トップに戻る

<< 前 次 >>

【番外編】 ぼくのわたしのガンリュー島決戦

単ページ   最大化   

 ――はい、こちら、山口県下関市にある関門海峡に浮かぶ島、皆さんご存知の巌流島に来ています。

 本日ここで宮本ムサシと佐々木コジロウの決闘が行われるということで......聞こえましたでしょうか?

 春直前、ということでうぐいすが鳴いております。あ、あそこで剣を構えているのがコジロウでしょうか?インタビューしてきます!クジテレビの加藤鷹子です。あの~あなたが剣の達人として知られる佐々木コジロウさんでしょうか。

 「いかにも」

 ――あっ、ちょっと肩にうぐいすのうんこ付いてますよ。

 「おっと、これは失礼(着流しからハンケチを取り出す)」

 ――それで今回は、何故、この巌流島で宮本ムサシさんと決闘をしようと思い立ったのでしょうか?

 「最高、究極、レモンピーナちゃん」

 ――はっ?

 「わしの書いたラブコメラノベなんだけど、ごぞんじない?」

 ――いえ、まったく覚えがありません。ムサシさんが書かれた五輪書(ごりんのしょ)なら知ってますけど。

 「うむ、今年はオリンピック・パラリンピックの年ということでね、レスリングの浜口選手、痛みに耐えてよく頑張った!感動した!って、違うわ!」

 ――出ました!剣豪のノリ突っ込み!それにしても微妙にネタが古い気がするのは気のせいでしょうか?今の総理大臣はマリオの格好をして引継ぎ式に出るような方なんですが、山篭り期間が長すぎて存じ上げないのでしょうか?

 「それマジ?全世界が見てる場でアニメがどうとか、ゲーム推しとか日本ヤバスギでしょwwwwwてか、話を本筋に戻していい?」

 ――ええ、なぜムサシさんと決闘するにいたった理由ですが、聞かせて頂けますでしょうか。ちょーっとうぐいす鳴いてますけども

 「うむ、ムサシの著した赤裸々な武士の日常と剣術の奥義をまとめた五輪書(ごりんのしょ)は郷ヒロミの「ダディ!」を上回る破竹の勢いでベストセラーに躍り出た。

 その日にわしが自主出版で発刊した『悪徳天使!最高、究極、レモンピーナちゃん!!』はトータル売り上げ合計7部。半年たった今でも初版以降の発行予定がない」

 ――それって...その、つまり......

 「わしの書くレモンピーナちゃん、さいかわでストーリーもめっちゃ面白いのになんでこんなに売れへんのや!女中のうんこ喰う作品が絶賛評価されて妹を強姦魔から助け出す作品が酷評されるなんて絶対おかしいよ!

 読む人が読めば、ピーナちゃんの方が面白いに決まっとるんや!...ムサシのヤツ、何か卑怯な手を使ったか、編集長にケツの穴を差し出したに違いない!...わいはムサシを、絶対に許さへんで!」

 ――ワナビの嫉妬かよ!

 「うるさい、黙れ!」

 ――それに売り上げ7部って!文フリに出展した新都社作品かよ!

 作者「おい、それ本当に怒られるからやめろ」

 ――アッハイ

 「とにかくわしは絶対にムサシを認めん。ホーホケキョ!本の売り上げでは負けたが本業である剣の腕前であやつを切捨て、この沿岸を泳ぐスズキやメバルのエサにしてくれよう。ビーヒョロロ

 この闘いにテレビが入るということでムサシはトリックを使えん。ホケッ!必ず勝利し、カメラの前でヤツの化けの皮を剥がしホーボケッ!てか、うっさいな!」

 ――あっ、ちょっと!動物虐待!カメラ撮った?今の見たよね!?

 「動じるでない」

 ――あっ!ご覧ください!たった今コジロウ氏に刀で切りつけられたうぐいすですが何事も無かったように木の枝から飛び立っていきますね~...一体何をしたというのでしょうか?

 「フッ...決戦の前に集中力をかき乱されると嫌なのでな。声帯を焼き斬らせてもらった」

  ――えっと、どういう...?

 「理解力のないおなごじゃな。剣先でうぐいすの喉元を切ってそのまま摩擦熱で鳥の傷口を塞いだのじゃ。ツバメ返しに続く佐々木コジロウ第二の秘剣、ウグイスあやしとでも名づけておこうか。フフッ」

 ――わっ、すごい!

 「剣の達人であればこの程度の技、稚児の遊戯でしかない」

 ――ハイ、キャラの定まらないコジロー氏、ギャグの説明、ありがとうございました!

