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なんとアイツに彼女が出来た!?裏切り者に死を!愛と粛清の|聖槌《ホーリーハンマー》

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 七月に入り学校登校日。俺はいつものように休み時間に窓からグラウンドの様子を見つめていた。

 比較的大人しめだった中学時代からはっちゃけようと入学当初は頑張ったのだが、毎日自分を誤魔化し続けるのは難しく、次第におちゃらけキャラから本来のすがたである真面目君へのメッキが剥がれていった。

 終いにゃリア充グループに話を振られてもしどろもどろになってしまい、ついには体育のバスケで試合中一本もパスが周ってこないような陰キャポジションに収まってしまった。

 「今日も元気に寝たそぶりか?」

 隣のクラスからスメラギがやって来た。ヤツも入学当初の自己紹介でやらかしたクチで、露骨な金持ちアピールとクラスの女子数名を屋敷に呼んで卑猥な行為をしようとした噂が学校中に流れて自分のクラスに居場所が無くなり、休み時間のたびに俺の元にやってくるのである。

 「あ、向陽勃起王子だ」「やめろ変なあだ名をつけるんじゃない」

 振り返るクラスの女子の視線を気にしてスメラギが俺を咎めた。先日俺の妹の月子を犯そうとした仕返しだ。俺が机の上で両腕を伸ばしてあくびをするとスメラギが隣に立って腕組をして後ろのロッカーに背中を預けた。

 「よー、おふたりさん!久しぶりやなー!元気してたー?」

 前の方からイキって前髪をワックスで全立てしたなごっちこと名古屋章太郎が笑いながら歩いてきた。俺は体を起こして友人に笑みを返す。

 「オメーは俺と同じクラスだろ」「そーやったけか?存在感ないから忘れとったわー。ごめんなー」

 ドイヒーなお好み焼きの臭いが漂って来そうな関西風のキツいノリでなごっちは俺に向かってぶらぶらと手を振った。この名古屋章太郎、俺がクラスのカースト最底辺に落ち込んでいるにもかかわらず、持ち前の関西キャラを生かし、すっかりリア充グループの特攻隊長として活躍しているのであった。

 「あ、そうそう。今日は貴重な学生時代を漫然と過ごすキミ等に報告があったんや。ほらキミら、耳の穴かっぽじって聴く準備ええかー?リア充として日々楽しい毎日を過ごす俺の運気欲しいかー?」

 「なんだよ」「もったいぶらずに早く言え」

 俺とスメラギが若干イラつきながらなごっちに問いただす。なごっちは俺に顔を近づけて手の甲で口許を隠しながら俺達に言った。

 「俺、遂に彼女が出来たんや」「なんやと!?」

 俺は驚いて机から飛び上がった。おいおい、と俺の両肩を掴みながらスメラギが平静を取り繕う。なごっちが自慢げに指を振りながら俺達の周りを練り歩きながら話しはじめた。

 「なにもそんな驚くことないやろ~羨ましいんか~?」
 「んぐっ!誰がそんなことで!」「落ち着けよ。よくある話じゃないか」

 スメラギが俺の体を椅子に落とし込む。「くそっ!この裏切り小僧が!!」俺は入学当初の屋上での出来事を思い出した。俺がクソみたいな先輩らにリンチされかけてた時、別のクラスのよつ君が助けに来てくれて俺達は友情を誓い合ったのだ。

 そんな仲間達を無視して抜け駆けで彼女を作るとは許せん。すっかり調子こいてる名古屋が俺の机を周りながら自慢話を始めた。

 「せっかくだから彼女との馴れ初め、ちゅーの?話したろと思うわ。

 彼女とは入学後、理科の実験室で出会った。以上。

 話したきっかけは分からない化学式で質問したこと。以上。

 告白は出会って一週間で俺からした。以上」


 「なんだそのクソむかつく言い回しは......イラ」

 スメラギが顔に青筋を立てると名古屋のズボンの携帯が震えた。「おっ、噂をすればなんとやらや」携帯を取り出すと名古屋が含み笑いをしてメールの内容を見てにやける。おそらくその彼女からの連絡だろう。|culus!!《くそったれめ》!

