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第二部 『後藤、土手にいるってよ』

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 目が覚めて最初に気づいたのは自分の頬の焼ける音だった。


「熱っ!!」
 俺はドラゴンスープレックスの要領で跳ね起きた。起きたっつーか頭ぶつけた。いってぇーナニコレ石なんだけど。
 俺はばりばりになった頬をさすりつつ、立ち上がって辺りを見回した。
 川原だった。さらさらと地柱川が流れていき、風が吹くたびに足の長い草がさやさやと揺れる。
 そうだった。
 俺はゆうべ、桜乃ちゃんの前でなんかよくわかんない格好つけ方をしてしまったので、物凄く恥ずかしくなって土手から川原にダイブしたのだ。それっきり記憶がないということは頭を打ったらしい。アブネー家どころか記憶まで失うところだったぜ。
 まだジンジンと痛む頭をさすりながら、俺はとりあえず殺すつもりでかかってきている太陽から逃げ出すことにした。なんかちょっと草とか燃えてるとこあんだけど。地獄かここは。
 鉄橋の下でようやく一息つく。
 いやー改めて考えてもよく死ななかったなー俺。携帯を見ると昼過ぎ。寝すぎだろ。熟睡か。
 まァ昨日はいろいろあったけど、なんだかんだいってやっぱ他人に頼るのはよくねーなってのは分かったからいいかな。結局コケなくても野宿してた気がするわ。
「ったく、野宿なんて何年ぶりだろーなー……」
 ひとりごちて見る。煙草があったら吸いたいところだ。
 こうやって夏休みに鉄橋の下でのんびりしていると、自分が何歳なのか忘れるなー。
 はあー……。



「後藤」
「なんだよ」
「後藤!」
「だからなんだよって……うわあ!!」
 俺は二の腕を引っ張られて無理矢理立ち上がらされた。そのまま太陽の出ているところまで引きずられていく。
「痛ってェなァ! 何すんだボケェコラァハゲェタコォコラァ」
「言いすぎだろ!」
 ごめん。
 つーか、なんだこいつ。ガキじゃん。小学生ぐらいの、なんかちょっと将来メタボになるおじさんの若い頃みたいな健康そーなガキである。このクッソ暑い中に短パンじゃなくてロング履いてるってことは色気づき始めた頃だな。五年生くらいか? それにしては、俺と背丈が変わらない。結構でかいな。
「何オマエ。カツアゲなら俺も一緒にいくわ」
「はあ!? 何ボケてんだよ後藤!」
「お前なァ、いくらアットホームさを売りにして地域の特色にしようとしてる土地柄だからって、小学生に呼び捨てにされる覚えはねーぞ」
 俺がそう言うと、そのガキはいよいよゴミを見るような目になった。なんでやねん。
「なんでやねんじゃねーよ! お前ホント何言ってんだよ」
「何ってだから……」
「お前も小学生だろーが!!」



 …………。



「はい?」
「いいから来い! こんなとこいたら骨も残んねーぞ! 南小の奴らがもう煎餅屋の前まで来てんだって!」
「ちょっと待てよ……そのオーバーな表現で人の気を引こうとする態度……」
 俺の脳内シナプスが弾けて燃えた。
「おっ、お前茂田か!?」
「当たり前だろ! お前それ以上ゴチャゴチャ言ってっとマジ置いてくかんな!」
 俺たちは土手まで上がると、自転車にまたがった。どう見てもサドルが低すぎて俺には小さすぎるはず……なのにピッタリと俺の身体は自転車におさまっていた。ごくりと生唾を飲み込む。
 鏡はないものかと思い、ハンドルの根元のきらめきを利用することにした。おそるおそる覗き込む。
 銀色のメッキに引き伸ばされてはいたものの、そこに映った顔は……
「……俺だわ」
 ええー……ちょっと待てってマジで……
 これって……
 これって……
 タイム・トラベルってやつ?



「嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」



 俺は自転車のカゴに頭を突っ込んだ。
「畜生おおおおおおおおおお!!!!」
「どうした後藤!? ハラでもいてーのか!!」
 腹痛くてもこんなおかしなことしねーよ。つか抜けねえ。
 俺が渾身の力を込めてカゴから頭を引っこ抜くと、背後からなにやらにぎやかな騒音が聞こえてきた。

 パラリラパラリラ

「っ!! 思ってたよか速ぇな……後藤、ギア変えろ! 6でいく!」
「マジかよ……この夏場に平地とはいえそんなギアにしたら茂田お前……死ぬぞ?」
 茂田はふっと鼻で笑うと、自分の自転車のカゴに突っ込んであった何かボール状のものが入っているらしき袋を掴みあげて振って見せた。
「コイツをみんなに渡すまでは死ねねえよ……!」
「……?」
 なんだろう。この光景を前にも見たような気がする。だが記憶に深いベールがかかっていて思い出せない……もしここが本当に過去なら、本当の俺もこの時を体験しているのだろうか? ううっ、茂田とチャリンコ乗り回したのとかガキの頃はほとんど毎日だったから思い出せん……でも、たぶん今も夏休みなんじゃないだろーか。放課後にしては茂田の顔色がいい。
 あの袋の中身って、なんだっけ……?
 その時、ピシュンと風を切る音がして、俺の耳のそばを小さな何かが吹っ飛んでいった。
 プッ、と軽い音がして俺の耳たぶから血が出る。
「ぐ、ぐわァーッ!!」
「後藤、もうホントにいくぞ! 熱中症なら後にしろ!」
 俺と茂田がギア6のペダルを若さに任せてぶち込むと、自転車が風のように走り出した。さすがに小学生の身体は軽いからペダルさえ踏めば飛ぶ飛ぶ。
 その俺たちの背後から、いよいよ俺たちを付けねらう連中の姿が現れた。
 どいつもこいつもこのクソ暑い中に金色のジャケットをピッチリ着こんで、「俺たちがこんな暑い思いをしているのは全部お前らのせいだ」とばかりに殺意のこもった視線を向けてくる。小学生がそんな顔すんなよ。
「くそっ、あいつら吹き矢なんて持ち出してきやがって……まだエアガンの方がかわいいぜ!」
「チッ……吹き矢か」
 俺は昔の記憶を思い出す。後ろから自転車で追われながら吹き矢で襲われた時の対処法ってなんだっけ……あんまり使わない記憶だったからどっかいっちまった。えーとえーと。
「っ! 茂田、公園いくぞ!」
「公園な、わかった!」
 こういう時に口論していると死ぬ確率がいたずらに高まるので、茂田は素直にハンドルを切った。
 土手から市街地側に向かって俺たちのチャリンコはサスペンドを利かしまくってドガガガガガガガガと下りていく。
「待ちやがれ、後藤ォ――っ!! 茂田ァ――!!」
「てめえらに『アレ』を持っていかれるワケにはいかねーっ!!」
「ちゃんと勝負しろ、卑怯者が――っ!!」
 吹き矢で襲ってくるやつに卑怯とか言われたくねーよ。くそっ、一番治安悪い時の地柱町じゃねーのかコレ。天ヶ峰と関わったばかりに対校戦争に巻き込まれたんだよな俺……あー思い出してもいろんな古傷が痛む。まだ怪我してないんだろうけど。
「後藤、あいつら速いぞ……!!」
 俺はケツを浮かせてペダルを踏みつつ、後ろを振り返った。
「あのトップのやつ見覚えあるぜ。たぶん南の精鋭の一人だ。確か名前は……金井」
「金井って……まさかあの『足ふみ昇降』の金井か!? 親父の運動に付き合っていたら足腰が思ってたよか強くなってしまったという、あの……!!」
 くっ、と茂田は顔を俯かせた。
「畜生、やっぱり俺たちじゃ駄目だったのか……木村がいれば……!」
「まァそう心配するなって」
 俺は身体を伏せて弾みをつけた。



