その4
「よし、そうと決まれば善は急げだ。放課後になったら船に来てくれ。宙木を引っ張り出せるアイディアも考えておいてもらえるとありがたい」
船ってなんだ、と思った次の瞬間には晩はそのことを忘れた。へらへら笑って、
「任せといてくださいよ。俺が本気出したら宙木の一人や二人」
なぜ入学早々引きこもったのかは知らないが、あのテの人間は寂しがり屋と相場が決まっている。あの手この手で嘘八百並べてとりあえず一度正門を潜らせてしまえば三神の負けだ。
三神。
唯一不安があるとすればやつの存在だった。三神拳治と言えばこの学校で名前を知らないやつはいないだろう。兄貴が暴走族で、彼女が二人。リア充と不良の間を彷徨っている同級生。できれば自分と天堂帝梨の間を彷徨うのはやめてほしかった。
噂によるといろんな意味で手が早いらしい。
幸いなことに晩は1年B組。三神(と宙木)はC組で隣だ。宙木も案外あの茶髪に眩暈を起こして学校が地獄に見えるようになったのかもしれない。だった一歩だけ勇気を振り絞ってもらって、後はねぐらにお帰り願おう。
まったく耳に入ってこない授業を聞き流しながら、晩は授業の終わりを待ち、保健室へ向かった。髪を手櫛で整えて制服の襟を正してノック。返事を待たずにドアを開ける。
「ちーっす。てんてー……?」
保健室にいつもの女医の姿はなかった。代わりに椅子に座っていたのは、ショートカットの少女。足元の上履きのラインを見ると赤。
二年生だ。
入学してまだ二月、まだ中学と高校の空気の違いもよくわかっていない一年生に緊張が走る。が、自分が相手にしようとしているのは女医であり歳の差が少なくとも六はあるだろうことを思い出して勇気が戻る。
「あの、てんてーは?」
少女は答えない。じっと晩を見返してくる。こいつ多分おれのこと好きなんだろうなと晩は思う。
「えっと……先輩ッスよね? てんてー待ってる感じですか?」
少女がぱちぱちと瞬きをする。
「てんてー……?」
「あ、天堂先生のことッス」と言ってから、そんなこと入学したての一年坊主でも知っていることだと気づく。この二年生、友達がいないのかもしれない。箱に入れて届けたら喜ばれそうな黒髪は男子にはウケても恐ろしい女子高生どもからは総スカン(ありえなくなーい?)されても不思議ではない。思わず同情してしまう。
「天堂?」
「うん、天堂……うわっ?」
いきなり少女がガタガタと震え始めた。ダブッて見えるほどに丸椅子の上で影分身を繰り返す少女は舌を噛みそうな勢いで、
「おまままおまおおおまおまおま」
どうしたらいいんだろう。学校は大切なことはなにも教えてくれない。
晩は意を決して、少女の肩を上から両手で押さえつけて震えを止めた。
「おまえもやつの手先か……さわるな……」
「わかった」
ガタガタガタガタガタ!
