気がついたら、俺は庭に座っていた。腕にはガラスが刺さっている。
しかし、軽い興奮状態に陥ってる為か不思議と痛みを感じなかった。
腕に刺さったガラスが邪魔だった。だから俺はガラスを引き抜いた。血が止まらなくなった。でも少量だった。大丈夫だ。
よいしょっと。立てる。そして歩ける。大丈夫。早く逃げないと。
しかし何だ? なぜこんなに冷静なんだ?
どこかで聞いたことがある。アフリカの方で成人式にバンジージャンプをしたら、一人前の男として認められる儀式があると。
二階からガラスを突き破るなんて、死ぬかもしれないことだろ? 俺はその死線を潜り抜けた。
多分そのことを俺の脳と細胞が理解したんだ。そうだ、そうだよ。
ガラスが腕に刺さったから助かった。腹に刺さっていたら死んでいた。ハハ。
俺は死なない。死なない。
『ぐずぐずしてていいのかい?』
またお前か。
『早く逃げないと、殺されるんだぜ?』
わかっている。考えている暇は無い。
『そうだ。しかし、俺は無理だと思うぜ? 奴からは逃げられない。到底無理な話だな』
できる! できるさ! 自転車だ。自転車を使う。
『自転車? ああもうダメだな。目に見えてる』
何を言っている。自転車で逃げればいいんだ。交番まで。あれ? 鍵が、鍵がかかっている。
『ほら、ダメだって言ったろ?』
誰がかけたんだ! いつもはかかってないはずなのに!
『もう諦めろ。お前は殺される。大丈夫だ、痛くないって。お前、腕にガラスが刺さったって痛くなかったろ? 腕が腹になるだけだ。ドスン! とな。大丈夫だすぐ済む』
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
『わかってると思うが、お前が行動を誤るたびにお前が助かる確率が下がっていくんだぜ?』
わかってるわかってるわかってるわかってる。
『さっきまで冷静だったのにな。こりゃあ駄目かな』
俺はあきらめない。絶対に助かってやる!