六日目
2月12日。
俺は学校から一番近いマクドゥナルドに来ていた。
スーパーの中にある小さなところだが、昼になると人が多くなる。
奥の一番広い席に一人で座っていると、人だかりから田中が出てきて俺の目の前の席に座った。
「一体どういうことだ?」
と聞かれるものだと思っていたが、田中は「分かってくれたか。」と言っただけだった。
その後次々にあのメンバーがやってきたが、「何故」と聞かれることは一度もなかった。
嗚呼、俺は戻ってきたのだ。同じ意思を持つ者達の場所に。心の通じ合う友たちの場所に。
全員集まると、俺は立ちあがった。
「すまなかった。」
深く頭を下げた。恥じらいなど無く、ただただ深く。
メンバーは、俺が頭を上げるまで、何も言わず見ていた。
そして俺が座ると、遠藤が「ほら」と言って大きく広げた掌をうつ伏せにして俺の前に差し出した。
俺はその意味を理解し、その掌に自分の手のひらを上に重ねた。
仲間たちもその上に、そのまた上にと掌を重ねていった。
「全員そろった。後冬に作戦を伝え、行動を開始しよう!」
「おう!」
そうか。俺は見捨てられてなんていなかった。
こいつらは、こんな惨めな俺でも待っていてくれたんだ。
俺はなんて運が良いんだ。こんな素晴らしい仲間に出会えたのだから。
俺はその後、彼らの考え出した策を聞くことになる。
しかし、ここに書くわけにはいかない。
最高機密。それは誰に対しても揺るぐことは無いのだ。
「では、個々がそれぞれの役目を果たしてくれることを祈らん。」
笹原がそう言って会を閉めた。
「だが、失敗した者に対して決して批難の意を抱くことは禁じる。」
田中はそれだけを注意し、立ちあがりすぐに人込みに姿を消した。
そして俺も、無駄話などせずにすぐに家へと舞い戻った。
俺の役目。これだけは教えておこう。
・佐々木から義理チョコも貰えるように説得する。
・持木から義理チョコを貰えるように説得する。(俺の分に関しては現時点でクリア)
・長谷川から義理チョコを貰えるように説得する。
ちなみにこれらは個人的にではなく、クラスの男子全員に配るように促すものである。
きっとなんらかの理由があって、俺にこの三人を任せたのだろう。
例えば長谷川は、あの時の投票で俺一人しか入れなかったからだろう。
全員匿名だったとしても、以心伝心の俺等の中では隠し事など意味の無いことなのだ。
与えられた仕事の最終確認を終え、後は実行するのみ。
しかし焦りは禁物なので、全員明日から作戦開始とされている。
俺等は、バレンタイン前の最後の日に対し、恐れをなし、武者ぶるいをした。
最終決戦が、今、始まるのだ。