夜がふけて、空が少し明るくなってきていた。路地には通行人は誰もおらず、車も走っていなかった。
俺は恐怖を振り払うように全力で走った。町の外れにある、交番に向かって。
ちょうどその時、遠くの方からバイクの音が聞こえてきた。新聞配達か?
しめた! 配達員の人に助けを求めるんだ! 助かる、俺は助かる!
配達員が乗ったバイクが俺が走っている対面からやって来るのが見え始めた。
そして、配達員は30メートル先の民家の前に止まり、新聞を郵便受けに挿しているところだった。
俺は走るスピードを速め、全力で叫んだ。
「すいません! そこの新聞配達さん! 家に強盗が入りまして、追われて逃げている所なんですが、交番まで連れて行ってくれませんか? 助けてください、助けてください!」
半ヘルで、口に火をつけてないタバコをくわえたその配達員は俺に気づくと、何があったんだと固まっていた様子だった。
配達員が俺の様子を眺めた。
服装はTシャツ。下はトランクス。腕からは血が流れている。配達員が言う。
「ええ? 強盗? マジなの? 警察には連絡した?」
「してません。暇が無かったので」
「おじさん携帯あるから連絡してやるからよう、安心しな。しかし、新聞配達の50ccじゃあ本当はにけつは駄目なんだけどよう。まあ非常時だから仕方がないわな」
「とにかく交番に連れて行ってください。時間が無いんです」
「おおわかった。ん? 駄目だ。なぜか携帯つながらないねー。どうしてだ?」
「お願いします。早くしてください」
「じゃあ新聞はここに置いといて、後ろの荷物置きに乗ってくれ。しかしこりゅあ、明日新聞に載るかもしれないなあ。こんなことは、20年やってきてはじめての事だ」