第四話『ヒツジサルウシトラ』
**
バナナも凍る極寒の地。そこを旅する冒険者が二人。
「って、こんな寒いところだなんて聞いてねえぞ!!」
「まあ、場所も聞かずに引き受けちゃった僕らも悪いんだけどね」
サトシとタイヨウ。二人は今、神宿りし凍える洞窟『コールドブート』
へと来ていた。
「神……って、また物騒な前置きだな」
「別に神様と戦うわけじゃないみたいだよ。スーサイドさんに聞いたけど
ここは『闘牛(Bull)』と呼ばれる牛型のモンスターがポップするらしい
んだ」
「牛? そういえばどこかの宗教は牛を神の使いとして定義してたよな。そ
の関係か」
「ブルは総じて巨体だから狭い洞窟では攻撃をよけるのは難しいらしいよ。
まあ、対策としては急所である腹を狙うのがいいってことだけど、それには
下に潜り込まなければいけないし、リスクは高いよね」
「……今更なんだけど、この装備とレベルで大丈夫なのか? 話を聞いて不
安になってきたが」
二人はいまだ初期装備。レベル上げも『流転の衣』を手に入れてからと
いうスタンスで来たためそろって一桁台。サトシが不安に思うのも無理か
らぬ話であった。ここ、『コールドブート』も、もちろんダンジョン。ダ
ンジョンボスは当然であるが中にいる通常モンスターもフィールドに比べ
数段強く設定されている。
「街の人の話ではここの適性レベルは1~ってことだから大丈夫だとは思
うけど。それにさっきなけなしのお金で『脱出(escape)』の呪符も買っ
たしいざというときはこれを使えばいいと思うんだけど」
「まあ、とりあえず入ってみるか」
二人は入り口に近づいていく、が。
「あれが、闘牛?」
「うん……そうだと思うけど、違っていてほしい、ね」
ダンジョンの入り口。そこに構えるモンスターが一体。鼻息荒く、目は
充血し、今にも駆けださんばかりの迫力。その巨躯は入り口の大きさを優
に超え、3メートルほど。そして時折走る稲光。モンスターの体から発せら
れる電撃が辺りの岩を穿つ。
「どうやら、あれを倒さないと中に入れないらしいね」
「あれって……めっちゃ強そうじゃねえか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイド:あれは闘牛の一種、その名も『雷牛(Rum-Bull)』。名に危
険なという意味の形容詞を冠することからもわかるように荒い気性を持つ
モンスターです。体表に電流を纏わせていているので直接攻撃する際には
十分気を付けてください。
スーサイド:今放電しているのは演出上の物、実際のバトル時には放電す
ることは……なかったかも。
サトシ :そこは断言しろよ!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
遠距離攻撃はしてこない……そうわかっていても攻撃したら感電するん
じゃ勝ち目はない気がするが。そう考えるサトシはタイヨウの方を向く。
「遠距離からの攻撃しかないね。僕が盾やるからサトシは呪符で攻撃頼む
よ」
「そうは言ってもオレ、最初にもらった呪符しか持ってないぞ」
「仕方ないよ、お金ないんだし。地道に行こう!!」
作戦を練る二人。けれどもその背後から、
―ドンッ
「痛っ」
「なーにい、こんなところでボーっと突っ立ってんだよう。この坤 艮
(ひつじさる うしとら)様がぶつかっちまったじゃねえかあ」
突如サトシの背中に男がぶつかってきた。
「そっちがぶつかってきといてその態度はねえだろ!!」
「なんだあ? やる気かあ?」
「やめなよサトシ」
二人の間に割って入るタイヨウ。けれどもサトシとぶつかってきた男、
ウシトラはにらみあったままである。その男、まず目に付くのは腰に下げ
た鞭。そして獣の皮でできた帽子、上着、靴を身に着けている。長身であ
り、サトシはもちろん高校生の中では背が高い部類に入るタイヨウでさえ
視線を上に向ける必要があった。
「つうかあ、おめえ達プレイヤーだろお? なぜえ、こんなわかりづれえ位
置にあるダンジョンなんかにようがあるんだあ?」
間延びした口調に反し、語意は強め。明らかにサトシ達にプレッシャーを
掛けてきている。サトシも負けじと睨み返すがタイヨウに小突かれしぶし
ぶ視線を外す。
「僕たちはリバーズダウンでこのコールドブートの中に眠る霊薬、エリク
シルを取りに来たしだいです。艮さん……でしたっけ? あなたこそなぜ
このような場所に」
「くはははは、なんでえ。俺様と目的は同じじゃねえか。俺様もそこの
クライマンに頼まれて薬を取りに来たまでよお。だが、そうとわかれば急
がなけりゃなあ。なんせ薬なんだから治っちまえばもう必要ねえんだ。つ
まり、あんたがたより先に入手しなきゃならねえ」
そういうとウシトラはサトシ達に背を向ける。
「まあ、あんたがたのレベルじゃあここの攻略は難しいってえ。おとなし
くあきらめて帰った方が身のためだぜえ」
「なっ、あいつ一人で行く気かよ」
さも当然のように迷いなく雷牛の方に向かって行くウシトラ。確かにサ
トシ達に比べレベルが高いのは確かである。だが、持っている武器は鞭。
一体どうやって電撃を攻略するつもりなのだろうか。
「前のダンジョンはクラゲばっかでまったく歯ごたえがなかったがあ、この
ダンジョンは文字通り骨がありそうなやつばかりでうれしいぜえ。ああ、
もちろんクラゲも食ったらコリコリしてていい歯ごたえだったけどなあ」
独り言で滑ったウシトラ。雷を纏う巨牛、雷牛。戦いが始まる。
バナナも凍る極寒の地。そこを旅する冒険者が二人。
「って、こんな寒いところだなんて聞いてねえぞ!!」
「まあ、場所も聞かずに引き受けちゃった僕らも悪いんだけどね」
サトシとタイヨウ。二人は今、神宿りし凍える洞窟『コールドブート』
