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十五話「生きとし死するもの」

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 オレは夏休み前のあの一件以来クラスでの立場がひじょーにまずいことになっていたが、さらにそれに拍車をかけるに、一ヶ月前に発令された「スカート上げ、スボン下げ禁止令」。
 授業と授業の中休みはまだともかく、朝のホームルーム前や比較的時間の長い昼休みなんかは、教室の外に居ないとクラスメイトになにをされるか分からない。いやまぁ、たとえ、クラスの外に居ても、校舎内に居るだけで何をされるか分からない状態なんだけど。
 便所飯なるものがあるとニュースでみたことがある。でもオレは出す所で飯を食ったり休憩したりするのが好きじゃないので、できるだけ生徒のこないような、影で昼食を食べることにしている。
 前まで学食で食べていたんだけど、まぁ、今はそんなの叶わぬ夢なので、朝、コンビニでおにぎりを一つ買って食べるのがここ最近の昼食。もちろん、自分で稼いだ金で、おにぎりを買うわけで。
「せんぱーい、みっけ!」
 雲ひとつ無い空の下、学校の裏庭の木の影でおにぎりをチビリチビリ食べていると、いつも通りミカがやってきた。
「……ねぇ、ミカちゃんさ」オレは具が出掛かっているオニギリを見つめて。「そろそろ寒くなるし、無理してオレのところ来なくても平気だから。オレ、別にひもじくないから!」
 ミカちゃんは、オレのためか、いつもお弁当を少し余分に持ってきてくれている。感謝しつつも、それに甘えているといいことがない――とオレの心が言っている。
「だから言ってるじゃないですか、先輩。これはたまたま作りすぎちゃっただけですって。それで、たまたま残しちゃうそれが勿体ないから先輩に食べてもらうだけなんですって」
「たまたまね……でも、さ、ミカちゃん」
「はい?」
 ミカちゃんは何気ない顔でオレの横に座り、手に持った弁当を開き始めた。
「オレと関わってる後輩がいるって結構有名になっちゃってるけど、その……虐めとか、そんなことされてない?」
 弁当箱を開け、箸を取ってミカちゃんは答えた。
「そんなことないですよ。……いただきます!」
「そっか……ならいいんだけど、あんまりオレと関わらない方が見のためだと思うよ?」
「んー、先輩ってそればっかりですねー。でも、わたしは先輩が思ってるより弱くないので、大丈夫ですよ! あ、それと」
「……ん?」
「今日の放課後は、放送委員があるので一緒に帰れません!」
 一緒に帰ると言っても、学校から駅までの途中までなんだが。
「あ、はい」
 よっぽどのことがないと、放課後、ミカちゃんはオレの教室に来て、オレと一緒に帰る。別にオレから一緒に帰ろうとか言っているわけじゃないんだが……。でも、たまに放課後こ無い時もあるので、そういう時はさすがに寂しいと言うか、なんというか、習慣て恐ろしい!
 そんなことをぼんやりと空を眺めながら考えていると、尾を引きまくっていた夏も終わりなのか、冷たい風が吹いた。
 
 放課後、オレたちパンチラ同好会の面々は、デフォルトスカート対策と称した会議をいつも通りスカイプでやることになった。
<どうするよ? 最悪の自体になっちゃってるけど>
 部屋の電気を消し、パソコンの画面を見つめる。なんだか目が悪くなりそうだけど、秘密結社的なノリだったのでやってみた。
『困りましたね……』
 パソコンの画面に写ったスカイプに、ショウゴのチャットだけ文脈もなしに並んでるように見える。まぁ、二人がマイクで話してるからなんだけど。
<一ヶ月前の俺を撲殺したい気分だぜ>
『……あのー』
<ん? どうしたカワサキ>
『僕、二人に言ってないことがあって……その……この一ヶ月の間、パンチラ同好会の活動がなかったじゃないですか』
<ああ>
『その言い辛いんですが……そのー……同好会の活動のほかにもパンチラ覗いてました! 本当にごめんなさい!』
<実は俺もだ。心配するな>
 二人が仲良く打ち解けている。なんだか悔しい。ああ、悔しい。結局、この一ヶ月、周りの様子が様子だっただけに慎重になりすぎたオレは、校内ミニスカ撲滅後の今、果てしなく後悔をしている。
『そういえばさっきからタカシ氏の声が聞こえないのですが……』
<そういえばそうだなぁ>
 ここ一ヶ月の成果をワイワイキャッキャ報告しあう二人に説教をかまそうかとも思ったが、なんかバカバカしいのでオレは二人の話をぼーっと聞いていた。
<おい、タカシ生きてるか?>
「……生きてるよ」
『うあ、急にしゃべりださないでくださいよ! ビックリしちゃったじゃないですか!』
「いやー、なんか二人共元気だなぁと思って、さ」
 正直な話、最近、かなり参っている。夏休み前、親と高校だけは卒業すると契約してしまっただけ、高校だけは維持になっても卒業しないといけないんだけど、でもまぁ……最近、虐め的なのも微妙に激しくなってきたみたいだし? 疲れたよ!