 「うち等は放課後逢、|達逢川《たちあいがわ》で|天井《おそら》の星でも数えてるからおまんらも早く彼女つくったれよー。ほならさいならさん。はっはっはっは!」

 高笑いをしながら名古屋が俺達から離れていく。

 「見下しに来たのか、俺達のことを...」「なんだよ、アイツ、ちょー性格ワリーじゃん!」

 俺達がぷんすかしていると近くにいた陰キャ達が俺達と目線を合わせずに2ちゃんで興味のある話題のスレッドに書き込むような口調でぼんやりと言った。

 「達逢川っていったら向陽公園にあるデートスポットじゃねーか」

 「観光名所になってるけどカップルの抗議があまりにも多くて自治体が今話題のポキモンゴーのポキスポットの申請を取り消したらしいぜ」

 同じ立ち位置にいても馴れ合いはしない。それが陰キャ達最後のプライドだ。

 「恋人か...」

 ぽわんぽわんぽわーん。スメラギが空中に自分と手を繋いで歩く女の子の姿を妄想した。その相手が自分の妹の月子だったので俺はあわててそのイメージをぬっころす。

 「そうだ。映画や小説で見かける言葉で使って見たいものがあったんだ」スメラギが俺を見下ろして咳払いをした。俺は呆れて言葉を返す。

 「もういい加減諦めろよ月子のこと...」「おまえの妹、良かったよ」「てめぇ!」ぶちギレて俺は壁にかけてあった青竜刀の柄に手をかけた。

 その時スメラギが短く指笛を鳴らし、次の瞬間、目の前のガラスが砕け散り、綱を握ったメイド服の女が俺の肩に長いピンヒールをはめた両足を絡めてそのままの勢いで俺を股で地面に叩き付けた。

 ガッシャーン!という大音声の後、周りにガラスの破片が飛び散る光景が広がる。女は綱から手を離すと俺の顔を尻に置いたまま、眼鏡のずれを直しながらクラスに向かってこう宣言した。

 「私の名はファン・ウェルメスケルケン・彩子!」腕を組み頷く飼い主のスメラギと一歩間合いを取るクラスの面々。「もうわかったつーの」

 年増女のありがたみのないストッキング越しのパンチラと鼻に食い込む腐りかけのマン肉を拝みながら俺は意識を遠ざけていった。。。


☆後編はダイスケとスメラギがなごっちの恋路の邪魔をしにいくよ!どんな話か楽しみだね!......え?どうでもいい?

滅 び ろ ! ! ! 続く。


 放課後、なごっちの話を聞いて向陽公園にやってきた俺とスメラギ。目指す場所は公園敷地内にある達逢川。

 達逢川は少し前まで光川(ひかりがわ)と呼ばれていて蓮の葉が茂る涼しげな光景と夜になると点灯するアダルトなブルーの照明が地元カップルのデートスポットとして恋人達に花を添えていた。

 当然周りはカップルで溢れ返り、男ふたりで来たことを後悔するような空気感が俺達を包み込んだ。

 「なぁ本当に確かめるのか?」「当たり前だろ。アイツは俺達に内緒で女作りやがったんだ。それなりの制裁を加えてやらなきゃなんねー」

 「それにしても」スメラギが辺りを見渡す。「恋人達が多いな」目の前のキノコ頭の男が制服を着た顔のでかい女の股に片足を押し込んで耳元で囁いている。

 「おーい、そんな豚女で童貞散らしていいんかーい?」俺がふたりの間から顔を出すがふたりはうっとり見つめあったままその場を動こうともしない。俺は大げさに舌打ちをして男の方をからかった。

 「無視すんなよ。頭からカウパー出てるぜ。チンコ頭」「もう止めておけ。行くぞ」スメラギに腕を引っ張られ俺達はその場から移動する。

 そうこうしているうちにまたカップルとエンカウント。俺は呆れてそのふたりをつぶさに観察した。

長身ロン毛男子学生は小柄茶髪女子高生に振り向いて壁に向かって手をつく。
まるで二人だけの世界しか見えていないようで、目線を上げて戸惑う小柄茶髪女子高生。
小柄茶髪女子高生は長身ロン毛男子学生に目を向けて見つめたり、唇を舐めて欲情している。
長身ロン毛男子学生はぶるぶると身震いをして小柄茶髪女子高生の両肩に腕を置く。
長身ロン毛男子学生に体を触られた小柄茶髪女子高生が足を上げてつま先立ちをして頭に額が付く。
小柄茶髪女子高生の潤んだ瞳が滲んで光り、小柄茶髪女子高生の口から吐息が飛び散っている。
長身ロン毛男子学生がキスをしようとしている小柄茶髪女子高生の唇に顔を近づけ、長身ロン毛男子学生の口が伸びて小柄茶髪女子高生の唇を掴む。
小柄茶髪女子高生が長身ロン毛男子学生の背中に手を回してその唇を受け入れる。
長身ロン毛男子学生は顔を横に曲げ小柄茶髪女子高生を抱き寄せて、口の中から溢れる唾液を口移しで交換している。


