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第三話 『哀の街 リバーズダウン』

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スーサイド:サトシさん、お初にお目にかか……ったかも。私、タイヨウ
君のサポートで、ノーサイドの同僚のスーサイドと申し……たかも。
タイヨウ :はははっ、相変わらずはっきりしない話し方だね。

ノーサイド:タイヨウちゃん……さんですね。私、サトシの担当のノーサ
イドと申します☆ミ☆ミ
サトシ  :おい、素が隠しきれてねえぞ。
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 ここは街の宿。無事に夕暮れまでに街にたどりついたオレ達は助けても
らったお礼もかねてオレ名義で宿を取り、くつろいでいた。タイヨウのサ
ポート役のスーサイド。少し陰気だがタイヨウの話を聞く限り、少なくと
もノーサイドよりはまともそうである。

「けど、パーティー機能とか。ふつうのMMOと変わらねえな」
「まあ、骨格は一般的なRPGと似たようなものですからね」
 オレとタイヨウは二人の合意の上でパーティを組むことになった。その
影響でタイヨウのサポートであるスーサイドの発言もオレの頭に入ってく
るようになったわけだ。パーティの利点はメンバー同士で誤爆が起こらな
いこと、ダンジョンに入る際、同じ座標に飛ばされることなどだそうだ。


「それにしても街が移動するとかよくわからんシステムだよな。不便以外
の何物でも無い気がするが」
「まあ、確かに利便性の面では言えてますね」


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スーサイド:街が移動するのは、この世界を存分に楽しんでほしい……か
らかも。プレイヤーはレベル上げの際、街を拠点にモンスター討伐と宿で
回復の往復をするのがふつう……なのかも、だけど、街が移動してしまえ
ばプレーヤー自身もそれに合わせ移動せざる負えなくなる……のかも。

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「つまり、このゲーム空間をくまなく回ってほしい……ってことか?」
 ゲームのコンセプトとしてはそれでもいいかもしれないが、嫌々やらさ
れている俺らプレイヤー達にとっては迷惑この上ないシステムだな。……
そういえば、とオレはあることを思い出す。

「このゲームって、目的っつうかクリア条件が役職ごとに違うって言って
いたよな」
 最初のゲーム説明の時、ノーサイドが言っていた言葉だ。クリア目標が
違うとなればオレとタイヨウでもゲームをするスタンスが違ってくるん
じゃ、いや。グラフィックを見る限りタイヨウもオレと同じ騎士の格好だ
し職業が同じならやることも一緒になるのか。

「そういえばサトシさん、あまり操作を教えてもらっていないんでしたね」
「いや、目的がステータス画面から見られるっていうのは教えてもらって
いたんだが、見る機会がなかったんだよな」
 本来ならゲーム脱出の方法なんだ。真っ先に確認すべきことなんだよな。
環境に適応するのに必死で、まったくそこまで頭回ってなかったけど。


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スーサイド:自分の職業とそれに対応した目的はステータス画面で確認可
能……だったかも。
サトシ  :……はっきりしろよ。

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メニュー → ステータス

 オレはステータス画面を開く。中にはHPや攻撃力などの数値のほかに
種族、現在の状態、保有アイテム数とその上限、現在装備中のアイテムな
どの項目が用意されている。問題の役職は画面中段に表示されており、オ
レはその『騎士』と書かれた部分に指を乗せる。


[騎士]
・目的:ドラゴンの撃破
・職業固有スキル:武器有技(オール・ナイト)
 職業固有装備以外のすべての武器・防具・装飾を装備できる
・固有装備:大盾(両)、槍(両)
・解説:防御、HPが高い職業、攻撃も割とあるが素早さやMPは低い。
 職業固有装備を除いたすべての武器・防具・装飾を装備可能であり、戦
 闘スタイルに幅を持たせやすい。パーティ戦では仲間の盾となり攻撃を
 受けたり、盾役の後ろで槍による中距離からの攻撃が可能。


「なるほど、なるほど」
「いや、タイヨウは自分のステータス画面で確認しろよ」
「だってめんどくさいんですもん」
 タイヨウと一緒に自分の目的を確認するオレ。『ドラゴンの撃破』……
この世界ではドラゴンがラスボスなのか?