 「ギャグとな!?」

 ――それではスタジオにお返ししまーす


デッデデデデン 巌流島決戦、このあとすぐ!!
 ――こちら巌流島船着場に来ております。定刻から20分遅れて今、宮本陣営の乗ったボートがこちらに到着しました。

 あ、いま着流しにピンマイクが付きました。それではムサシさんにインタビューしてみましょう。

 「フンフンフフン!フフフンフン!(超層合体ゲオバイザーのOPのリズムで)待った~?宮本アンジェリカだよぉ~ウフフフフッ」

 「デレ○ニネタは荒れるからやめるでやんす!」

 「シコリーターの皆さん、こんにちは!下股うづきです!」

 「オナホネタは更に荒れるからやめるでやんす!」

 「いざ、絶頂の向こう側へ!w」

 「悪ノリでやんすー!」

 ――ボートから降りて会場へ移動するムサシ陣営。おっとここで...スタッフが彼らを呼び止めます。

 「ちょっとアンタたち、この島に入るには入島証が必要だよ!」

 「えっ?俺、今回の主賓なんだけど。どうなってんだよ、扱い悪くね?」

 「やや、ムサシさんは顔パスでオーケーです。お連れの方ですが、」

 「ボクはムサシさんの付き人のヤーベンでやんす!」

 「あ、じゃ、身分証明できるもの、お願いします」

 「あ、じゃ、免許証で」

 「おい、テンポわりーよオメーら。てか、おまえまだ竹ノ塚の安アパートに中国人風俗嬢と一緒に住んでんの?」

 「テヒさんは3日前に出て行ったでやんす...財布の中の現金とクレジットカードと一緒にボクの前から消えて行ったでやんす」

 「おまえのカードの暗証番号8931だったっけ?」

 「なんでムサシさんが知ってるでやんすか!?」

 「そっか、気の毒だな...よし、行こうぜ」

 「そんなーでやんす!...それよりムサシさん、勝機はあるでやんすか?コジロウさんは剣芸界若手のホープでやんすよ?」

 「あー、それなんだけどさ、話し合いでなんとか丸く収まんねーかと思ってんだよねー。俺もう剣の修行してねーし」

 「はぁ?天下の二刀流剣士と呼ばれた宮本武蔵が剣を捨てたでやんすか!?」

 「ん~、ぶっちゃけ今の時代、刀って必要なくね?って思っちゃって。暇つぶしで書いた本が棚ボタで売れちゃったし、後は名義貸しで道場でも開いときゃ老後も安心だと思うんだよねー。

 やっぱり血生臭い剣の世界より生産性のある文学の世界の方が世の中のためになるっつーか。ぶっちゃけ世のVIPからいい思いさせてもらってるし。あっ、今のは妻のお通には内緒ね。

 ンー、剣はペンよりも強し。名言だなーこれは。ンッンー」

 「そんな、キッズの夢が壊れるでやんすよ...」

 「なんや、お前!剣を振るうと金になるんか!?」

 「もう廃れかけの時事ネタはやめるでやんす!後で読み返して『アレ?これ何のネタだったけ?アッアッアッアッ』ってなるでやんすよ!!」

 ――おい、アレ見てみろよ!

 ――ムサシさん!頭上に気をつけてください!

 「ん?ステージのある崖の上から何か落ちてきたでやんす。これは...大きなワシでやんす!」

 「この切っ先は...コジロウか......!」

 ――ムサシ!早く上がってこい!

 「ステージの方から声がするでやんすよ...コジロウがムサシさんを呼んでるでやんす!」

 「...ヤーベン、おまえ、先に行って会場の空気、あっためてくれるか?」

 「ムサシさん、何を言って...ハッ!もしやムサシさんの心に眠っていた剣豪の魂がこの蛮行を見て目を覚ましたでやんすね!主人公の覚醒。これ以上にない激アツ展開でやんすっ!」

 「ヤーベン」

 「はい!なんでやんすか?」

 「おまえ俺の代わりにコジロウと戦ってきてくんね?」

     . . . . . .

 「おまえさんしかおらんのですよ!私を守護れるのは!」

 「そんなこと言ったって無理でやんす!こんな大きな猛禽類を一太刀で倒せる剣士に剣道検定3級のボクが敵うわけないでやんす!...な、なんでやんすか!ムサシさん!肩に腕を回して!」

 「...カッコいいトコ、見せたいよなぁー。ヤーベン」

 「そ、そんな事言っても行かないでやんすよ」

 「万が一でもあのコジロウに勝ったらカッコいいだろーなー。出てった交際相手も見直すだろうよ。それにこれはテレビが入ってる。ヤーベン君の知名度も上がってテレビの仕事がバンバン入って

 モデルやアイドルの女の子が言い寄ってくるに違いないぜ~いやー羨ましいなー」

 「...セクシー女優も来るでやんすか...?」

 「ああ。喜んでおまえに二穴差し出すだろうさ」

 「このヤーベン、宮本ムサシの前座、いや!この闘いの主役になるべく、佐々木コジロウに勝利するでやんす!宮本武蔵の偉大なる名はこのヤーベンが守護るでやんす!」

 「おっしゃ!頑張れ!」

 「うおおおおおおお!!」


 「......ふぅ、やっと行ったかあの変態アナリスト。一日中刀振ってる剣豪キチ○イなんかに勝てるわけねーじゃん。俺も子供の頃は野球やってたけどさ、

 やっぱ一日200回とかバット振ってるヤツらには勝てねーわ。それにネットで見たけどなんかあいつ俺に嫉妬してるし怖えーよ。でもテレビの仕事無くなったらお通に怒られっからテキトーにお茶濁して帰るわ」