このままだと身体が不必要にぽかぽかになってしまう。やむなく晩はまた少女の身体を押さえた。
「俺、一年の千代崎って言います。南中出身ッス。先輩は?」
とりあえず質問して人間らしいコミュニケートをしてみようと思った。が、甘かった。いきなりの不意打ちで晩も咄嗟に動けなかった。
少女が晩に掴みかかり、その身体を床に打ち倒した。背骨を強打して生と死の境をさまよう晩の首を締め上げて少女は叫ぶ。
「言えッ! やつは何を企んでる? いったい何が目的だ? 私たちをどうするつもりだ? なぜこの宇宙船は飛び立たない? ひょっとしてもうみんな人間じゃないのか? おまえは誰だ? 私は誰だ?」
「知……らね……ぐえ……」
このままだと本当に殺される。
超至近距離から見る少女の目は血走っていて、よくよく見ると整った顔立ちに見とれることも今はできそうになかった。晩は緊急避難で少女の太ももを指先で思い切りつねった。
「ぎゃああっ! 何をするんだ! 痛いじゃないか!」
「うわああっ! 何をするんだ! 死に掛けたじゃないか!」
ウィットに富んだ晩の涙交じりの叱責も少女は無視して赤くなった太ももを「痛い……痛い……」とさすっている。目に涙を浮かべれば人を絞殺していい世界なんて晩は大嫌いだった。
「この女……人が下手に出てりゃァ殺しにかかってきやがって。俺がいったい何したってんだよ」
晩が一歩踏み出すと、
「ひっ」
少女が尻で後ずさった。不審に思って背後を振り返って見ると、購買のパンを一山抱えた天堂帝梨が入ってくるところだった。
「こいつの名前は渦見美鳥。二年生で、保健室登校をしている」
天堂帝梨はぽんぽんと椅子に座った渦見美鳥の頭を叩いて、
「ちょっと空想が人より好きでな。なんでも私が宇宙人に見えるそうだ。はっはっは、どうだ晩、面白いだろう。笑え」
顔面蒼白になっている美鳥を見て笑えるやつがいたら鬼畜だろう、と晩は思う。
「悪かったな晩。ちょっとおやつを買いにいってたんだが、まさか美鳥がおまえを殺しにかかるとは想定していなかった」
「いや、いいっすよ別に。女子の力じゃ死なないっす」
「だ、そうだ。美鳥、ごめんなさいは?」
空気の漏れるようなか細い音が蝋人形のような美鳥の口から吐き出された。
「美鳥は変わったやつでなあ。――私のことを宇宙人だと言うんだ。おかしいだろ?」
「宇宙人……?」
手先とかなんとかいうのはそういうことか。晩は美鳥にいろいろ聞いてみたくなったが、美鳥はそれ以上追い詰めると心臓発作で死んだりしそうな顔をしていたので、その件はそれでチャラになった。
「で、てんてー。宙木の件なんすけど」
「うむ」天堂帝梨はあろうことか机に座った。
「何か案は持ってきたか、晩?」
「あー。そっすね、とりあえず家行ってみるのが手っ取り早いんじゃないすかね」
「家に行ってどうする?」
「一応会ってみて、学校に来るよう説得してみましょう。駄目で元々、後のことはそれから考えればいいと思います」
「ほう。なかなか前向きだな。よし採用」
「うす」
「で、美鳥、おまえも来い」
美鳥は天から槍が降ってきたような顔をした。
「何、保健室登校のおまえもいれば宙木の気持ちもわかってやれるかもしれん。な? いいだろ? ほら、アンパンあげるから」
「そういう問題じゃ……」
「な?」
ぎらり、と天堂帝梨の目が妖しく輝き、美鳥はがくんとうなだれた。
「わかり……ました……」
「うし。じゃあ晩……」と何か言いかけた天堂帝梨の首根っこを引っつかみ、晩は保健室の隅っこまでちびっ子白衣を引きずっていった。
「おい! 私だって窒息ぐらいするぞ」
「何言ってるんです? そんなアホ言ってるから宇宙人呼ばわりされるんすよ。それより……」
「それより?」
「あの人、大丈夫なんですか? ちょっと怖いんですけど……」
天堂帝梨は向こうで俯いている美鳥を見やり、
「べつに問題なかろう」とこともなげに答えた。