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ノーサイド:基本、私たちはこのゲームの目的に関することは公言できま
せん。情報が知りたければ住民への情報収集。RPGの基本です。
サトシ  :もとからお前には期待してないから大丈夫だ。
ノーサイド:さらっと、ひどいこと言いますね!!
サトシ  :そういうことは自分の行いを反省してから言え。

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 つうか、ノーサイドは何の情報なら教えてくれるんだ? ヘルプに書いて
あるような内容ならサポートのいる意味ねえが。オレはステータス画面を
閉じタイヨウの方に顔を向ける。

「ドラゴンの討伐……タイヨウは何か知っているか?」
「ううん。スーサイドさんもそのことは教えてくれないからわからないな。
でも、いるとしたらどこかのダンジョンじゃないかな」
 ダンジョン、それならさっきヘルプで確認したぞ。たしかダンジョンと
いうのはフィールドのいたるところに存在しているもので、入り口を見つ
けるまでは地図には表示されない場所だそうだ。中には大量のモンスター
がいるが宝箱も配置されていて装備やこの世界の通貨であるゴールドを手
に入れやすいところだ。さらにダンジョン最奥部にいるボスを倒せばそこ
でしか手に入らないレア装備をゲットできるらしい。

「どこかのダンジョンのボス、そういうことか」
「まあ、ドラゴンなんて仰々しい名前だしそうじゃないかな」
「するとオレ達の目的は各地のダンジョン攻略ってことになるな」
「でも、ダンジョンにいるって決まったわけでもないしどのダンジョンに
いるか情報も必要ですよね。それにボスっていうぐらいだから相当な強さ
でしょうし装備を整えたりレベルアップも必要です」
「まあ、そうなるよな。でもそうしたらクリアまでいったい何日かかるん
だよ」
 楽してクリアと行かねえことはわかるがせめて効率のいい方法がわかれ
ばな。そう思っていると頭の中にスーサイドの声が流れてくる。


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スーサイド:今の話を聞いた限り当面の目標は情報収集と戦力増強という
こと……だったかも? もしそうなら私がいい場所知って……いるかも。
サトシ  :おお、ノーサイドと違って頼りになる!!
ノーサイド:本人のいる前で堂々と私の悪口はやめてもらえますか?
タイヨウ :まあまあ、二人とも。それよりもスーサイドさん。いい場所
とは?
スーサイド:『哀の街 リバーズダウン』、そこが私の勧める場所……だっ
たかも。

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 ゲームであるこの世界にも、雨は降り、地に降り注ぐ。集まった水はや
がて川となり海へと流れる。悲しみも同様。人の間に生まれた悲しみはそ
の行き場所を求め、やがては流れ着く。そしてここが悲しみ達の終着点、
『哀の街 リバーズダウン』。人々が救いを求めて集まる宗教の街。

「『流転の衣(ループ・ローブ)』。本当にここにあるんだろうな」
「スーサイドさんが言うのですから間違いないでしょう」
 オレの問いに答えるタイヨウ。オレ達二人は今、スーサイドの勧めでゲ
ーム内の街の一つであるリバーズダウンへと来ていた。

「ここは特殊な街で時間経過による移動が起こらないそうです」
「なら、じっくり情報収集ができるな」
 街の中を歩く二人。道には様々な店が並ぶ。『宿屋』、『道具屋』、
『武器屋』など前の街にもあった店から、『呪術屋』、『鑑定屋』、『情
報屋』など目新しい店まで。比較的大きな街のようである。そして、ひと
きわ目を引く建物が一つ、街の中央にそびえたつ。その建造物を一言で表
すなら荘厳。建物の影は街を横切り、その立ち姿は街の外からでも悠々と
確認できる。青白く塗られた外壁、頂上には何かの旗が掲げられている。
ただ距離がありすぎるため視認できず、見上げた首が痛くなるだけである。

「あれは、『哀の塔』だね。この街を中心とする宗教『哀の手』の中心と
なる建物だよ」
 ゲームの世界で宗教というと嫌なイメージしかしないが、ここもそうな
のであろうか。タイヨウに聞いてもわからないらしく、怪しいことこの上
ないが今回この街に来た目的である『流転の衣(ループ・ローブ)』に関
する情報はどうやら『哀の塔』に行かないと手に入らないそうだ。

