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第四話「一九九四年、尼崎・おとなのえほん」

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第四話「一九九四年・尼崎・おとなのえほん」









 兵庫県のローカルテレビ局にサンテレビというものがある。
 80~90年代当時、プロ野球の実況中継といえば2時間枠で試合終了まで見せてくれないところが多い中、サンテレビは地元・阪神タイガースの試合だけは必ず全試合試合終了まで中継するという方針であり、タイガースファンの視聴者の熱い支持を受けていた。だが当時のタイガースといえば暗黒時代に差し掛かってBクラスが定位置となっていて、もう和田がどれだけ連続ヒットを打つか、新庄がどれだけ奇矯な行動で楽しませてくれるかぐらいしか楽しみがなくなっていた。
 そんな中、高校生の私はサンテレビのプロ野球中継ではなく、「おとなのえほん」という深夜のエロバラエティ番組を楽しみとしていた。
 野球のバットで素振りすることはないが、股間のバットは毎日素振りしていたのだ。
 同類の深夜のエロ番組ではテレビ東京の「ギルガメッシュナイト」が有名であり、そちらも兵庫県で放送していたものの、個人的に私はそちらよりも「おとなのえほん」の方が好きだった。
 なぜなら、「おとなのえほん」では何とAV紹介コーナーなるものがあった。
 地上波テレビで堂々とAVが少しだけだが流れていたのである。
「あんあん」
 とAV女優の嬌声とパンパン節が公然と流れていた…!
 当時の私はまだ若く、直接的なエロシーンを追い求める傾向があった。
 だが「おとなのえほん」でも「ギルガメッシュナイト」でもエロバラエティーというか、余りに過激な直接的なセックスまでは映せないのか、出演するAV女優が紙製エプロンをまとってそれを無名の若い芸人(水玉れっぷう隊とかティーアップとか)が水鉄砲で撃ちまくっておっぱいが見えるか見えないかみたいなコーナーが人気だったのだが、何というか十分それでもエロいのはエロいのだが、せっかちな私はもっと直接的に早くおっぱいとかおまんことかが見たかった。別に水鉄砲とかそういう小道具はいらないのである。
 40歳も間近に迫った今だったら、紙エプロンと水鉄砲の良さというか、情緒も分かる。
 私も人生やり直すなら水玉れっぷう隊のような世間に誇れるような仕事をしてみたい。
 繰り返すが、若かったのだ。
 それはそうと、サンテレビでは70~80年代ぐらいの古いテレビドラマや時代劇を流すことも多かった。
 私は学校を仮病で休んでは、よくそういう古いドラマを見ていたが、なぜなら古いドラマだとお茶の間を凍り付かせるような塗れ場とかシャワーシーンが良く出てくるのだ。別にAV女優でもない普通の映画女優が惜しげもなくおっぱいをポロリとさせているのは眼福であり、「東京ラブストーリー」のようなキムタクが出てくるような新しいトレンディードラマは学校でいくら話題になっていてもまったく興味がなかったが、エロが見られるというだけで古いドラマばかりチェックしていたのだった。
 だから、若かったんだって。
 話を「おとなのえほん」に戻そう。
 そのAV紹介コーナーはいつ出てくるか分からないことが多かった。大体は午前0:30ぐらいだったような気がするが、番組の放送時間自体がいつもバラバラで、野球中継でずれこむことが多かった。当時は阪神が弱いのに粘ることが憎くてしょうがなかった。更に野球中継がかなり長引いて「おとなのえほん」が中止になった時は本気でアンチ阪神になったものだ。
 そしてその深夜の時間帯というのが実に微妙で、当時は両親も姉も同居している実家暮らし。
 父親は左官職人だから朝が早く、そんな深夜の時間帯はとっくに寝ている。母親もそれに合わせて寝ていることが多い。だが姉は割と夜更かししていることが多いので、姉が寝たのを確かめてからテレビの前に陣取ることが多かった。VHSのビデオデッキはあったが、朝に何を録画したのか親に確認されるのが怖かった。
 そんなものだから、毎週一期一会のエロを求め、家族全員が寝静まったのを見計らってテレビの音量を最小限にして見ていたのだ。ヘッドフォンを買ったのは少し後のことだった。
 番組を見ている途中、姉や両親が起きてくるのではないかという恐怖と、いつでもテレビの番組を切り替えられるようにテレビ画面の至近30センチぐらいで見ていた。居間にあるテレビなら新しいからリモコンもあるけど、居間には両親が寝ているから近づけない。子供部屋にある二階の古いテレビはリモコンがなくてつまみをガチャガチャ回さないとチャンネル切り替えができなかったのだ。
 そんな中でやっと見ていた「おとなのえほん」な訳だが、一番楽しみにしていたAV紹介コーナーというのが肝心の塗れ場に入る直前で打ち切られて「続きを見たかったらレンタルビデオ屋で借りてね!」となる。ただ10数秒しか流れない紹介コーナーでも、今のエロ動画サイトにおける「無料サンプル動画」のような感覚で、高速シコリによる早撃ちを敢行していた。
 何せ10数秒でお楽しみの時間は終わってしまうので、迅速にオナニーすることしか頭にない。
 ……さて、無事にオナニーが終わり、ザーメンがたっぷり付着したティッシュをどう処分すべきか?
 頭ではなく海綿体にしか血が回っていなかったのか、私は無造作に部屋のゴミ箱に捨てていた。
 細心の注意を払って番組を見てオナニーミッションをクリアすることばかりに気を取られ、後始末をおろそかにしてしまっていたのだ……。
 痛恨の極みである。
 前話でも書いていたけど、気づかないふりをして毎日オナニーティッシュを処分してくれていた母親に謝りたい。
 無駄にゴミ箱を妊娠させまくってごめんなさい。






 
おわり
8

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