第一章白塗りの部屋
俺は、引っ越すことにした。
前のマンションは、おせっかいな管理人やうるさい夫婦が住んでいた。毎日毎日うるさい痴話喧嘩などを聞かされていた。
都内でいいマンションはないかと不動産屋を回った。できるだけ人間関係の無いところをさがしていた。
そして、代々木公園の近くに全面白塗りの五階建てのマンションを紹介された。
不動産が言うことには、そのマンションには今誰も住んでいないらしい。なにせ、新築だそうだ。
家賃は地価からすると安すぎる気がしたが、曰くつきのほうが前のマンションより幾分楽しそうじゃないか。
俺は、不動産屋がくれた、地図を片手にそのマンションへ行った。
その時、引越し屋さんが荷物の運び込みをしているらしかった。しかし、なぜだか、不思議そうな顔をしていた。
お疲れ様です。と俺はいった。
すると、引越し屋の兄さんがひとりこっちに来てこういった。
『お客様、ここのマンションでいいんですよね。このマンション少し変なんですよね。なんていうか、
五階の貴方の一室?以外全て、白塗りなんですけど・・・・。』
引越し屋の言ったことは本当だった。
一階は廊下しかないようだった。人がいない以前に部屋がない。管理人室もない。
二階から四階を隅々まで探索したが、ただ廊下が続くばかりだった。
このマンションは一階の玄関すぐ横に階段がある。それ以外は何もないただの廊下だった。
二階にあがる手段は、どの階の廊下の奥にあるエレベーターとこの階段。
広さにして60坪ぐらいか。確かに、おかしい。
自分の部屋にまず行ってみることにした。
自分の部屋は、五階の中央にあった。俺が前に住んでいたマンションは、どの階にも少なからず、数部屋はあったのだが、
そこは予測した通りに、自分の部屋以外何もなかった。
俺は自室に入った。そこは、不動産屋に聞いていた部屋とは違っていた。
俺が聞いたのは、ワンルームのハズだった。しかし、なぜか、風呂付き、便所付きの4LDKだった。
学生時代住んでいた下宿の100倍もの広さがあった。
俺はすぐに不動産に電話した。しかし、繋がらなかった。
少し怖くなって、身震いをした。状況が把握できなかったが、疲れているのだろうと思って、
その日はさっさと寝た。
次の日。
昨日のことが夢ではないことにすぐ気づいた。俺は、4ldkのなかにいた。
外に出て、一階から五階までを再び探索した。しかし、そこは、昨日見たのと同じような風景だった。
俺は仕事に行かなくてはならないことを思い出して急いで会社に行った。
俺の勤めている会社は大手広告会社の子会社で社員が少ないためか、社員にさほど上下関係はない。
そのためか、上司がいつものように、絡んでくる。おれとしてはあまり関わって欲しくない。
『お前、どうした。具合でも悪いのか。なんなら早く上がってもいいぞ。』
そうですか。といったが、とっさに昨日のことを話したくなった。
そして、昨日のいきさつを話した。
すると、
『そんなことがあったのか。面白いじゃないか。俺が休みの日にでも見に行ってやる。』
一瞬人に家に上がるのかよ。とも思ったが、不安な気持ちが少し軽くなった。
上司は妻子もちの肩幅の広い、柔道選手のような人だ.
ヒョロヒョロの俺にとっては少し頼りになる存在でもあった。
仕事が終わって、マンションの前に立った。
このマンションの周りには閑散とした住宅街が広がる。しかし、夜になると、さらに人を見かけなくなる。
明後日の休日には上司が見に来てくれる。そうしたら、一緒に考えてくれそうだ。