「しかし、いきなり入るのも怖いよな」
「そうだね。じゃあ、街の人に『哀の手』について聞いてみるのはどう?」
「いや、ここがその宗教の中心地なんだろ? 悪くいうやつがいるわけない
だろうが」
「……それもそうだね。じゃあ、どうする?」
「まあ、近づくだけなら問題ないだろう。一回あの塔のところまで行って
みるか。案外、すんなり情報が手に入るかもしれないし」
「ははは。まあ街の中は非戦闘エリアだし襲われることはないだろうしね。
でもその前に装備だけは整えていこうよ。ここに来る間に倒したモンスタ
ーからのドロップ品の鑑定もしてもらいたいし」
 こうしてオレ達は居並ぶ店の一つ『鑑定屋』へと足を運んだ。




「『哀の手』かえ? 妾は入信しているわけではないゆえ詳しく応えるこ
とはできぬが、悪い噂は聞かぬの。教主はよくめでぃあで取り上げられ
ておって妾も知っておるが、なかなかの好人物じゃ」

 ……うん、いきなりなんだよこの口調。全然頭に入ってこねえ。鑑定屋
に入ったオレ達はそこの店主に『話を聞く』ことをしていたのだが、突然
のこの口調に面食らってしまう。けれどもそんなことはお構いなしに店主
の話は続く。


「そういえば以前てれびぃじょんで拝見したときは変わった召し物をして
おったのう」
 話が終わった途端、店主の顔から表情が消え一点を見つめた状態で停止
する。


「今の、どう思う」
「うん、おそらく話の中に出てきた教主の召し物。それが『流転の衣』じゃ
ないかな」
「いやその話もそうだが、この店主の口調、オレ好きだわ」
「うん、ってそっち!?」
 タイヨウのきれいなツッコミに満足したオレは話を戻す。

「『流転の衣』を教主が持っているとしてどうやって手に入れるんだろう
な。まさか奪い取るわけないだろうし」
「でも、その装備がないとこの先進めないのも事実だよ。最悪、そういっ
た手段になることも考えておかないと」


 『流転の衣』。スーサイドの話ではMPを仮想HPとし、HPが0になっ
てもMPが枯渇しない限り戦闘不能状態にならなくなるという特殊な効果
を持つ防具だそうだ。騎士はMPが低く設定されている職業であるため、
活動に制限が出るのは変わらないがそれでも一撃で死んでしまう今よりは
自由に活動できることは確か。取るなら早いうちにとっておいた方がいい
装備であることは確かである。

「それじゃあ、ほかの店に移る前にアイテム鑑定だけすませておこうか」
 この店に立ち寄った本来の目的である『アイテム鑑定』。アイテム鑑定
は街にある鑑定屋にて有料で行うか、呪符やスキルにより行うことができ
る。モンスターからのドロップ品は未入手アイテムであった場合『???』と
表示されるのだが、この状態ではアイテムとして使用できない。鑑定を行
うことでこの状態を解除し、図鑑に登録することで使用可能となるわけだ。


「このアイテムをお願いします」
「うむ、承った」
 ミミズもとい、Ground Worm戦での戦利品である。料金とともにアイテ
ムを渡すとその場で鑑定が行われる。

「ほれ、終わったぞえ」
「銅の塊……合成アイテムだね」
「よし、用も終わったし、装備整えて塔に入るか」
「2人合わせて1000Gあるし、サトシの武器ぐらいは買えるかな」




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武器屋:いらっしゃい

Long Sword 16000G
Large Sword 28000G
Straight Sabre 45000G
Wood Rod 10000G
Stone Rod 18000G
Silver Rod 62000G
Gold Rod 97000G
Knife 6000G
Dagger 12000G
Long Dagger 20000G
Ocarina 7000G
Flute 18000G
Harp 30000G
Wood Gauntlet 10000G
Stone Gauntlet 18000G
Silver Gauntlet62000G
Gold Gauntlet 97000G

サトシ:……

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 買えませんでした。
10, 9

  

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「やあやあ、ようこそ。信者もとい、プレイヤーの諸君。『哀の手』は君
たちを歓迎するよ!!」
「はあ、どうも」
 でかい声、でかい態度、そしてでかい伸長。この目の前にいる大男こそ、
『哀の手』の教主、クライマンであった。サトシはそのでかさに気おされ
生返事。いかん、相手は教主だ、失礼の無いように受け答えしなければ。
そう思い、サトシは気合を入れる。