「だって宇宙人の電波受信できる人でしょ? やっぱまずいっすよー俺混線したくないですもん」
道端でいきなり奇声でも上げられたらたまったものではない。
天堂帝梨は笑ってポンポンと晩の肩を叩き、
「安心しろ。悪いやつじゃないから」
「殺されかけましたけど」
「生きていれば、そういうこともある」
「そうかなあ」
「そうさ。さ、美鳥、いつまで貧血起こしてる。私に逆らうともうベッドは使わせんぞ」
「うう……」
「まずは、宙木の自宅だったな? ふむ、これが家庭訪問というやつか。私はいま猛烈にわくわくしている」
「てんてー、生きてて楽しそうっすよね……」
「まァな」
生徒の住所録のコピーを無断で持ち出して職権濫用甚だしい天堂帝梨が、道を二度も間違えたせいで、宙木家に着いた時にはもう日が暮れかけていた。
「てんてー、どうして番地までわかってるのに迷うかなあ」
「ぬかせ。電信柱にいろいろ書いてあることに美鳥が気づかなければ、お前も私もいつまでも放浪ビーコンだったではないか」
「……天堂帝梨……やはり地球の常識に不慣れということは……?」
「ほらー。てんてーが馬鹿だから美鳥先輩が向こう側にまた行っちゃったじゃないですかー。俺もう引き戻すの嫌ですよ。てんてーなんとかしてよ」
天堂帝梨はやれやれとばかりに肩をすくめる。
「美鳥、いいことを教えてやろう。……常識は学校では教えてくれないッ!」
「そんなことない」美鳥の目がゴミを見るように冷たい。
「そんなことないらしいぞ晩」
「いや俺に言われても……そもそも教師が言っていいのかそんなこと?」
「うるさい。とにかく行くぞ。あ、晩待て。ピンポンは私が押す」
「……。いやあ俺ほんとなんでこんな人を……」
ぶつぶつ言う晩の横を通って、宙木家の玄関前に立った天堂帝梨は背伸びをしてインターホンを押した。
反応はない。
「留守っすかね」と晩。
「メーターも落ち着いてる」と美鳥。
「いや、いる」と大気中のにおいを唐突に嗅ぎ始める天堂帝梨。晩が若干ヒイている。
「ふん? この私に居留守だと? なめた真似をしてくれるじゃないか宙木雲雀!! 脊椎動物の分際でこの私を無視するとはな」
こういう馬鹿を言っているから夢見がちな高校二年生を妄想とオカルトの世界に引きずりこんじゃうんじゃないかなあ、と晩は思うが口には出さない。天堂帝梨は本当に自分をなめている教え子が斜め後ろにいるとは知らず、腕を組んで引き戸を見上げ、ふんと機関車のような鼻息を吹く。
「この程度の障害を越えられずに恒星間光速航行ができるものか。おい晩、美鳥、お前らちょっと後ろ向いてちゅーでもしてろ」
「まったく何を馬鹿なことを。しかしまァやれと言われれば仕方ないですね美鳥せんぱ」
「近寄らないで」
「…………。冗談ですもん。ほんとだもん」
晩が力なく俯き、美鳥がそのつむじを視線で圧している間に天堂帝梨の指先がにゅるりと伸びて、引き戸の隙間に入り込み、かちゃりとかけ鍵を戸の向こうから上げた。天堂帝梨は自分の家のように引き戸を開けて、今気づいたような顔をして背後を振り返った。
「お前ら何してるんだ?」
「てんてーが馬鹿言ったせいで俺が嫌われてることがわかったところです」
「嫌いとは言ってない。私は哺乳類には誰にも近づかれたくないだけ」
「広いなー。海よりも広い範囲だなー。もうチンパンジーですら無理って鉄壁とかいうレベルじゃないよね」
「ふざけてないで行くぞ。生身で住居不法侵入するのは初めてだ、わくわくする」
「教師が言うセリフじゃ……って鍵は?」
「さあな」
天堂帝梨はとっとと中へ入ってしまった。晩と美鳥は顔を見合わせる。
「どうします。撤退って手もあると思いますが」
「逃げたら……殺される」
この電波、目がマジだ。
むしろこの電波先輩から逃げ出したい晩だったが、結局あの白衣に見切りをつけられずに宙木家の敷居を潜った。上の方でドドドドと足音がするので天堂帝梨は二階へ上がったらしい。
「なんかフツーの家っすね」