へと来ていた。
「神……って、また物騒な前置きだな」
「別に神様と戦うわけじゃないみたいだよ。スーサイドさんに聞いたけど
ここは『闘牛(Bull)』と呼ばれる牛型のモンスターがポップするらしい
んだ」
「牛? そういえばどこかの宗教は牛を神の使いとして定義してたよな。そ
の関係か」
「ブルは総じて巨体だから狭い洞窟では攻撃をよけるのは難しいらしいよ。
まあ、対策としては急所である腹を狙うのがいいってことだけど、それには
下に潜り込まなければいけないし、リスクは高いよね」
「……今更なんだけど、この装備とレベルで大丈夫なのか? 話を聞いて不
安になってきたが」
二人はいまだ初期装備。レベル上げも『流転の衣』を手に入れてからと
いうスタンスで来たためそろって一桁台。サトシが不安に思うのも無理か
らぬ話であった。ここ、『コールドブート』も、もちろんダンジョン。ダ
ンジョンボスは当然であるが中にいる通常モンスターもフィールドに比べ
数段強く設定されている。
「街の人の話ではここの適性レベルは1~ってことだから大丈夫だとは思
うけど。それにさっきなけなしのお金で『脱出(escape)』の呪符も買っ
たしいざというときはこれを使えばいいと思うんだけど」
「まあ、とりあえず入ってみるか」
二人は入り口に近づいていく、が。
「あれが、闘牛?」
「うん……そうだと思うけど、違っていてほしい、ね」
ダンジョンの入り口。そこに構えるモンスターが一体。鼻息荒く、目は
充血し、今にも駆けださんばかりの迫力。その巨躯は入り口の大きさを優
に超え、3メートルほど。そして時折走る稲光。モンスターの体から発せら
れる電撃が辺りの岩を穿つ。
「どうやら、あれを倒さないと中に入れないらしいね」
「あれって……めっちゃ強そうじゃねえか」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイド:あれは闘牛の一種、その名も『雷牛(Rum-Bull)』。名に危
険なという意味の形容詞を冠することからもわかるように荒い気性を持つ
モンスターです。体表に電流を纏わせていているので直接攻撃する際には
十分気を付けてください。
スーサイド:今放電しているのは演出上の物、実際のバトル時には放電す
ることは……なかったかも。
サトシ :そこは断言しろよ!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
遠距離攻撃はしてこない……そうわかっていても攻撃したら感電するん
じゃ勝ち目はない気がするが。そう考えるサトシはタイヨウの方を向く。
「遠距離からの攻撃しかないね。僕が盾やるからサトシは呪符で攻撃頼む
よ」
「そうは言ってもオレ、最初にもらった呪符しか持ってないぞ」
「仕方ないよ、お金ないんだし。地道に行こう!!」
作戦を練る二人。けれどもその背後から、
―ドンッ
「痛っ」
「なーにい、こんなところでボーっと突っ立ってんだよう。この坤 艮
(ひつじさる うしとら)様がぶつかっちまったじゃねえかあ」
突如サトシの背中に男がぶつかってきた。
「そっちがぶつかってきといてその態度はねえだろ!!」
「なんだあ? やる気かあ?」
「やめなよサトシ」
二人の間に割って入るタイヨウ。けれどもサトシとぶつかってきた男、
ウシトラはにらみあったままである。その男、まず目に付くのは腰に下げ
た鞭。そして獣の皮でできた帽子、上着、靴を身に着けている。長身であ
り、サトシはもちろん高校生の中では背が高い部類に入るタイヨウでさえ
視線を上に向ける必要があった。
「つうかあ、おめえ達プレイヤーだろお? なぜえ、こんなわかりづれえ位
置にあるダンジョンなんかにようがあるんだあ?」
間延びした口調に反し、語意は強め。明らかにサトシ達にプレッシャーを
掛けてきている。サトシも負けじと睨み返すがタイヨウに小突かれしぶし
ぶ視線を外す。
「僕たちはリバーズダウンでこのコールドブートの中に眠る霊薬、エリク
シルを取りに来たしだいです。艮さん……でしたっけ? あなたこそなぜ
このような場所に」
「くはははは、なんでえ。俺様と目的は同じじゃねえか。俺様もそこの
クライマンに頼まれて薬を取りに来たまでよお。だが、そうとわかれば急
がなけりゃなあ。なんせ薬なんだから治っちまえばもう必要ねえんだ。つ
まり、あんたがたより先に入手しなきゃならねえ」
そういうとウシトラはサトシ達に背を向ける。
「まあ、あんたがたのレベルじゃあここの攻略は難しいってえ。おとなし
くあきらめて帰った方が身のためだぜえ」
「なっ、あいつ一人で行く気かよ」
さも当然のように迷いなく雷牛の方に向かって行くウシトラ。確かにサ
トシ達に比べレベルが高いのは確かである。だが、持っている武器は鞭。
一体どうやって電撃を攻略するつもりなのだろうか。
「前のダンジョンはクラゲばっかでまったく歯ごたえがなかったがあ、この
ダンジョンは文字通り骨がありそうなやつばかりでうれしいぜえ。ああ、
もちろんクラゲも食ったらコリコリしてていい歯ごたえだったけどなあ」
独り言で滑ったウシトラ。雷を纏う巨牛、雷牛。戦いが始まる。
**
向き合うウシトラと雷牛。辺りには吹雪が吹き荒れる。
「寒いんでさっさと中に入らせてもらうぜえ」
ウシトラが両の手を前につきだし、構える。
『拳に宿るは破壊衝動 我が忠実なるしもべよ 悪意を食らい顕現せよ』
赤く輝くウシトラの右手。その光は一度拡散した後、収束し、大きな
球状となる。
『衝動飼い(ズー・キーパー) 唸れ拳、出でよ!! 忠拳ケルベロス』
拳を突き上げるウシトラ。
・
・
・
・
・
・
・
『GURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!』