「どおおおりゃあああああ!!!!」



 公園の手前にある車止めを、根性で飛び越える。このためにも自転車の空気をパンパンにさせておくのは欠かせない。
 俺と茂田はなんとか公園の中にまで入れたが、金ジャケットの連中も次々と車止めを飛び越えてくる。チッ、電動機つき自転車か……!!
「後藤、やっぱ振り切れねえよ……!!」
「振り切るなんて誰がいったよ」
「え?」
 本屋いったらジャンプがなかったみたいな顔をした茂田にニヤっと笑ってみせると、俺は自転車をその場でドリフトさせた。急激な旋回に車体がメキメキと軋む。視界が流線に溶ける。


 うおおおおおお……
 曲っっっっっっがれええええええええ!!!!!!!!!!!


 俺の願いが通じたのか、ドリフトは上手くいった。後輪が、俺たちに向かってプップカプカスカ吹き矢を打ってくる不良少年どもに向く。オッケーばっちし。
 俺は自転車から飛び降りた。


「ぬおおおおお!!」


 金ジャケットたちが俺の自転車を喰らって棒高跳びを失敗した人みたいにすっころびまくった。したたかに背中を打ったやつも多いらしく、呻いたまま起き上がらない。
 あっけに取られる茂田のうしろに、俺はひょいと飛び乗った。
「何ボサっとしてんだ茂田。いくんだろ?」
「あ、ああ……ていうか、なんか、お前頭よくなってね?」
「そんなわけねーだろ。オラ、金井が起きるぞ。喧嘩になったら俺らが勝てるわけねーんだ。走れ!」
「おっ、おう!」
 茂田がギコギコと自転車を走らせ始める。俺は呻き続ける金ジャケットどもを振り返って、ベロを出した。
 俺を倒したきゃ、戦略が通用しねー戦術を持ってくんだな。
 そんなことを考えて得意になっていたら茂田がコケた。
「茂田ああああああああ!!」
「よく考えたら二人乗りとか無理に決まってんだろ……ギア6だぞ……」
 しょうがねえなあ。
 ぜえぜえ言い始めた茂田の腕を引っ張って、なんだかよくわからん包みを引っつかむと、俺は最後の力を振り絞ってダッシュをかけた。



 あーくそ!

 なんで俺、小五に戻って茂田とめっちゃダッシュしてんだあああああああああ!?





