玄関を出ると、すぐ先には既に黒塗りのベンツが横付けされており、その横で運転手の佐々木がにこにこ突っ立っていた。
「智子様、高校の制服とてもお似合いですよ」
「はあ、そうでしょうか」
こんなやりとりをたしか入学式の時もしたような気がしないでもなかったが、智子は改めて自分の姿を見下ろした。今時すこし古臭い気もする、黒を基調としたセーラー服と緑のスカーフ。智子の黒く長い髪が合わさるとなんとなく幽霊のような、重く鬱々としたイメージが付き纏うような気がしてならなかった。
「はい、まさに智子様の長い黒髪にぴったりの制服じゃないですか」
「はあ、そうでしょうか」
なんにせよ、自分の身なりにはあまり頓着しない智子には正直どうでもいいことだった。髪も恰好も姉に言われるままに従っているのであって、そこに自分の意志は存在しなかった。
一方の佐々木は、と智子はちらりと彼に視線を送った。ゆるくウェーブの掛かった男にしては長い茶髪を後ろでこれまたゆるく縛っている。休日は智子の家の別荘のある海によくサーフィンに出かけていることからか、その肌もまたこんがりと茶色く焼けている。全体的になんというかこう、うんこみたい。それがいつも佐々木に抱いているイメージだったが、そんなことはもちろん口には出せず、彼を前にすると智子はいつも押し黙らざるを得ないのであった。
「それでは行きましょう、智子様」
「そうですね、うんこ」
玄関まで見送りに来ていた父に挨拶をして、智子は佐々木が運転するベンツに乗り込むと高校へと向かったのだった。