突如現れた巨体。それは雷牛に匹敵するでかさである。黒い表皮、鋭い
眼光、そして3つの首。その姿は伝承などに現れるケルベロスのそれであっ
た。
「さあ、暴れようぜえ。相棒ぅ」
『GURRRRRRR』
唸るケルベロス。その怒号は辺りの木をゆらし、地面に亀裂を生む。突
如現れた新手に反応する雷牛。先手必勝とばかりにケルベロスへと突進す
る。
『雷神具(ライジング)』
雷牛の二本の角。その先端から光が漏れ出したかと思うとたちまち角全
体を電流がつつみ、バチバチと音を立てる。
ケルベロスに乗るウシトラ。雷牛の突進をケルベロスは回避する。
「ありゃあ、食らったら麻痺もらいそうだなあ。状態異常はやっかいだあ。
だが、今は好機い。行くぜえ、ケルベロスぅ」
突進をかわされ勢い余った雷牛はサトシ達が隠れていた大岩へと激突す
る。一瞬動きの止まる雷牛、その背後からケルベロスが襲い掛かる。
『雷神具・散(ライジング・サン)』
雷牛の角。そこにたまっていた電流が一気に解放され雷牛の体中を駆け
巡った。そこにとびかかったケルベロスもろともウシトラは電撃を受ける。
「ちっ、やるなあ。ビビッと来たぜえ。」
だが、ケルベロスの勢いは止まらない。雷牛にケルベロスの爪が突き刺
さる。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
悲鳴を上げる雷牛。その首筋にケルベロスは容赦なく牙を突き立てる。
―ドサッ
膝から崩れ落ちる雷牛。勝者が決し、バトルが終了する。
「思ったよりも強えなあ。こりゃあ、気を引き締めてかねえとお」
『GURRR』
ケルベロスに乗ったままコールドブートの入り口に向かうウシトラ。岩
陰に隠れていたサトシ達はそこから這い出す。
「おう、お前たちい。まだあ、いたのかあ」
「なんだよ今の。お前、プレイヤーだろ? なんでモンスターを操ることが
できるんだよ」
「そりゃあ、おめえ。それが俺様の職業固有スキルだからだよ。オレのジョ
ブは獣使い。そして獣使いだけが使えるスキル、それが『衝動飼い(ズー・
キーパー)』だ!!」
そう高らかに宣言するウシトラであったが周りからの視線が冷たいのは、
決して気温のせいだけではないだろう。
「まあ、とにかくだあ。俺様は先に行かせてもらうぜえ。行くぞお、ケルベ
ロスゥ」
『GURRRRRRR』
ウシトラはケルベロスに乗ったままダンジョンの入口へ向かう。
「おい、お前もプレイヤーだろ。なら一緒に協力して」
「けっ、協力なんて御免だねえ。ここはゲームの中の世界だろう。なら一
人で面白おかしく過ごさせてもらうぜえ。まあ、お前たちがつるむのは、
否定しねえがなあ」
サトシ達の方を見ながら最後にそういうウシトラ。そのままケルベロス
の頭がダンジョンの入り口に入り、ケルベロスの上に乗っていたウシトラ
は、そのまま入り口の上の壁に激突する……
「痛え!! くそ、油断した!!」
最後まで格好のつかないウシトラであったが今度こそダンジョンの中へ
と入って行ったのであった。
寒風吹きすさぶ雪原にて残された二人。ウシトラの言うように実力不足
なのは明白であった。これからどうすべきか、二人は今後の方針を見直さ
なければならない状況となっていた。
「何だよあいつ、いいたことばっか言って」
「でも、僕らだけでこのダンジョンを攻略するのは正直難しいと思う。な
にせ門番でさえ勝てるかどうかわからないぐらいだったんだから」
「……まあ、確かにそうだが、それでも。あれだけ言われて黙って引き下
がるわけにはいかないだろう」
「じゃあ、何か策があるの?」
「それは……ないけどさ」
流れる空気は重く、二人の間を冷たい風が吹き抜ける。サトシも自分の
言っていることが分かっていた。『流転の衣』はあくまでゲームを有利に
勧めるための手段に過ぎない。命を危険にさらしてしまっては元も子もな
いのだ。
「サトシ」
「分かったよ。退きゃいいんだろ。退きゃあ」
ここからもっとも近い街と言えば、もちろんリバーズダウンである。ま
たあそこに戻るのか、そう考えるサトシであったが、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」
響き渡る悲鳴。発生源はダンジョンのなかから。タイミング的に考えて。
「ウシトラ!?」
「サトシさん!! 行きましょう」
駆けだす二人。さっきまでの話も忘れサトシ達は闘牛たちの闊歩する
コールドブートの中へと入って行ったのであった。
向き合うウシトラと雷牛。辺りには吹雪が吹き荒れる。
「寒いんでさっさと中に入らせてもらうぜえ」
ウシトラが両の手を前につきだし、構える。
『拳に宿るは破壊衝動 我が忠実なるしもべよ 悪意を食らい顕現せよ』
赤く輝くウシトラの右手。その光は一度拡散した後、収束し、大きな
球状となる。
『衝動飼い(ズー・キーパー) 唸れ拳、出でよ!! 忠拳ケルベロス』
拳を突き上げるウシトラ。
・
・
・
・
・
・
・
『GURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!』
突如現れた巨体。それは雷牛に匹敵するでかさである。黒い表皮、鋭い
眼光、そして3つの首。その姿は伝承などに現れるケルベロスのそれであっ
た。
「さあ、暴れようぜえ。相棒ぅ」
『GURRRRRRR』
唸るケルベロス。その怒号は辺りの木をゆらし、地面に亀裂を生む。突
如現れた新手に反応する雷牛。先手必勝とばかりにケルベロスへと突進す
る。
『雷神具(ライジング)』
雷牛の二本の角。その先端から光が漏れ出したかと思うとたちまち角全
体を電流がつつみ、バチバチと音を立てる。
ケルベロスに乗るウシトラ。雷牛の突進をケルベロスは回避する。
