【雑誌名】週刊少年VIP
【作品名】シルクハットと四角い彼
【作者名】くさすず
【作品URL】http://ksszsouko.html.xdomain.jp/silkhatcube/index.html
【非常に洗練された作品】
本作が大変な傑作なのは誰もが認めるところだろう。
44話まで続いているが、最初から最新話までずっと止まることなく次々と読み続けていられる。
「覇記」とか「K」のような大長編は、最初は絵がそんなに…でも、話数を重ねるごとに洗練され上達していく作品は多い。
本作は最初から完成されており、最初から最新話まで安心して読めるクオリティだ。
新都社外の読者にも「面白いおすすめ漫画ある?」と聞かれた時に紹介しやすい内容。
漫画をとても描きなれているという感じがする。
【アクションが凄い】
コマ割りとキャラの動きが凄い。
人体の描き方を熟知している人のそれ。
1コマたりともごまかしがなく、破綻せず丁寧に描かれている。
戦闘が得意なキュー、パラセート、クモノイ、シイジイ、社長あたりの動きが特に見惚れてしまうが、それ以外のキャラも本当に素晴らしい。
少年誌らしくエログロに頼らず、それでも十分派手で見栄えの良いアクションを魅せてくれるのは凄い力量だと思う。
【キャラクター性が凄い】
物凄い登場人物の数である。
にもかかわらず、人気投票をすればメインの3人以外のキャラにも票が集まるほどだから、やはり1人1人のキャラが物凄く立っている。
普通なら破綻するだろうと思われる数だが、どのキャラに焦点を当てた話でも楽しく読める。
ちゃんとキャラ1人1人を掘り下げてくれているので、何十人といても名前を覚えられるし、デザインも被っていないから見分けもつく。
異形頭のキャラとか表情が無いのに不思議なことに表情豊かに感じられるのも凄い。
モブみたいなオス郎でさえ「音楽が得意」なんてキャラ付けされて、エイジとバンド組んでる姿が後に見られたりする。
どのキャラを切り取って使っても面白く話を展開することができるのだろう。
大変だと思うが、キャラクター全員の「元の世界」についてもっと知りたいとも思わせてくれる。
【WEB漫画ならではのギミック・カラーの色使いが凄い】
36話の日記のギミックは本当にWEB漫画ならではで素晴らしいと思った。
他にも各話の扉絵で様々なカラーイラストが見られるのも嬉しい。
くさすず先生のカラーはとても美しく、印象的で見惚れる。
そういえば以前、カラーを効果的に使った読切作品があった気がするが、登録が消されているのか読めなかった。
あれも本作やミシュガルドの「薬屋~」と同じく、異形頭のキャラと少年をメインとしていた。
異形頭と人間のコンビが好きなのかな?
また読んでみたいなと思う。
【セカイの謎】
本作は最初、「不思議の国のアリス」みたいな感じかな?と思ったが、ちょっと違っていた。
よくあるライトノベルの異世界転生物とも違う。
エニシは主人公ではないとわざわざ明言されているし…。
飛ばされたセカイは、原住民はむしろ少数派で、様々な世界から渡ってきた人々で溢れているので、ラノベの「異世界から来ました」は何も珍しくない。
それでもエニシは主人公っぽく、独自の能力(世界を渡る力)があるが、まだその謎は解明されていない。また、エニシが主人公らしい活躍を見せる機会もない。単なる読者の目となっているだけ。
色々なキャラクターを出してきたゆえに、物語の進みは割とゆっくりだ。
パラセートとシスターとの絡みの話で、パラセートの元の世界がどんなものだったかが語られたが、そうやって元の世界について語られるキャラは余りいない。ということは、それぞれのキャラの元の世界については余り重要なことではない?
あ、個人的には一番好きなキャラはパラセートです。元の世界で軍人だった時の話も掘り下げてくれて嬉しかった。
44話まできてやっとセカイの謎の核心がおぼろげに見えてきたところ。
断片的な情報がどんどん与えられてきたので、更新間隔が空いて忘れていたようなことも、一気読みすると改めて分かる点も多い。
パラセートが子供たちに読んであげた絵本にあったように、セカイをつなげてやろうとした神さまがいて、それがラスボスなのかな? ジンたちが仕えている人物がそうなのかな?
キューは主人の言いつけを守って、お嬢様のアセリカを守りつつ、元の世界へ帰りたがっているようだが…?
とまぁ、語りつくせばキリがないほど、伏線が散りばめられ、風呂敷が広げられている。
すべて回収というか、その風呂敷を畳めるのだろうか?
キュー・アセリカ・エニシのメイン3人に焦点をもっとあてれば早めに終わらせられそうな気もするが…。
もっとキャラの掘り下げをしていけば100話以上かかりそうな気もする。
でもずーっと読み続けていられるぐらいこのセカイは楽しい。遊園地のように現実を忘れさせてくれるワンダーランド。
別に現実世界に帰れなくなってもいいから行ってみたい。いつまでも夢のように醒めないでくれと思わせてくれる。
でも夢はいつか醒める。そういう訳にもいかないんだろう。
結末がどうなるのかが楽しみだ。