「引きこもりだって人間」
「なるほど」保健室登校者が言うと重みが違う。
晩と美鳥は二階に上がった。誰かの話し声がする部屋の扉が半開きになっている。その扉のドアノブを握った時、晩の脳裏にさまざまなイメージが迸っては消えていった。学校に行きたくないとは思っても、引きこもりたいとまで思ったことはない晩にとってその扉の向こう側にあるのは理解できない世界だった。テレビで報道される世界であって、教育委員会が問題視する世界であって、自分の世界とは遠い場所にある世界だった。荒れ果てているのだろうか。人形やらポスターやら、ひょっとすると誰かの写真がびっしりと貼ってあったりするのだろうか。電気もつけない暗い部屋でただただ自分の趣味に耽り続けるというのはどんな気分がするのだろう。たったひとりきりでこんな狭い箱みたいな部屋の中にずっといると、人間の心はそれこそ宇宙人のようになってしまうのではないだろうか。
この期に及んで晩は怖くなった。引き返そうかと真剣に思い、しかし今の自分の顔を背後の知り合って間もないちょっと頭がおかしくかなり顔が綺麗な先輩に見られたくもない。それは自分があの白衣に好かれていようと関係ない男としての、
「早く入って」
蹴られた。
たたらを踏むようにして入った部屋を、晩は顔を上げて目の当たりにした。
普通の部屋だった。
人形も写真もポスターもない。ベッドと本棚と机、それに部屋の隅に畳まれた洗濯物があり、床には角の折れたジャンプが一冊放られている。
「おお、晩、なにグズグズしてたんだ?」というチビ白衣と、もう一人が部屋の中にいた。ベッドに腰かけている。黒いスウェットを着た男子は思っていたほど小柄ではなく、日に当たらない肌は血管が透けて見えるほど白く、長い前髪が顔の半分を覆い隠していた。
晩がごくりと生唾を飲み込んだ。
こいつが、宙木雲雀。
「雲雀、紹介しよう。このふやけたようなツラをした男子がお前のクラスメイトの千代崎晩。もう一人の呪いの人形っぽいのが保健室登校をしてる二年の渦見美鳥で、お前のよきアドバイザーにする予定だ」
宙木は何も言わない。視線が前髪で隠れているのでまるで聞いていないように見える。
「……ええと、よ、よろしく」
晩はとりあえず水を向けてみたが、やはり反応なし。
「ふむ。雲雀はこいつが嫌いか?」
「べつに」
晩はカチンと来た。
先公を間に挟まなきゃ喋れないのか?
それまで少々ビビっていたために、怒りの反動はかなり大きかった。
「面子もそろったことだし、改めて話そうか。なあ宙木、学校に来ないか?」
宙木はゆるゆると首を振った。
「行かない。そのことについて話すなら帰ってくれ」
「ああ、さっきもそう聞いた。だが、なぜだ? どうして学校に来たくないのだ? 何か嫌なことでもあるなら言ってみろ」
「すげえ……てんてーが教師っぽいこと言ってる……」
「黙ってろ晩。で、どうなんだ、雲雀?」
「……。あんたらには関係ない。何かあっても言う気はない。帰ってくれ」
「帰れ、か」
天堂帝梨は寂しそうに目を細める。
「一番言われると効く言葉だな。雲雀、言われんでも腹が減ったら帰るから、もうそんな悲しいことは言わないでくれないか?」
またぼそぼそ「宇宙人……」とかなんとか言い出した美鳥を晩がわき腹を小突いて黙らせる。
宙木はしばらく口を閉ざしていたが、やがて言った。
「俺には関係ない。帰れよ。行きたくないから行かない。それだけだよ」
その一言で晩の短気がプツンと切れた。部屋を横断して宙木の胸倉を掴んで叫ぶ。
「――んなんだよその言い草はッ!?」
「晩! こら、おまえ私の命令なしに――」
「あのなあ、確かにてんてーは馬鹿だしチビだし良いとこねえよ!」
「ば、晩!? おまえは一体誰を攻撃してるんだ!?」
構わず続ける、
「でもな、この人馬鹿だけど、おまえんとこ来たのも成り行きっぽいとこもあるけど、でもおまえが学校に来れるようになったらいいなってマジで思ってんだよ!! 別に給料もあがりゃしねえのに放課後の時間使って来てくれてんだよ!! それをなあ――」
