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一章

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「では、マップに移動します。 よろしいですか、ジャック様。」
今更確認なんていらねえ。 俺は戦う。 金のため、家族のため。

俺はマップへ転送されてくる。 そこにはともに防衛側として戦う仲間がいた。
めがねをかけ、杖を持ったおっさん。 金髪の青年。野球帽にユニフォーム、金属バットの装備の男。 そして俺と同年齢くらいの女。
「全員揃いましたね。」
めがねをかけたおっさんが口火を切る。
「私のアバターネームは『魔法使いおじさん』です。 みなさんのアバターネームは?」
(自己紹介なんかするやついるのかよ。)
めがねのおっさん―魔法使いおじさんを見て俺は馬鹿にした。 すると野球一色に装備を決めた男がでかい声で叫ぶ。
「自分、野球人と申します!!」
うるさかった。 鼓膜が破れるかと思った。 ゲームの中なので肉体的なダメージはない。 だがうるさい!

「あのさー。 あと10秒で戦闘開始だぜ? いいのか?」
そういったのは金髪の青年。 こいつは装備が甘く、二丁拳銃を武器にしている。無課金者なのだろう。
「そ、そうだな。 じゃあ、俺たちはとにかく、防衛側だからやられなきゃいい。 とりあえずなるべく戦闘は避けて、遠距離攻撃が可能な武器を持ってる人はなるべく距離を詰めないようにしながら戦って行こう。」
俺は無理やり話を切り上げ、分かれるよう促す。 固まっていては全滅の危険性が高くなるからだ。

「そうですな。 じゃあ、野球人くんは私と行動しましょう。 君たち若い人々3人で行動してください。 何か進展があったら再びここに集まりましょう。」
魔法使いおじさんは野球人を連れてマップの東―森林の広がる地帯へと走っていった。

「おい、ジャックだっけ? こっからどうするんだ?」
金髪の青年は俺に話しかけてくる。 アバターネームは後から紹介してもらいわかったが、『SS』と言うらしい。
「いや、敵がいたらやばいから動かないで置く。 狙撃してきたら気配か何かでわかるし、防具があるから一撃じゃやられない。」
俺が少々自慢げに話すのを見た隣の少女が静かに呟く。
「SSは防具つけてないからライフル頭に食らったら即死。 一人兵を失うことになる。 そうなればどうなるかわかる?」
喋り続ける少女 ―アバターネーム 『Q』 の少女は徐々に昂り、大きな声で話しだす。
「お、おい、ここにいたら敵に見つかるだろ!」
俺が叫んだが、一つの鉛が確かに・・今、俺の目の前から発射され、俺の視界に入った。 そして、俺の目の前の少女・・・の横にいた男に鉛が貫通した。

「SS!!」
よりによって防具をつけてない男に鉛が刺さった。 そして俺はQの言ったことをこれから先、ようやく理解することとなる。
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SSに突き刺さった鉛が地面に落ちる。 もう一発銃声が鳴る。
「危ない!」
Qが銃弾を間一髪で俺を押し倒すことで避ける。

「お前の言った『どうなるか』ってことがわかったよ。 今・・・俺たちが狙われてる。」
「知ってる。」
俺の上に乗る彼女は呆れ顔をして俺から退けるようにダッシュして次の銃弾を避ける。 俺の頬を掠る銃弾。
「ちっ・・・こいつ、銃弾に気づいてんなら俺にも言えよ・・」
俺が小声で悪態をついているのがわかったのかQは俺にマシンガンを向ける。
「!!?」
彼女がマシンガンのトリガーに手をかけた瞬間、俺は背筋を精一杯縮めて背を反らす。
マシンガンから放たれる銃声と弾丸が俺の頭上を通り過ぎる。 その先には、サバイバルナイフを持った敵が倒れていた。

「お前・・・敵に気づいてんなら俺にも言えって・・・」
「私が気づいたのはテキじゃなくてマトだから・・・」

俺は彼女の自信過剰っぷりに呆れた。 こいつは当てる気しかせずに的・・・ではなくて敵を狙ったのか。

「とりあえず、これで4VS4だし、状況はイーブンにできた。」
「一人やられたら一人やりかえせばいいってわけじゃないだろ・・・」
Qの言うことにイマイチ賛同できなかった俺だったが、とりあえず、先ほどSSを襲撃したスナイパーを倒したわけではないので警戒を怠らずに移動する。

