「どういう人?」
俺はカオルと言う男の顔を睨みつけ訊いた。
「そう、君にとってナオちゃんと言う人間がどういう人なのかって聞いてるんだ」
「質問の意味が分からない」
「本当に? 君は本当にそう言ってるのかい?」
わかっている。こいつは俺が二週間考え続けた答えを訊いてきている。
バツが悪くなった俺が、視線を泳がせ少しでも時間を稼ごうとすると。
「男ならハッキリしたらどうだ? 君はそうやって物事をナーナーにしてるのか?」
「それは……」
「流されるがままに生きるのは誰でも出来る。でもそれを受け入れるのは大変なことだ。君は自分を受け入れているのかい?」
「なら……聞くが、そういうお前こそ、自分を受け入れているのか?」
「ああ、もちろん受け入れているとも! 受け入れ自分を理解し、そして自分の中にあるナオちゃんへの気持ちも理解している」
負けた。と思ってしまった。男が簡単に負けたと思うんじゃない。とお爺様は言っていたけど、カオルと言う名の男の一言に素直に負けたと思ってしまった。
「……そうか。お前はすごいな……」
「僕が凄い。とかそういう答えは聞いていない。僕が君に聞いているのはただ一つ。ナオちゃんをどう思っているかだ」
「分からない」
これ以上隠し通しても無駄だ。そう思った僕は、紙コップを見つめながら。
「中学校までは家が近所ということもあって、結構遊んだりした。でも、それまでで、高校進学とともにナオとの距離も開いていって……それでも、たまには遊んでいたりはしたんだけど……やっぱりそこまでで」
「僕が訊きたいのは馴れ初めじゃない。答えだ」
「だから分からないんだ。好きという言葉で片付けてしまうのは簡単だ。でも、それで片付けてしまっていいのか、今の俺には分からないんだ」
「それじゃぁ、君はナオちゃんに好意を抱いているということで間違いはないのかい?」
「多分な。でも、単純な好意なのか。それは俺にも分からないんだ」
「そうか。いいことを聞いたね、ナオちゃん」
とうしろの席に体を向け言うカオル。
その声に誘われるように立つ、そこに座る人物。
「ナ、ナオ……なんでここに」
「……なんでだろ?」
「それじゃぁ」
立ち上がったカオルは。
「おじゃま虫はそろそろ帰宅しますねー」
と言い残し店から出ていった。
空いたカオルの座っていた席に移動してきたナオは、俺の顔を何も言わず見つめる。
「ナオ……俺の話聞いてたのか?」
「うん」
「そのー……だな……その……だな……」
「うん」
「ごめん」
「何が?」
「いろいろと」
「そう」
「それで……なんでここにいるんだ?」
「これ、全部、仕込みというかドッキリというか。ナギサの心情を確かめたくて私が仕込んだの。もちろん、ミヤノっちにも協力してもらってる」
「まてまて、ミヤノっちって俺の高校のミヤノか?」
「うん。この間、あんたの素性聞かれて内に仲良くなってね。それから色々とあんたのこととか、その……もみてぃっくとかいうのとか……聞いていたというか」
と顔を赤くして言うナオ。
「なんでそんなことを?」
「最初はね、ナギサと同じで自分でも分からなかったの。なんとなく古馴染みとして、ナギサの高校生活が気になったと言うか……なんというか。それでミヤノっちが私に接触してきたあとから色々、ナギサの話を聞いてたらなんか……」
「なんか?」
「……察しなさいよ!」
と窓側に顔を向けるナオ。
「じゃぁ察する前に一つだけ聞くけど」
「なに?」
「カオルって男と親密な関係で、しかも胸を揉ませるような関係って言うのは本当なのか?」
「嘘に決まってるじゃない。カオルくんはただの友達。胸を揉ませるとか、誰にもさせたことないし」
ただの友達があそこまでするのだろうか? 胸の件はともかく、カオルの言っていたナオちゃんへの気持ちというのは、嘘とは思えない。
「そうか……」
「それで、察してくれるの? ボクの気持ち」
「ああ、察したよ」
「で、ナギサ。あんたの気持ちは決まったの?」
「うん。ナオ、俺は、ナオのことが――」
◇
「で、どーしても揉まないとダメなの?」
「一応、仕来りというか、なんと言うか……お爺様は謎にこういう所に気がつくからさ」
「わかったわよ」
夕日の光が淡くも幻想的に照らす俺の部屋で、ナオと俺。二人っきりで見つめ合う。
こればっかりは、こればっかりは譲れない。
ナオ曰く。ナギサは女の子の胸がもめて、しかも気持ちよければなんでもいいと思ってたから今まで我慢してたんだけど、さすがにもみてぃっくとかいう変態技を手に入れたって聞いて、それじゃぁ、女の子が大変なことになる! って堪忍袋の緒が切れた。からあの一件を仕掛けて猛烈アタックした。とのことだが、でもまぁ、胸は揉まないと。
「ナオ。一つだけ言っておく。俺はもみてぃっくとか言うのをやろうとすると、相手の胸の感覚があまりつかめなくなる。だから俺の、俺の本能従うまま揉みたいのだが。ダメか?」
「いい。いいよ。でも一つだけ約束して?」
「なに?」
「乱暴にしないでね?」
「善処する!」
俺は全身の力を抜き、指先にだけ神経を集中し、ナオの胸を揉んだ。
ナオの胸は今まで揉んだことの無い感触に包まれていた。例えて言うなら、宇宙だ。大きすぎず小さすぎず硬すぎず柔らかすぎず。調和の取れたその感触は、今までに揉んだことのない、ハーモニーを醸しだす、もう……なんだろうこれ……指先天国状態なわけで……あーやべぇ。頭おかしくなってきた……いいよね? これいいよね! 若き青春リビドー!
その後、何が起きたかは察して欲しい。うら若き乙女とうら若き男子が繰りなす、青春リビドーほど見ても楽しいものは無いだろう。
◇
「お爺様。約束の嫁候補を連れてきました」
お爺様の部屋に一人で入り、頭を下げる。
「ほう? で、その候補と言うのはどこに居るんだ? まさか『俺の頭の中に居ます!』と言うオチは無しじゃぞ?」
「ちゃんと居ます! ナオ」
その呼びかけに応じてふすまを開け入ってくる着物を着たナオ。
「ほう、ちゃんと着付けまでしてくるとは、ナギサ、お前本気だな?」
「はい、本気です!」
と頭をあげお爺様の顔を見る。
「では問う」
お爺様はシワのある眉間に更なるシワを寄せて。
「モミ具合はどうだったのだ?」
「……俺の嫁にふさわしい揉み具合でした」
「そうか……なら、お前の代までワシら一族は安泰じゃな!」
と大声で笑うお爺様。
その横で顔を紅く染めるナオ。
これでいいのか。と思いつつも俺の揉み物語は幕を閉じる。
でまぁ、ナオの胸は死ぬまで揉むことになりそうだが。