28 シャーロットの過去~入学試験
竜に関してはどうやらシャーロットが嘘をついているのではないとパトリックは言った。
彼女が幻覚を見ているのではないかと俺が疑うと、彼はそうかもしれない、とも。
【オレはあくまで彼女の、見たっていう記憶を読んで話してるだけだぜ。幻覚、魔術的にあとから植えつけた記憶、そういうのかどうかは知らない。だけど彼女は見たと確信してるよ。その後も竜はなんども現れて、帝都の武装蜂起事件やストームキープの盗掘事件だって予言している。本人はそう言っている】
俺は飛行船の魔女のことを考えた。あいつだって、俺を導いている。〈交差点〉のロバートのように、役に立つ予言をくれたことはないけれど、俺を動かしているのは事実だ。確かに、その〈竜〉は存在するのかもしれない。
〈火の学院〉にシャーロットがやってきたのは夕刻だった。
既に入学試験は終了していて、訓練場では後片付けが行われていた。
監督官にシャーロットは、試験を受けたいと告げた。あしらうつもりだったのだろう、彼は「この場にある的をすべて壊したらいいよ」などと答えたそうだ。
そこには魔法の練習や実技試験用のカカシが、五十体ほど立ち並んでいた。
シャーロットは杖を抜くと「夕立を降らせた」。どうすればそれが可能か俺には分からない。それだけ複数の弾を誘導するなんて。しかし、彼女の杖から放たれた蒼白い魔力は全てのカカシを打ち砕いた。そういえば、一時期練習場が使用できなくなっていたけど、それはこのためだったのか。
〈夕立〉を降らせた魔導師のことは新入生の間で話題になったが、積極的に彼女に話しかけてくる者は多くなかった。
そして、彼女は大学を去ることとなる。理由は最初に会ったとき言っていた、学ぶことがなくなったから、というので違いないとシャーロットは繰り返した。
それから彼女は帝国首都郊外において、さっそく冒険者の仕事を始めた。最初は俺たちが今やっているような害虫駆除の仕事をしていたが、そのうちにシャーロットは人間と戦わなくてはいけないと考え始めた。そのとおりだ――人間と戦うことこそが最大の経験となるということを俺も知っている。もっと言えば、竜と戦うのが一番いいだろう。もともと魔法はそのために作り出されたものだから。
とはいえ帝国に竜はおらず、シャーロットは単独で、野盗が巣食う洞窟へ入り、交戦した。
何発か敵の魔法で手傷を負いながら、彼女は人間の戦いってものを観察していた。筋肉の動きとか、生体エーテルの流れだ。恐らくそう遠くないうちにそれをものにしたのだろう。
あるとき、郊外で再び霧が立ち込めて、〈竜〉が現れた。そいつが言うにはじきに帝都で反乱がおこるのだと。
阻止するもしないも彼女次第だと〈竜〉は言った。
シャーロットは匿名の文書で帝国軍に報告するに留め、混乱するであろう帝都から離れ、ファーゼンティアへ上陸した。