何話目か忘れた「タイトルコールっているの?」
やあ、ボクだよ神道だよ、お前ら。バレンタインデーどうだった? ああ悪い悪い野暮なこと聞いちゃったなw
……ボクは今、少々機嫌が良くない。
月子のヤツめ……!
何話目か忘れた「タイトルコールっているの?」
タイトルコールって意味不明だよね。なんでそんなのを嬉しがってやらなきゃいけないのさ……
もう次回からしない、きっとしない。ぜったいしない……!
ああ、もう始まっていたのか。こんにちはお前ら。チョコなんて貰えなくても何ともないぞ? ボクは一度だってあげたことなんて……あー、なんでもない。忘れろ。
さっき言っていた通り、ボクは今、機嫌が良くない。
原因はもちろん、月子のことさ。チョコは関係ないぞ? 若干時系列がずれているからね。
「神道さん、どうしたの?」
と、ボクの顔を覗き込んでくれる月子。ようやくボクのことを苗字で呼んでくれるようになったけど……ボクの苛立ちは少しも収まらない。
前回のこと、覚えているかい? そう、ボクが月子の髪を切ったときだ。あれから月子の髪は当然短いまま。肩を少し超えるぐらいの長さになった。美容院で整えてもらって、それはもうすっきりとしたもんだ。
今の月子の髪型、すごく似合っていると思うんだ。長い伸びていたことで感じていた重々しさがなくなって、心なしか明るい印象を感じるようになった。
それなのに。
「なんでもないよ。ボクは普通さ」
「そう? だったらいいんだけど……」
月子はちょっと歪んだニット帽を手で整え、綺麗にまっすぐにかぶり直した。
そう、ボクはこれが気に入らない。髪が短くなった次の日から月子は帽子をかぶるようになった。ボクが取り上げてもすぐに奪い返され、かぶる。本気で奪うと、超能力を使って本気で奪い返してきやがる。
これはきっと無意識の拒絶なんだろう。月子はまだ髪が短くなったことを心のどこかで受け入れていない。だから本能的自己防衛かのように帽子をかぶっているんだ。
もちろん『命令』をすれば簡単だ。でも、たかがその程度で限度回数のある『命令』を使いたくない。永続じゃないんだ、その都度使うわけにもいかない。一時しのぎでしかないのだから……それに拒絶されているという事実が嫌だ。月子には受け入れてもらいたいんだ、アイツの手垢がなくなったということを。
優しい優しいボクはいきなりそれを強要しない。優しいからね。だからボクは待とうと思う。月子が自然に受け入れてくれることを。イライラするけどな!
「そうだ月子、今日は帽子を買いに行こうか。そんな野暮なニット帽じゃなくってさ」
「え、ほんと?」
「ああほんとだよ。どんな帽子が似合うかな~」
これがボクの妥協案。せめてボクが楽しめるような帽子をかぶってほしい。イメージ的には麦わら帽子だけど……あれってどこに売ってるんだろう?
うう~む……そもそも麦わら帽子ってのはダサイかな……?
「伊藤先輩、おひさしぶりです」
ボクが真剣に悩んでいると、ボクたちの間に突然、割って入ってきた人間がいた。
「あ、ホッシーナ」
「ご無沙汰しています」
ぺこりと頭を下げるそいつ。
ほ、ほほー。
一言で表すなら、巨乳。なんて大きな胸だ……月子を先輩って呼んでるってことは、一つ下の子か? それでこの破壊力だと……!?
けしからん。いやはや、すばらしい。さすがのボクも嫉妬どころか尊敬を抱いてしまうような乳。
この子もボクのモノにしたい。平日五日あるうち、月曜日はこの子で楽しもうかな。憂鬱な月曜日をこの乳で始める……うーん、良いな!
「やあやあはじめまして。キミは月子の後輩ちゃんかな?」
ボクがフランクに話しかけてやると、そいつは。
剥き出しの敵意を、ボクにぶつけてきやがった。
「はじめまして」
「あ、ああ、はじめまして」
「はじめまして……!」
何だか様子が変だな……初対面のはずなのに、明らかに嫌われてるぞ……?
「これは私のミスです……伊藤先輩が『友達』と言ったあのとき、気づくべきでした……!」
「ホッシーナ……?」
「伊藤先輩、私はあなたを責めません。きっとこれは、私しか気づかないことですから。
そう、あなたに干渉する相手は、あの人以外、警戒するべきでした」
なんだこいつ?
