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4 〈過客〉の礼拝堂

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   4 〈過客〉の礼拝堂

 疲れがひどいので、俺は寝る場所を探すことにした。礼拝堂の中が良いだろうと〈教団〉へ行くことを考えるが、なんとなくまずい気がした。単に〈教団〉と呼ばれる彼らは〈銀の教団〉というのが一応正式名称だ。現在、彼らは宗教団体としての実態をなくし、ほとんど軍閥だ。段階的な条件付けで標的以外には手を出せないからなんとか野放しになっている。礼拝堂はもはや前線基地なので止そう、と思った。血だらけの負傷者が運ばれてきたら悪夢を見そうだし。もっとも彼らは異常な治癒力を獲得してるから一時間しないうちに完治だろうけど。
 とはいえ引き返して〈公社〉の塔に泊まる気にはなれなかった。さっきのやくたいのない少女がまた絡んでくる恐れがあるし、他もまともじゃないだろう。
 このドロウレイスは都市同盟南端の城塞だ。帝国の北部で信仰が盛んな、〈過客〉の礼拝堂があるかもしれないと俺は推理した。たいがい関連施設はボロいが、旅人に開放されてるだろうし、司祭がいれば食料を分けてくれるかもしれない。〈過客〉の信徒は旅ばかりしている。俺もどちらかといえばそうだが、彼らほどふらふらとはしていないと自負してる。
 街路に立っている衛兵に声をかけると、明らかに不機嫌そうだ。
「どうしたんで?」とそいつ。俺は聞いた、「ここらに〈過客〉の礼拝堂かなにかないですか?」「三番街にある、こっからずっと北に行って、十字路を左だ。あとは道なり」言うなり彼は目を閉じてこちらを意識から締め出す。
 言われたとおりに進むとだいぶ古めの区画に出た。一本道と言っていたが、なるほど途中にあった分かれ道は倒壊した天井で塞がれている。薄暗い電灯に照らされ路地を行くと、突き当たりに旅装の少年の姿をした〈過客〉の像があった。聖チャールズのように壊されてはいない。手に持った皮袋から水が延々噴水に滴ってる。水底には何枚かコインが沈んでいて、何個かまだ青いリンゴが供えられていた。
 地べたに麻布を敷いて、笑ったような顔の司祭が本を読みながら供え物のリンゴの一つを齧っている。彼の装束は〈過客〉のそれとよく似ていて、幾多の放浪を経たように擦り切れている。
「すいません」近づきつつ俺は言った。「寝る場所を提供してほしいんですが」
「ああ、はい」笑ったような顔の司祭が答える。「無論いいですよ。中へどうぞ」突き当りの左側の壁に狭い入り口があり、中は小さな礼拝堂となっていた。「ああそうだ、ちょっと待ってください」司祭は供えられたリンゴの一つを俺に渡し、「よろしければこれもどうぞ」と噴水に手を突っ込んで二枚の五百サン硬貨をくれた。罰はあたらないだろう――〈過客〉は旅人だけじゃなく盗賊の守護神でもあるので。だが今夜悪夢を見るくらいはあり得るかもしれない。
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