「ありゃあ、食らったら麻痺もらいそうだなあ。状態異常はやっかいだあ。
だが、今は好機い。行くぜえ、ケルベロスぅ」
突進をかわされ勢い余った雷牛はサトシ達が隠れていた大岩へと激突す
る。一瞬動きの止まる雷牛、その背後からケルベロスが襲い掛かる。
『雷神具・散(ライジング・サン)』
雷牛の角。そこにたまっていた電流が一気に解放され雷牛の体中を駆け
巡った。そこにとびかかったケルベロスもろともウシトラは電撃を受ける。
「ちっ、やるなあ。ビビッと来たぜえ。」
だが、ケルベロスの勢いは止まらない。雷牛にケルベロスの爪が突き刺
さる。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
悲鳴を上げる雷牛。その首筋にケルベロスは容赦なく牙を突き立てる。
―ドサッ
膝から崩れ落ちる雷牛。勝者が決し、バトルが終了する。
「思ったよりも強えなあ。こりゃあ、気を引き締めてかねえとお」
『GURRR』
ケルベロスに乗ったままコールドブートの入り口に向かうウシトラ。岩
陰に隠れていたサトシ達はそこから這い出す。
「おう、お前たちい。まだあ、いたのかあ」
「なんだよ今の。お前、プレイヤーだろ? なんでモンスターを操ることが
できるんだよ」
「そりゃあ、おめえ。それが俺様の職業固有スキルだからだよ。オレのジョ
ブは獣使い。そして獣使いだけが使えるスキル、それが『衝動飼い(ズー・
キーパー)』だ!!」
そう高らかに宣言するウシトラであったが周りからの視線が冷たいのは、
決して気温のせいだけではないだろう。
「まあ、とにかくだあ。俺様は先に行かせてもらうぜえ。行くぞお、ケルベ
ロスゥ」
『GURRRRRRR』
ウシトラはケルベロスに乗ったままダンジョンの入口へ向かう。
「おい、お前もプレイヤーだろ。なら一緒に協力して」
「けっ、協力なんて御免だねえ。ここはゲームの中の世界だろう。なら一
人で面白おかしく過ごさせてもらうぜえ。まあ、お前たちがつるむのは、
否定しねえがなあ」
サトシ達の方を見ながら最後にそういうウシトラ。そのままケルベロス
の頭がダンジョンの入り口に入り、ケルベロスの上に乗っていたウシトラ
は、そのまま入り口の上の壁に激突する……
「痛え!! くそ、油断した!!」
最後まで格好のつかないウシトラであったが今度こそダンジョンの中へ
と入って行ったのであった。
寒風吹きすさぶ雪原にて残された二人。ウシトラの言うように実力不足
なのは明白であった。これからどうすべきか、二人は今後の方針を見直さ
なければならない状況となっていた。
「何だよあいつ、いいたことばっか言って」
「でも、僕らだけでこのダンジョンを攻略するのは正直難しいと思う。な
にせ門番でさえ勝てるかどうかわからないぐらいだったんだから」
「……まあ、確かにそうだが、それでも。あれだけ言われて黙って引き下
がるわけにはいかないだろう」
「じゃあ、何か策があるの?」
「それは……ないけどさ」
流れる空気は重く、二人の間を冷たい風が吹き抜ける。サトシも自分の
言っていることが分かっていた。『流転の衣』はあくまでゲームを有利に
勧めるための手段に過ぎない。命を危険にさらしてしまっては元も子もな
いのだ。
「サトシ」
「分かったよ。退きゃいいんだろ。退きゃあ」
ここからもっとも近い街と言えば、もちろんリバーズダウンである。ま
たあそこに戻るのか、そう考えるサトシであったが、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ」
響き渡る悲鳴。発生源はダンジョンのなかから。タイミング的に考えて。
「ウシトラ!?」
「サトシさん!! 行きましょう」
駆けだす二人。さっきまでの話も忘れサトシ達は闘牛たちの闊歩する
コールドブートの中へと入って行ったのであった。
**
外気と洞窟内の気温の差が風を生み、コールドブート内には気流が駆け
巡る。向かい風に合いながら道を行くウシトラ達であったがその道中、闘
牛達に挟まれてしまう。
『BUMOOOOOOOOOO』
前方には炎を操る『照牛(テリブル)』。
『BUMOOOOOOOOOO』
後方には水を操る『泡牛(バブル)』。
どちらもウシトラを見て、鼻息荒く今にもとびかかりそうな雰囲気である。
「囲まれるたあ、運がねえなあ」
『GURRRRRRRR』
鞭を構えるウシトラ。その下でケルベロスがうなる。
『『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』』
測ったように同時に動き出す照牛、泡牛。ウシトラは挟まれる前にと照牛
の方に突進をかける。
『帽火葬(クリメイト・メット)』
照牛の頭部が炎に包まれ、赤く燃え上がる。感じる熱気、触れるのはま
ずい。だが、回避は……激突、ケルベロスが炎に包まれる。
『GURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR』
ケルベロスから飛び降りたウシトラは素早くケルベロスの召喚を解除。
続けて、右足に手を置く。
『足に宿るは逃避衝動 眼前の壁を飛び越えて 恐怖を食らい顕現せよ』
黄に輝くウシトラの右足。その光は一度拡散した後、収束し、大きな
球状となる。
『衝動飼い(ズー・キーパー) 跳躍せよ両脚!! 脱兎(ラピッド・ラビット)』
地面を踏みしめるウシトラ。光の中から人間の半身ほどある巨大な兎が
現れる。
「って、近え!!」
すでに照牛の顔が目の前に。あわてて兎に飛び乗るウシトラ、それと同
時に兎は飛び上がるが、一瞬早く照牛の角がウシトラをとらえる。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ……
