個性、自分らしさ。
そんな言葉が世の中溢れている。
友達はファッションなんかで
個性を表現してるつもりになってる。
けどそんなのでその人の人格が表現されてんの?
ただ、周りからは奇異としか見えない
それが個性だったら、そんなものはもてはやされるモンじゃないと思う
けど、自分だって個性は何かわからない。
だからこうして苦しんでるんだ。
周りに合わせて、面白くないところで笑って
結局疲れて家路につく。
そんな生活ばっかしてたら
毎日なんて無為に終わっちまう。
そこから抜け出したいと思ったって
自分が一体どんなものかもわからないのに
踏み出すことなんてできやしない。
結局自分らしさなんてものを見つけられないまま
死んじまうのかな。
自分ってもんがこんなに大したコトないって気づくと
人生ってもんはとたんにつまらなくなるもんだったって気づいたのは
もう戻れなくなった頃だった。
糞つまんねえ・・・。
少しだけ、いつもとは違うコトをしてみたい衝動に駆られる
退屈しのぎか
それとも自分への不満なのかはわからないけど。
橋の手すりに乗り歩いてみる。
幸い人は周りにはいなかったので
そんなことをしても恥ずかしくはない。
・・・案外怖いな。
子供の頃は何も考えずにやっていたけれど
手すりの幅は狭く
風でも吹けば落ちて・・・。
突風が、吹いた。
水の中に投げ出される俺。
ポケットの中に携帯が入っていたなんて
無駄なコトを考えながら必死でもがく。
上手く泳ぐことができない。
ゴボゴボと汚い川の水を飲み込んでしまう。
それがさらにあせりを増大させ
体をもがかせる。
俺こんなとこで死にたくない・・・。
死にたくない・・・。
自分の生まれた意味もわからずに
こんなにくだらないコトで死ぬ
こんなバカなことがあるだろうか。
こんなに・・・、つまらない人生なんて・・・。
意識を失いかけ、手足のばたつきがとまろうとしたころ
誰かの腕に抱えられ、水から引きずりだされた。
「・・・丈夫か・・・!・・いんだから・・・ぬな・・・!。」
耳元で叫ばなくなって聞こえてるよ・・。
うるせぇなぁ・・・。
「起・・・、死・・じゃない・・。」
別に、俺なんかが死んだって別にどうだっていいじゃないか
なんか、気持ち悪い。
吐きそうだ・・・。
「ゴホッ!」
「よかった・・・。気がついた・・・。」
気がつけば、かわらだった。
どうして俺はこんなとこにいるんだろう
「いやー・・・、通りがかってみたら溺れてるもんだから・・・。
助かってよかったよ、君みたいな若者が死んでちゃ
どうしようもないからな。」
おじさんがさも安心したように言う。
おじさんに、俺の何がわかるんだ、自分のこともわからないんじゃ
俺は無価値じゃないか。俺が助かって意味なんかない。
「君が死んでたら、親御さんや君の友達が泣いてただろう
命は一つしかないんだから・・・。本当によかった・・・。」
「・・・別に死んでたって構わないじゃん・・・。
俺なんて・・・。」
小さく、ぽつりと零れた言葉。
「・・・どうしてそう思うんだい?」
おじさんは少しだけキョトンとしながら
優しく声をかけてきた。
「別に・・・、余計なお世話だよ。」
言い終えたか言い終えないうちに
頬に痛みが走った。
「ってぇな!」
「・・・どうして自分が無価値だと思うんだ?」
糞、口の中が鉄の味がする。
なんで俺が殴られなきゃいけないんだ。
「関係ないだろ・・・。おじさんには。
助けてもらってありがたいとは思うけど
大きなお世話だよ!」
「・・・そうか・・・。」
そのまま、何も言わずに立ち去ろうとするおじさん。
「けどな、君が死んだら誰かが泣く
それだけで君が生きてる意味はあるんだ
人間、同じ考え、同じ顔の人はいない
人間はたくさんいたって、君は、一人だけしかいないんだ
君は、君しかいないんだよ。」
聞こえるか聞こえないぐらいかの声でそんなことを
呟き、そのまま去っていくおじさん
なんだか無性に、俺は罪悪感に襲われた。
「・・・おじさん、ごめんなさい・・・。
助けてもらったのに、あんなこと言ってしまって・・・。」
おじさんは振り返らないまま
俺だけに聞こえるぐらいの声量で
優しく、だけど力強く
言葉を放った。
「人は生きてるだけで、別の人とは違う
自分だけの生き方があるんだ。
それを・・・と呼ばずに何と呼ぶ?」
そういうと、おじさんは走り去っていった。
・・・に入る言葉は、聞き取れなかった。
あれから何ヶ月も経った。
未だに、俺は自分の生まれた意味
個性なんてものは掴めてない
おじさんの言葉だって
全部はわかっていない。
けど、生きてるだけで
他の誰とも似ない、違う自分がいるってことは
今は随分わかるようになった気がする。
焦ることはない。
大人になってからだって
あのおじさんぐらいの年になってからだって
そのときにようやく自分がわかったって遅くは無いと思う
きっと、生きる意味の一つに
それを見つけることがあるから。
だから、今は自分に価値が見いだせなくても
今を積み重ねて、価値を作り出すコトに決めた。
自分らしさは、見つけるものでなく
作り出すものでもなく。
誰とも違う自分を育てていくものなのかもしれない。