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最終章 世界を救う6つめの方法

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 メゼツは亜骨大聖戦中にアルフヘイムの捕虜になったときのことを思い出した。毎日運ばれてくる食事にメゼツは手を付けなかった。生きて虜囚の辱めを受けずということではなくて、食事に毒が盛られていることを警戒していた。
 収容所で相部屋となった男は、そんなこともお構いなしに野菜の切れ端の入ったスープをすする。
「うん、美味い。捕虜のメシでこれだけ美味いなら、エルフたちはさぞ美味いものを食べているのだろうね」
「食うなよ。毒入りかも知れないぜ」
「殺すつもりなら毒殺なんて回りくどいまねはしないさ。あと寿命が50年ならば食事の回数は54750回しかないんだよ。そのうちの1食を無駄にするなんて」
 相部屋の男はメゼツの分のスープもたいらげてしまった。メゼツは自分を気遣って毒見役をかって出てくれたのだと好意的に解釈した。本当は食い意地が張っていただけなのに。


 メゼツは大福餅をほうばる。少し硬くなっていたが、程よい甘さだ。
 イナオもお腹を空かせていたのか、つられて大福を手にとった。生唾を飲み込み口に運ぶが、メゼツに横取りされてしまった。
「あっ、ずるいよ」
 あわてて2つめの大福を口に突っ込んだため、のどにつまらせる。|壱《アイン》が背中を叩いて「そんなに欲張るから」とメゼツの世話を焼いている。
「食べてしまいましたか。」
 ご神体の鏡に青い長髪の優しい顔が映し出される。
「こんどは何だ」
「はじめまして、僕は龍の|妖《あやかし》のビャクグンと申します。説明しなくてはなりませんね。この大里は意志を持っているのです。時折身寄りのない子供をおびき寄せ、里に飲み込みます。そして里の食べ物を食べた子供を|妖《あやかし》へと変えてしまう」
「そんな、それじゃイーノは」
 ユイは動揺してうまく言葉にすることができない。
 子供たちの動揺をよそに、当の本人はさして落胆していなかった。幽霊が妖怪に変わるだけのことだ。それよりも子供たちが大福餅を食べなくて良かったと安心した。
「じゃあ、俺以外の子供たちは解放してくれよ」
「ハナバとエンジに送らせましょう。ですがあなたは……」
 子供たちはメゼツもいっしょに帰ろうとだだをこねた。特に|壱《アイン》が。
 2人の|妖《あやかし》が社に入ってきた。ハナバはさっき欄干に腰掛けていた少女だが、顔に桜の花びらの模様。エンジは最初に会った赤毛の少年、鼻が伸び背から翼を生やしている。2人は子供たちをメゼツから引き離す。
「次の式年遷宮でこの大里が動くまで、あなたは里で暮らしてもらいます。|妖《あやかし》として成長すれば外に出ることもできます」
 ビャクグンは里から出ればここでの体験は忘れてしまうということは話さない。知ったところでどうにもならないことだ。天命と思って諦めてもらうしかない。
「だったら僕も残ります」
 |壱《アイン》は隠し持っていた大福餅を一口食べた。
「何やってんだよ! お前は帰れたんだぞ!! 早くペッしろ、ペッ」
「僕はここに残る。イーノ、君が好きだから」
 これほどのサプライズはなかなか拝めないと子供たちとエンジは思ったが、数秒後、それを超える発言が飛び出した。
「は? 何言ってんだ。俺は男だぞ」
 メゼツの告白にも|壱《アイン》はひるまない。
「それでも好きだ! 男だって、妖怪だって構わない!!」
 ヒューヒューとハナバ、アマリがはやし立てる。
 ふたりを包むようにつむじ風がたち、|壱《アイン》の背が割れ翼が飛び出す。肌は銀色の鱗に覆われ、爪が鋭く伸びていく。
「そんな。こんなにも早く妖に成長するなんて」
 ビャクグンは驚愕したが、妙に納得してもいた。子供は試練を潜り抜け短期間に成長することもある。|壱《アイン》の短すぎる幼少期は終わってしまったのだ。
 メゼツからは火柱が立ち上り、金色に輝く火の鳥が飛び出した。残されたイーノの体はくたりと力なく横たわった。
「こちらはやはり鳳凰でしたか。命を司る|妖《あやかし》ですね」
「命を司る? そんじゃあ、こいつを生き返したりとかできるのか」
 メゼツはイーノの体を抱卵するように翼で包んだ。
「できますよ。強く念じてみてください」
「イーノ、体を返すぞ。だから戻ってこい!」
 光が満ちていく。


 日がとっぷりとくれたころ、北門近くの森で子供たちは目を覚ました。まるで何事もなく、夢でも見ていたかのように。
 シャルロットが神隠しにあった子供たちを捜索するように合同調査報告所に依頼したため、大勢の傭兵が森に集まり大騒ぎになっていた。
「あれ? 私たち何してたんだっけ」
 ペピタがマイペースに目を擦る。
「よかった、探したのよ」
 シャルロットがイーノを助け起こす。
「お姉さん、誰?」
「イーノ、私が分からないの……」
 イーノは生き返ったがメゼツが乗り移っていたときの記憶はない。それでも夢の中で誰かといっしょに冒険していた気がした。
 若い竜の鳴き声がする。イーノが目をやると、銀色の竜と金色の鳳凰が仲良く、霧に浮かぶ渓谷に向かって飛び去っていった。なぜだろうか。イーノの両目から涙がとめどなく流れた。


(おしまい)
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