熱いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
兎から転げ落ち、地面の上でのた打ち回るウシトラ。幸い、直撃こそは
免れたが炎の熱により臀部に火傷を負ってしまう。
「くそお、やりあがるなあ。だがあ、これで俺様も尻に火がついたってもん
だあ。行くぞラビットォ」
ウシトラは照牛、兎は泡牛へとそれぞれ瞬時にとびかかる。
鞭を構え、打ち据える。ウシトラの攻撃により足にダメージを負った照牛。
前足を折り前傾姿勢となる。すかさず射程距離に入った顔面めがけウシト
ラは鞭を振りぬく。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
眼球に命中。痛みにより横倒しとなる照牛。しかし、身の危険を感じた
のか、目は見えずとも攻撃に備え全身から可燃性ガスを吹きだし、炎で体
全体を包み込む。
一方、泡牛へととびかかった兎。泡牛の直前で跳躍すると一気に頭上へ。
そのまま飛び越え後ろに回り、ぶちかまし。
『BUMOOO』
もちろんあまりにも大きな体格差故、泡牛にダメージは通らない。けれ
ども今の兎はおとり役。注意をひければ充分であった。
『雨喝破(レイン・レイ)』
口から水を打ち出す泡牛。けれども兎に照準を合わせるころには、すで
に兎の姿はなく一向にとらえきれない。連射される水が地面をえぐる。
「おう、ラビットォ。もうちびっと耐えてくれよお。こっちはもう終わら
せるう」
ウシトラの手によってメニュー画面から呪符が取り出される。
「派手に行くぜえ『真珠砲撃(パール・シェル)』」
呪符から飛び出したのは巨大な二枚貝。その口が開いたかと思うと、そこ
から真珠が砲弾のごとく打ち出される。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
「ようやっとお、一匹い……」
もはや避けるすべのない照牛。真珠の砲撃に耐えきれずそのまま霧散す
る。
『雨喝破(レイン・レイ)』
「うおっ」
泡牛からの攻撃……注意を引いているはずの兎は? ウシトラは何とか
泡牛からの攻撃を回避し、兎の姿を探す。
『……』
「おお、ラビットォォォォ」
見つけたのは瀕死状態の兎の姿。とはいっても一度やられたからと言っ
て召喚したモンスターは死ぬわけではない。一度召喚状態を解除し、一定
時間経過後再び呼び出せば、全快した状態で現れる。では、どうしてこれ
ほどまでウシトラがあわてているかと言えば、現在ウシトラは召喚獣を呼
び出せない状態にあるからだ。3体の召喚獣と契約するウシトラ、それゆ
え傷を負っていない召喚獣は後1体いるのだがそれを呼び出すためのコマン
ド、それには再使用までに数分の間隔が必要であり、バトル開始時に使用
したウシトラはそのコマンドを使えない状態にあるのであった。ステータ
ス的に見れば、レベルが低いサトシ達にも劣る。つまり召喚獣がいなけれ
ば戦えない、それが獣使いというジョブなのであった。
「『呼び出す』を再び使えるようになるまであと3分……やべえ、死んだあ」
ウシトラが悲観する間にも、泡牛による水攻撃は続く。それをウシトラは
ぎりぎりのところで避けていくが、すでに幾度かかすっており、直撃は
時間の問題であった。
「しかたねえ、やってやるよお」
鞭を手に泡牛へ向け駆けだすウシトラ。泡牛の攻撃が肩をかすめるが、
足を止めることなく泡牛の口元めがけ鞭を振りぬく。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOO』
痛みゆえか一瞬、泡牛からの攻撃がやむ。チャンスはもうないだろう、
ウシトラは一気に勝負を決めるべく呪符を取り出す、が。
―パシュッ
「なっ」
一閃、穿たれた呪符。ウシトラ自身は何とか水攻撃を回避するが、穴が
開いてしまっては呪符は使えない。さらに、攻撃をよけたはずみでウシト
ラはしりもちをついてしまう。泡牛はすでに体制を整え、息を吸い込む。
直後、動けないウシトラに向け地面をも穿つ水弾が発射される。
「あっ……うん?」
泡牛の放った水の弾丸。けれどもそれはウシトラに当たらない。もちろん
3メートルほどの距離である、泡牛が狙いを外したわけではない。そして、
ウシトラが攻撃をよけたわけでもない。ただ、ウシトラと泡牛、その間に
障害物、もとい盾が割り込んだのが原因であった。
「うへえ、まにあった」
「気を抜くなよ、タイヨウ。次来るぞ」
駆け付けたのは、サトシとタイヨウ。盾を構えウシトラの前へと飛び込ん
だタイヨウによってウシトラは危機を脱したのであった。
「お前らあ、どうしてえ」
「あなたの悲鳴が聞こえましたからね。急いでここまで来たんですよ」
「いやあ、そうじゃなくてえ」
「ウシトラさん、話しは後で。まずはあの闘牛を倒しましょう」
「おっ、おう」
3人による共闘が開始する。
外気と洞窟内の気温の差が風を生み、コールドブート内には気流が駆け
巡る。向かい風に合いながら道を行くウシトラ達であったがその道中、闘
牛達に挟まれてしまう。
『BUMOOOOOOOOOO』
前方には炎を操る『照牛(テリブル)』。
『BUMOOOOOOOOOO』
後方には水を操る『泡牛(バブル)』。
どちらもウシトラを見て、鼻息荒く今にもとびかかりそうな雰囲気である。
「囲まれるたあ、運がねえなあ」
『GURRRRRRRR』
鞭を構えるウシトラ。その下でケルベロスがうなる。
『『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』』
測ったように同時に動き出す照牛、泡牛。ウシトラは挟まれる前にと照牛
の方に突進をかける。
『帽火葬(クリメイト・メット)』