小柄茶髪女子高生と長身ロン毛男子学生がイチャついてる。
 
 「こら、楽をするな」「アイテッ!」

 カメオ出演している作者をスメラギが小突くと向こうの木の陰に見慣れたツンツン頭が視界に写る。

 「あいつ、名古屋じゃないのか?」前を歩くスメラギに追いついて俺はなごっちの隣にいる女の姿を確認する。

 「あれは...」「ああ...」バックライトが彼女のシルエットを照らし出した。

 同じ学校の制服を着た丸々とした体系のなごっちの彼女は腫れぼったい膨れ顔で笑うと前歯が飛び出して、腰まで伸びた長い髪の頭頂部は薄くなっている。

 俺は彼女の残念なルックスを見てこみ上げた笑いを堪える。俺達に息巻いて彼女出来た、つってその程度かよ。俺がスメラギにちょっかいを出そうとするとヤツは真剣なまなざしで木の陰のふたりを見つめていた。

 ハンターハンターのヨークシン編に出てくる笛吹くヤツみたいな見た目の女は木の陰からその醜い姿を出してなごっちの顔を見つめている。

 俺とスメラギの頭の中にはWINOの「太陽は夜も輝く」が流れていた。

 なごっちがどっかで聞いたような名言を鼻をさすりながら自慢げに言う。

 「なあ、知ってる?人はシクシクなくやろ?でもって人はハハハって笑うやろ?
  シクシク 4×9=36
  ハハハ  8×8=64
  36+64=100 
 悲しいこと、楽しいこと合わせたらぴったり100なんねん!!」

 「100になったらどうなるの?」「そ、そりゃぁ、100になったら嬉しいやろ。100やで100!マックスなんや!」

 なごっちが彼女に身振りを踏まえながら必死に解説を入れる。それを見て笑っているとやつは何の前触れも無く一歩前に踏み出して辺りに響く声で彼女の肩を抱いた。

 「好きや!」「数奇屋!?」

 なごっちが河童女の肩を抱いて思い切りぶちゅー、とキスを交わした。「うげぇーー!」「あ、あいつ、やりやがった!!」

 公園内に響き渡るぶっちゅー音。ウヴォーさん、聞こえますか。これが俺達が地上の地獄からお届けするラブ・ソングです...

 「なんてことだ、なんてことだ」「ウワ゛ワ゛ア゛ァ!!見てらんねー!逃げろー!」「オアー!」

 あまりにもおぞましいその光景に見ることすら耐えられず、俺とスメラギは悲鳴をあげながらその場から駆け出した。


 俺達はカップルという言葉を聞くとつい、美男美女が美しい笑みを見せながら人前でイチャつく姿を思い浮かべる。

 でも実際はそんな美男美女はほとんどいなくてみんな自分の人生半径何メートルの間で出会った手ごろな恋人とその場限りの青春を過ごすのだ。

 公園に入ってから「リア充死ね!カップル死ね!」と毒づきながら歩いてきた俺とスメラギだったがここに集まって自分のちいさな幸せをまるで自分達が世界で一番幸せな人種であるように誇示するようにイチャついてる連中はレフ○バのシューくんでさえ「強く...生きろよ...」と伏せ目がちにエールを送るような顔面偏差値低めの残念カップルばっかりだったのをここに報告しておく。


 「なごっちのヤツ、アレは妥協したよなー」

 公園を出て駅まで歩く俺とスメラギ。俺は頭の後ろで手を組んでスメラギが視線を落としながら石畳の道を歩いて行く。俺はなごっち衝撃のチッスシーンを見て思い出し笑いがこみ上げてきた。

 「いくら彼女が出来たっつてもアレはノーカンだろ。後で切れなくなってぜってー後悔するパターンのヤツだろー」「羨ましい」「えっ」

 思わず歩くのを止めてスメラギを振り返る。声を震わせていたスメラギは俺の肩に腕を回して大声で泣き始めた。

 「うらやましいよぉー、ダイスケぇぇ」「お、おい、スメラギ」

 おいおいと涙を流す学生服の男を見て通行人が集まってくる。「そっか、じゃあ頑張って彼女つくろうな!」「...おう」「月子以外で!」「お、おう!」俺は振り返ってさっきまでいた公園に向かって叫んだ。