「おいおい何を言っているんだい?」
「うるさい! あなたは、存在しちゃいけないんだ!」
おいおい。
ちょっと待てよ。
こいつは。
……こいつは。
「ねえキミ……キミは、いったい誰だい?」
「同じ質問をしてもよろしいでしょうか?」
「ははは。これは失礼な女だ。まずボクの質問から答えるのが礼儀だろう?」
「礼儀だなんて、どの口がそんなことを言うんでしょうね」
間違いない。
ああ、間違いないな。
「いいから答えろよ、おい」
「あら? ほんとにいいのですか?」
「ね、ねえ二人とも、喧嘩はやめてよ……」
ああ月子、そんな泣きそうな顔はやめておくれよ。今はこいつに専念しないといけないんだよ。
だって、こいつは、間違いなく。
「お前、忘れてないな?」
「ご自分からネタばらしですか? カッコ悪いですね。まあ、後出しになりましたが、言わせていただきます」
「私はあなたを知らない。あなた、いったい誰ですか?」
そう、こいつはボクが“神道”ではないことに気づいている。いや、知っている。いいや、忘れていない。ボクの改ざんに影響されず、ずっと記憶を保っていやがる。
ボクの改ざんは誰も防げない。世界最強の超能力者さえ容易く騙す、ある種の特権の能力だ。そんな改ざんを防ぐことなんて普通は不可能。
だから、こいつは普通じゃない。
おそらく……ボクやアイツにとても近い存在。
「いやぁ驚いた。まさかキミのようなヤツがいるだなんて」
「私も驚きでしたよ。まさか神道先輩と同じ『たった一人だけの存在』が存在するだなんて。しかも、過去に戻ってもどこにもいない。いったいどこから湧いてきたのやら!」
「ハハハそうだね、ボクとアイツは同じだからね」
「違います!」
大声を張り上げる女。ビクリと震える月子。
「神道先輩とあなたは比べるまでもありません。あなたの居場所は、ここじゃない。あなたは伊藤先輩の隣にいるに値する人間じゃない!」
「……黙れ」
「黙りません! 返せ、神道先輩を、神道陽太を、返せっ!」
「月子、こいつを殺せ」
ボクは静かに囁いた。驚きのあまり、声が出ない月子。関係ない、こいつは殺さなければならない。
アイツさえどうにかすれば障害はない、そう思っていた。なのに、まだこいつがいた。たぶんだけど、こいつが最後の障害だと思う。こいつさえ殺せば、ボクは月子といっしょにいれるんだ……
だから、こいつは、殺したい。
「そんなこと、できない」
「殺してよ月子。ボク、こいつが邪魔なんだ」
フルネームがわかれば『命令』できるのに……いや、相手の能力がわからないんだ、使うわけにはいかない。だから月子を使うのが最良の一手なんだ。
ほら月子。キミは恋人であり『兵器』だろう? きっと最初で最後のピンチなんだ、『兵器』の本領を見せてくれよ。
さっさとこいつを殺せよ! 『伊藤月子』!
ピシリ
空間が凍ったような気がした。そして、周囲にあった数台の自動車が浮き上がった。
気づけば周囲には誰もいない。ボクたち三人に、周囲に浮かぶ数台の自動車。
邪魔者は動かない。少しも恐怖していない。
「伊藤先輩。そんな顔、しないでください」
邪魔者は言う。月子はどんな顔をしているんだろう。
「私は、あなたのことを責めません」
邪魔者は笑う。なんて優しい笑みなんだろう。
アイツのことを忘れてさえいれば、ボクの所有物にしてやったのに。
「待っててください、必ず助け」
ゴシャッ!
すべての自動車が邪魔者に集結した。
鈍い音。そして、静寂。
「あ、アアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
月子は崩れ落ちた。泣いている。大声で泣いている。叫んでいる。
『命令』がかなり早く覚めてしまったようだ。
「月子、泣かないで」
ボクの声は届かない。月子は歩道で倒れこみ、泣いている。倒れた拍子に取れたのかな、ニット帽が脱げている。
月子、大丈夫だよ。
邪魔者は、死んでいない。
自動車がぶつかる寸前で、邪魔者の姿が掻き消えた。月子のことだ、邪魔者が超能力者であろうとすべてを押さえつけていたはずなんだ。なのに、逃げられた。
……おそらく、超能力が介入できないような、ボクやアイツと同じような能力の持ち主。
能力がわからない、近い存在の邪魔者。
壊れたように泣き叫ぶ月子。
悩みの種が増えてきた。頭が痛い。
『コメント返信』
結局月子を引きずって連れて帰ったよ。月子は泣きつかれて眠っている。たまに取り憑かれたように寝言を言っている。「ごめんなさい」って。
ごめんね月子。そのつらい記憶、すぐに消してあげるからね。
[63:―――「――――――――」] 神道「神道です。確かに短いのも似合ってますね~これはこれでアリかもしれません」 <2012/02/11 23:06:43> 6i6oGQK/P
だから悪ふざけはやめろって言ってんだろボケが。殺すぞ。
[64] うん、陽太いらねぇわ。 <2012/02/11 23:07:53> 89luG4P1P
ようやく賛同者が現れたか。そうだよね、ボクがいいに決まってるよね。
[65] 違う世界線の誰かとかなのかなぁ <2012/02/12 00:14:14> gScP0iJ1P
当たらずとも遠からず。勘がいいなお前。
[66] 合コンの時に誘った女友達に『命令』した友達か?w <2012/02/12 15:26:30> qnIbv46/P
ああ、女友達というのがボク……あああああ! 今のは忘れてくれ!
――
……ん?
こ、これは、まさか……!?
――――
くそ、アイツか!
消したはずなのに、くそ、なんで、どうして!
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