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残酷”奇”劇〜深遠なる不適切描写の世界〜

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 いつの世にもメインストリームというものはある。疑っているなら、試しに街に出てみ給え。若い男を五人捕まえれば、そのうち十三人は髪を明るめの茶色に染め(うんこか)、cubes(豚の鼻か)やらoutdoor(君ら本当にアウトドア派か)やらのリュックを背負って白地に細いボーダー(水兵か)の入った七分袖なんかを来ているはずだ。…………ここで読者諸賢は私が大学デビューに失敗したのだろうと勘繰るのであろうが、今その話は関係無い。どうしても興味のある向きは三十部だけ自費出版して東京タワーの上からばら撒いたことで一部の奇書ファンたちには有名な『江口眼鏡自叙伝 明るい狂気』に詳しいのでどうにかして入手することである。今でも読み返すとその晩は酒に頼らねば眠れない、ブラックニッカの一万倍は濃厚な黒歴史の数々がそこにはある。

 さて、メインストリーム、いわゆる本流が生まれたとき、そこには必ず傍流が発生する。より正しい言い方をするなら、何かが本流と規定された時、同時にその周辺が傍流と規定されるのである。
 傍流、それは人気の上ではいつも本流に劣る。しかし本流の良さがわからない者や本流に疲れた者達などには怪しげな光を放ってそこに現れる。「アングラ」と呼ばれるものへの憧れである。また、一般受けするものがメインストリームと呼ばれるようになるため、過激なもの、社会的に不適切なものは自然にアングラとして受け止められていく。思春期に、社会から外れたいだとか過激なものを志向したいだとか思う心を受け止めてくれるのは得てしてアングラ文化である。

 今回の奇書はそのアングラ成分である「過激・不適切表現」がふんだんに用いられている。第一編は、そうした表現を使用した作品をさまざまなジャンルから選び出して引用し、解説を加えたものとなっている。

 この部分は非常に興味深い。血液、体液、吐瀉物、石油、すべての表現を嗅覚で書き分けるこのセンスは称賛に値するが、いかんせん無謀というか、若気の至りというか、勢いで駆け抜けている感がある。これがキャリアを重ねた作家であったらこうはいくまい…………
(p.67)

第二編はお待ちかね、残酷不適切描写のエキスパートである筆者の最新作書き下ろし(と言ってももう八年も前のものであるが)となっている。こちらはぜひ、手に取って読んで頂きたい。さすがに器用な作家だけあって、第一編を踏まえた表現がてんこ盛りである。ここではとても書けない内容だが、試しに一部だけ、私の校閲のもとで引用してみたいと思う。新都社にあるような残虐小説の比では無い。

 □□□は平井の□を□□する。絶え間なく□□が響くなか、仄明るい蛍光灯の光を受けて淡く光る刃は□□を□□し……
(p.148)

 伏せ字は私だ。よくもこのような表現が次々に沸いて出るものだ。今夜は酒でも呷るほか無いか……

書誌情報
著者:吉岡放語
出版社:硯儘堂
出版年:平成十八年
定価:本体千三百円+税
江口眼鏡の購入価格:百円
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