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はじまり

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 町から少し離れた森の中、二階建ての屋根に今時珍しい煙突の着いた家が一軒。

 日が沈み、辺りがすっかり真っ暗になった夜8時頃、一人大きな鍋をかき混ぜる小さな男の子がいた。

 
分厚い本を何冊も重ねただけの不安定な足場に立ち、体より一回り以上大きい鍋を煮えたぎらす。


「あとは髪の毛を一本入れたら完成なのです。フフフフ、これで僕も一人前の魔法つがぁっっっ!!?」

「一人で火を使っちゃいけませんって何度言えば分かるかな、マー坊くん」

「ヤムおじちゃんっ、いたいけな5歳の子にいきなりチョップだなんて酷いですぅ。」



「僕の仕事道具で遊んじゃダメだし、子どもはとっくに寝る時間なのっ。それに…」
ヤムは笑顔のままマー坊を鍋から引き離す


「それに、この本は解毒剤の本だよ?こんなの飲んだらOPPだよ  
 OPP、分かる?」
「もちろんなのです。Ohまじか、Peopleびっくり、Prettyな魔法使いになれる薬のことなのですっ!」
目をキラキラ輝かせるマー坊にヤムは細い目を更に細める。

「違うっ、お腹ピーピーなの。どこでそんな英語言葉覚えてくるの…」

ヤムは人間界で薬を作る商売をしながら暮らす魔法使いだ。
見た目年齢はまだ20代半ばだが、実年齢は本人も覚えていない。常に笑っているような細目をしており、細身の高身長に束ねても腰まである緑の髪が目立つ。




ヤムは部屋一面に巻き散らかされた薬品や本の数々に目をやった。

薬品の取り間違えがないように、全部の薬品には成分名を書いたラベルを貼っている。
本にはこれまでヤムが研究してきた薬のつくり方から副作用まで細かく記載したものや長い年月をかけて集めた書物など様々なものがある。

OPPの部分は別として、それ以外の文章はすべて魔文字で書かれたものばかりであった。

「…マー坊、これぜーんぶ魔文字で書かれたものなのに読めたのかしら?」


ヤムはマー坊の前にしゃがんで目線を合わせる。

「もちろんなのです!大変だったんですょー。でも一人前の魔法使い、魔法士になるためにはこれくらい当然なのですょ。OPPがまさかお腹ピーピーなんて、さすがの僕も盲点でしたょ。」
マー坊は大真面目な顔で話す。


「魔文字は…」
ヤムは手をマー坊の頭に近づける。
「魔文字は読むのがとても難しいの。火を勝手に使ったのは頂けないけれど、すごいことだわ。」

クシャっと髪をなでる。

「でもね、マー坊。あなたは魔法使いにはなれないのよ。」






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マー坊はじっとヤムを見つめる
「ヤムおじちゃん、僕は魔力が0(ゼロ)なんですよね?だから、魔界に住めなくてヤムおじちゃんとこに連れてこられたって。」

「…」
変に夢を持たせてはいけない。これがマー坊の運命なら早いうちから理解させた方が余計に傷つかなくて済むはず。
そう思い、ヤムはマー坊がこの家に来た日から、幼いマー坊に知っているすべてを話してきた。

魔力がない魔法使いなんていない。ましてや、魔法使いの中でも最高実力者、魔法士になるなんて…



「でも…」
マー坊は続けて言う
「でも、ボクは魔力がなくても立派な魔法士になるんですょ!ヤムおじちゃんみたいに、皆の願いを叶えられるお薬もたくさん作るんですょ。」


「…」
ヤムは少し黙ったが、すぐにいつもと同じ顔に戻る。
「マー坊、今度から火を使う時は必ず僕がいるときにすること。じゃないともう色々教えてあげないわよ?」



「わわわ、それは困るのですょ!!もうしないですから、ごめんなさいですょーー。」



「ウフフフフフ♥」



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