トップに戻る

<< 前 次 >>

ダーク・ゲート(12.10.2012)

単ページ   最大化   

 プラチナバードを載せたエレベータが止まった。
 闇と静寂が支配する広大な空間に、18mの機動歩兵、プラチナバードが小さく見えるほどの巨大なゲートがそびえている。
 プラチナバードの胎内で、クレアが口を開く。
 「ここでいいんだな。最下層だ」
「うん。あのゲートの向こうから聴こえるよ」
グレースにはこの静寂の中でも声が聴こえているのだ。
 助けを求める声が。
 「しかしさすがにこの巨大なゲートはプラチナバードの兵装では壊せないぞ」
「中からなら開けられる。あそこに人が入れる非常口があるの・・・覚えてる・・・」
 「グレース・・・」
 コクピットの後部座席からは、宇宙服を着たグレースの表情は見えない。
 クレアはあえて今までグレースの正体について尋ねなかった。彼女の過去をあばくことよりも、娘代わりのようにつきあってきたグレースの達成したい思いをかなえてやる手伝いをするほうが優先だと思っているからだ。
 彼女の友人たちを救出したら、聴かせて欲しいな。色んな昔のことを。

 2人はプラチナバードの胎内から出て、ゲート下部にある人間用の非常口へと降り立った。
 グレースは手慣れた手つきで非常口の端末に暗証番号を入力し、非常口のロックを解除する。
非常口を抜けると、そこは病院のように潔白な、白の廊下だった。いや、クレアはこれと似た空気を知っている。これはかつてクレアが勤めていたのと同種の、研究施設だ。
クレアはプラチナバードから持ちだしたハンドガンの作動を確かめる。弾も入っている。人の気配はないが、ここか、あのゲートの向こうにグレースに思念波を送っているPHの仲間がいるのなら、それを拘束しているXion残党軍の人間が居てもおかしくない。
 何の装飾もない白い廊下を進んでいく。
 2人の足音だけが響く廊下に、突然ガタッと音がした。
 ちょうど右手側の部屋からだ。窓などはなく、中は確認できない。
 クレアは思わずその部屋の扉にハンドガンの銃口を向けるが
「ジョン博士だ!」
グレースがわっと銃口の先に飛び出して扉に取りついた。
「ここはジョン博士の部屋!博士は良い人だよ、クレア!きっと助けてくれる!えーっと博士の部屋の暗証番号は・・・」
 グレースはこれまた手慣れた手つきで部屋のロックをプッシュする。よほどジョン博士とやらと仲が良かったのだろう。
 「おい、必ずしも博士が居るとは限らないんだから用心しろよ!誰か他の敵がひそんでいるのかもしれないんだ」
 「大丈夫、ロック用の暗証番号が変わってないからきっと博士だよ!」
ピッと音がして扉のロックが解除される。
「博士!私だよ!グレースだよ!」
その薄暗い荒れ果てた部屋の一番奥には、痩せこけた白髪の男が何かの紙束を抱きしめて死んだように座っていた。
男の落ち窪んだ目がぎょろっと2人を見据える。それで初めてクレアは彼がまだ生きているのだと判った。
「博士!どうしたの博士!?」
グレースが駆け寄って男を、ジョン博士を揺さぶる。
 「グレース・・・よかった・・・生きていたのか・・・」
ジョン博士は震える右手でグレースの頬を包み、ぽつぽつつぶやくように喋った。
 「どうして戻ってきたんだ・・・」
 「みんなが呼んだからだよ!ねぇ、みんなはどうしたの!?アイカは?ハーディは?ベリーは?」
 ジョン博士は沈黙した。グレースの瞳には涙が浮かんでいる。
 「博士、どうして私をコールド・スリープなんかにしたの?なんで私だけ!」
 なぜ、どうして、どうなっているの、グレースの疑問と嗚咽は尽きない。
 「おまえしか・・・間に合わなかった・・・」
「みんなは・・・どうなったの・・・?」
 博士の身体の震えがひどくなる。博士の歯がカチカチ鳴る音だけが薄暗い部屋にこだまする。
 そこで初めて、クレアは博士が抱いていた紙束が何かということに気づいた。
 グレースが揺さぶったせいで、その紙束は床にぶちまけられている。
 あの紙束は、画用紙の束だ。すべてに子供が描いたような拙い絵が描かれている。
特にクレアの目を引いたのは、色鉛筆で描かれた、白衣を着た男の笑顔の絵だ。それを囲むように6人の背の低い子供たちも描かれている。
 「殺したよ」
 博士はせきを切ったように体を震わせ、咆哮する。
「みんな私が殺したんだ・・・!あぁ・・・ああああ・・・!」
14

かたろっく 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る