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87 独裁者の落陽

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 かつてラギルゥ家は、娘が生まれた場合、彼女たちを貴族の息子たちの花嫁にした。いわば政略結婚である。今は亡きスグウ・マタウ・ソクウの姉や妹たちも
モツェピ家、ゴールドスミス家などの名門の貴族に嫁いでいった。

ただ中でも、ゴールドウィン家がラギルゥ一族と繋がりを持ったのは複雑な経緯がある。それを語るにはまず、ニコラエ・シャロフスキーのことを語らねばならない。ニコラエ・シャロフスキーの母親は今は亡き、ラギルゥ3兄弟の母親の妹……つまりは叔母であった。ただ、ラギルゥの血を引く貴族としてはその序列はかなり低いものであった。ニコラエ・シャロフスキーは軍人となり、手柄と功績を立てようやくラギルゥ宗家に一目置かれる存在となった。だが、劣等感から来る彼の承認欲は最早ラギルゥの血だけでは満たされなかった。他の名だたる一族ともコネクションを持たなければ……彼は閃いた。彼は同じラギルゥの血を引く妹を利用したのである。そしてゴールドウィン家からの縁談の募集が来るとすぐさま、その縁談に応じた。ラギルゥ宗家からも花嫁の募集はあったが、それを押しのけての応募である。それにあたり、ニコラエ・シャロフスキーはスグウ・ラギルゥの軍部での昇進に力添えするという取引を条件にこの縁談をまとめた。
ゴールドウィン家はアルフヘイムでも名家中の名家であり、その一族とコネクションを持つことは大きな名誉とされた。こうして、シャロフスキーの妹はゴールドウィン家の息子の第一夫人の座を見事勝ち取った。
その結果、生まれたのがフェデリコ・ゴールドウィンである。フェデリコが生まれてから、ゴールドウィン家のコネクションを持ったシャロフスキー家は次第に権力を持つようになっていった。いわば、フェデリコはラギルゥ宗家の血ではなく、ラギルゥ分家のシャロフスキー家の血を引く者であり、シャロフスキー家がゴールドウィン家とコネクションを持つための踏み台にされたのである。

だが、その哀れなフェデリコはニコロとニッツェによって背骨をブチ折られ、惨めな死を遂げた。とどのつまり、最後の最後までフェデリコは伯父のニコラエに利用されたのである。
つまりは、フェデリコはクラウス暗殺の真の黒幕である、ニコラエ・シャロフスキーに罪を着せられて始末されたことになる。最後の最後までシャロフスキーはその甥すら利用し、裁きを受けることを逃れてきた。
だが、時代は最早シャロフスキーを許しはしない。

「ラギルゥ一族は一人たりとも逃がしません!!宗家であろうと 分家であろうと一人残らず裁きを受けさせます!! 
独裁者ミハイルも同様です!! 独裁者に裁きを!!」

セントヴェリア宮殿のバルコニーからユニコーン族代表のゼルドラ・モノケイロスが叫ぶ。民衆は祝福する。独裁者の落陽を……人々は自由への一歩を踏み出そうとしていた。


クローブ・プリムラの許にダート・スタンが放ったタカが現れる。
足には紙がくくりつけられており、クローブはその紙を広げた。
 「……フェデリコ・ゴールドウィンの暗殺は完了。なお、ラギルゥ一族は全員暗殺された模様。」

その紙を折りたたむと、クローブはその紙を 胸にしまい、呟いた。

「ラギルゥ宗家の血は滅んだ……そして
今……ラギルゥの血を引くゴールドウィンは消えた……
名誉あるゴールドウィン家を穢した罪はフェデリコの死で償われたのだ……!
最後はニコラエ・シャロフスキー……おまえだ!
シャロフスキー家に入り込んだラギルゥの落とし子……おまえの死こそ、ラギルゥの落陽を飾るに相応しい……
おまえはケダモノの手で……醜く八つ裂きにされて死ぬのだ……!」

クローブは告げた……真なるラギルゥの落陽を。
クローブは告げた……裁きを下すのは……あの血まみれの獣であることを。
シャロフスキーによって全てを奪われた狼と熊の血を引く凶暴なる獣人族の戦士であることを。



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