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最終章 Johann,

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 ヨハネスが目を覚ますと、僕達は彼に真相を告げた。
 「パイモンが全ての元凶か‥。俺は一族の仇に、いいように騙されていたという訳だな。」
 ヨハネスは自嘲気味に笑う。
 「今回の件だけでなく、過去にもパイモンは同じようなことを繰り返しているようだ。」
 「‥何か、パイモンを倒す方法を考えよう。」
 僕は提案する。
 「‥腹立たしいが、奴の強さは次元が違う。四精霊の力を以ってしても、赤子扱いだろう‥。」
 ―‥こんな弱気なヨハネスは初めてだ。
 一族を皆殺しにした相手に騙されて魂を担保に取られたあげく、いいように利用され、それに気付いた後も手も足も出ないなんて‥。今どんな気持ちだろう‥。
 と、ヨハネスがおもむろに立ち上がった。
 「‥皆、俺の為だけという訳ではないだろうが、今まで力を貸してくれて感謝する‥。俺だけの力では、真相を知ることは出来ず、パイモンに魂を喰われて終わりだっただろう‥。特にアンリには、脅迫紛いのことをしたからな‥。」
 ヨハネスが僕を見る。
 「だが‥、俺は何としてでもパイモンを倒さなければならない。ここまで一方的に協力をして貰って虫のいい話だが、もう少し力を貸してくれ‥。」
 そう言って、彼は頭を下げた。
 「らしくないな。」
 ガルーザが言う。
 「貴殿は命の恩人だ。それに、ヂードゥの仇であるエル・シドを討ってくれた‥。これからも協力するさ。クインもそう言うはずだ。」
 ガルーザが牙を見せてニヤリと笑う。
 「‥私も同じ。クインは私の恩人。彼女の友人を助けるのは、当然よ。」
 シュジェが言った。
 「僕は‥ヨハネスと会えて良かったと思ってる。ヨハネスと会わなければ、ずっと真実に怯えながら暮していただろうからね‥。それに、そのおかげでウェンディや皆にも出会えたしね。」
 「‥アンリがやるならわたしも協力するわ。」
 ウェンディが呟く。
 「俺は利害が一致したから協力しただけだ。礼を言う必要はない。それに、パイモンは両親の仇だからな‥。頼まれなくても協力する。」
 そう言って、イヴが立ち上がる。
 「それに、パイモンを懲らしめる方法ならある。」
 「何‥?」
 「悪魔の世界にもルールはある。パイモンの行為は、明らかにルール違反だ‥。ガイアの記録と共に、パイモンの所業を告発する。」
 「告発って‥、誰に?」
 「悪魔達の王、サタンにだ。」
 「‥そんなことが可能なのか?」
 「ヒューマンには不可能だ‥。だが、この世界を治めるガイアになら可能なはずだ。」
 イヴの説明が終わると、一同は沈黙する。
 「よし、そうと決まれば、さっさとガイアにお願いしましょう!」
 手を鳴らし、ネスビットが言った。
 僕らは再度地下へ降りると、ガイアを呼び出し、事情を説明する。
 「それは確かに可能だ。私がサタンに陳述すれば、少なくとも、パイモンは2度と同じことを出来ないだろう。」
 「やった‥!ざまあみろパイモンめ!」
 ネスビットが跳び上がる。
 「だが、その場合、私は陳述に基づいてヨハネスを裁くことになる。」
 「裁くって‥‥何故?」
 「パイモンに騙されたとは言え、勝手な判断で罪のない生命を奪ったからな。その罪を償うことになる。」
 僕はヨハネスを見る。彼は特に驚いた様子はない。
 「‥どの程度の罪になるんだ?」
 イヴが聞いた。
 「多くの生命を奪ったからな、死罪は免れないだろう。」
 「‥‥わかった。それでいい。」
 ―ヨハネス‥?
 「もともと捨てた生命だ。パイモンに一撃を加えられるなら、それでいいさ‥。」
 ヨハネスは祭壇に向かって進む。
 「そうか。では、誓約書にサインをしろ。」
 ガイアが告げると、祭壇の上に誓約書が現れた。ヨハネスはそれを手に取る。
 「ふざけるな!」
 思わず、僕は叫んだ。
 「ヨハネスは、一族を皆殺しにされて、1人で生きてきたんだ‥!確かに、罪のない生命を奪ったことは許されないけど‥、それだってパイモンに騙されてしたことじゃないか‥!全ての元凶はパイモンだ!パイモンを裁くためにヨハネスが死ななければならないなんて、絶対におかしい!」
 僕は空を睨んで訴える。
 「事情は全て理解している。情状酌量の余地はあるが、それを含めた上での判断だ。」
 ガイアは淡々と告げた。
 「そんなの‥!」
 「五月蝿いぞ、アンリ。」
 そう言って、ヨハネスは書類にサインをした。
 「ヨハネス‥。」
 「これがこの世界なんだ。それか嫌なら、貴様がこの世界を変えろ。」
 そう言って彼は僕を見る。
 次の瞬間、ヨハネスの姿が消えた。
 僕の瞼に、寂しげな紅い瞳が焼き付いていた。


 3年後、僕は1冊の本を出版した。
 本のタイトルは『ヨハン』。たった1人だけ生き残った魔族の人生を記した物語で、聖戦の真相を告発し、悪魔の存在とその所業を訴える文書だ。
 この本は当初全く売れなかったが、徐々に人気が出て、誰にも想像ができなかったほどのベストセラーとなった。
 僕の本も原因の一つとなってか、聖府の信用は年々失墜していった。
 それとは対照的に、神聖教会はかつての勢力を取り戻し、イヴ神父は休む暇がないと嘆いている。
 聖府が力を失うに連れて、確かに生活は不便になった。しかし、高度な機械がなくても幸せな生活を送ることはできる。
 僕が言うのもおかしな話だが、新生聖府は四精霊との協調及び自然とヒューマンの共存に力を入れ、各精霊と自然の生物達との交易を盛んに行なっている。
 皆がその後どうしているかと言うと、ガルーザとシュジェは森に帰り、エルフと一緒に森を護っている。ガルーザは精霊ポリスーンの特使として月に1回は聖都に足を運ぶ。勿論、ヒューマンから聖域に出向くこともある。
 イヴ神父は先程言ったように、神聖教会の司教としてせわしなく働いている。ネスビットも修道女を続けており、案外楽しそうだ。
 ウェンディは僕と一緒に聖都の下層で暮らしている。弁護士の資格を取って事務所を開き、ウンディーネの弁護士として評判を集めている。ウェンディの姉もたまに聖都に遊びに来てはうちに泊まっていく。お相手はまだ見つかっていない。
 シルフは世界中をふらふらしており、頻繁に聖都に顔を出す。
 僕はといえば―
 「アンリ・ノルベール陛下、お客様がいらしています。」
 「僕に客‥?名前は?」
 「えーと、伝説の‥風来坊、シルフ様です。」
 秘書が失笑して答える。
 「わかった。今から行く。」
 地に落ちた聖府の信用を挽回すべく、聖帝として政務に励んでいる。
 ヨハネスがこの世界に生まれ変わった時に、彼の鼻を明かせるように。
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