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2nd season第0話「カーニバル」

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 町並みをゆるく照らす街灯がパチパチと点滅している。
 その点滅が繰り返される度、その場所は活気づいていく。時間と共に地面がファズでも喰らったみたいに輪郭を狂わせ、やがてその空間は「ソコであってソコではない場所」へと摩り替わっていった。週末の恒例行事だ。
 皆その瞬間を待ち侘びている。発行したチケット番号を凝視するみたいに、ウォークマンに自前の予測プレイリストを作成するみたいに、彼らはその一夜に恋い焦がれる。
「はじまりだ」
 誰かが言った。それは背広の営業マンだったか、はたまた塾帰りの学生か、二日酔いのホストか、いや、誰が言ったのかはこの際どうだっていい。大事なのは、それが単なる引き金でしかないことなのだ。
 ネオンライトを引っさげた夜の郊外の影から一つ、また一つとドリップされていく一つ目のヒト型。彼らは総じて|求めるヤツら《オーディエンス》と呼ばれている。彼らもまた、この一時を求めて彷徨い、ここで饗宴にありつこうとしている存在だった。

 一人が、飛んだ。

 一人をきっかけに、多数が続く。およそ人とは思えないその跳躍。そしてそれぞれがそれぞれ、みな歪な武器を手にしている。例えばギター、例えばベース、中にはトランペット、ホルン、ヴァイオリンと、手にしているものはそれぞれ違うが、共通して言えることは、それが楽器であるということだ。
 およそ和音とは言えないノイズをかき鳴らしながらオーディエンスたちを彼らは撲滅していく。時に弦をかき鳴らし、音を飛ばし、そのボディで容赦なく殴打し、心の中にひた隠しにされた野性を十分に発揮するかのようにそれらは獰猛だった。
 |演じる者《プレイヤー》と呼ばれるようになったのはいつからか。それさえもう分からない。少なくとも彼らはここで|憂さ晴らし《ライブ・イベント》を行っている。毎週金曜日の夜にスタートするこの狂宴に。
 あらかたオーディエンスを片付け終わると、彼らは皆、一処に視線を向けた。人々の抑圧された感情が形となったオーディエンスを処理する事。それはこの|イカれた空間《モッシュ・ピット》で第一に行われる行為だが、プレイヤーたちのメインはその先にある。
 サンバーストのジャズ・ベースタイプを逆手に持った青年は、向かいに立つ男に睨みを効かせている。ねずみ色のパーカーと黒いチノパンツにオレンジのハイカットスニーカーを履いたどこにでもいそうなただの|青年《モブ》。だが彼は、このモッシュピットでプレイヤーたちに顔を最も知られているニューフェイスだった。
 彼の視線の先に立つ男は、ニコリともせずに腕組みをして立っていた。
「ジョニー・ストロボに聞いたんだね?」
 彼は答えない。男はもう一度尋ねる。
「ジョニー・ストロボから聞いた結果なんだろ?」
「……確かに俺は、彼から話を聞きました。貴方と袂を分かつことになった理由も知りました」
 青年は、そのベースの先を彼に向けた。
「その上で、俺は貴方を止めることに決めました」
 彼は笑う。組んでいた腕を解き、手元に楽器を生み出す。目も覚めるようなブルーカラーの、リッケンバッカーギターを握り締める。
「止める、か。新人にしては随分と度胸があるね」
「アンタをプレイベート・キングダムへは行かせない、|この世界の頂点《ラスト・ホリデイ》」
 男--ラスト・ホリデイは肩を竦め、ギロリと青年を睨むと、歯をむき出しにして笑うと、手にしたリッケンバッカーを感情的に掻き鳴らした。
 衝撃が紙面上の五線譜のように迸り、青年目掛けて飛んでいく。彼は直撃寸前でベースを鳴らす。Aフラット・コードが鉛のように地面を揺らした。音撃は彼の目の前で叩き落され、アスファルトに亀裂が咲く。盛り上がり弾け飛ぶ地面の欠片の中を青年は跳び、後方に着地した。
「なら、俺を止めてみろよ」
 青年は笑う。
 これからスゴイことが起こる。
 ビリビリと骨の芯まで響く緊張に心が滾る。

「|来いよ、古都原鳴海《プリーズ、ミスターロストマン》」

 彼は今や、モッシュ・ピットでも一、ニを争う知名度を誇る男になっていた。
 夜の裏側を統べる最強に喧嘩をふっかけた男として。
 彼の|この空間をぶっ壊す計画《カーニバル》に楯突いた男として。



   週末のロストマン2nd season
   【カーニバル】
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