 俺はギコギコ自転車をこぐ茂田の背中に聞いた。
「で、これからどこいくんだよ茂田」
「何言ってんだ、天ヶ峰んちに決まってんだろ」
 天ヶ峰んちィ? 何しにいくんだそんな魔窟に。
「セーブしとけよ死ぬぞ」
「今は大丈夫だろ」
 その根拠はなんだ。まァいい。あそこんちにはエアコンがある。最後に涼を味わって粉々になるのも悪くはあるまい。
 天ヶ峰はああ見えて気温の変化に弱い。夏と冬のピークは特にヤバイ。下手にいじると即爆発するおそれがあるので注意しなければ。俺は途中の草むらで茂田の自転車から降り、薬草をいくつか採った。打撲などによく効く。
「お前そういう知識どっから引っ張ってくんだよ」
「練山さん」
「あの人ってマジで整体師だったのか」
「なんだと思ってたんだよ。ただのニートが整体の看板出してたら怒られるだろ」
 そういえば、俺が小五ってことは六年前だから、練山さんはまだ二十三歳とかか。未婚のアラサーになってしまうから気をつけなよと予言してやりたいがそんなことをしたら俺は死ぬ。アラサーはアラサーのまま朽ち果てるがよい。
 ていうか本当にこれ、どうなってんだろ。タイムスリップ? いやいやまさかな……とはいえ、この夏の日差しが夢とも思えない。俺はため息をついた。わけわかめ。
 天ヶ峰ん家に着いた。
 すでに白い門の前に見慣れたチャリンコがドミノ倒しになっている。西小の男子連中が集まってきているらしい。茂田は重なった自転車の上に自分のそれを投げつけるようにして置くとインターホンも押さずに玄関に入っていった。つーことは、午前中に一度寄ったのかな。俺も後を追った。
 やけに静かに思える廊下をドタドタ突っ走って、天ヶ峰の部屋まで上がった。ドアを開ける前に茂田が「しぃっ」と指を口に当てた。左肩には例のズタ袋が背負われている。
「騒ぐなよ。慎重にな……」
「騒ぐなっつったってもう中にみんないんだろ」
 俺は容赦なく扉を開けた。
 すると、中にいた連中が一斉に俺を振り返った。
 うわっ、どいつもこいつも若返ってやがる。
 木村、てっちゃん、三浦、榎本、大須、芥子島。なつかしー。適性年齢を謳歌するロリコン野郎(注;木村)がくいっと銀縁眼鏡のつるを押し上げた。
「遅かったじゃないか、後藤、茂田。例のモノは手に入ったのか?」
「ああ」と茂田がズタ袋を持ち上げた。
「なんとかミナミの体育倉庫からパクってきたぜ。小橋は犠牲になったがな……」
「そうか……小橋、惜しい男を失ったな」
 木村がやるせない顔つきで物思いに耽る。このナルシストめ。
 俺は車座になって天ヶ峰の部屋に集まっているみんなの中に無理矢理入り込んだ。
「で、これはどういうことだ」
 くいっとベッドの上を親指で示す。
 そこには、天ヶ峰が横になっていた。
「……んん……」
 苦しげな呻き声が聞こえて来る。部屋に入った時に見えた寝顔は、首を絞められたかのように真っ赤だった。
 てっちゃんが不思議そうに俺を見る。
「何言ってんだ後藤。天ヶ峰はもう三日前から風邪引いてんだろうが」
「三日前から……?」
「ああ。ミナミの立花ってヤツとやりあった日だよ」
 俺は遠い記憶を穿り返した。今が小五だというなら、俺たちはミナミの連中と駅前の駐輪場の覇権をめぐって抗争しているはずだ……厳密には駐輪場ではなく駅前広場のスペースに俺たちが違法駐輪しまくっていただけなのだが、そこを占拠されてしまうと他に停めるところがないのだ。夏休み真っ盛りに駅前までチャリ濃いで、よその学校のやつらのチャリがドミノ倒しになっていたらそれを土手に投げ捨てて自分のチャリを置くやつが出るのは当たり前で、自然、戦争ということになる。小学生の夏休みというのは一日が黄金だ。これはぼくらの黄金戦争なのだ。
「後藤、目が死んでるが大丈夫か」
「ああ、ちょっと遠い昔のことを思い出しててな」
「お前十一歳だろ……」と三浦。
「物心ついた頃でもそう遠い昔ではねーよ」と榎本。うるせーなこいつら。ちなみに三浦は東高、榎本は南高に進んだ。榎本にいたっては後の敵であると言ってもいい。裏切り者めが。
「そんなことはどうでもいい。紫電ちゃんと天ヶ峰がやりあったって……?」
「紫電ちゃん?」と茂田。ああそうか、まだそんな知り合ってないのか。
「立花だよ。南小の稲妻(ボルト)で合ってるよな?」
 合ってる合ってる、と大須がジャンプを読みながら答えた。やる気ねえなコイツ。
 ええい、大須がいちご100%を堂々と読んでることなど今はどうでもいい。問題なのは、俺の記憶が正しければ、紫電ちゃんと初めて出会った直後、天ヶ峰は風邪なんて引いてなかったということだ。あの頃は年がら年中一緒にいたから間違いない。
 確か、紫電ちゃんに負けた後、天ヶ峰は山にこもった。
 嘘のような本当の話である。あいつはウチから鍋をパクっていったかと思うと学校の裏山に潜伏し、おもむろに自炊を始めた。ためた雨水と根性で点けた火で炊いた米を自分で喰っては、中腹から突き出した岩場に立ち尽くしていた。今でもはっきりと思い出せる。記憶の中の天ヶ峰は、たてがみのような髪を風にもてあそばれながら、地柱町をいつまでも見下ろしていた。紫電ちゃんにボコボコにされたのが相当に悔しかったらしい。中学に上がってからは打って変わって紫電ちゃんと無二の親友になるわけだが、今はまだお互い出くわせばデコをこすりつけあってメンチを切り合う程度の仲である。どんな小学生だ。地元のことながら恐ろしい。
 俺は身を捻ってベッドの上で呻く天ヶ峰の様子を窺った。
 俺の記憶とは違う天ヶ峰。
 これは夢なのか、それとも過去が変わってしまったのか……
 とりあえず、いくら悩んでも仕方がないので、俺は足元に置いてあったウーロン茶を注いで飲んだ。うめえ。
「てっちゃん、何か食いもん」
「後藤……お茶飲んで何か食べたくなったのはわかるが手ぶらの俺を見て何も思わないのか」
「食いもん」
 てっちゃんは物悲しそうに立ち上がって一階に下りていった。あっちゃんママにお菓子をせびりにいくのだろう。留年するしこの頃はまだ学年が下の俺にはパシられるしてっちゃん可哀想だな……。
