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1人切りの青年兵

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  なにも考えず、飯が食えると言う理由で軍隊に入ったのが3年前
  隣の国と中が悪くなり戦争が始まったのがちょうど二週間前だ。
  攻め込まれてはいるものの戦況はこちらが優勢と上官から聞かされているが、本当のところはわからなかった。ただ、言われたことをやるだけ。それが俺たちの任務だった。
「ハーリー三等兵曹(現代米国であれば軍曹、自衛隊であれば三等陸曹という認識で良い)以下10名の分隊は東の山、登山道入り口辺りで敵を待ち伏せ、迎撃せよ」
  それが俺たちの分隊への初めての命令。あまりにもアバウト過ぎて笑えてしまう。こんな適当すぎる命令を出されて仲間や後輩が死んでいったと思うとやるせなかった。
「いいか、なにも考えるな。俺が合図を出すまでは外にはでるな。敵が見えてもだ。それと絶対に寝るなよ」
  日が登り、落ちていくまでの間、草むらで丸まっている俺の頭のなかで同じ言葉がぐるぐる頭を回る。訓練中は重く感じた鎧も、襲ってくる眠気もなにもない。平時の時は、戦争が起きたら逃げてやろうと何度も何度も吹いて回ったが、今はその気も起きない。

  いつの間にか日が落ち、暗闇が支配する。聞こえてくるのは風の音のみ、ほんのり冷たい。回りにはだれもいないのではないかと錯覚してしまうほど静まり返っている。
  このままなにも来ないのではないかと思ったその時だった。鉄と鉄がぶつかり合う音がわずかに聞こえてくる。それはだんだんと近づいてくる。がちゃん、がちゃん。恐らく1人2人ではないはずだ。がちゃんがちゃん。足音さえ聞こえてきた。がちゃんがちゃん。合図が聞こえてこない。がちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃんがちゃん。一体どうなっているんだ?体が震えだし、冷や汗がいつの間にか顎まで伝わる。

「今だ!」
  ハーリー三等兵曹の合図と共に、草むらから道路に飛び出し、目の前の青い鎧を叩き切る。「グエっ!」という言葉を聞いたか聞かなかったかはっきりしないうちに反対側の草むらに逃げ込み、その場に伏せる。
「敵襲!敵……」
  俺たちの攻撃を知らせる声が止んだと思うと道路側から痛みに悶える声と怒声が満ちていく。
「どこだぁ!出てこい!帝国の兵士共!」
  ちょうど俺の目の前まで来る青い鎧。暗闇であると同時にパニックを起こしているのだろう。この様子だと俺には気づいていないらしい。
  言葉などいらなかった。股下と思われる場所めがけて剣を振り上げると同時に立ち上がる。 
  完全に立ち上がった頃には鎧は真っ二つに割れて足元には血の水溜まりが出来上がっている。
「攻撃中止ー!敵兵降参のため攻撃中止ー!」
  ハーリー三等兵曹の声と共に気が抜ける。初めて人を殺した。なにも感じなかった。

「ハーリー三等兵曹以下7名は、捕虜を連れて、帰還しました。小隊長に敬礼!」

  剣を地面に突き刺し、鞘の辺りを右手の平をしたにして、人差し指の横腹でさわる。
  この戦いで3人失ったものの、2人の捕虜を確保。彼らは工作兵らしく尋問の末、敵軍の後の行動、行進経路を聞き出すことに成功したらしい。しかしその話はまた別の話にしよう。俺はというと、初めての武勲として、1人前の兵隊の証を貰った。1人殺して1人前とは言ったものだ。
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