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九話「約束の場所にて」

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 オレの高二夏休みは、全てアルバイトに食いつくされた。
 辛いバイトも、未来への投資だと思えば、難なくこなせた。下手すれば日に四つくらい掛け持ちした日もあった。
 親から「高校卒業後はこの家を出て行け」と言われているだけあって、オレに夏休みを満喫する余裕なんて無い。
 そして、終わった夏休み。
 オレは、あの学校へ再び行く。高校だけは卒業すると親と約束してしまったしな。
 
「であるからして、高校生と言うのは――」
 校長、お前の話なんて誰も訊いてねえよ。早くその長々しい演説を中止して、教室に返してくれよ! と生徒の心の声が聞こえてきそうな中、このクソ暑い体育館にて二学期の始まりを告げる始業式が始まったわけだが……。
「しかし、私が高校生の時は……」
 この校長、相変わらず話が長い。しかも、この蒸し暑い中、校長が話している間は座ってはいけないとか、頭おかしいんじゃねえの! 
「……以上で私の話は終わる」やっと終わる。そんな雰囲気が漂い始めた中、校長は続けた。「来週の全校朝会で、生徒会長から重要なお知らせがありますので、頭の隅に置いておいてください」
 長い、本当に無駄に長かった、始業式が終わった。どうやら校長の話が思った以上に伸びていたらしく、教室に戻ってきたばかりだというのに、いきなりホームルームが始まった。
「休憩……と言いたい所ですが、時間がかなーり押しているので、ホームルームを始めます」
 担任が教壇に立ち、ざわつき始める生徒たちを制止する。この担任は夏休み前にオレに「人として軽蔑する」と言った女だ。忘れもしない、あの絶望感。でも、今となってはどーでもいいことかもしれない。
 ホームルームは本当に重要なことだけを伝え、見事、下校時間内に終わった。これは先生の力量なのか、先生をバックアップした生徒たちによるものなのか――そんなことを考えながら、オレは放課後の教室で一人うなだれた。
 夏休み後の今、もしかしたら、あの時のパンチラ除き事件ことを夏休みというものが流しさってくれるかな……なんて淡い期待をしていたのだが、どうやら無意味だったみたいだ。
 オレは一人寂しく、教室から出た。もう既に殆どの生徒は帰った後で、校内は閑散としていた。
 九月に入ったというのに、未だに夏は尾を引っ張り、無駄に暑い。暑い、あちい。ふざけんじゃねええよ! と下駄箱で叫びそうになりながら、下駄箱を開けると、一枚の手紙のようなものが下のすのこに落ちた。
 おいおい、なにこの展開。ハハァン、なるほど、なるほどね。誰かがオレのことを釣ろうとしてるのね。オレにはわかるよ! わかるけど……。
 落ちた手紙を拾い、封を切り、中の手紙を読む。
 “初めまして……かな? こんにちは一年生のミカと言います”
 どうもこんにちは。二年生のタカシです。
 “私、先輩に伝えたいことがあるので……明日の放課後、屋上に来てくれませんか?”
 ほう。オレに伝えたいこととはな。これは、俗に言うラブな手紙なの? ど、どうしてこうなった……。とりあえず、か、帰ろう……。
 


 分かってる。オレにも分かってる。多分、この呼び出しは、なにかの罠であっていいことなんて何一つないって、オレには分かってる。
 でもな、屋上だぜ? 大パノラマだぜ? 雰囲気マックスだぜ? そんでラブレターで、あの一年の中でも美少女TOP3に入ると言われてるミカちゃんだぜ?
 行くしか無いでしょ! 
 放課後、オレはウキウキ気分と同しようもない絶望感、両方を背負い、屋上へと来た。
 屋上は野ざらしもいいところで、太陽からの逃げ場が無い灼熱地獄なわけですが、オレはのこのこ着ちゃったわけでって、誰もいない訳で。
 昨日、下駄箱の中に入っていた手紙を読み直し、場所の再確認をする。
 うむ、確かに屋上に来てくださいって書いてある。
 ああ、なるほどね、こういうパターンね。屋上へ向かっていくオレを見てあざ笑うパターンね。やるじゃん、手紙の差出人……。
 こんなところで待っていても、ジューシーな骨付きカルビになるのが落ちなので、帰ろうと、屋上の扉を開いたその瞬間、反対側から誰かが飛び出してきた。
 うおっ。と驚きながら、反動で倒れるオレ。
 いきなり現れた障害物で倒れる誰か。
 これはどういうことなんでしょう。誰かがオレの腰にのっかっ……あん、そこは……。
「いててて……って、タカシ先輩!」
 えっ。なに……これ? ってか、だ、誰?
 逆行になって相手の顔がよく見えない。でも、体つきからして女の子だ! 女の子がオレの腰の上に座ってる! 
 以前のオレだったら、そのまんま昇天していただろうが、今のオレは一皮むけたオレだ。
「どいて……くれるかな?」
「ご、ごめんなさい!」と慌ててオレの上から退く女生徒。
 腰のあたりに残る感覚が生々しい。久々に息子さんが頑張りそうな勢い……だが、オレは賢者になると決めたので、そ、そんなことはしないはず。
「大丈夫だった?」
 紳士なオレが優しく語りかける。日頃……っても夏休み前までだけど、女生徒達にはさんざんパンツを見せてもらったので、夏休み後の今、出来る限り女生徒には優しくしようと思っているんだけど、オレの周りには女生徒はおろか、女性教師すら近寄ってこないわけで。
「は、はいっ!」
 なんてカワイイ子なんだ! 逆行から解除されたオレは舐めるようにオレに倒れかかってきた女生徒の顔を見た。見た。見ました。
「先輩……遅れちゃってごめんなさい」
 やっぱりそうか。一年生のミカちゃんでしたか。すると、この手紙は君が? と言いたい所を我慢して……。
「んと、その、なにかな?」
 っべー、クールぶるつもりが意味不明なこと言ってるよオレ。この状況からして明らかに青春イベントのあれでしょ!
「そのですね……先輩」
 なんですかあ? ついにオレにも春が来ちゃうんですかね!?
「ん? なに?」
 やべえ、今度は中々クールなんじゃね? 決まっただろこれ!
「先輩って、わたしのパンツ覗いたことありますか!?」
 ほう、これは新しい。
「先輩、教えてください!」
 なんで、そんなこと訊くのよ! おおっと、こういうのは相手側の台詞じゃねーの? ん? あれ? だんだん意味がわからなくなってきたぞ……。よ、よし整理しよう。
 オレは今、昨日下駄箱の中に仕込まれていたラブレターと思われる手紙に書いてあった待ち合わせ場所日時に時間通りに来た。そして、誰も居なかったので帰ろうとしたところ、ご本人が登場してそして、謎の「私のパンツ見ましたか?」と言う尋問を受けている。
 完璧だ。これなら次の国語のテストは満点だな。はっ、余裕だね!
「先輩!」と言う声が真っ青な空を見ながらほうけているオレを現実に戻した。
「あ、はひ!?」
「見たんですか? 見てないんですか!?」
 なんか選択肢を選んで行くゲームみたいな展開だな……やばい。これっていろんな意味でトキメキイベントなんじゃね? っていうか、これは本当のことを言ったほうがいいの? どうなの? 
「センパイ!」
 そんな大声だしたら、喉が潰れちゃうよ。オレは君の可愛い声が好きだよ。……やべえ、くさすぎる。くさすぎて笑い出しそう。でも、でも、本当のことを言うべきだよね!
「オレは……」
11

G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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