 などと俺が思っているうちに茂田がズタ袋の中から例のブツとやらを取り出して見せていた。車座が一回り小さくなる。
 それは、真っ赤なボクシンググローブだった。
 木村が「ふむ……」と鼻を鳴らしてグローブを茂田から受け取る。ミニエー銃をイギリスから買い込んだ時の長州人ってこんな感じだったのかなと思わせる真剣さだ。
「これがボクシングのグローブか」
「ああ」と茂田が力強く頷く。
「あの立花ってヤツはなんでもジムに通ってるらしい。天ヶ峰が負けたのもそのせいだ」
「ってことは」とブラジャーを頭に巻いた芥子島が鹿爪らしい顔つきで言った。
「天ヶ峰もボクシングをやればあの金髪に勝てるかもしれねえってことか。……ふっ、こいつァ面白くなってきたぜ」
 面白いのはお前の頭だボケ。見れば天ヶ峰の箪笥が不自然な感じに開け放たれたまま、そこから他の下着の端がぺろりと垂れ下がっている。好きでもない女子のブラをツッコミ待ちのためだけに漁るコイツの神経が信じらんねえ。ちなみに現代では芥子島は二度の留年を繰り返し、まだ中学校にいる。当たり前だ。アホか。
 ツッコミ待ちされていることを理解している茂田はかえって爽やかな笑顔を芥子島に向けた。
「そうだ。なにせ今までの天ヶ峰は我流だったからな……これがちゃんとした格闘技を覚えれば無敵だぜ!」
「僕が考えた最強の天ヶ峰ってやつだな」と榎本。
「こないだは距離を取られて負けちまったが、同じ土俵に立てばあんなパツキンにやられる天ヶ峰じゃねーぜ」と三浦。
 後藤もそう思うだろ、と三浦に振られて、俺は答えを一拍置いた。懐から紐つきの扇子を取り出し、ぺしっと掌に打ちつける。怪談話の佳境を迎えた噺家のように、俺はぐるっと一座を見回した。
「普通ならな。……だが問題は、天ヶ峰がコレだってことだぜ」
 俺たち西小にとって、天ヶ峰の存在はジョーカーだ。米と水で動く戦車だと思っていい。確かに俺の過ごした史実でも、天ヶ峰はボクシングを覚えてえらく強くなった。
 が、風邪っぴきじゃどうしようもない。
 俺はふう、とため息をついた。
「木村。白ビル(注;病院のこと)は?」
「……? ミナミに押さえられてるよ。常に見張りが立ってて、とても天ヶ峰を運べる状態じゃない……」
「そうだろうな……」
 でなければ、こんなところで油を売っているわけがない。とっとと点滴の一本でも打てばこのアホは全快する。だが、今はそれができないのだ。
 その時、ぷっぷーと外から甲高い音が聞こえた。なんだなんだとみんなが窓際に近づいていく。俺もそれに倣った。
 見ると、天ヶ峰家の前にずらりとミナミの連中が揃っていた。チャリンコ部隊ではなく、ローラースケートを全員が装着している。全員が金色のシャツを着て、ニヤニヤと俺たちを見上げていた。一人は熱中症で倒れたらしく、日陰で休んでいる。無理しやがって。
「くそっ、ミナミのやつら、こんなところにまで……!」
「陽動の田中くんは何をやっているんだ……!」
「落ち着け」
 色めき立つ一同に、木村が鋭い声を飛ばした。床に散らばっていたゲームボーイアドバンスと通信ケーブルの束をポーチにしまいこむと、颯爽と立ち上がる。
「篭城戦になったらこっちが不利だ」
「五時の鐘が鳴ったら帰らなきゃいけないもんな……」
「そうだ。だから、なんとかここを突破するぞ。……後藤、寝ている天ヶ峰を背負え」
「はあ!? ふざけんな、風邪が感染ったらどうすんだ」
「お前はアホだから大丈夫だ」
 心外である。
 俺は渋々天ヶ峰を背負った。
「ん……くゥ……」
 いじめられた子犬のような声で天ヶ峰が愚図る。なかば眠っているようだが、俺のことはわかるのが背中にしがみついてくる。風邪っぴきの高温が蒸し暑くて仕方ない。くそっ、だが置いていったらミナミの連中はきっと天ヶ峰の部屋に大人数で押しかけてスマブラをやるという暴挙に出るだろう。こういう事態があるから自分の部屋に自分用のテレビとゲームキューブを置いてあるとロクなことがないのだ。
「いいか、作戦を言うぞ。まずてっちゃんが突っ込む。てっちゃんが死ぬ。俺たちが逃げる。俺たちが助かる。わかったな?」
 木村の明晰な指示に俺たちはイエッサーと口をそろえた。てっちゃんは去勢されたような顔をしている。何もかも諦めたのだろう。
「……というのはさすがに冗談だ。芥子島、頼めるな?」
 任せておけよ、と芥子島がキュッとブラの緒を締めた。
「天ヶ峰のブラを振り回して、初心なミナミの連中の気勢を殺いでやるぜ」
「あいつらが初心なんじゃなくてお前がゲスなだけだがな」
「ふっ、言うねえ。その意気だぜリーダー!」
 芥子島が歯を見せてニカリと笑った。木村は遠い顔をしている。その気持ちは俺にもわかる。このアホの心のへし折り方は俺にも分からん。小三の遠足のバスでウンコ漏らした時は窓から逃げて笑いを勝ち取った筋金入りのアホだからな。コイツに逆境を与えても好機にしかならない。まァ、だから頼りになるわけだが。
 ドタドタドタと階段を下りる俺たちに、あっちゃんママが「あらあらあら」と口に手を当てて目を丸くした。
「みんなしてどーしちゃったの、うちの子連れて……あっ」
 とあっちゃんママは何かを察したらしく「ぽっ」と頬を染めた。
「……まあ……うちの子もやるわね……その歳で逆ハーレムなんて……」
 おなか痛くなるんでそういう気味の悪いこと言うのやめてもらえますかね。俺は荒んだため息を吐いた。
「コイツ病院連れてくんで」
「あらあらあら」
 アホのお母さんはほっといて、俺らは玄関から飛び出した。玄関先から門前までは少し距離がある。芥子島はブラのつなぎの部分に親指を引っかけて、日差しをあらためた。
「思い出すな……昔を……」
 いつだよ。ていうか俺にとっては今が昔だよマジで。
 芥子島はクラウチング・スタートの姿勢を取った。
「いくぜえっ!! 後に続けよ、てめえら――!!」
 掛け声ひとつを残して、無駄なジャンプ力を発揮し一気に門を飛び越えた。日曜日の朝っぱらにCMが流れているメーカーの運動靴が煙を巻き上げて、芥子島の五体が青空に刻印される。
 その影を黒い小さな飛来物が撃ち抜いた。


