晴れた日の午後、森の中からご機嫌な鼻歌が聞こえてくる。
虫に刺されないよう長ズボンに長袖、手には少しブカブカめの手袋を装着した小さな男の子。
「フン♫フン♫フフーン♪、あっ、カエルさんですね!今後教えてもらうお薬に使えそうなのですょ。」
マー坊は今日も薬に使えそうな材料を調達中。
偶然、マー坊の顔と同じサイズはあるであろう大きなヒキガエルを見つけた。
身体が大きいからか、カエルは逃げ惑う様子もなく、簡単に捕まえれた。
「捕まえましたょ!カエルさん、ちょっとだけ我慢して欲しいのですょ。でも、今日はヤムおじちゃん午後からお客さんが来るって言ってましたから、早くしないとですね。」
ゲコゲコするカエルを両手に抱えながら、マー坊は家へと急いだ。
「ヤムおじちゃん、カエルさんを見つけたんですょ!この前話してた痛み止めの薬を一緒に…。」
ヤムは誰かと話をしているようだ。
「あら?丁度良いところに帰ってきたわ。」
マー坊に気づいたヤムはこっちに来るよう手招く。
ヤムの隣には、ショートカットに少し白髪が混ざった30代前半くらいの優しそうな女性がいた。よく見ると目の下にはクマが出来ており、かなり疲れた顔をしている。
「ご婦人、紹介します。私の弟子のマー坊です。普段から私の仕事の手伝いをしておりませて、今回ご依頼の話、この子と一緒に聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
ヤムはお客さんと話すときは普段と違う話し方をする。特に隠そうとしているわけではなく、その場にいるマー坊にはいつも通りの振る舞いだ。
女性は構わないと頷いた。
マー坊はカエルを籠に入れ、ヤムの隣に腰掛けた。
「こんなこと、笑われてしまうかもしれないんですけど…この店ならどんな願いでも叶えてくれる薬を作ってくれると噂で聞いてまして…。」
女性は少し伏せ目がちに話す。
ep1.
「7歳になる娘がいます。」
そう言うと笑顔の可愛いショートヘアの女の子の写真を差し出した。
「可愛い娘さんですね。」
そういうヤムの表情は変わってない。
お客さんを相手にすると、ヤムは口調を変え、表情は滅多に変えることがない。
「娘は……まどかは、生まれつき身体が弱くて入退院を繰り返しているんです。今度大きな手術があるんですけど、。その前に一度で良いから遠足に行ってみたいと聞かなくて。なんとかその日だけでも体調が良くなる薬がないかと……。」
「手術が終わって、元気になってから遠足に行くよう話はされたんですか?」
「えぇ。でもどうしても聞かなくて。普段わがまま言わないあの子が強く言うなんて珍しくて。」
ヤムは少し黙り込みマー坊を見つめた。
「?」
「この件、お受けいたしますよ。奥さん。まどかちゃんが遠足に行けるよう特別に元気になれる薬調合させて頂きます。ただし、お代は高額となりますがよろしいでしょうか?」
「えぇ。えぇ、もちろんです。でも、本当に出来るんでしょうか?」
「一時的に元気なることなら可能です。ただいくつか副作用があるのでこちらの契約書に目を通してサインをお願いします。」
女性はサインをすると何度も頭を下げながら帰った。
「マー坊。」
ヤムが口を開く。
「はい!」
マー坊は元気よく返事をすると急いで準備をしだした。