照牛の頭部が炎に包まれ、赤く燃え上がる。感じる熱気、触れるのはま
ずい。だが、回避は……激突、ケルベロスが炎に包まれる。
『GURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR』
ケルベロスから飛び降りたウシトラは素早くケルベロスの召喚を解除。
続けて、右足に手を置く。
『足に宿るは逃避衝動 眼前の壁を飛び越えて 恐怖を食らい顕現せよ』
黄に輝くウシトラの右足。その光は一度拡散した後、収束し、大きな
球状となる。
『衝動飼い(ズー・キーパー) 跳躍せよ両脚!! 脱兎(ラピッド・ラビット)』
地面を踏みしめるウシトラ。光の中から人間の半身ほどある巨大な兎が
現れる。
「って、近え!!」
すでに照牛の顔が目の前に。あわてて兎に飛び乗るウシトラ、それと同
時に兎は飛び上がるが、一瞬早く照牛の角がウシトラをとらえる。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ……
熱いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
兎から転げ落ち、地面の上でのた打ち回るウシトラ。幸い、直撃こそは
免れたが炎の熱により臀部に火傷を負ってしまう。
「くそお、やりあがるなあ。だがあ、これで俺様も尻に火がついたってもん
だあ。行くぞラビットォ」
ウシトラは照牛、兎は泡牛へとそれぞれ瞬時にとびかかる。
鞭を構え、打ち据える。ウシトラの攻撃により足にダメージを負った照牛。
前足を折り前傾姿勢となる。すかさず射程距離に入った顔面めがけウシト
ラは鞭を振りぬく。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
眼球に命中。痛みにより横倒しとなる照牛。しかし、身の危険を感じた
のか、目は見えずとも攻撃に備え全身から可燃性ガスを吹きだし、炎で体
全体を包み込む。
一方、泡牛へととびかかった兎。泡牛の直前で跳躍すると一気に頭上へ。
そのまま飛び越え後ろに回り、ぶちかまし。
『BUMOOO』
もちろんあまりにも大きな体格差故、泡牛にダメージは通らない。けれ
ども今の兎はおとり役。注意をひければ充分であった。
『雨喝破(レイン・レイ)』
口から水を打ち出す泡牛。けれども兎に照準を合わせるころには、すで
に兎の姿はなく一向にとらえきれない。連射される水が地面をえぐる。
「おう、ラビットォ。もうちびっと耐えてくれよお。こっちはもう終わら
せるう」
ウシトラの手によってメニュー画面から呪符が取り出される。
「派手に行くぜえ『真珠砲撃(パール・シェル)』」
呪符から飛び出したのは巨大な二枚貝。その口が開いたかと思うと、そこ
から真珠が砲弾のごとく打ち出される。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
「ようやっとお、一匹い……」
もはや避けるすべのない照牛。真珠の砲撃に耐えきれずそのまま霧散す
る。
『雨喝破(レイン・レイ)』
「うおっ」
泡牛からの攻撃……注意を引いているはずの兎は? ウシトラは何とか
泡牛からの攻撃を回避し、兎の姿を探す。
『……』
「おお、ラビットォォォォ」
見つけたのは瀕死状態の兎の姿。とはいっても一度やられたからと言っ
て召喚したモンスターは死ぬわけではない。一度召喚状態を解除し、一定
時間経過後再び呼び出せば、全快した状態で現れる。では、どうしてこれ
ほどまでウシトラがあわてているかと言えば、現在ウシトラは召喚獣を呼
び出せない状態にあるからだ。3体の召喚獣と契約するウシトラ、それゆ
え傷を負っていない召喚獣は後1体いるのだがそれを呼び出すためのコマン
ド、それには再使用までに数分の間隔が必要であり、バトル開始時に使用
したウシトラはそのコマンドを使えない状態にあるのであった。ステータ
ス的に見れば、レベルが低いサトシ達にも劣る。つまり召喚獣がいなけれ
ば戦えない、それが獣使いというジョブなのであった。
「『呼び出す』を再び使えるようになるまであと3分……やべえ、死んだあ」
ウシトラが悲観する間にも、泡牛による水攻撃は続く。それをウシトラは
ぎりぎりのところで避けていくが、すでに幾度かかすっており、直撃は
時間の問題であった。
「しかたねえ、やってやるよお」
鞭を手に泡牛へ向け駆けだすウシトラ。泡牛の攻撃が肩をかすめるが、
足を止めることなく泡牛の口元めがけ鞭を振りぬく。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOO』
痛みゆえか一瞬、泡牛からの攻撃がやむ。チャンスはもうないだろう、
ウシトラは一気に勝負を決めるべく呪符を取り出す、が。
―パシュッ
「なっ」
一閃、穿たれた呪符。ウシトラ自身は何とか水攻撃を回避するが、穴が
開いてしまっては呪符は使えない。さらに、攻撃をよけたはずみでウシト
ラはしりもちをついてしまう。泡牛はすでに体制を整え、息を吸い込む。
直後、動けないウシトラに向け地面をも穿つ水弾が発射される。
「あっ……うん?」
泡牛の放った水の弾丸。けれどもそれはウシトラに当たらない。もちろん
3メートルほどの距離である、泡牛が狙いを外したわけではない。そして、
ウシトラが攻撃をよけたわけでもない。ただ、ウシトラと泡牛、その間に
障害物、もとい盾が割り込んだのが原因であった。
「うへえ、まにあった」
「気を抜くなよ、タイヨウ。次来るぞ」
駆け付けたのは、サトシとタイヨウ。盾を構えウシトラの前へと飛び込ん
だタイヨウによってウシトラは危機を脱したのであった。
「お前らあ、どうしてえ」
「あなたの悲鳴が聞こえましたからね。急いでここまで来たんですよ」