一方的にまくし立てられる宙木の目に、その時はっきり熱がこもったが、天堂帝梨と美鳥に晩が引き剥がされたので、そのことには誰も気づかなかった。
「なんだよ、放せよ、先生!! 先輩!!」
「暴力は野蛮」と美鳥は苦い顔。
天堂帝梨は、
「いいことを言ったつもりだろうが前口上で私はかなり傷ついた」と涙目になっていた。
「だってこいつ――だってさあ!!」
「おかしいな」
三人が宙木に注目した。
「三神が言うには、俺は学校へ来ない方がいいみたいだったけど」
「三神? あいつが来たのか?」
「…………」
黙り込んだ宙木を苦々しげに天堂帝梨が見る。
「あいつの言うことは気にするな。やつが何を言ってこようが、それこそ雲雀には関係ないことだ。安心して学校へ来い」
「…………」
「おーい、雲雀?」
「…………」
「もしもーし」
「…………」
「私は宇宙人だ。返事をしなければぶっ殺す」
「ひいっ!」
「てんてー! 美鳥先輩が引きつけ起こすからやめろ!!」
「おお、すまん」
にやにや笑いながら謝罪する天堂帝梨。こいつ半ばわざとだったなと晩はアタリをつける。
「ふむ」
彫像と化した宙木のつむじを見下ろして、天堂帝梨は言う。
「私とはもう話す気がないようだ。晩はもう前科者だから、美鳥、おまえ何かないか? 保健室のよさでも語ってみてくれ」
「……あたし?」
「そうだ。学校嫌いはおまえの方が年季が入っているだろう。なんとかしろ」
教師とは思えない言い草だ。が、美鳥はさして気にした風もなく、ちょっと考えてから言った。
「宙木くん」
宙木が少しだけ顔を上げて美鳥を見る。
「学校なんて来なくていい」
天堂帝梨がウンウンと頷き、
「そうだな、学校なんて来なくていいんだ。朝早いし面倒くさいし教師はうるさいし宇宙船は突き刺さったままだし……美鳥ッ!?」
錯乱したちびっ子白衣を晩が羽交い絞めにして叫ぶ。
「先輩! さすがにそれはどうかと!」
「どうせいいことなんかない。いつか死ぬならここにいても問題ないよ」
「……。ふうん」
宙木は聞いていたのかいないのか、立ち上がると壁にかかっていた薄手の上着を羽織った。まだ肩を極められたままの天堂帝梨が慌てて叫ぶ。
「ど、どこいくんだ雲雀! まだ私の家庭訪問は終わっていないぞ、お茶もお菓子も出されてないぞ!」
「そんなもんうちにはない」
「な、なんだって……? じゃあおまえはどうやって私をおもてなしするつもりだったんだ!?」
「そもそも聞いてない。電話連絡くらいしてくれ」
「そうだぞ晩、おまえは本当に気が利かないなー」
「アンタ都合の悪いこと全部俺に投げる気だよね!? やめてくんないかなそのスタンス!!」
「馬鹿を言うな、ほれ昔から言うだろ可愛い子と旅をしろと」
「一緒についていってどうすんだよ……あれ? 先輩、宙木は?」
美鳥は無表情に半開きの扉を指差した。
「鍵は鉢植えの底に貼ってあるから閉めてってくれって。あとお母さんがもう少しで帰ってくるから本当にとっとと帰れって」
「ほう? 雲雀のマザーか……家庭訪問はやはり保護者まで巻き込んで完了と言えうぐっ」
これ以上ことをこじらせると大問題になりそうだったので、晩は謝罪一念、女医の首筋に当身を食らわせて黙らした。天堂帝梨の口が閉じてようやく人心地を取り戻した気になる。
「じゃ、撤退しましょうか、先輩」
この一騒動を終えて、美鳥は疲れひとつも見せずに頷いた。
(解説)
俺が、この俺がノリツッコミを書いているというだけで、なんだろう、娘の運動会を見るような優しい気持ちになりませんか? なりませんか。
いや、このあたりは確かそこそこ楽しんで書いてたような気がするんですよね。先生がボケて男が突っ込んで、みたいな形が定まってきた気がします。
美鳥が浮いて使い物にならなかったんで、のちのてこ入れへと繋がるわけです。