 「この陽キャ気取りのブサイクカップルども!この夏、俺達はゼッテーいい女とセックスしてやっからな!てめーらは泥人形相手に腰振ってろ!」「だ、ダイスケ...」俺はスメラギの肩を掴み返してこの夏の目標をギャラリーに宣言した。


 今日、スメラギが初めて俺の事を名前で呼びました。非モテ男子達の地獄の日々はこれからも続く!。。。なんかこの終わり方以前も使ったなぁー。終わり方ぼしゅーしまーすー。採用しねーけど。

 ウェイ!1


11, 10

  

 おう、ワイや。先日念願の彼女が出来てハッピー街道まっしぐらの名古屋章太郎や。

 せっかくの主役回なのに俺はなんか知らんけど腹具合が悪くて、登校日の朝もはよからトイレに篭っていた。あ、いきなりやけどシモの方やないで。うんこやなくてゲロのほう。

 「章ー、あんたー早く準備せんと学校遅刻すんでー」

 台所からおかんの声が聞こえる。なんや、調子悪いな。俺は額に流れる脂汗を拭いながら便器に向かって喉をかっぴらいた。

 「ぐおおお......」「ん~?」

 獣が呻るような、異物を振り絞る俺の声が朝の居間に突き抜けた。「章!あんた、大丈夫かいな~」おかんがおたま片手にトイレのドアを開けた。ぜぇ、はぁ。。。俺はその場に吐き出したゲロを見ながら呼吸を整える。

 今日の俺、なんか変や。俺の身体、何がおきとるんや!?

 ~放課後~

 いつもの達逢川のデートスポット。彼女の|笛柄富貴子《ふええふきこ》と待ち合わせ。周りにはいつものように学校やバイト帰りのカップルがぎょーさんおって少し遅れてきた俺は貸しボート乗り場前に立っていたフキコに向かっておーい、と手を振る。

 頭の上の時計台から6時を告げる音が鳴り、川の周りに設置された照明が順々に灯っていく。俺は一日の内でこの瞬間が一番好き。足元からフキコを照らすそのライトはまるで2人の時間を祝福するような見事な輝きっぷりや。

 俺に微笑みかけるフキコに向かって声をかける「ゴメン、待った~?」

 「いえ、私もさっき来たばかりだから」「そっか、じゃ、少し歩こうか」

 フキコの手を引いて蓮の葉が茂る沼の周りを歩く。しばらくしてそこら中に付けられた公園内のスピーカーからムーディーなBGMが流れ出す。

 観光名所になってたこの公園に自治体が気を利かせて造りだしてくれた向陽町カップルのラブフラッシュフィーバータイムや。近くにいたカップル達がそれぞれに暗がりに身を隠してお互いの愛を語り合う。

 その例に漏れずに俺とフキコも落葉松の木の陰に姿を移す。今日の授業の話やクラスメイトの噂話なんかをしていたらフキコがそっと目を閉じた。

 「ねぇ、キスして」げっし動物みたいなすこし出た前歯と唇を突き出してフキコが俺にチューをねだった。俺はええで、と心の中で返事をしてフキコの両肩を抱いた。

 その時だった。俺の周りを嗅いだことがないようなおかしな臭いが取り囲んだ。なんや、この臭いは?どこから漂ってくる!?俺は辺りを見回した後、体調不良に襲われて口元を押さえた。

 「どうしたの?」身を屈めた俺を見てフキコが心配して俺の身体に手を伸ばした。アカン、このままやとフキコに情けないゲロ吐きシーンを見せてまう。俺は体中の力を振り絞ってその場を駆け出した。

 「ゴメン!今日はパス!また明日な!」出来るだけさわやかなカオを残してフキコを振り返る。「パスってそんな...」フキコが目に涙を溜めて俺を見つめていたが立ち止まらずに走り出す。

 「ぐっ!」急に腹に鋭い痛みがやってきて俺は脚を止めて状況を整理する。異様な臭いの正体は俺の腹の中からや。今朝から調子が悪いのはこいつのせいか。俺はこめかみに流れた脂汗を拭って呼吸を整えた。はよトイレに向かわな。

 俺はここから比較的近くて空いてる可能性が一番高い、自分が通ってる学校のトイレを目指して出来るだけ早足で公園の門をくぐった。


 夕暮れの校舎のドアを開けると暗がりの廊下には生徒はひとり居なかった。金槌で殴りつけるような頭病みがして目の前の視界が二重に覆いかぶさってゆく。トイレはどこや?はよこの異物感を便器にぶちまけたるわ。

 俺は急いで便所へ走り、便器の前にしゃがみ込んだ。そして、腹に力を込める。けど、口からは何も出てこなくて体中に焦りの汗が噴出してくる。

 もう一度、腹に力を込める。今度は確かに手ごたえがあった。

 「おっしゃ、出したで。ん?...」俺は便器に吐き出した固形物を滲む視界で眺めた。

 ――何や!?これは一体、何や!?

