メゼツはお供えの大福餅を食べなかった。大福餅を供えてあった皿に戻すと、子供たちもそれにならって食べようとするのをやめた。
「拾い食いなんてお行儀が悪いもんね」
そう言いながらもユイは大福餅から目を離さない。
「そーじゃねー。これってオソナエって奴だろ。食べたら罰があたるぜ」
「あーれー。ビビってんじゃないですか」
ルドルフが今までの仕返しに茶化す。
その時ご神体の鏡に青い長髪の優しそうな顔が映る。
「良かった。間に合いましたね」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
突然鏡に知らない男の顔が映ったので、メゼツとルドルフは抱き合ったまま後ずさった。
「驚かせて申し訳ない。私は龍の|妖《あやかし》のビャクグンといいます」
「アヤカシ? やっぱりお化けなんじゃないの」
「|妖《あやかし》は亜人の一種ですよ。ほら」
ビャクグンの顔に青い鱗が現れる。
「もしあなたたちがこの里の食べ物を食べていたら、僕たちの仲間になっていたのに残念だなあ。」
ビャクグンの言葉はどこか白々しく、本当は子供たちが助かって安心しているようだった。
「すごい素質を持った子がいるし、もったいないなあ。臥龍鳳雛なのになあ」
ビャクグンは|壱《アイン》と目をあわせる。|壱《アイン》の腹の中で何かが蠢いた気がした。
「あんた、ずいぶんペラペラと教えてくれるが、ここから俺たちを出さないつもりじゃねーの」
「どうせここから出たらすべて忘れてしまうからですよ。すぐに出るなら2人に案内させましょう。ハナバ! エンジ!」
ビャクグンが呼ぶと2人の|妖《あやかし》が社に入ってきた。
ひとりは欄干に腰掛けていた少女だが、顔に桜の花びらの模様が浮き出ている。もうひとりは最初にあった赤毛の少年で、伸びた鼻と背には翼が生えている。子供たちは怖がりながらも、2人の|妖《あやかし》に付いて社を出た。
誰もいなった静かな社でビャクグンはふぅと息をつき、これで良かったんだと自分を納得させた。
「ホントに子供たちを逃がしちゃうの?」
ハナバが|伝心《テレパシー》を使って話しかける。本心を見透かしているのかも知れない。
「どうせ、あいつら才能なかったんだろ」
エンジの声をハナバが伝える。
「里が間違えるハズはありません。彼らは素質がある」
「でもよ」
その後に続く言葉は|伝心《テレパシー》でなくてもビャクグンには察しがついた。里は必ず身寄りのない子供を飲み込む。それは|妖《あやかし》になるには現世への未練は邪魔だからだ。エンジは自分は|妖《あやかし》になったのに、条件のそろった子供たちを|妖《あやかし》にしなかったことに納得がいかないのだ。
「エンジ、血の繋がった親兄弟じゃなくたって、あの子供たちにはきっと家族がいたんだよ」
ビャクグンの言いたかったことは全部ハナバが言ってくれた。エンジはまだ、血の繋がっていない家族もいるということの理解に苦しんでいる。ハナバが照れて言えそうにない言葉を代わりにビャクグンが伝えた。
「僕たちは血が繋がってなくても家族でしょう」
(めでたしめでたし)