 ぱぁんっ……


 どさり、と芥子島の身体がアスファルトに落ちた。
 芥子島は、ピクリとも動かない。
 その身体に、労うかのような一枚のブラジャーがふぁさりと舞い落ちた。
 俺たちは震えた。





「けっ、芥子島ァ――――!!!!」




 芥子島が、撃たれた。


7, 6

  




 俺たちはクモの子を集めるようにして、熱く焼けたアスファルトに倒れこんだ芥子島に駆け寄った。ちょっと焦げている。
「芥子島ッ、芥子島ァ!」
 茂田が芥子島の身体にかかったブラを取ると芥子島は「ウッ」を苦しげに呻いた。なんで苦しいんだよ。
「くっ……しくじっ……ちまったぜ……」
「い、一体何が……」
「わからん……何か小さなものが飛んできて……」
 木村が腰を折って何かを拾い上げた。
「ひょっとしてこれか?」
「ビー玉……? いったいどこから……」
「その答えは俺さ」 
 俺たちが振り返ると、ミナミの連中の中から、一際背の高い男子が歩み出てきた。首に数珠を巻いている。
「お前は……望読寺のせがれの七匁か!」と木村。
「こいつはやばいことになったな、後藤……」と茂田。
「うーん……」
 俺はちょっと思い出せないので何も言えない。いたかなーそんなやつ。それにしてもこのクソ暑い中で袈裟を羽織ってるってどんだけ寺アピールだよ。
 七匁は手にも巻いている数珠(予算の関係か全部ビー玉)をジャラジャラさせながら俺たちに一歩近寄ってきた。
「俺たちミナミに逆らうとは……愚かだな茂田!」
「よせっ! なんで俺が主犯格みたいになってる!? 俺は、天ヶ峰に脅されていただけだ!」
「そうか。こっちに来い、茂田よ」
「ういーす」
 茂田が寝返った。しっ、茂田ァァァァァァァァァァァァ!!!!
「あいつ最低だな……」
「なんだあのステップ、クソむかついたわ」
「捕虜にしたあとに後悔させてやるぜ」
 われらが西小の面々はお冠である。当たり前だ。なんだあの笑顔、茂田の野郎いちいちカンにさわる野郎だぜ……もうすでに七匁の肩まで揉んでやがる。
「くそが……天ヶ峰さえ起きればあいつらなんかアジのひらきにしてやれるってのによォ……」
「いや後藤、食べきれないのにこんな猛暑であんな数を開いたら駄目だろう」
「何言ってんだ木村? 誰が食うっつったよ! バケモノは俺の背中の一匹だけで充分だ」
 俺はもたれかかってくる天ヶ峰を担ぎ直した。
「とにかくこの状況を突破しねーと……向こうは二十人、こっちは俺、木村、てっちゃん、大須、榎本、三浦。俺は素早く動けないから実質六人……」
「それに向こうは数珠っていう飛び道具まであるしな……」
「諦めろ後藤!」七匁の肩を揉みながら茂田が叫んだ。
「お前たちは刃向かう相手を間違えたのだ……」
「うるせえ!! 誰のせいでメンバーが一人減ったと思ってんだよ!! 今すぐそのエセ坊主の首根っこ締め上げたら許してやるぜ、茂田ァ!!」
「馬鹿が。男子たるもの強い方につく、それが地柱の風俗だ!」
 否定できない。いつの間にか大須が向こうでガリガリくんを食っていたからだ。
「おいィィィィィィィィィ80円で買収されてんじゃねェェェェェェェ!!!!」
「ははっ」
「ははっ、じゃねーよ殺すぞ! クソが……天ヶ峰が戦闘不能だとこんなに統率が取れないのか俺たちは……」
「元々は天ヶ峰が始めた戦争だからな……駅前で揉めたのこっちが先だし」
「恐怖政治の脆さが露呈した瞬間だな」
「冷静に分析してんじゃねーぞ木村、榎本! このボケどもが……」
「懺悔の時間は済んだかね?」
 まだ肩を揉みたがっていた茂田を振り払うと、七匁が手の中の数珠を「じゃりっ」と一つ鳴らして袈裟の袖を払った。
「では、血祭りにしてやろう」
「何が懺悔だこのハゲ確率100%め。仏教の慈愛の精神はどうした!」
「御仏を増やすのが我が使命」
 快楽殺人鬼じゃねーか。くそっ、そういえば天ヶ峰が掃討するまでは男子にも変なのが結構いたっけな……それにしたってあの野郎、親父さんが聞いたら泣くだろ今のセリフ。どら息子もいいとこだぜ。
「おしゃべりはここまでだ、死ねィ!」
 七匁が手に巻いた数珠からビー玉の礫を投げ放ってきた。
「ぎゃあっ」
 まず三浦が倒れた。
「ぐはっ」
「っ!? て、てっちゃん、てっちゃーん!!」
 俺が盾にしたてっちゃんはビー玉をみぞおちに喰らい座り込んだ。
 あいつ、なんてことしやがる……俺の仲間を!! こいつは六年生なんだぞ!!
「仇を取ってやるぜ……!」
「待て後藤、お前は天ヶ峰と一緒に逃げろ!」
「なんだと……? それじゃ木村、お前が……」
「ここは俺と榎本で引き受ける……」
 俺は榎本を見た。ニカッと笑っている。
「榎本……」
「気にすんなって。もしもお前が天ヶ峰を病院まで運び切れたら、復讐が怖いからさ!」
 うわあ、現実的。でも頼れる。俺は二人に片手拝みした。
「じゃあ、すまんがこの場は頼むぞ。……死ぬなよ」
 二人はグッと親指を立てた。俺は後ろ髪を引き抜かれる思いで振り返り、よたよたと駆け出した。
「うおおおおお逃がすかァァァァァァァァァァ!!」
「あの女の首を討ち取れィィィィィィィィィィ!!」
 ミナミの連中が勝ち鬨の声を挙げて突っ込んでくる気配を背中に感じながら、俺は滲んできた涙を振り払った。芥子島、木村、榎本、三浦、てっちゃん。お前らの青アザは無駄にはしないぜ。
 天ヶ峰家を後にして住宅地を突っ走った俺は頭の中で地柱町の地図を洗いなおした。ここから病院は坂を登っていけばすぐだ……!
「はあ……はあ……けほっけほっ」
「待ってろよ天ヶ峰。すぐにハッシシでリキ入れてやるからな」
「はあ……うっ、ん……」
 くそっ、なんか見た感じ天ヶ峰の顔色がますます赤くなってきている。これは冷えピタをデコに貼るかネギを首に巻きつけて布団の中に蹴り込むかしなきゃ駄目なヤツじゃないか?
 俺は走る足に力をこめた。西の女子は今ほとんど実家に帰省中で頼りになる面子はほとんどいないし、それに南が七匁クラスの精鋭を連れてきている以上は、正直言って並の女子ではさほどアテにはならない。耐久力はともかく、攻撃力までズバ抜けている女子はごく一部だからだ。俺いま変なこと言ってないよね。なんか自分で不安になってきた。
「チッ……国がちゃんと自転車を置くスペースについて考えてくれればよォ!」
 俺が反逆罪に問われそうなことをひとりごちた瞬間、俺の足元のアスファルトがはじけた。
「!? 今のは……」
「チッ……外したか」
 俺は声のした方を見た。そこにいたのは……
「し、紫電ちゃん……!!」
「……? 貴様にちゃんづけで呼ばれる筋合いなどない」
 そこには、ホットパンツに真っ黒なタンクトップ一枚というロリコン垂涎ものの立花紫電ちゃん(11)がいた。手にはアスファルトの欠片を持っている。お前それ投げてきたのか。死ぬわボケが。
「見つけたぞ……天ヶ峰美里。病に伏せっているという話は本当だったらしいな」
「くっ……こいつをどうするつもりだ」
「決まっている。その女がこの町に与えている悪影響は計り知れない。経済も悪化している。この町の風紀を預かる一族の末裔として、彼女を野放しにはしておけない」
「なんだと……病気している女の子にすることかよ、それが……!!」
「……正義のためだ。みんなは一人のために、一人はみんなのために。そしてその女がこの町の災厄になる以上……みんなのために、消えてもらう」
「そんなの正義じゃないぜ、紫電ちゃん!!」
「だっ……だから名前で呼ぶのヤメロ! なんだお前!? 私の友達か!!」
「うん」
「ひっ、卑怯な……西の男は精神攻撃まで駆使するのか!!」
 何言ってっかわかんねーよ。紫電ちゃんの発言が俺の精神を霍乱している件について。
「くっ、問答無用! 明日のために死ね、天ヶ峰美里――ッ!!」
「うわばかあぶねっ――」
 俺は横っ飛びに紫電ちゃんの石礫投擲を避けた。弾みで天ヶ峰が俺の背中からすっぽ抜けて石塀にハエのごとく叩きつけられた。俺は口元を拭って立ち上がった。
「……どうあっても戦るつもりらしいな」
「ああ。貴様も男なら立ち向かって来い」
「仕方ねえ……女には手を出さない主義なんだが」
 俺はトーントーンとステップを踏んだ。
 左腕をくの字に持ち上げ、右拳で顎のそばをガードする。
「それは……ボクシングのオーソドックススタイル? 貴様も格闘技経験者か」
「ふふっ……まァな」
 なにせ俺の実年齢は十七だ。すでにこの時代より六年も修羅場を見てきている。ちょっと前に超能力者が攻めてきたときも紫電ちゃんの戦いっぷりをたっぷり眺めて経験値貯まったし、真似事ぐらいならなんとかなる。
「いくぜ、紫電ちゃん」
「面白い」
 紫電ちゃんは左腕を腰の前まで下ろして鉤型に曲げ、ひゅんひゅんと振り始めた。かなり前傾のデトロイトスタイルだ。
「その技、本物かどうか確かめてやる――ッ!!」
「やってみろやァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
 俺はいきなり踏み込んで右のオーバーハンドライトをぶっ放した。天才は初太刀で殺す。まだお得意の左ジャブを撃ち始めてすらいなかった紫電ちゃんはガードも間に合わずにモロに俺の右をその顎にしたたかにもらってしまった。決まった。
 俺の勝ちだ……
 ……ったはずなのだが、
「……なるほど、踏み込みには目を見張るものがある」
「あ……あ……」
「だが哀れだな……パンチ力が、足りない!!」
 なんてこった。
 紫電ちゃんのほっぺたがあまりにも柔らかすぎて、俺のパンチの打撃力が吸収されてしまっただと……!!
「シャアッ!!」
「あうっ」
 俺はレバーに紫電ちゃんの左フックをもらってその場にしゃがみ込んだ。呼吸が出来ない。ちょっとチビった。
「ひぐっ……ううっ……」
「……な、泣くな。すまん、ちょっと強く打ちすぎた……」
「えうっ……ぐすっ……」
「困ったな……」
 紫電ちゃんがポリポリと頬をかいて、とりあえずと言った感じでしゃがみ込んだ俺の背中をさすり始めた。嬉しい。嬉しいがマジで痛ぇ。こいつ拳骨に鉄骨でも埋め込んでんじゃねーのか。涙がちっとも止まんねーよ……
 視線だけで振り返ると天ヶ峰は砂浜に打ち上げられた鯨のようにアスファルトに長々と伸びていた。芥子島と同じく道路に伏せられた顔のあたりから黒い煙が上がり始めている。くそっ……俺には天ヶ峰を病院まで搬送することもできないのか……俺の拳が怒りと悔しさでぷるぷるし始めた頃、あたりを震わす大音声が俺たちに襲い掛かった。
「そこまでだ!!」
 俺と紫電ちゃんは顔を上げた。
 俺たちの視線の先に、懐かしい顔があった。