「なあQ。」
「どうしたの?」

このきまずい雰囲気がいやだった俺は会話をしようと試みる。 がしかし
「しっ、危ない。」
Qは俺の腕を掴み、建物の影に隠れさせた。 壁の向こうからは口笛が聞こえてくる。
「おーれのーばーくだん~ 喰らってしまえば楽になる~。」

妙にビブラートを聞かせた歌声までもが聞こえてくる。 多くそびえ立つ白い建物に反射して共鳴するかのようにこちらの耳に入る。

(こいつ・・・俺たちがいるとわかって歌ってやがる!!?)
「さーてさてー 立派な防具のにーちゃんもー せーら服着たねーちゃんもー。」

立派な防具のにーちゃんはおそらく俺のこと。 課金アイテムの防具は軽くて強度が優れる。 せーら服着たねーちゃんはおそらくQのこと。
「・・・こいつ、俺たちに気づいてる・・・?」
「しっ・・・」
俺が話しかけてもQはまともに答えてくれない。

そのとき目の前に黒い物体が現れる。 
―爆弾・・・?

続く
その瞬間、俺は咄嗟に後退した。 Qの腕が当たるのがわかったが、その感触は爆風によってかき消された。


皮膚が焼けるような痛みと焦げるような臭い。 
このゲーム、現実世界の肉体にダメージこそは無いものの、精神世界の肉体であるアバターと 現実世界、精神世界共通の記憶にはダメージがある。
つまり、この皮膚の痛みと焦げる臭いは俺の現実世界に行っても俺の記憶に残り続ける。

「大丈夫か、Q。」
「ちょっと痛いけど、大丈夫。」

そんなQの腕には爆弾による傷が・・・ この傷の痛みを実際にQは精神で感じている。
「くそっ、爆弾ぶっぱなしやがって・・・」
Qはそういってマシンガンを爆弾野郎に向けて構えるが、銃口に爆弾がセットされていることに気づいていなかった。

「あぶねえ! 放せ! Q!」
俺はすぐさまQからマシンガンを奪い取り、銃口にセットされた爆弾を敵に向けて投げる。 ところが俺たちの目の前で爆発し、俺たちはまた吹っ飛ばされる。

「いってえ・・・ 大丈夫か・・・?」
俺の目の周りにQはおらず、もう爆弾野郎に向かって突撃していた。

「バカ野郎! そいつに近距離戦は!!」

Qは日本刀を持ち出して爆弾野郎が投げる爆弾を斬り避けるが、避けきれずに一つモロに喰らう。

「Q!」
俺の息が休まる間も無く、爆弾野郎はQに爆弾を投げる。

(まずい!!)
俺は腰から武器の一つであるウォーターカッターを取り出し、爆弾の導火線めがけて放つ。 ついでに爆弾野郎の胴も切断する。

「・・・!!」
Qはさすがにびびっていたのか、一気に緊張状態が放たれたかのように腰を下ろす。
「大丈夫か・・・?」
「だ・・大丈夫だから。」
「嘘付け。」
俺がQの目を直視するとQは目をそらす。 なんだか面白い。

つかの間の休息だったが、俺たちは仲間の窮地に気づいていなかった。 そして、自分たちの窮地にも。
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「ねえ、ジャックだっけ・・・?」
Qに初めて名で呼ばれた。 と言ってもゲーム上の偽名だが。

「どうした?」
「他の人どこに行ったと思う?」
「森のほうだろ?」
他の人とは最初に別れた魔法使いおじさんと野球一色の男 『野球人』 である。

「森のほうに行ったなら・・・ 私たちと同じ人数の敵と戦っているとして、そろそろ私たちと同じ元の場所に戻ってくるものじゃないかなと。」

Qの言うとおりだ。 俺たちは爆弾野郎を倒した後、最初のスタート場所に戻ってきていた。

「あー。 なんとしてでも勝たなきゃならねえな・・・ 」
「それは私も。 ライフ減らしたくないし。」
「ライフが減るくらいどうってことないだろ。 課金アイテム使って調節できるし。 まっ、俺はそうもならない状況だけど。」
「私もそういう状況・・・どうして課金できないの?」
Qはぐいぐい聞いてくる。 俺は仕方なく答えていく。