「いやあ、そうじゃなくてえ」
「ウシトラさん、話しは後で。まずはあの闘牛を倒しましょう」
「おっ、おう」
3人による共闘が開始する。
**
「助けてもらってあれなんだがあ、少しの間盾やってもらえねえかあ。呼
び出す使えるようになるまででいい。そうなったら俺様がやれるう」
「わかった。でもサトシはここで待ってて。盾は僕の役目だからね」
「おい、一人でやる気か。無理するな。オレだっておとりぐらいこなせる
さ」
「わかったよ、でも絶対無理しないでね」
サトシ、タイヨウが動き出す。
泡牛の敵意は当然、直前まで戦っていたウシトラに向いている。
『劣化烈火(インフェルニティ・インフェルノ)』
サトシは遠距離から呪符による攻撃を放つ。この呪符の属性は火。泡牛
の弱点をつけるが元の攻撃力が低いため大したダメージにはならない。一
方のタイヨウ。彼は盾を構え泡牛に突進。上体を傾かせる。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
叫ぶ泡牛は周りに泡をまき散らす。その泡につかまったタイヨウ。どう
やら泡には粘性があるようで動きを封じられる。サトシはその様子を見て
タイヨウの周りの泡を散らすために呪符を使おうとするが、
『雨喝破(レイン・レイ)』
呪符を泡牛に狙い撃ちされ発動は失敗。そのまま泡牛は動きを封じられ
たタイヨウに襲い掛かる。
「おい、ウシトラ。呼び出すってのはまだできないのかよ」
「ああ、もう少しなんだあ。すまん、耐えてくれ」
「そうはいってもこのままじゃタイヨウが……」
「うっ、うう」
泡牛ののしかかりを盾で受けたタイヨウであったが、泡牛の全体重が重
く、重くのしかかる。徐々に押し込まれていくタイヨウ。膝が曲がり、盾
がきしむ。その光景を前にサトシは再び呪符を放つが泡牛はどこ吹く風。
タイヨウを見つめ、サトシには目もくれない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイド:サトシさん。
サトシ :なんだ、この緊急事態に。
ノーサイド:ええ、だからこそです。サトシさん、今の状況分かってます
か? タイヨウさんは泡牛にのしかかられ絶体絶命。ウシトラさんは現状
動けない。なら、今タイヨウさんを助けられるのは誰でしょうか?
サトシ :何言ってんだよ。だから今オレはこうやって呪符で……
ノーサイド:そんな攻撃でいったいこの状況の何が変わりますか? 本当
にあなたがとるべき行動はそれなんですか?
サトシ:……なんなんだよ、いきなり。
ノーサイド:タイヨウさんは今戦っているんですよ、命を懸けて。あなたは
それを見て何をすべきかわかりませんか? 分かりませんか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイドの言葉。言葉が堰を切るように溢れ出す彼の様子に困惑する
サトシであったが、ノーサイドの言おうとしていることは理解できていた。
タイヨウを死なせるわけにはいかない、自分が動かなければ。ノーサイド
の言葉に背を押されサトシが駆けだす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
立ちはだかる泡を切り裂き、剣を振り上げるサトシ。目の前には泡牛、
その顔面に向け剣を振り下ろす。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
泡牛の叫び、もちろんサトシの攻撃では致命傷には程遠い。だが、それ
でも、泡牛の体勢を崩すには十分な威力であった。
「タイヨウ、早く逃げろ!!」
そのままタイヨウのもとに駆けつけ、体を縛る泡を切りサトシはタイヨ
ウを救い出す。
「サトシ、後ろ、危ない」
タイヨウの言葉に振り向くサトシは襲いくる泡牛の姿を見る。泡牛の攻
撃、二人は寸前で回避する。
「二人ともお、下がってろお!!」
ウシトラの叫び。彼の横にはおよそ生物とは呼べない代物が。その得体の
しれない物はおそらく口であろう穴を大きく開き息を吸い込む。そして次の
瞬間、辺りは轟音が響き泡牛の姿は消え去っていた。
「これが俺様の最終兵器だあ」
「いや、やりすぎだろ」
まるで台風の通った後のようなその光景にサトシは絶句するのであった。
「二人とも、駆けつけてきてくれてえ、ありがとうなあ」
「けど今のは一体なんだったんですか、とても生物には見えませんでしたが」
戦いを終え、休息を取る三人。タイヨウが先の戦いでウシトラが呼び出
したものの正体をきく。
「実は、俺様もよく知らねえんだあ。あいつのことで分かることと言えば
最強の召喚獣という肩書だけえ。呼び出せるのは一日に一回だけで、しかも、
あの一撃を放ったらすぐに戻って行っちまう。まあ、とにかく強いやつだっ
てえことだあ」
要領を得ない回答。まあ、ウシトラもそれが何か知らないのであるから
当然であるが、その説明を聞いた二人は当然なっておくするわけもなく、
もやもやだけが残る。
「まあ、こまけえことはいいだろお。命があったんだしなあ。それよりもお、
俺様はあんたたちに言っておきたいことがあるんだあ」
「なんですか」
「いやあ、何かと言われりゃあなんだけど。俺様のピンチに二人は駆け付け
てくれただろう。それの礼を言いたくてなあ」
頭を下げるウシトラ。それを見てサトシは、
「そんな感謝されることしてないぜ」
「うん、僕たちが勝手にやったことだもんね」
「おめえたちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
泣きじゃくるウシトラに苦笑する二人。こうして泡牛との戦いは幕を閉じ
たのであった。
Area:???