「さ、沢村……!!」



「ちくしょおおおおおおおおおおお!!」
 道路に跪き、慟哭の涙を降らせる俺を見て沢村が「くっ」と目を切った。
「後藤……悔しかったんだな、あの子に負けたのが……」
「なんでよりによって沢村なんだ! 死ねこのクソカスが!」
 ええええええええ、とお預けを喰らった犬のように沢村が呻いた。やつのシナリオでは俺からの感謝と激励がもらえる予定だったのだろうがそんなワケがあるか。手から炎の出せない今のお前なんてただのモブキャラじゃねーか。引っ込んでろ三下が。俺は天ヶ峰を担いだ。
「クズが、せいぜい鉄砲玉としての役目を果たすんだな」
「それが助けに来たやつに吐くセリフかよ!!」
「当たり前だボケが!! 文句があるならあの正義執行超人をなんとかしてから言え」
「ちょっとマテ! 人に漫画のキャラみたいな説明をつけるのはやめろ!」
 うるせえ金髪ロリ。ツインテールでも結ってろ。おもっくそ殴りやがって……女子に殴られた晩は血のションベンが出るからヤなんだよ。俺のチンコになにかあったら責任とってもらうからな。
「じゃあの」
「待てって! 待って後藤! せめて最後まで! 俺が散る最後までは見てって!」
 せめて最後までってどういうことだよ。お前散る気マンマンか。ただ散ってみたいだけじゃねーか。
「ええい放せこのゴミが」
「ううっ……俺なんでこんなひどいこと言うやつを引き止めてるんだろう……」
 沢村は俺の足にしがみついてきて離れない。くそ。俺は折れた。
「仕方ねーな……見ててやるから早く散れよ」
「くっ……見てろよ、俺が勝ったら吠え面かかせてやる」
「ああいいよ。吼えてやっから早くいけ」
 俺はすぐにずり落ちそうになる天ヶ峰のケツを抱えなおしながら言った。沢村はぺっぺと両手に唾をつけて、四股を踏んでいる。アホかこいつは。小三のときの相撲大会で俺に負けたの忘れたのか。
「うおおおおおおおおおっ!!」
 沢村は気合一声、思ったよりもいいスタートを切って紫電ちゃんに飛び掛っていった。ふっ、見るまでもない。あの左から繰り出されるびっくりするくらい鼻血が出やすいフリッカージャブを喰らって沢村は顔面蜂の巣になる運命にあるのだ。相手はアマとはいえボクサーだぞ。
 紫電ちゃんもそう思っていたのかどうか知らないが、その顔にちらっと笑顔が覗いたような気がした。やっべえ可愛い。写メ撮って「金髪幼女募集スレ」に貼り付けたら名スレになる予感がする。ああでもロリコンにとっては十一歳って初老なのかな。
 紫電ちゃんの左手がかすんだ。
 ところが、
「どすこおおおおおおおおおい!!!!」
「!?」
 ビックリしたのは俺もである。沢村はいきなり演技派になり幕内の力士になりきると頭を思い切り下げた。下から体当たりで突き上げるつもりだったらしいが、結果的にそれがボクシングでいうところのダッキング――回避運動になったのが幸いした。沢村の髪をかすめて紫電ちゃんの左が突き抜けていく。あの野郎……紫電ちゃんの左をかわしやがった……!!
「ぬおおおおおりゃあああああ!!!!」
「え、ちょ、わっ」
 おそらく懐にもぐりこまれたことなど数えるほどしかないのだろう、現在地柱町最強の名を欲しいままにする紫電ちゃんが沢村のタックルをモロに喰らって倒れこんだ。柔道でいうところの諸手狩りの形になった。
「よいしょおおおおおおおおお!!!!」
 その時、ぷあんと俺の背後でトラックのクラクションが鳴った。そのまま車は通り過ぎていってしまったので俺たちとはなんの関係もなかったが、俺はついそっちの方を見て視線を倒れこむ二人から切ってしまった。そして目を戻すと、俺は悲鳴を上げて両手で顔を覆った。
 沢村と紫電ちゃんが道路に倒れこんでいる。紫電ちゃんが下、沢村が上。二人ともピクリとも動かない。
 ああ、なんてことだ……
 別に衝撃で目を回しているらしく頭からヒヨコを出している沢村のことなどどうでもいい。どうでもいいが、やつの顔面のありかが問題だった。
 紫電ちゃんは今日、ジーンズをギリギリまで切り詰めたホットパンツを履いていた。その麗しきまたぐらに、あろうことか沢村の顔面が埋まっている。
「う、ううん……」
 沢村が呻きながら意識を取り戻しかけたらしく、なんと、あ、あの野郎……ゴリゴリと紫電ちゃんのまたぐらに顔をこすりつけはじ、始め、う、うおおおおおお!!!! 俺は矢も盾もたまらず駆け出し、沢村を紫電ちゃんから引っぺがした。
「お前なんてことするんだ! この国の宝だぞ!」
「ご……後藤? 俺は一体……」沢村はゴシゴシと目をこすっている。今さっきまでその目と鼻の先にエルドラドがあらせられたのだぞ。分かっているのかこいつは。
「お前はいまタックルの勢いが余って紫電ちゃんの股間に顔面を突っ込ませたのだ」
「な、なんだって!!」
 沢村が紫電ちゃんを振り返った。俺も紫電ちゃんを見た。
「……………」
 うわあ。
 何も言わずに泣いてる。青い両目の奥にあるダイナモがバッテリー切れを起こしてレイプ目になり、その目尻から「スゥ……」と涙が一滴落ちた。どう見ても傷物にされたと思ってる感バリバリである。
「そ、そんな……立花さんゴメン! 俺、俺そんなつもりじゃ!」
「ゴメンで済んだら警察はいらねえんだよ!」
「ちょっ、後藤! 今は俺のフォローをしてくれ! 頼む! 金なら払う!」
 いや金とかの問題じゃねえし。俺はおろおろする沢村に冷たい視線をくれてやった。
「うわあ……最低」
「そのセリフをお前に言われることになるなんて思わなかったよ……」
 沢村は検便が盗まれた時のような顔をした。ひでえツラである。
「ど、どうしよう」
「あーあ。紫電ちゃん傷ついちゃったぞ。まさかお前の鼻で処女を散らすとは思ってなかっただろうに」
「そんなに深く差してねえよ!」
「意識あったのかよ!!」
 俺は沢村のボディに膝蹴りを叩きこんだ。
「げふっ……ち、ちがう。言葉のあやだ。信じてくれ!」
「ふざけるなよヒューマン。ぶち殺すぞ」
 それに俺が信じようが信じまいが傷ついたのは紫電ちゃんである。他人の顔面が自分の股間にこすり付けられるとか俺でも嫌だわ。
「…………ふえ」
 ようやっと上半身を起こせた紫電ちゃんは、ぺたんとその場に女の子座りをして、両手首を交互に使ってあふれ出す涙を拭いながらひっくひっくとしゃくりあげている。
「ゆ、許されることじゃないかもしれないけど、ごめん、立花さん……」
 女子に泣かれると男子はもう謝るしかない。沢村も五分前に戻りたいと痛切に思っているだろう。なんか自分の存在がひどく矮小なものに思えるよなァ、女子に泣かれるのって。
 しかし俺はすでに状況を再確認し終わっていた。今、電信柱の影に隠れたのは猫屋敷に住むクソババァである。あのクソババァは近所のツタヤに抗議電話を送りまくって風紀がよくないから撤去しろとこの町からアダルトビデオの存在を抹消した、すべての男の敵である。今から三年後、完全にトサカに来ちゃった地柱町の大学生たちがあのババァの家の前の白塀にプロジェクターで青姦モノのAVをXLサイズで大上映したり、あのババァが大切にしているメス猫を茂田んちの猫に強姦させるなどのえらい騒ぎになることはまだ俺しか知らない。ちなみにあのババァは五年後に死ぬ。葬式は意外と人が来ていた。
 とにかく、あのババァがこの状況を見て風紀の乱れを感じないわけがない。捕まえる方のこども110番が近所のおばさん一個師団を連れて戻ってくる前にスタコラサッサするに限るぜ。俺は沢村の腕を引っ張った。
「な、なんだよ」
「紫電ちゃんは放っておけ。この心の傷はたぶん、そのうち出来る新しい友達がなんとかしてくれるだろう」
「あ、新しい友達!? 後藤なに言ってんだ、頭大丈夫か!?」
「うるせえな俺いまいいこと言った系の雰囲気だろ! 察せよ! とにかく、紫電ちゃんはきっとお前の顔も見たくねえだろうからさっさといこうぜ。おい紫電ちゃん、こいつのことは許さなくていいぞ。さっきのはわざとだ」
「なんでダメ押しするんだよおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
 もう駄目だ、お婿にいけないと頭を抱える沢村をなだめすかして、俺はその場を後にした。
 背中に感じる天ヶ峰の体温が、少し、上がってきている気がする。