 そこに浮かんでいたのは――どろどろに解けている、真っ黒な棒状の物体。

 腹の中の不快物を排出した俺は、それがなんなのか確かめるために、便器を覗き込んだ。

 その棒状の物体は溜め水のなかでゆっくりと回転し重量のある側が下に沈み、その後水中でまっすぐに直立した。

 「あ......こいつは...」そこで初めて俺はその異形の正体に気が付いた。しかし、気付いたところで、もう、遅かった。

 俺は自分に正対したその異形と“顔を合わせた”。

 そして――

 歪な形状をしたソレはエイリアンのような輪郭の頭に、目は無く、身体の横幅ほどある口に突き刺すような凶悪な歯がずらり、と並んでいる。

 そして、胃液で解けかけていた顎にあたる箇所が水流で崩れて両生類のように不気味に光る青みががった灰色の全身を俺に見せ付けるように便器の中を泳ぎ始めた。

 そう。


  ――昨日の晩にスメラギの屋敷で興味本位で喰ったワラスボだった。


 「ぎゃあああああああ!!」

 俺は思わず便座を拳で叩いて立ち上がり、悲鳴を上げた。そして次の瞬間には便所から駆け出して誰かの助けを求めようとして廊下を走り抜けていた。

 自分が自分でいられなくなるほど取り乱していた俺は廊下の一番近くにあった教室のドアに手をかけた。なんて事や。とんでもないモンを見てまった。

 息を切らしながら横目で後ろを振り返る。さっき吐き出したあのワラスボが俺を追いかけてその凶悪な歯で後ろから噛み付いてくるんやないかという強烈な錯覚に襲われていた。

 誰か、助けてくれ!俺はドアを思い切り開くと叫び声をあげようと喉を引き上げた。

 そこにいたのは......さっき便器に居たワラスボそっくりの化物じみた生命体。しかもその姿は俺と同じくらいの大きさでひとりやなくてふたりおった。俺は意識が飛びかけてその場で静かに膝を折った。

 「ひっーーーー!!」

 ぴとん.....

 水道から流れる音が俺の視線を上に導く。「ちょ、なんだよキミ」ワラスボのひとりが俺にくぐもった声を返す。「演劇の練習の邪魔をしないでくれよ」咎めるような声を出したワラスボBを見て俺はこの教室の名前を思い出す。


 ここは演劇部の部室。「なんだ、途中で話の腰を折られると恥ずかしいな」「しゅーちゅー、しゅーちゅー。発表近いんだからもっと本腰いれてやらないと!」

 俺を無視して劇の練習を始める部員達。「やぁやぁ。我らは深海の底からやって来たワラスボウォーリアなるぞ」

 「うわ、なんだこいつらグロ過ぎだろ」「うげー、げぼげぼごぼ!!」「おい、流石に俺の姿を見て吐くのは失礼だろ!」

 鋭い三叉の槍を構えた有明海の沿岸に生息するハゼ科の魚のかぶりモンを見て俺はさっきのおぞましい光景がフラッシュバックした。

 「いややあああああああああああああああああーーーーっ!!」

 「なっ!?」「ちょっとキミ、ほんとにだいじょぶか?」

 「追いかけてくんなやぁぁああああああああーーーーっ!!ボケェーーーーーーーっ!!」

 俺はものごっつい勢いで校舎の玄関を飛び出して、一目散に走り出した。

 そして錯乱状態のまま走り回り、そのうちに脚を滑らせて川におっこって、そのまましばらく意識を失った(たまたま近くで釣りをしてたおっさん達に救助された)。

 何物かによる俺への呪いは海の珍味を喰ったことによる食中毒によって幕を下ろされたのだった。


ん?何か言いたそうやな?終わりやで、おわり。

次のお話でお会いしましょう。ほな!
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混じるバジル 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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