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フォールアウト(短編) 04/17

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 朝日が昇り、自己主張が過ぎる明るさがまぶたをひっぺがす。
 目覚めのバックナンバーはガイガーカウンターがきちきちとかき鳴らす耳障りなノイズ。
 あぁ。とうとうここもだめなんだなとため息をつき、緩慢な動作で辺りを見回して忘れ物はないかとかるく確認すると数日だけ世話になった根城を足早に後にする。
 倒れた食器棚や無残に引き裂かれたソファー。ところどころ文明の色を残しつつゆっくりと朽ちていくだけの民家は前時代の遺物だ。過去、世界は青い空と鬱蒼と生い茂った木々に囲まれていたという。今となっては永久に草一本生えない不浄の大地と、埃っぽい空気が空を覆っている。
 原因は一発の銃弾だったらしい。深くは知らないが結果的に世界は滅んだ。人間は放射線の魔の手から逃れるために地上を捨て、地下にもぐった。
 穴倉ではリーダーを核とした独善的かつ独裁的コミュニティーが形成され、いつしかそれらは国家と呼ばれ外の世界を知ることなく生まれ、そして死んでいく。
 Vault210と名付けられたシェルターはそんな国家の一つだった。放射線の影響で肥大化したコックローチに食料を狙われる以外比較的安全な生活環境に青年は飽いていた。いつしか物語でしか聞いたことのない外の世界へと出るんだと虎視眈々とチャンスをうかがい、入念に準備して今に至る。
 うるさいガイガーカウンターを黙らせるために黙々と歩き、根城にしていたボロ小屋が鉛筆大なった頃、耳障りなノイズが消えた。
 随分と浴びたのかもしれないと胸に貼り付けていた放射線ラベルに目をやる。放射線の量によって変色する。それは、一種のバロメータともいえ赤に近づけばその分天国に近くなる。今、胸の放射線ラベルの色は赤みがかったオレンジだった。世界にはPip-Boyと呼ばれる便利端末があるらしいのだが、あいにくと男は所持していないので蓄積量などが不確かな放射線ラベルに頼るほかない。
 放射線から離れるためにずいぶんと歩いたので適当な木陰を見つけてガイガーカウンターの音と針を確認する。問題ないと納得すると、よいしょと座り込んでもう随分と使い込んでぼろくなったバックパックからベコベコにへこんだペットボトルを引っ張り出す。ちゃぷちゃぷとゆれる中の液体はやや茶を帯びており、不純物が浮いているような有様で、とても綺麗だとは言いがたい。
 しかし、男はそれを躊躇無くゴクゴクと音を立てて飲み干す。この世界では汚染されていない飲み物というだけで価値があるのだ。贅沢は言っていられない。
 しかし、予想通り口の中に広がったのはじゃりっと不快な感触と鉄と泥をブレンドしたような臭みだった。Vault の薬品くさい水道巣が懐かしいなとぼやくも、もう後には戻れない。
 空になったペットボトルをバックパックにしまいこみ、再び歩き出す。行く先はわからないし決めてはいなかった。あえて言うのなら、ガイガーカウンターの音におびえて暮らさずにすむような土地を目指して。
 男は荒野を歩き始めた。
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