8
夜の街を自転車で走って行く。
夜気が体の表面に当たって散って行く。冷たい風は、すっきりとした気分を与えてくれる。
横目で妹に視線を送る。
彼女は自転車のサドルに捕まって振り落とされないように必死なようだ。
「どんな髪型にするか決まってる?」
彼女はぶんぶんと首を横に振る。どうやら声も出せないらしい。
「心配しなくても、君が菌糸から産まれてきたばかりだっていうことを伝えれば良い。きっと、気に入るようにしてくれるよ。」
返事は無い。それどころではないようだ。
僕は力いっぱい自転車を漕いで、目的地へ向かって行った。
妹が髪を切っている間中、僕は外にでて、ただぼんやりと街の様子を眺めていた。
たくさんの人々が起きて活動を始めたようだった。
産まれてすぐに名前を隠してきた妹。いったい、なんのつもりだろうか。いくら考えても分からない。
そんな事を考えいると、手元の携帯が鳴り始めた。
母からだった。
「もしもし」
電話の向こうから、明るく明敏な声が響き渡る。
「もしもし、母さん」
妹が産まれたことを知った母が心配して電話をかけてきたのだった。
「うん、大丈夫だよ。どこにも悪いところはないし、健康優良児って感じかな。少し生意気なんだけどさ」
近いうちに、うちへ顔を出す事を伝え、