居並ぶパソコン、それに向き合う人々。ここはどこかのオフィスであろ
うか。無機質な内装に人々の服装も統一され、全員が奇妙なお面をかぶっ
ている。その中の一人、鬼の面をつけた『女』がいた。彼女の見つめる画
面の先には何かのRPGの画面が映っている。そのゲーム、ちょうどプレイ
ヤー達がモンスターを倒したところのようだ。画面上には和やかな空気が
流れている。その光景を見ていた女。彼女は顔の横に着けていたマイクを
外しながらこうつぶやく。
「次はありませんからね、サトシさん」
鬼のお面は冷ややかに画面を見つめていた。
「助けてもらってあれなんだがあ、少しの間盾やってもらえねえかあ。呼
び出す使えるようになるまででいい。そうなったら俺様がやれるう」
「わかった。でもサトシはここで待ってて。盾は僕の役目だからね」
「おい、一人でやる気か。無理するな。オレだっておとりぐらいこなせる
さ」
「わかったよ、でも絶対無理しないでね」
サトシ、タイヨウが動き出す。
泡牛の敵意は当然、直前まで戦っていたウシトラに向いている。
『劣化烈火(インフェルニティ・インフェルノ)』
サトシは遠距離から呪符による攻撃を放つ。この呪符の属性は火。泡牛
の弱点をつけるが元の攻撃力が低いため大したダメージにはならない。一
方のタイヨウ。彼は盾を構え泡牛に突進。上体を傾かせる。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
叫ぶ泡牛は周りに泡をまき散らす。その泡につかまったタイヨウ。どう
やら泡には粘性があるようで動きを封じられる。サトシはその様子を見て
タイヨウの周りの泡を散らすために呪符を使おうとするが、
『雨喝破(レイン・レイ)』
呪符を泡牛に狙い撃ちされ発動は失敗。そのまま泡牛は動きを封じられ
たタイヨウに襲い掛かる。
「おい、ウシトラ。呼び出すってのはまだできないのかよ」
「ああ、もう少しなんだあ。すまん、耐えてくれ」
「そうはいってもこのままじゃタイヨウが……」
「うっ、うう」
泡牛ののしかかりを盾で受けたタイヨウであったが、泡牛の全体重が重
く、重くのしかかる。徐々に押し込まれていくタイヨウ。膝が曲がり、盾
がきしむ。その光景を前にサトシは再び呪符を放つが泡牛はどこ吹く風。
タイヨウを見つめ、サトシには目もくれない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイド:サトシさん。
サトシ :なんだ、この緊急事態に。
ノーサイド:ええ、だからこそです。サトシさん、今の状況分かってます
か? タイヨウさんは泡牛にのしかかられ絶体絶命。ウシトラさんは現状
動けない。なら、今タイヨウさんを助けられるのは誰でしょうか?
サトシ :何言ってんだよ。だから今オレはこうやって呪符で……
ノーサイド:そんな攻撃でいったいこの状況の何が変わりますか? 本当
にあなたがとるべき行動はそれなんですか?
サトシ:……なんなんだよ、いきなり。
ノーサイド:タイヨウさんは今戦っているんですよ、命を懸けて。あなたは
それを見て何をすべきかわかりませんか? 分かりませんか?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ノーサイドの言葉。言葉が堰を切るように溢れ出す彼の様子に困惑する
サトシであったが、ノーサイドの言おうとしていることは理解できていた。
タイヨウを死なせるわけにはいかない、自分が動かなければ。ノーサイド
の言葉に背を押されサトシが駆けだす。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
立ちはだかる泡を切り裂き、剣を振り上げるサトシ。目の前には泡牛、
その顔面に向け剣を振り下ろす。
『BUMOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』
泡牛の叫び、もちろんサトシの攻撃では致命傷には程遠い。だが、それ
でも、泡牛の体勢を崩すには十分な威力であった。
「タイヨウ、早く逃げろ!!」
そのままタイヨウのもとに駆けつけ、体を縛る泡を切りサトシはタイヨ
ウを救い出す。
「サトシ、後ろ、危ない」
タイヨウの言葉に振り向くサトシは襲いくる泡牛の姿を見る。泡牛の攻
撃、二人は寸前で回避する。
「二人ともお、下がってろお!!」
ウシトラの叫び。彼の横にはおよそ生物とは呼べない代物が。その得体の
しれない物はおそらく口であろう穴を大きく開き息を吸い込む。そして次の
瞬間、辺りは轟音が響き泡牛の姿は消え去っていた。
「これが俺様の最終兵器だあ」
「いや、やりすぎだろ」
まるで台風の通った後のようなその光景にサトシは絶句するのであった。
「二人とも、駆けつけてきてくれてえ、ありがとうなあ」
「けど今のは一体なんだったんですか、とても生物には見えませんでしたが」
戦いを終え、休息を取る三人。タイヨウが先の戦いでウシトラが呼び出
したものの正体をきく。
「実は、俺様もよく知らねえんだあ。あいつのことで分かることと言えば
最強の召喚獣という肩書だけえ。呼び出せるのは一日に一回だけで、しかも、
あの一撃を放ったらすぐに戻って行っちまう。まあ、とにかく強いやつだっ
てえことだあ」
要領を得ない回答。まあ、ウシトラもそれが何か知らないのであるから
当然であるが、その説明を聞いた二人は当然なっておくするわけもなく、
もやもやだけが残る。
「まあ、こまけえことはいいだろお。命があったんだしなあ。それよりもお、
俺様はあんたたちに言っておきたいことがあるんだあ」
「なんですか」
「いやあ、何かと言われりゃあなんだけど。俺様のピンチに二人は駆け付け
てくれただろう。それの礼を言いたくてなあ」
頭を下げるウシトラ。それを見てサトシは、
「そんな感謝されることしてないぜ」
「うん、僕たちが勝手にやったことだもんね」
「おめえたちぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
泣きじゃくるウシトラに苦笑する二人。こうして泡牛との戦いは幕を閉じ
たのであった。
Area:???
居並ぶパソコン、それに向き合う人々。ここはどこかのオフィスであろ
うか。無機質な内装に人々の服装も統一され、全員が奇妙なお面をかぶっ
ている。その中の一人、鬼の面をつけた『女』がいた。彼女の見つめる画
面の先には何かのRPGの画面が映っている。そのゲーム、ちょうどプレイ
ヤー達がモンスターを倒したところのようだ。画面上には和やかな空気が
流れている。その光景を見ていた女。彼女は顔の横に着けていたマイクを
外しながらこうつぶやく。
「次はありませんからね、サトシさん」
鬼のお面は冷ややかに画面を見つめていた。