ソフトBL的クリスマスの思い出/山下チンイツ
私の故郷(名は伏す)では毎年クリスマスになると成年の男子が村の集会所に集まって一夜を過ごす風習があった。何をするかといえばもちろんセックスである。
こんにゃくと里芋の栽培が主などこにでもある農村だが、江戸時代のある時期、女性だけが罹る病が流行し、村から一時的に女性の姿が消えてしまったことがあったそうだ。このままでは村が滅んでしまう、と考えた当時の村長は何をとち狂ったのか、村中の男共を呼び寄せてセックスを強要した。すると何と不思議なことに、子を身籠もる男が数人おり、無事村は復興を遂げたというのだ。後に村長は袋叩きにあって殺された。
今の常識で考えれば男が子を孕むわけはないから、両性具有の村人がいたとか、男装して生きていた女性がいたとか、そんなことであっただろう。というか「女性だけが罹る病」というのがそもそもの誤りで、そんな村長がいる村だったから日頃から男色が蔓延しており、嫌気が差した女性達が村を捨てて出て行ったのかもしれない。
伝説の真相はともかく私達は一年に一度、男同士のセックスを満喫していた。時がクリスマスと重なっていたのは、例の村長が殺されたのがその日で、彼の霊魂を鎮めるための儀式だとされていたからだ。
そんな建前はともかくセックスをした。
この日には県外から帰郷する者も多く、また噂を聞きつけた近隣の住人が、自分はここの村人であるかのような顔をして潜り込んだりもして、総勢百人近くの男達が一つの大部屋でセックスをした。百本のちんちんが振り回され、一兆に届くかという数の精子がほとばしる。集会所から漂う精液の香りは風に乗って隣の県にまで届き、多くの動植物に発情を促して季節感が乱れてしまったという。
私は二十五歳までその村に居た。県外に就職して故郷を離れた旧友や、体を痛め今じゃすっかり外では見かけなくなった近所のおじさんや、かつてその村に長逗留した際、私に小説の書き方を指南してくれた昔の流行作家などと、セックスしながら会話を交わした。
「久し振りやなあ。あっちで彼女出来た?」
「出来るかアホ。彼氏ばっかり三人や」
「体の調子はどないです?」
「どうもこうもあるかアホ。元気なんはちんちんばっかりや」
「先生、もう小説は書かれないのですか」
「書いてるよアホ! お前俺の本興味ないだろ! 昔っからそうだったけど!」
などなど。私は罵られると喜ぶということを知っているから、みんな調子よく罵倒してくれた。作家先生は小説の話になるとうるさいのでちんちんで口を塞いだら嬉しそうな顔をしていた。
というわけで私にとってクリスマスといえば「男同士の大乱交」というイメージがきつく植え付けられており、サンタとかイチャイチャするカップルだとかとうまく結び付かないでいる。この時期になると確かに下半身が疼くがそれは異性に向けてのものではなかった。
ちなみに私が本格的に小説家を志して上京した翌年、故郷の村は集会所の裏に長年蓄積された精液が何か知らんけど爆発して滅んだ。
(了)