「そうそう、それで君たちはこの『流転の衣』が欲しくてここまで訪ねて
きてくれたんだったな」
「はい、そうなんです」
「おうおう、わざわざ私どもの塔を訪ねてくださるとは、ありがたい限り
だ。そうだな、これも人助け。譲ることに幾らかの躊躇もないのだが、実
は今、私は大きな問題を抱えているのだ」
 教主クライマン。彼はそこまで言い切ると二人に部屋の奥に来るよう促
す。クライマンは先に行き部屋にはサトシとタイヨウ二人が残される。

「うわあ、なんか急展開だね」
「ああ、まさかいきなり教主に会えるとは。でも、オレ達みたいな冒険者
をチェックもせず通してここの警備はどうなってるんだろうな」
「宗教団体だから間口は広く、とかそういう考えじゃないかな?」
 歩きながら話をする二人。すぐに目的の部屋へとたどり着く。


「ああ、なんて悲劇。今病床に伏しているのが私の最愛の娘、イリクサ。
彼女をどうにか救ってほしいのだ」
「……」
 言葉を失うサトシとタイヨウ。それも当然、突然そんなことを言われて
も何言ってんのこの人、程度の感想しか出ないのがふつうである。

「何言ってんのこの人?」
「サトシ、声出てる!! 声!!」
「やあやあ、すまない。まずは状況を説明するべきだったね。私はすでに
妻を亡くしており肉親と言えば娘が一人のみ。それゆえひときわ大事に育
ててきた。その影響か多少わがままな性格に育ったが、根はいい子でそん
な彼女を私は一層愛おしんだ。だが!! あろうことかその愛娘を!! 治療法
すら確立されていない未知の病気が蝕んだのだ!! ああ、なんたる悲劇、な
んたる惨劇……私はあらゆる方面の知識人をかき集めその病の研究を行わ
せた。しかし、一向に治療法は見つからず娘はどんどん衰弱していく。だ
がしかし!! 私は!! ついに!! 病気を!! 治癒できる!! 薬の噂を!! 聞きつ
けたのだ!!!!!!!!!!!」
「うるさーーい!!」
「サトシも大概にしなよ……」
 クライマンのテンションはうなぎのぼり。声量が話の内容に見合ってい
ないがそれでもサトシ達は彼の話を黙して(?)聞く。


「さあさあ、その名も『エリクシル』。万の病を癒すといわれる万能薬だ。
とは言え、それが存在するのはある洞窟の中……そこで君たちの出番とい
うわけだ!! そのエリクシル、君たちで取って来てはくれまいか? もちろ
ん取ってきてもらえるのならば礼を尽くそう。望むのならば何なりと、こ
の『流転の衣』も差し上げる。なので、どうか、娘の命、救ってはくれな
いか?」
 だいぶ胡散臭い、芝居がかりすぎている。それになぜオレ達なんだ? 他
にいくらでも頼りになるやつなんているだろう。それに噂の信ぴょう性も
怪しいところ……そう、サトシは考えるのだが。


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スーサイド:うわあああああん、イリクサさんかわいそうすぎます。ひど
すぎます……タイヨウ君、サトシさん。是非とも助けに行くべきです!!!!
サトシ  :お、おう。

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 まさかの伏兵、ノーサイドが泣きだしこれで断れば収拾がつかなくなり
そうな雰囲気となる。
「というか、スーサイドは運営側なんだろ? なんでこのストーリーを知ら
ないんだよ」
「スーサイドさん達が知ってるのはシステム面に関することが主なことで
ストーリー的なことは実は専門外だったりするんだよ」
「おうおう、プレイヤー方よ。引き受けてくださるのか!! 何と頼もしい!!」
 前からはクライマンが詰め寄ってくる。当然サトシ達に逃げ場はない。

「……わかりました。お引き受けいたします」
 押し切られる形で引き受けるサトシだったがなんだか釈然としていない
様子。

「まあ、『流転の衣』はこれからの冒険に必須なんだし、ね」
「ああ、まあ、そうなんだが」
 こうして二人のダンジョン攻略が始まった。
11

滝杉こげお 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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