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ヴァイオレンス・ダンス(12.10.2012)

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 市街地に墜落した巨大な宇宙戦艦の骸の上を、3羽の黒い鳥と1羽の白い鳥が舞う。
 白い鳥、プラチナバードと呼ばれる可変機動歩兵ReGZのカスタム機は、驚異的な機動力で3機の攻撃を回避し続ける。だが
 「グレース!分が悪い!市街地に逃げ込め!」
 プラチナバードのパイロットの一人、クレアはそう指示した。
「分かった」
メインで操縦しているパイロット、グレースは頷くと、プラチナバードを急降下させる。
 耐Gの宇宙服を着ていても圧力がのしかかる。
 「今度ばかりはグレース、あんたの才能だけじゃ無理だ」
クレアはGを受けながら急降下中も話し続ける。
 「作戦がある・・・。聞いてくれるか?」
 「いいよ、クレアと私は運命共同体だからね」
 「運命共同体ね、乙女らしいロマンチックな言い回し・・・!」

 白い鳥は急降下したまま機首のバルカン砲を掃射、ビルをなぎ倒し、粉塵が巻き上がる。粉塵舞い上がる市街地へと突っ込んで姿を隠した。地面に衝突する寸前、瞬間的に飛行形態から人型形態に変形、着地したのだろう。並のパイロットができることではない。リチャード大尉のような可変機動歩兵乗り、可変機動歩兵の名作機「Z」の名称から通称“Zドライバー”と呼ばれるエースパイロットにとっても、視界も足場も不鮮明なままであのような地面に激突しかねない機動を行うことは100%成功するとは限らない危険行為だ。だがあの白い機体はそれをやってのけた。
「機体だけでなく、パイロットもまごうことなきエース級ということか・・・」
 リチャードは操縦桿を握り直し、上空から自身の機体「Z+」を急降下させる。
 「上空で旋回していては狙い撃ちされる。市街地に降りろ!」
 「ヤタガラス3了解」
 「同じくヤタガラス2了解・・・うわーっ」
2番機が市街地から狙撃される。ビームは当たらなかったが。。
 リチャードは急降下の機首を上げてビームの発射源に向けランチャーを発射し反転攻勢する。
ランチャーはビルをなぎ倒すが、手応えはない。狙撃と同時に別の場所に移動したのだろう。
「2番機無事か!?」
 「ぶ、無事です!このまま降下します!」
2番機は危なげもなく広場の廃墟へと着地に成功する。
 だが、リチャードは不安を覚えた。
 
プラチナバードが市街地に隠れたのは、3対1の状況を覆すためだ。クレアはかつてPH研究に努めていたとき軍人と交流があった経験で可変機動歩兵の欠点を知っていた。
 「可変機動歩兵の一番の欠点は、人型形態時における関節構造の弱さだ」
 モニターで周囲を警戒しつつ、クレアはグレースに聴かせる。
 グレースはプラチナバードを“あるポイント”まで移動させている。
 「変形時に内部のフレームまで組み換えるから、どうしても通常の機動歩兵よりもフレーム強度が弱くなるんだ。つまり、接近戦に弱い」
 「だが、このプラチナバードはその点を克服できている。つまり、変形時にフレームの組み換えをしないタイプの変形機構なんだ。接近戦ならこちらのほうが強い」
 「この狭い市街地なら、一対一にも持っていけるし、接近戦にも持ち込める。アドバンテージはこっちにあるといってもいいくらいさ・・・それに・・・」
「あっ、クレア、言ってたポイントに着くよ」
 「・・・ハナシきーてたかお前?」
 「聞いてた聞いてた」
 クレアがグレースの宇宙服のバイザーを覗き込むと、明らかに聞いてなかった顔である。
 「相変わらずで安心したよ」
思わず微笑んでしまう。グレース・・・元アリスは記憶を取り戻してから少し大人っぽくなった気がしたが。
 そんな思いも敵接近のアラートがかき消した。
「グレース!おもいっきり脅しつけてやれ!」

 すでに僚機の2機は行動不能に陥っていた。
不安は現実となっていた。おかげでリチャードまで冷静を失いかけている。
 2番機のパイロットは新米だが、3番機のリチャードとも付き合いの長いエースパイロットがいれば、あのReGZ相手でも問題ないと思っていた。
 しかし3番機も右のアームと脚部を損傷して行動不能に陥っている。
 あのReGZに執拗に攻撃され精神錯乱させられた新米の2番機が、錯綜する市街地戦の中で、3番機に向けて誤射を起こしたせいだ。
 おそらく降下中に2番機が狙撃されたのもわざとと考えるべきだろう。
 接近警報。正面に白い敵機が踊りでてくる。
 敵の武装は右手で振り上げたビーム・サーベル。
 リチャードは両腕のビーム・サーベルで防ぐ。そうでなければZ+の関節は撃ち負けるのだ。ビーム刃の鍔迫り合いが火花を散らす。両機が足を踏みしめてその場に釘付けにされる。
 「勝った!」
 リチャードは叫び、機体の股間部に据えられた“隠し腕”を起動。
 “隠し腕”がその先端にビーム刃を形成し、敵機の腹部コクピットへ飛び込む。

「ファンネル!」
最初のビームが“隠し腕”を貫き、続いて発射されていく無数のビームが敵の黒い機体から四肢を切り裂いていく。四肢を失った機体は、アスファルトの上に落下し、無残なその骸を晒した。
 「間に合った・・・」
 クレアは息をつく。これはイチかバチかだった。このプラチナバードに搭載された量のサイコ・フレームで増幅された思念波であれば、同じくPH技術で遠隔操作される無人砲台「ファンネル」のコントロールをジャックすることも可能であろうと推測され、クレアは移動中にコクピットの端末からそのサイコミュ・ジャックの準備を進めていたが、実際に可能かどうかは不明なままだった。
「今のは危なかったね・・・」
 グレースも脱力している。
しかし状況は休息を認めない。
「グレース、これで邪魔者はいなくなった。行こう」
 「うん。ちょうど、あそこのエレベータだよ・・・」
 市街地の外れには、人口の巨大宇宙ステーションを整備維持するための地下基地に繋がる大型の搬送用エレベータがある。
 18mの機動歩兵を大型エレベータに移動し、一旦外に出たクレアがエレベータの作業パネルを叩く。
 「電源はまだ生きてる・・・」
 手順通りの操作でエレベータが起動した。地下へ下降する。
 クレアがコクピットに戻ると、グレースは目を伏せて祈っていた。
 みんな待ってて・・・今助けるから・・・。
 プラチナバードは漆黒の地下へと潜っていく。
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