「俺のせいで、俺の家は家庭崩壊したんだよ。」
「・・・ごめん、ヘンなこと聞いちゃった。」

「いや、まあ俺のせいだし。 俺のせいで家族が大変な思いしてるから、もう俺は課金しないし、このゲームも金稼ぎだけに専念する。」
「私も言わせちゃったから言うけど、私も課金できる状況じゃないんだよ。 だからあなたと同じように金稼ぎでココ来てる。」
「そうか・・・」
「ジャック、何気に強いよ。 ここ慣れてるの?」
「そんなことはない。 何しろ初心者のころに一度来てぼろ負けして以来来てなかった。」

―俺は一昔前に初めて攻防モードを行った。 そしてスタート早々、ライフルのレーザーポインターを敵に当てられていた。
そして開始数秒で頭を撃たれ、倒された。 それ以来、俺はやつに勝ちたいと課金をしまくり、競技場モードで鍛えていたのだ。

「やっぱり負けるのを重ねないと強くなれないよね・・・」
彼女の表情にどこか重さを感じながらも、俺たちはその場で仲間を待つ。 ところが

「生き残り発見! 撃て!!」
一人の男の声と共にかつてのレーザーポインターが俺の頭部に当てられる。 一瞬だけ動きが硬直したそのとき、地中からドリルが二本。

「!!!?」
Qの胴体を貫くドリル。 俺はすぐさま地中から現れた男に膝蹴りを喰らわせる。 そのまま小刀を脊髄に刺す。
意識のほとんど無いQを寝込ませ、俺はレーザーポインターが当てられる方角をじっと見つめる。 目線の先に立つ男。
その一人の男こそ・・・俺が初めての攻防ゲームでぼろ負けしたスナイパーの男だった。 続く
「お前・・・いつの日にかの初心者くんじゃないか・・・ 覚えてるよ・・・君の事。」

俺に喋りかけてきた因縁の男。 向こうも覚えていたか。
「なんてったって君は俺が最初にkillした男だったからね。」

(マジかよ・・・ 俺が初めて倒された男が・・・初めて倒した男が俺だと・・・)

俺は小刀を構え、戦闘態勢に入る。 向こうはスナイパーを構えているため、下手に動けない。
俺は多くの武器から攻めパターンをいくつも考える。 俺はゆっくりとポケットからシール型爆弾を取り出す。

そして俺はいつものようにやられまいと防具を頭にゆっくりとつける。 
隙を見せたら撃たれる。 その緊張感が俺の神経を研ぎ澄ます。
(あのライフルは多分スナイパー・・・友人のサバゲーマニアでこのゲームのプレイヤー曰く、5.56×45mm弾だと1秒に1000m近く行くんだとか行かないんだとか。)

俺は一歩後退する。 これで大体間合いは50m・・・つまりここに届くまで0.05秒くらい・・・
「よーい!!!」
叫ぶ。 と同時に向かいの男は引き金を引く。 その光景が見えるよりも早くに俺はしゃがむ。

頭上を弾丸が通過したのは、俺がひざを完全に曲げるよりも先のことだった。
俺はこのまま50mを駆け抜ける。 スナイパーライフルはセミオート・・・つまり単射なので次の発射までちょっと時間がかかるはず・・・




―浅はかだった。

あいつはもう一丁スナイパーライフルを持っていた。 そして・・・
それが目に入った瞬間に俺は右腕に痛みを感じた。 俺は小刀を落とした。
「うぐぅ・・・あああ!!!」
俺は弾丸が貫通した右腕を押さえ、うろたえる間にもう一発放たれる。 次は左ひざに当たる。

(マジかよッ また俺は負けるのかッ!!)
俺は痛みを抑え、歩き続ける。

(負けるかよっ!!)
俺は次に飛んできた弾丸は偶然防具に弾かれる。

俺は落とした小刀を拾いスナイパーに投げる。 そして小刀で相手の視界が遮られるまでに俺は距離を詰め、シール型爆弾をスナイパーの額に貼る。
小刀をライフルで弾いた彼。 俺の肩に切り傷が入る。

「リベンジ・・・ッ!!」
後ろを振り返れば頭部の破裂したかつての因縁の男がウネリ声を上げて横たわる。 俺は・・・俺は勝ったのだ。
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「随分と懐かしい顔じゃねえか」
かつての敵はそう笑い飛ばすとあの日の戦いの後のように右手をさしのべる。
「久しぶり、ジャック」
「こちらこそ、鉄男」

