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閑話「Ergo Panties」

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 どこの高校にもあると思われる受験シーズン。
 受験は受験者だけのものではない。我が校では先生生徒が一つとなり、受験者をサポートする。それが我が校の仕来り。――らしい。
 ごくごく一般的な生徒であるオレには関係のない話だと思っていたのだが……。
「じゃぁ、うちのクラスではタカシとサトミヤ、お前らが受験サポートに選ばれたから、受験日に登校するように。以上」
 受験サポートというのは、その名の通り、受験日に登校して受験者の校内案内やらなんやらする係で、かならずクラスで二人選出される。
 いきなりすぎて混乱していると、担任の男の先生がやる気のなさそうに、「じゃぁ、帰りのホームルームは終わり。委員長、号令」と委員長を見ながら言った。
 委員長もやる気のなさそうに「きりーつ――きょうつけー、れい」といい、今日一日の学校生活にピリオドを打った。
 オレは教員室に戻ろうとする担任を呼び止めて「なんでオレなんですか……?」と訊くと、担任は「お前らが一番暇そうだったからなー」とやる気のなさそうに答えた。
 祝日登校なんてだるい。そう思いながらも、受験者――中学生のパンチラが見れるかもしれない! と期待しているオレが憎い。
 まぁ、なんとあれ、今日はパンチラ同好会の活動もないし、帰るか。



 受験者サポートに選ばれた。と、ショウゴとカワサキくんに言うと、二人共羨ましながらも、「ざまあみろ」って言う態度でオレを祝福? してくれたのが印象的だった。
「では、簡単な注意事項を言うのでよく聞いてろよ」
 決して広いとは言えない多目的ホールに集められた、受験サポートの生徒たち。隣の人の方が触れるのがちょっぴりドキドキなハプニングなんだが、まぁ、これが男じゃなければなぁ。と落胆していると。
「おい、そこ! ちゃんと聞いてろよ? こればっかりはミスを許されないんだからな!」
 と担当の先生に指をさされ注意されてしまった。
「……すいません」
 注意事項と言っても、受験者の生徒に恐怖感を抱かせるなとか、変な行動を起こすなとか、諸注意中の諸注意と言った感じで、そこまで厳しいものでもないようだった。
「では、そろそろ受験者が来ると思うので、各々、手元に持っている紙に書かれているポイントに行き、受験者のサポートをするように。サポート先でも、細かい諸注意があると思うので、担当の先生の話をよく聞くように。――解散」
 この先生は何かとカッコつけるのが好きな人だなあ。

 オレの担当は、待合室で待っている受験生を面接会場まで案内するという、立ってシンプルで、面倒くさい内容だった。
 去年、オレも担当と思われる生徒に「こっちですよー」と案内された記憶があるが、その担当の生徒はどう見ても「めんどくせー」という顔をしていたのをよく覚えている。
「では注意点を説明します。受験者は緊張しているので、できるだけ優しい雰囲気を出すこと。この高校に入り、安心して高校生活を送れると思えるような、そんな第一印象を相手に与えるように。後、余計なことは喋らないように」
 この場所を担当している、先生の簡単な説明が終わるとと主に、始まりを告げるチャイムが鳴った。
 ついに受験が始まる。

 基本的にオレのやることは。
 一、生徒を受験者の待つ、待ち合わせ室に行く。
 ニ、そこで待っている面接待ちの生徒の前に行き、次ですよ。と優しく声をかける。
 三、その生徒を面接用の教室まで連れて行く。
 四、その生徒の面接が終わるまで、その教室の前で待っている。
 五、その生徒が出てきたら、待合室まで行く。
 その繰り返し。
 面接が終わった受験者を案内するのは、また別の生徒の役割なので、オレの仕事は必然的に面接用の教室と待合室の往復ということになる。
 途中、階段があるのでパンチラを拝めるチャンスはいくらでもあるが、中学生のパンチラ、ましてや受験しに来ている人のパンツを除くなんて野暮なことはしたくはないけど、しちゃうのがオレなわけで。
 そんな考えを頭の中に孕ませつつ、待合室に行くと、緊張で死にそうな生徒、目が血走っていて今にも暴れだしそうな生徒、震えている生徒、と言った感じで、そんなことは出来無い雰囲気だと今頃気づきました。
 とりあえず、受験者を面接室まで案内しないと、いろんな意味で殺されてしまうので、紙に書いてある番号が貼られた机の前に行き「面接ですよ」と紳士的に言うと、その受験者は「ぬはああい!」と意味不明な声を出しながら立ち上がった。
 野郎やよ。と邪見にしつつも、うぶでナチュラルな中学生は刺激的でマジパネェ。
 去年、オレもこんな感じだったんだろうか?
 教室の前まで案内し「ここで面接をします。頑張ってください!」と、キャラにもなくその男子生徒を送り出したオレは、とりあえず面接が終わるまでの間、教室の前に置かれている椅子に座り、ぼーっと廊下の天井を眺めた。
 もう、何回くらい生徒を案内しただろうか。紙を見ると二〇人近くは案内したことになるけど、なんかもう、受験という空気に飲み込まれて感覚が鈍ってる。なんだろう、パンチラどころじゃねーよこれ。
 そんな時、オレの前に女神が現れた。
 どことなく儚げで、綺麗に整った顔。まさに女神だ。多分、中学校のアイドル的な存在なんだろうなあ、パンツみたいな。なんて考えながら。
「面接です」
 とオレが声をかけると、その子は震えたまま、立ち上がろうとはしなかった。
 まさか! 男性恐怖症なのか?
「……面接だけど、大丈夫?」
「……大丈夫じゃないです……」
 緊張? それとも恐怖? とりあえず、こういう時は仕方がないので。
「面接は後回しにして、ちょっと休憩しにいこうか!」
「……えっ?」
 こういう時はマニュアルに保健室へ連れて行け。と書いてあった気がする。
「いいから、いいからー」
 女神は何かを察したように、小さな声で「はい」と答え立ち上がった。
「じゃぁ、行こう!」
 いつもの自分じゃない。気持ち悪い。そんな事思いつつ、オレの一歩後を歩く少女を気にかけながら保健室へ。