9, 8

  



 ぼおおおお、ぼおおおお、という音がすぐそばから聞こえる。くんくんと俺は鼻をひくつかせた。ううむ、焦げ臭い。
「おい沢村、なんかくせえぞ」
「天ヶ峰じゃないのか? 風邪引いてるなら風呂入れてないだろうし」
「コイツからはいつも墓場みたいなニオイがしているが、今のはそういうのじゃない」
「じゃあなんだよ」
「なんか燃えてるんじゃねえのか。焦げくせえんだよ」
 沢村はキョロキョロとあたりを見回した。
「特に何かが燃えてる気配はないけど……この暑さだからな、ゴミとかは条件次第じゃ燃え出すのかもしれない。危ないな」
「ぼおおって聞こえるんだよ。燃えてるんなら近いぞ」
「いやホントにべつになんにもないぞ? ……ははは、天ヶ峰が燃えてるんじゃないか?」
「そうらしいな」
「マジかよ!」
 俺は天ヶ峰を道路に下した。じゅわああ、と背中が焦げ始めたが、そこから立ち昇る以外にも、口から黒い煙が出始めていた。俺は顎に手をやり、ふうむ、と唸った。
「どうやら風邪をこじらせたらしいな」
「風邪をこじらせると火混じりの黒煙を吐き始めるの!? それってもう人間じゃないぞ!!」
 うるせえなあ近い将来に手から火を出すくせに。
「コイツは新陳代謝が人より活発なんだよ」
「え、なんだって? ふふっ、チンチン代謝?」
 俺は間髪入れずに沢村の膝頭を蹴り抜いた。
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
 不意を突かれた沢村はその場にもんどりうって倒れこんだ。俺は沢村の情けない様を見下ろしながら冷たく吐き捨てた。
「下ネタはべつにいいよ、でも百歩譲ってつまんねえのをなんとかしろよ!」
「ご、ごめん……」沢村が涙目で見上げてくる。
「つい出来心で……」
「チンチンと掛け合わせたつもりか? このクソ暑い中で下ネタなんか闇雲にぶっ放してたら二人とも熱中症になるぞ!! 死にたくなければ今後チンチンとおっぱいの話はタブーだ。俺はまだ死にたくない」
「帽子を持ってくればよかったな……」
 マジでそう思う。あの頃、というか、この頃の俺はちょっと夏をナメすぎである。高校球児だって野球帽かぶって振りかぶってるっつーの。
「とにかく、天ヶ峰をこんな状態のまま放っておくわけにはいかん」
「そうだな。畜生、南の奴らが病院を制圧したりするから……本当に天ヶ峰が死んじゃったらどうするんだよ!!」
 ぷりぷりと沢村は熱くなっている。クソが、こいつの体力は底なしか。この人間暖房機と話を合わせていると俺まで火を吐く羽目になる。とにかく話を進めてしまおう。
「病院は駄目。恐らく俺たちが立ち寄りそうな西小メンバーの自宅付近も南小の斥候がウロついてるはずだ。となると……」
「穴場、だな」
「そうだな。何か思い当たる節はあるか、沢村」
 うーんと沢村が腕組みをして考え込む。
「そもそも俺らと南小のやつらの行動範囲がかぶってることから起こった戦争だからな……俺らが知ってるとなれば向こうも知ってるだろ」
「ああ、その通りだ。だが、それも状況によるぜ」
「というと?」
「南の周りは集合住宅が多い。あのあたりは小金持ちのリーマン一家がマンション買って引っ越してくるケースがコピペみたいにありふれてるからな。自然と俺たちの方が土地勘はいいし、それにガキの頃からの馴染みもある」
 とか言いつつ、俺も小二の時にこの町に越してきたのだったりする。
「何が言いたいかっていうと、南のやつらは都会かぶれしたいけ好かないキザ野郎の集まりだが、ああいうのは実際問題、強そうなやつにはへーこらするのさ」
「なるほど。つまり俺たちが誰にも負けないくらい強くなればいいんだな……!」
 ぐっと拳を固める沢村。気合のあまり体温が上がったのか、汗をかきすぎて水飴の化物みたいになっている。ちょっと近づかないで欲しい。
「……俺らがいくら強くなったって天ヶ峰をダウンさせる女子に勝てるわけないだろ」
「やってみなくちゃ、わかんねえ!!」
 言いたいだけだろ。俺はため息をついた。
「沢村、お前、チュン校のそばの駄菓子屋行ったことあるか」
 チュン校とは、地柱中央中学校の略である。地柱は北小のそばに割りと入りやすい私立中学校があるので、公立の中学は一校しかない。自然、チュン校には東西南北の小学校から最強の女子たちが集まってくる。そのおかげで俺は中二の時に天ヶ峰にアバラをへし折られた。その時期ちょっと俺は戦闘力の高い女子に好かれるというワケのわからんモテ期に突入していて貞操と生命を同時に狙われており、連中から逃げ回る時に天ヶ峰を利用したところものの見事にアイツを怒らせ右ボディをもらうことになったわけだが、長くなるので今は省く。
 沢村が答えた。
「駄菓子屋って……確か校長が不良がいっぱいいるから行くなって朝礼で言ってたとこか」
「アホめ。行くに決まってるだろそんなん」
「ええええ!! 後藤、ルールはちゃんと守らないと……」
「ガキが駄菓子屋いかなかったら駄菓子屋つぶれるだろうが。で、南小の連中もなんだかんだで坊ちゃんが多いから、お前と一緒であそこ入ったことないと思うんだよ。チャンスだぜ。店長とは知り合いだから奥の座敷にこの人の形をしたドラゴンを置かしてもらおう」
「うう、なんか罪悪感あるなあ……」
 ぶつくさ言う沢村をなだめすかして、俺たちは駄菓子屋へ向かった。