「よし、じゃあ俺たちは防衛側として協力して頑張っていこう」
高太の言葉を皮切りに、俺たちは湖岸にそって歩いていった。

「…静かだね…」
あーかいぷが呟く。それ以外の音は雑草を踏みしめる10本の足から発せられるものだけである。

「じゃあ、今のうちに作戦を考えましょうよ。 二手か三手に分かれるべきだと俺は思うんですが」
俺の言葉に鉄男とQはすぐさま賛成の反応を示す。 だが、高太は反対の意を示した。
「…このゲームに参加する奴はだいたい実力が同じ奴ばかりだ。 2VS1なんて状況に立たされて勝つ自身はあるか?」
高太の真剣な目つきに思わず俺は黙ってしまった。
「…俺はない。 だから全員で行動をする。 5VS5なら勝ち目が見出せなかったとしても5手に分かれて逃げれば時間稼ぎにはなる」
「…なるほど…的を射てないわけではないな。ここは高太の言うとおりにした方が良さそうだ。 なあジャック」
「そうだな。 そうしよう」
俺は渋々納得すると、足元に視線を落とした。 いつでも逃げ出せるように足の武具を軽いモノに変えておいた。

「Qも武具変えておいたら?」
「私は…負ける気無いから… 5VS5になろうと1VS1になろうと逃げるつもりは無いわ」
相変わらず彼女の自信満々の態度に呆れながらも、俺たちはまた一歩一歩歩き始める。

仮想空間の太陽が西側に沈み始める頃、時計はあと4分のところを指していた。
「ヒャッハー! 一網打尽のチャンス到来ィィィイイイイイイ!!」
頭上が叫び声がした。 俺は反射的に上を見上げるよりも先に、武器である洋刀を腰から抜いていた。
―いつでも戦えるぜ…
一人の男が5人に囲まれるように中央に着地した。 そして両手に持っていた大型の鎌を360度ぐるぐる回って振り回す。
「うろおおおおおおおおお」
奇声を発しながら回る男の脳天めがけて、高太がピストルで一発だけ発砲する。

綺麗に打ち抜いた。 頭蓋骨の穴から多量の血が流れ出る。
―1人仕留めた。 そう思った矢先だった。
湖岸沿いの道から少し離れた森から、体長2mは超える熊が現れた。
「終わった・・・」
座り込む前に、横たわる少女の肩を揺さぶる。
「終わったぞ、Q! 終了手続きするぞ。」
「う・・・うん」

胴体に大きな傷のある少女は無理やり痛むその小さな体を起こし、応える。
「終わったの?」
「ああ、終わった。」
「やるじゃん、ジャック。 って痛い・・・」
「終了手続きすればダメージとともに痛みも消えるって。 さ、手続きするぞ。 そして報酬もらわなきゃ。」

攻防モードを終えた10人のプレイヤーは受付に戻ってきた。
負けた5人のプレイヤーはマネーを支払い、勝った5人のプレイヤーはマネーを受け取る。

(これで三ヶ月の生活はなんとかなるかな・・・)
「ねぇ、ジャック、」
生活が確保できて安堵する俺に話しかけてくるQ。
「どうした?」
「フレンド申請していい?」
「・・・ 勝手にしろ。」

数分後、彼女からメールが届く。 レベルもスキルもなかなか高く、武器も揃っていると来た。
俺の少ないフレンドの中ではかなり上位に入るだろう。

(とりあえず、いったんログアウトだな。)
俺は彼女以外の者から申請が来る前にそそくさとログアウトし、ゲームから一旦離れる。
すぐさま口座を棚から取り出し、銀行へ駆け抜ける。

(待ってろよ・・・もうすぐ金が入るからな!!)
俺は赤信号が青に変わりきる前に横断歩道を渡る。 信号無視の車が目の前を通った。 それでもスピードは緩めない。

銀行までもう少しというところで男を連れた母を見かける。 が無視した。 それが母のためでもあるのかもしれない。
とりあえず俺には金を、飯を待っている妹と弟がいる。 そいつらのためにも早く・・・

銀行に到着すると俺は両手を巧みに動かし口座番号を打ち込む。 そして・・・ゲームの報酬を受け取る。
「金だ・・・!」
この達成感こそが、課金をし続けて廃人化し、生活が危なくなってもこのゲームをやめられない一つの所以なのである。
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