「数彦、数彦! 起きろ! 殺されるぞ!」
ん? なんだ? まだ夜が明けてないようだが……。
「数ちゃん、逃げて! 強盗が、強盗が!」
親父と母の叫び声が聞こえる気がするのだが。
誰かが階段を上ってきている。誰だ?
「数ちゃん、数ちゃん!」
「逃げろ数彦!」
え? これは夢だよな? 夢……だよな? 違う。夢じゃない、夢じゃない!
強盗なら金を奪って終わりじゃないのか? なぜ階段を上がってくる? 勝負? 神様? まさか、まさか!
このまま布団の中にいたら殺されるんじゃないか? いや、無いだろう無い無い。でもなんだ? この恐怖感は! 怖い、怖い! 恐怖で体が動かない!
とにかくやばい気がする。どうする? 逃げるか?
どうやって? ここは二階だ。窓から逃げるか? ダメだ。逃げ切れない。俺は裸足、奴は靴。追いつかれる。
110番? 携帯? ダメだ。間に合わない。携帯を探す暇なんて無い!
じゃあどうする? 戦うか? 多分奴は持っている。ナイフ? 包丁?
勝てっこない。俺には武器が無い。刺される。どうする? どうする!
『本当の恐怖ってのは心地いいだろう?』
誰だ?
『俺だよ。わからないか?』
わかるわけないだろ!
『そうだよなあ。わからないよなあ。しかし、殺されるってわかるか。やっぱりお前はカエルだよなあ』
助けてくれ。
『それは負けって事でいいってことか?』
負け?
『そうだ。負けるってことは誰に何をされても文句は言えないって事。要するに、殺されても文句は言えないってことさ』
ふざけるな! お前は何だ! 誰なんだ? 答えろ! 助けろ、助けて。お願いだから。
『飛べよ。お前、カエルの神様なんだろ? 飛べ。飛んで逃げちまえ。逃げ切ればお前の勝ち、ダメならお前の負け』
逃げる? 無理。追いつかれる。無理だ。無理だ!
「ガチャ」
部屋のドアが開いた。開いた。殺される。殺される。
「うわああああああああああああああぁぁぁ」
その時俺は、二階の俺の部屋の庭側の窓ガラスを突き破り、空中にいた。