて来た。オレは……。