 駄菓子屋『大本営』はチュン校から通りを挟んで、地柱川の土手際にある。少しいくとかつて酒井酒店があった場所に出る。今はまだ営業中なのだろうが、のちに沢村によるグラウンドゼロが発生し『買い手募集』の札がぶっ刺さった更地になることになる。
 俺は天ヶ峰をおぶさって、大本営の軒先から店内に入った。中は薄暗く、外から差し込む陽光の欠片が埃を円筒形に切り取って浮かび上がらせていた。沢村はビビっていたが、俺は店の奥から出てきた店主に事情を話し、座敷に天ヶ峰を寝かせてもらうことにした。
「――ひどい熱だな」
 大本営の店主を務める清志さんはサングラスをかけた四十前の男の人である。サイコロみたいにキチッと刈り込まれた顎鬚が特徴的だ。どう見ても一肌脱げばくりからもんもんがコンニチワしそうな極道ヅラだが、都心での一流企業就職を蹴って実家の駄菓子屋を継いだという徳の高いお方である。
「うう……」
 煎餅布団に横たわった天ヶ峰は、時折苦しそうに身をよじり、熱い吐息を漏らした。普段はスキンヘッドのように晴れ渡っている眉間に深々と皺が寄っている。
 清志さんは天ヶ峰の額に濡れたタオルを乗せてやった。
「…………」
 天ヶ峰の呼吸が少しだけ穏やかになる。清志さんはそれを確かめると、じろり、と仏壇のそばに控えた俺と沢村を睨んだ。
「お前ら、こんな状態の女の子を引っ張りまわして何を考えている」
「うす」
 俺は神妙なツラを作って大人しく頷いた。沢村を見ると清志さんの極悪面にすっかり縮み上がってナイフでおなかをブッ刺されて三分後みたいな青い顔になって黙り込んでいる。
「すんません、清志さん。ご面倒をおかけします」
「構わん。だが、うちではこの子に何もしてやれん。早く病院へ連れていってやれ」
「はい」
「――揉め事なら、俺が出てもいいが」
 清志さんは昔、裏麻雀界で負けまくったにも関わらずパンチとキックとドラゴンスープレックスで一円も払わずに切り抜けた猛者である。その本場仕込の戦闘力は十七歳時の天ヶ峰にも匹敵するだろう。だが、さすがに小五の紫電ちゃんにぶつけると可哀想というか、下手に追い掛け回させればただのロリコンによるストーカー行為になってしまうので清志さんにお願いするわけにはいかない。俺は首を振った。
「問題ないっす。でもちょっとだけ置かしてください」
「……後藤、どうにかする自信はあるのか?」
「まァ、なんとか」
 隣で沢村がビックリしている。やめてくれないかな交渉にヒビが入るから。
「……清志さん、地図を借りてもいッスか」
 清志さんは黙ってこの町の地図を出してくれた。ありがたいのだが裏にブックオフの100円シールが貼ってある。地図は最新版を買わなきゃ駄目なんじゃないだろうかと思いつつ、俺はちょっと黄ばんだ用紙を広げた。
「沢村、とにかく俺らは天ヶ峰を病院へと連れていくぞ」
「それは当然だけど……でも病院そばには南小の連中がたむろしていて近づけないぞ」
「そうだな……そこが問題だ」
 俺はばりばりと頭をかきむしった。
「どうすっかなァ。沢村、お前手から火とか出せないの?」
「何言ってんだ後藤。疲れてるのか?」
 なんだそのきょとん顔。腹立つわァ……今が過去にしろこれがただの夢にしろ元の世界に戻ったらお前の母ちゃんに兄貴が妹に手を出してるって言いふらすからな。覚悟するがいい。
 俺は沢村に火のような視線を投げつけつつ、清志さんから麦茶をもらい、軒先の風鈴が三度チリンチリン鳴ってようやく膝を叩いた。
「よし、頭が回った。とりあえず天ヶ峰を病院へ連れていくぞ」
「だから最初からそう言ってるだろ! ……へぶっ」
 俺は卓の対面に座っていた沢村の足を引っつかんで背中ズル剥けの刑に処した。まだ俺が喋ってるでしょうが! 『北の国から』みたいに怒鳴られてーのか。
「病院には南の連中が張り込んでる。と言っても連中だってこの猛暑の中で突っ立ってたら死ぬから、交代要員がいるはずだ。そいつらの駐屯地を叩く」
 沢村は俺が何を言っているのかわかっていない様子。小五め。
「だからあ、たぶん南小のやつらは病院そばの図書館に人を集めてるから、不意を突いてそっちを潰そうって言ってんだよ」
「はあ……なるほどなあ」
「なるほどなあ、じゃねーよ! お前ももうちょい頭使えよ。しんどいんだぞ一人で考えるの」
「いや俺そういうの向いてないし。後藤が適任だよ」
 ウンウンと一人頷いている沢村。俺の意見は無視か。
「でもさー」と沢村は清志さんの地図上の図書館をストローで突いた。汚ぇ。
「俺たちだけでどうやって図書館から南のやつらを追い出したりできるんだよ?」
「茂田の馬鹿が裏切らなければ囮にできたのにな……」
「茂田が裏切る気持ちが分かるよ……」
「こんな時に横井がいれば躊躇いなく捨て駒にできるのに」
「後藤、おまえ俺の話を聞いてねーな。てか横井って誰?」
 ん? そうだった。横井は中二で引っ越してきたから今はまだ四国にいるんだった。うっかりうっかり。まァ何かの縁で今ここに他人状態の横井がいたとしても俺は捨て駒に使うけどね。酒井さんの明るい未来のためにあいつは死ななきゃならないから。ウンウン。
「まー着いたらそん時にまた考えようぜ」
「いい加減だなあ」
「喧嘩なんかどんなやり方でも勝てばいいんだ」
 俺たちが立ち上がると清志さんが枝豆を投げてきた。鉄仮面の中にどこか優しい影を見せて、清志さんは言った。
「とっとけ」
 いやそんな親指立てられても……べつにこれ仙豆じゃねえし。まァ食べるけど。
「じゃあ清志さん、天ヶ峰ちょっと預かっといてください」
「うむ。早く戻って来いよ、この子のためにも」
「清志さんが車持ってたら何も考えず病院に直行できたんですけどね」
 言葉による俺のバイオレンスに清志さんは深々と沈黙した。駄菓子屋のアガリだけではタクシーを呼ぶこともままなるまい。
「あんな大人にだけはならないようにしようぜ!」
「ああ、ちゃんと就職しないとな!」
 俺と沢村は不意に吹く風のような悪意で清志さんの心を傷つけると、『大本営』を後にした。
 それもこれも、枝豆の乗った皿の向こうにこっそりビール瓶をチラつかせていた清志さんが悪いのである。
 昼間から酒飲むやつに人権なんてない。

11, 10

顎男 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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