<その、すまん。でも、パンチラ同好会としての活動と個人としての活動は別だから、許せ!>
「あ、いや、うん……別に怒ってるわけじゃなくて、最近、疲れてるって言うかさ……」
『どうしたんですか?』
「あの禁止令が出てから、イジメ的なあれが少し激しくなったと言うか、なんと言うか。風当たりが更に強くなったと言うか……世間の目って恐ろしー! と思ったって言うか……」
 あー、だめだこいつ。目が死んでるよ。一瞬暗くなった画面に写った自分の顔を見て、そんなことを思ってしまった。
 気力回復のパンチラすら見れない今、オレは何を当てに生きればいいんだ? パンチラぁ……パンチラああぁ……。
<まぁ、元気だせよ!>
 チャットがレスされた音がしたので、マウスを動かし黒画面を解除すると、ショウゴがそんなことをオレにレスしていた。
「パンチラみたい! 見れば元気になれそう!」
<股間的な意味で元気になるなら、オススメのエロサイト教えてやるけど?>
「動画とか写真とかじゃなくて、肉眼で見たいの!」
『なら彼女さんに見せてもらうってのは、どうですか?』
 彼女? 誰のことだそれ。
「はい?」
『ほら、一年生の、名前なんていいましたっけ……えーっと』
<ミカ>
『そうそう、ミカさん。あの子とタカシ氏付き合って――』
「ねーよ!」
『なんか世間一般的には二人が付き合ってるっていう、妬ましい噂が流れてるんですが……』
 おうおう、そんな噂が流れちゃってるのかよオレ。……ん? そうか、その噂もあって、最近オレへの風当たりが強いのか? いやー、リア充って……。
「噂を鵜呑みにするなし! 断じてない。一ミリもない、大丈夫だ、問題ない?」
<まぁ、それは置いておいてさ>
 こいつ……あんまり興味無さそうだな……つーかコイツこそ、その顔を生かしてパンチラ見放題なんじゃねーの!?
<もう一つの噂、訊いたか?>
『あ! 聞きました、聞きました!』
 なんのことだ? 出来るだけクラスの人間と関わらないようにしてるため、最近は教室でうわさ話を訊くなんてこともで無くなってしまったわけで。
「え、なになに?」
<なんか、デカイ組織が俺達の高校で運用試験的なのをして成功したって噂>
「なんだ、そういう噂か。そういう何とも言えない見えない組織とか、一部の生徒が超絶に好きそうな話だなぁ……」
 呆れているオレにカツを入れるように、カワサキくんが少し低い声で言った。
『それが、なんかどうやら本当らしいんですよ』
「えー、またまたまたー」
『ほら、禁止令。あれがどうやらその運用試験だったらしいんですよ』
「んな、バカな」
 なんだろう、この旨のザワつきは。
<この間の家のテレビが朝のニュースで取り上げられただろ? どうあれは、その禁止令を全国の高校へ拡散するためのトリガーとしてやったらしいんだよ>
「またまた、噂でしょ、憶測でしょ?」
『それがですね……ネットでも結構騒がれてまして。前まで女子高生イコール生足みたいな風潮だったのに、最近はそれが弾圧されて女子高生イコール清楚な方がいいみたいな、ようするにミニスカを否定するような流れになってまして……』
「なんだよそれ。まるで見えない勢力がネットであばれてるみたいじゃねーか」
『その通りなんです』
<ロングスカート愛好会。それが奴ら組織の名前らしい>
 死にかけていた感情と心臓が同調するように、体中筋肉が緊張した。なんだこれは、なんだこれは……。
「バカバカしい。そんな無駄なことをするやつらが……いるわけない……だろ」
 確かに根も葉もない噂話だけど、辻褄は合う。いくら何でもあの禁止令は急すぎだし、横暴すぎだ。念密に計画されながらも、大胆で横暴な作戦とでもいえばいいのか?
『調べてみる価値はあるかと……』
<俺もそう思う>
 オレが何も答えないでいると、ショウゴが。
<もしかしたら、うちの高校だけじゃなく、全国の女子高生たちのスカートが長くなるかもしれないんだぞ?>
「おし、調べよう!」
 それだけは避けないといけない! 全国の高校生男子の夢が途切れてしまう!
 だが、実態のない相手にどうやって調べをいれればいいんだ……いや、オレには二人ほど心当たりのある生徒がいる。一人は全く知らない相手だが、もう一人は……。
『でも、どうやって調べ――』
「オレに心当たりがある。明後日までには報告するから、少し待っていてくれ」
 オレは震えの止まらない手でマウスを動かし、スカイプの通話を切った。
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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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