「……すいませーん」
 丁度、保健室の先生は留守にいているのか、誰からの返事も帰ってこなかった。
 参ったなあ。野郎、しかも高校生と保健室に二人だなんて、オレが女の子だったら死ぬほど恐ろしいぞ。
 見知らぬ保健室で、オレと二人っきりになってしまった少女の顔を見ると、明らかに同様していた。
「とりあえず、あそこのソファーに座ってて。今、保健室の先生を呼んでくるから」
「……に……でください」
 あれショウゴの女版? そんなことを思いつつ。「え?」と聞き返すと、少女は小さな声で「一人にしないでください」と言った。
 案内するという仕事もあるので、正直長いは出来無いのだが、こういう時にはこういう時なりのマニュアルがあった気がするので。
「なら保健室の先生が来るまでの間ね?」
 と、あくまで紳士的に、あくまで社交的に言った。
 自分を偽りながら、なによりマニュアル通りに動く自分に嫌悪感を覚えつつ、少女とソファーに座ることに。
「……で、どうしたの?」
「……はい?」
「んー、なんだか緊張してるようにも見えたし、不安に押しつぶされそうにも見えたから」
 少女は一息ついて。
「わたし、本当はこの学校に受験する気なかったんです。でも、母が受験の雰囲気と、滑り止めに受けとけって言うので、受けることにしたんですけど……」
「うん」
 よくある話だ。とりあえず本命を受けるまでに、受験という雰囲気を味わうために、そこに受験しろ。少しでも受験になれとけ。オレも親に言われてたっけな。
「受験って生まれて初めてで、それで、雰囲気だけでもと思って、受験することにしたんですけど……その、雰囲気に飲み込まれてしまったと言うか……その……なんか……怖くて」
「……怖い?」
「待合室のあの雰囲気が……」
 ああ、確かにあれは異様な光景だった。去年、オレが受験した時はあんな感じじゃなかったんだが……。
「まぁ、オレも今年のあの異様な光景はちょっと驚いたかな……」
 少女は少し潤んだ目でオレの顔を見つめながら。
「そうなんです……か?」
「うん。でも、雰囲気に押しつぶされるっていうのはわかるけど、もうちょっと自分を強く持たないと。説教と思われちゃうかもしれないけど、他の高校を受ける時、今みたいなことがあると高校によっては一発で落とされちゃうかもしれないしね」
「落とされる……」
 やっべ、受験生にはNGワードだったけ。
「あーいやいや、そうじゃなくて! なんていうんだろ? 君はその可愛いし、大丈夫だって!」
 おい、オレ。なに言ってるんだオレ。
「可愛い? わたしがですか……?」
「えっと……うん、可愛いと思うよ」
「初めて言われました……」
「え?」
「初めて言われました……本当に」
 オレはなんと返せばいいのか悩んでいると、保健室の扉が開き、保健室の先生が入ってきた。
「あれ? どうしたの?」
 オレは扉の前に居る保健室先生ところまで行き。
「……あのーこの子が」
「あー、はいはい。分かったわ。後は私に任せて、あなたは持ち場に戻りなさい」
「はい!」
 オレは再び少女の座っているソファーのところまで行き。
「じゃぁ、オレはこれで。頑張ってね!」
「はい。……ありがとうございます。その……元気でました」
「こっちこそ変なこと言っちゃってごめんね?」
「いいえ、大丈夫です」少女は少し恥ずかしそうにして。「あの……名前教えてください」
「タカシ。タカシって言います」
「……タカシ先輩」
 先輩なんて呼ばれたこと無いからとてつもなくこそばゆかったが、嫌な感じではない。
「ミカです。わたしはミカっていいます」
「ミカちゃんか。いい名前だ」オレは右手を出して。「……じゃぁ、頑張って」
 ミカちゃんは「はい!」と言って、右手を握り返してくれた。



「――ってことがあってさ、まさにオレって先輩? っていうか?」
 受験が終わった次の月曜日、パンチラ同好会の集まりの中でオレは自慢気に、この間あった受験日の甘酸っぱい体験をショウゴとカワサキくんに事細かく説明すると。
「……タカシ氏、それで、パンチラのほうは?」
「……えっ?」
「いや、その中学生のパンチラを拝んでやるぜ! って意気込んでたじゃないですか。この間」
「あー……その……」
「……てないの……か?」
「いやそのね、見えなかったというか、なんというか……」
「失格ですね、パンチラ同好会主将として」
 と、カワサキくん。その彼の眼鏡の奥の目はオレを殺すような、そんな鋭い視線を送り付けていた。こえーよ。
「……おま……には……しつぼ……した」
 イケメンなくせに、こんな変態チックなことしてるってしったら、どれだけの女生徒が失望するかね! とショウゴに言いたい気持ちを我慢しつつ。
「……すいませんでした!」
 と勢い良く、土下座をした。
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G.E. 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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