 「ぎにぃやぁぁああああ!!」

 「この声は...あいつもう負けたのか」

 「キャー」「うげぇー」「グロ注意、グロ注意!」

 「みんなその場を動くな!」「頭がその辺の茂みに飛んだかもしれない!」「皆さん、落ち着いて行動してください!」

 「おい、ヤーベン、まじかよ...」


ヤーベン(本名:アレクサンドル=エティエンヌ・ヤーベン。31歳独身。日本、フランス二重国籍所持。巌流島の闘いにて死亡――)


 「コジロウの野郎...やりやがった...!」

 ――あ、あの!クジテレビの加藤鷹子です。たった今無残に切り捨てられたのはあなたの付き人の方ですよね?...決戦の前に味方をブッ殺されてむかっ腹が最高潮に達しているのではないでしょうか?

 世紀の剣豪、宮本ムサシ。その人にマイクを向けてみます。

 「あのさ、お前達にひとつ聞いておきたいことがある」

 ――はっ、はい!なんでしょうか!?


 「パ○プロの矢部くんって一人称なんだったっけ...?」

デッデデデデン 巌流島決戦、このあとすぐ!!

14, 13

  


 現代に蘇った宮本ムサシと佐々木コジロウ、魂のオリンピック

 このセカイに決闘禁止法はありません、404年ぶりのドリームマッチ。実況はわたくし古館伊地朗がお送りします。

 時空を超えた出会いを受け入れたその地は国交断絶の無人島、現代のワイルドプリズン、目の前に設けられたステージは脱出不可能の有刺鉄線付きのリングなのか

 いやいや蜃気楼のその果てに、本州と四国を繋ぐ瀬戸大橋が見えているぞ

 春前の気候だというのに先ほどの惨状の後になにかこう、

 この地に舞い降りた死神が次の獲物を望むような、異様な空気に包まれております

  …現代の孤島に残された、ただ一つの娯楽なのか

 果し合いという名の描かれなかったバガボンドのサイドストーリーの第一話が

 今まさに始まらんとしているわけであります。

 さて、先にリングで待つ佐々木コジロウ。鮮血を拭ったマットにたたずむその姿は

 新型 iphone プレゼン前のスティーブ・ジョブズといったところでしょうか

 今夜紹介予定の新技は、秘剣ツバメがえし、ウグイスあやし、その他多数用意して我が攻撃の新規購入者を待ち迎えます

 武術と文学の二刀流をこなすムサシは彼にとって、嫌忌の対象と言っても過言ではないでしょう

 相手にとって不足は無し、まさに親からの口渡しでの食事を待つ雛鳥状態


 おっと、ここで宮本ムサシが会場に姿を現した!

 川崎Fには中村憲剛、巌流Jには世紀の大剣豪!

 見事コジロウの挑戦を退けて祝杯を挙げ、今宵、妻であるお通のゴールネットを揺らすことが出来るのでありましょうか?

 いま、ゆったりとした動きでレジェンド、宮本ムサシがロープをくぐります。

 はたして麺や武蔵のトッピングにナルトは必要なのでありましょうか?

 今、決戦のゴングが鳴り死闘に火蓋が切られます。お聞きください!リングを包むこの大歓声!!

 世紀のデスマッチおよび果し合いが今、この巌流島に切って落とされました!!

 まずはコジロウの方が、ややフライング気味で飛び出した

 文字通りの電光石火、つばめがえしがそらをとぶ

 しかしムサシのほうが10枚は上手だったか

 これを軽くいなされましてリング中央から間合いを取ります

 おっとムサシ、剣を一度鞘に納めたか

 そして、胸元に忍ばせた右手でまずはゆっくりと

 ん!?




 ああーーーーー!!ああーーーーーーーっ!!ムサシ、コジロウに札束を渡しているゥー!!!

 諦めたのか!? それとも最初からギブアップを決めていたのか!!??

 五輪書(ごりんのしょ)の売り上げとその印税で稼いだ売り上げの一部が今!コジロウの左手にーー!!

 ひい、ふう、みぃ...とう。膝でリズムを刻みながらその束を指で測る!あー!自作小説の再出版の見通しが立ち、コジロウがしたり顔!!!

 しかしなんという額でありましょうか!

 お前は、お前は剣術界のビル・ゲイツなのかーーーー!!!


ぼくのわたしのガンリュー島決戦 ――完

15

混じるバジル 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

<< 前 次 >>

トップに戻る