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15.モニター最終選考会

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15.
 2014年4月
 ホテルの大ホールを貸し切り、タレントや文化人を審査委員として招き、小林を審査委員長としてモニターキャンペーン最終選考発表会は開催された。多くの報道陣は、事前に広告料が支払われて各番組、各紙で一大ニュースとして取り上げるという事前の合意の上でこのイベントに参加している。
 「今宵!応募総数10万組の中から1組のドリームペアが誕生します!ここに集いし5組のペアは厳正なる審査の結果選ばれし、いずれも劣らぬ魅力を持つ未来に夢溢れる若者たちです。」
 司会から紹介が終わると、各組審査の対象である、ペアダンスが行われ、最終アピールとして各組代表による、「私とファイブマート」というテーマでスピーチが行われる。
ダンスも終わり、4組のスピーチが終了すると、最後に杉村の番が周ってきた。
 「本日、この場に立つことが出来て。私の心は驚きに満ち溢れています。モニターキャンペーンに参加する以前の私はファイブマートのヘビーユーザーでしたが、まさかその自分がここまで関わりを持つなんて考えてもいませんでしたから。そんな私がファイブマートのモニターキャンペーンに参加する一番の理由。それは、ファイブマートに対して深い愛情を持っているから、唯それだけです。では私がなぜファイブマートを愛しているのか、それを考えてみました。ファイブマートはいつだって僕ら消費者のこうだったら便利なのにという願望を、まだ僕らが意識的に言語化する前の段階から、実装して運用していくという驚くべき行動力を持ち合わせています。そしてその驚くべき行動力の源は何かと考えたとき、それは消費者に対しての溢れる愛情なんだって事に気づいたんです。ヘビーユーザーである私とファイブマートが相思相愛になっていったのは正に当然の帰結ではありませんか?ですが、モニターキャンペーン応募の際には、私は激しい相克に悩まされました。現状の安定した職とファイブマートへの愛情。本当の所は、その二つの間で心が揺れ動いてしまったのです。でも、ある日、今も隣で私を見守ってくれる、今日子とファイブマートのおでんを頬張っている時、そもそもその二つは比較対象として成り立ってはいないということに気付いたのです。安定した生活と、消費者に対しての愛の実践。この二つが比べる事が出来るでしょうか?いえ、私には出来ません。母親から無償の愛情を受け取り続けた子供のように、今度は次世代にこのファイブマートから受けた愛を伝えたい。そういう願望がこのキャンペーンの参加を通じて海底から湧き出るマグマのように、私の心を満たして行きました。そして、いま私の心には、マグマが冷えて大地が出来、そこで新しい命が芽吹き始めています。どうか私に!この愛情という栄養を全力で浴びた、新芽を育てるチャンスをいただけないでしょうか?この新芽を大きく育てて行くことこそが私の使命なのだ!今ではそう考えています。私にはもうその事しか頭にない、根っからのファイブマート馬鹿なのです。」
 スピーチが終わると、会場から拍手が起こり、舞台袖でスピーチを見ていた崎谷も満足げにうなずいていた。今日子はスピーチの内容よりも、自信満々に臆することなく大勢の前で振る舞う杉村の姿を見て感動し涙を流した。

 最終審議に少しの間、時間が割かれ、結果発表の時がきた。
「最終発表です。ファイブマートモニターキャンペーン優勝者は…」
暗闇の中、音響にあわせてスポットライトがランダムに移動し、音が止む。
「村上悠大、中尾今日子ペアです!」と司会が発表すると杉村ペアが照らし出された。
 会場脇から、トロフィーを持ってやってくる小林、歩み出てそれを受け取ろうとする杉村。杉村は隣で優勝に喜ぶ今日子を見ていっそこのまま、優勝者を演じるのも悪くないと思えた。だが、犠牲になった野上家との体験がフラッシュバックで甦ると、心の中で今日子に謝り、当初の計画を実行に移すことにした。
 杉村は小林からトロフィーを受け取った瞬間、大きな炸裂音と同時にくす玉が割られ、豪華な仕掛けと共に報道陣によるフラッシュがたかれ視界が真っ白になる中、袖に装着していた、仕掛け銃を小林に向けると2発腹部に撃ち込んだ。
小林は腹部に激しい衝撃を受け触ってみると、掌にはベットリと血がついていた。自分の死が一瞬脳裏に浮かんだが、そんなことよりも大切なことはこのイベントを無事済ませることであると瞬時に判断する頭脳は失っていなかった。会場内を見渡すと、仕掛けの炸裂音により銃声が打ち消された影響で事態の把握をしている者がいないことに気付いた。ただ一人、崎谷はその様子を舞台袖から直視で確認していたので「豚野郎ー!」と叫んで慌てて近寄ろうとしてきた。それを、小林は振り向くと睨みつけ、手で制すと崎谷は動くことが出来なかった。
小林は患部を手で押さえると、放心状態で固まる杉村を残る片手で大げさに抱きしめると耳元で囁いた。
「いつくるか、いつくるか。この数十年待ち望んでいたんだ。君が新たな革命家か!…だがね。ここは私の用意した舞台だ!最後まで演じさせてもらうよ。」
近づいてきた司会者からマイクを受け取ると、
「彼が、彼こそが、これからの新しい我らが、ファイブマートのオーナー像であり新たな社会人像でもあります。どうか皆様、これからも我々ファイブマートと彼を!末永くお見守りください!」そう言うと小林はそのまま舞台袖まで足早に立ち去り大勢の視界から外れるとその場に倒れ込んだ。
崎谷は、倒れた会長に向かって、「会長!会長!」と確認を取ると、部下に対して、「何やってる!さっさと救急車を呼べ!」と怒鳴りつけた。
「いいか、奴は放っておけ!それよりイベントは成功させろ!」と小林は言うとそのまま意識を失った。
杉村は放心状態であったが我に返ると、「逃げるぞ!」といって今日子の片手を掴んだ。
「え?どうしたの?」と事態を把握していない今日子。
「いいから!」と副賞の授与を無視して強引に舞台から連れて逃げだした。
突然の主役の退場に会場内が騒がしくなった時、崎谷が舞台のどん帳を下げさせると狭くなっていく舞台の上で「これにて、モニター募集キャンペーン最終発表会を終了致します。皆さま、本日はご来場いただき誠にありがとうございました。」と言って頭を下げた。
完全に幕が下りると、崎谷は全速力で杉村の後を追った。
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