クレアは知っていた。あの白い宇宙戦闘機が、PH能力を増幅するサイコ・フレームを満載したPH専用の可変機動歩兵だということに。ジャンク屋も分かっていて使い道に途方に暮れていたはずだ。本物の最新技術の結晶がこんなジャンク街にあったって、危なっかしくて簡単に売り捌けすらしない。
その機動歩兵がついに動いてしまった。
アリスが動かしてしまった。
人並み外れた強力なPH能力があれば、サイコ・フレームを搭載したようなPH専用機は直接操縦しなくても念じただけで動かすことが出来ることも知っていた。
「でも・・・私は・・・」
クレアは口噛む。
まさかアリスがそれほどのPH能力者とは。
まさかこんな状況になるとは。
まさかこんな日が、来るとは。
「私・・・は・・・」
可変機動歩兵は上空で飛行機から巨人へと数秒もかからず変形し、舞い降りる。
着地のショック。破砕される地面と暴力的な風が吹き荒れる中、アリスは巨人へと手を差し伸べていた。アリスは機動歩兵の巨大な人差し指を両手で包み込む。
「やめろ!アリス!」
クレアは叫ばずにはいられない。
「私は!このままアリス、お前と一緒に暮らせたらと思ってたんだ!私は仕事をして、お前は学校に通ってさ!私の稼ぎはそんなに悪くないんだぞ!お前を山の手のお嬢様学校に通わせてやって!お前ならすぐに友達もきっとたくさんできるさ!そうなれば当然ウチに呼ぶんだよな!?そうなるのは当然の流れだ!それであの静かなリビングが今よりもっと・・・もっと騒がしくなる日が・・・来て欲しい、って・・・」
「クレア」
アリスの眼がクレアを見つめていた。
「ありがとう」
機動歩兵のコクピットがアリスを飲み込む。